ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は手に入れたい-49

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竜騎士隊の竜に乗りながら、私は竜と竜に乗る騎士を観察した。
竜騎士隊というのはルイズ曰く、竜を自在に乗りこなし戦う騎士隊。まさに名の通りの連中だ。
竜を乗りこなすことのできる人間で構成され、さらにその全てが貴族だという。
しかし、よくこんな恐ろしい生物に乗れるものだ。しかも結構楽しそうに。私には到底信じられない。
竜を乗りこなすにしてもやはり訓練は必要だろう。基本は乗馬と同じようなものだからな。違いは乗るものが馬か竜かの違いだけだ。
だが、その違いはあまりにも大きい。馬なんて高が知れてるし普通の人間でも対処できる。しかし、竜は違う。
普通の人間では太刀打ちするにはあまりにも強大な存在だ。巨体で空を飛び、鍵爪を振るい、火を吐く。
まさしく怪物だ。魔法が使えなくては話にもならない。しかしメイジでも正直ドットやラインでは相手にならないんじゃないかと思っている。いや、ならないだろう。
そして竜騎士隊のこのごつい竜を見てさらにその思いは高まった。つまり竜に乗っている奴らは最低でもトライアングルの実力を持っていなければならないわけだ。
そんな力を持った人間だから強い怪物に意のままに操り自分の強さを示したいのだろうか?それともただ単に空を飛ぶ力強い存在への憧憬か?
考えながら懐で強大な存在に脅え震える猫を安心させるように撫でる。
まあ、どれだけこのことに思いを馳せようと、普通の人間であるために竜に恐れしか感じない私には竜に乗る者の気持ちなど理解できるわけが無かった。

竜は馬と比べればあっという間に学院についてしまった。
竜を使えばタルブの村へ日帰り旅行ができるな。もちろんする気はないが。
さて、ゼロ戦はそれなりの大きさがある。全長は9mほどで、翼幅は11mほどだろう。ゼロ戦は徹底的な重量減量がされた戦闘機だ。
当時日本にはアメリカやイギリスように戦闘機用の力強いエンジンがなかったため、無駄な重量を許さない設計が求められた。
そしてそれがゼロ戦の一番の特徴といってもいいだろう。それゆえにゼロ戦は軽い。きっと魔法でも楽々浮かばせることができるだろう。
しかし縦9m、横11mだ。いくら軽いといっても場所はとる。だから学院内に置く場所も当然限られてくる。
というわけでゼロ戦は学院の中庭に降ろすことになった。中庭なら広さも申し分ない。そして早速ゼロ戦を降ろし始める。
私とルイズは竜騎士隊がゼロ戦を中庭に降ろす様を見守っていた。
「ねえヨシカゲ」
「なんだ?」
ルイズが何気なく私に話しかけてくる。
「それで誰が運び賃を払ってくれるの?もうゼロセンも降ろし終えるわよ」
「あ……」
「あ、ってもしかして忘れてたわけ?あきれた……」
そうだ。ほかの事に気を取られていてすっかり忘れていた。金が要るんだったな。
「ほら、早くその払ってくれる人のところ行ってきなさいよ」
「あ、ああ」
ルイズに言われなかったら本気で忘れてたな。さて、さっさとコルベールを見つけに行かなければ。
そう思ってこの場から離れようとしたとき、誰かがこちらへ近づいてくるのがわかった。それは物凄い勢いで近づいてくる。
その正体はコルベールだった。こちらが知らせに行く前に来てくれるとはありがたい。しかし、移動速度が少し早過ぎないか!?
様子からして走ってはいない。歩いている。しかし、それはもはや速歩き域を超えた恐るべき速さ、カール・ルイスやベン・ジョンソンも真っ青な速度だ。
もう陸上選手にでもなったほうがいいんじゃないか?

「あれってミスタ・コルベールじゃない?」
「ああ、そうだな」
コルベールが近づいてくる。
「……目が血走ってない?」
「……血走ってるな」
コルベールがさらに近づいてくる。
「……息も妙に荒いわよ」
「……裸の女を前にした思春期の少年のようだな」
コルベールがかなり近づいてくる
「それがこっちに向かってきてるわね」
「……ああ」
コルベールが馬車馬のごとく近づいてくる。
「そういえば前教室で先生えらく興奮してたわよね」
「私がその対象だったな」
コルベールがロケットエンジンを積んでいたかのように不意に加速する。まるで狙いを定めたライオンのようだ。
「きっとまたあんたが対象よ。逃げなくて平気なの?」
「……平気なわけが無い!」
そうだ!早く逃げなければ!今の奴はあのときよりも興奮している!
あのときのように迫られてしまう!キスされかける!今度は貞操が危ういかもしれない!さあ逃げろ私!奴がいない世界まで!
逃げようとした瞬間、物凄い力と衝撃が肩に伝わった。
まさか!?
そう、そのまさかだった。何もかも遅すぎたのだ。私の肩は既にコルベールによって掴まれていた。
振り返り振りほどこうとした瞬間さらにもう片一方の肩も掴まれてしまう。そして私はコルベールと真正面から向き合う形となってしまった。
やばい、目がやばい、眼がやばい!狂人の一歩手前だ!
「ハァハァハァハァハァハァハァ……、き、きみ!ここここ、これはなんだね!?よよよよよよっよ、よければハァハァハァハァ私に説明してくれないかね!」
段々とコルベールの顔が近づいてくる。そしてこちらの体もコルベールに引き寄せられる。
「せ、戦闘機!戦闘機です!空を飛ぶための道具!わかったら離してください!」
「ここ、これが飛ぶのか!はぁぁぁぁあああ!す、素晴らしい!」
紅潮していた頬をさらに紅潮させさらにこちらに顔を近づけてくる。それに対抗するようにコルベールの顔を掴み遠ざけるように押し返す。
そうだ、こんなときこそ冷静にならなければ!コルベールを落ち着かせ、いや、落ち着かせなくてもいい。とにかく金を払わせなくては!
「コ、コルベールさん。もっとよくこれを見たいと思いませんか?自分の手で余すことなく調べたいと思いませんか?空を飛ぶ様を見たくはありませんか?」
「ま、まさか分解させてくれるのかね!これを飛ばして見せてくれるのかね!さ、早速やってくれんかね!ほれ!好奇心で手が……!」
よく見ると手が小刻みに震えている。いや、どちらかといえば痙攣している。そして手だけじゃなくコルベールの全身が痙攣している。大丈夫なのか!?まあいい。
近づいてくるコルベールの顔をさらに押しのける。
「そのためにはコルベールさんにも協力していただきたいんです」
「な、なにかね!?」
「運び賃を立て替えてくれませんかね?それと秘薬の代金も。右手の指が折れていて」
そして渾身の力を持って私はコルベールを引きはがした。危なかった。

「もしかしてこれが翼かね!?羽ばたくようにはできておらんな!この風車はなんだね!?」
「プロペラといって、それを回転させ風の力を得て前に進むんです」
「なるほど!よくできておる!」
コルベールは先程よりは落ち着いた様子でゼロ戦のあらゆる場所を見て回っている。
コルベールは私の話を二つ返事で了承した。秘薬はとっさに思いついたことだが言ってよかったな。
「ヨシカゲ」
「ん?」
そんな風に思っているとルイズが話しかけてくる。
「立て替えてくれる人ってミスタ・コルベールのことだったの?」
「いや。違う。これはあくまで偶然だ。私はコルベールさんを利用しただけに過ぎない」
本当は初めからコルベールに払わせる気満々だったのだが、その辺は話さないほうがいいだろう。話したら何を言われるかたまったもんじゃない。
「あんたね、こんなことしていいと思ってるの?しかも秘薬の代金まで出させて。秘薬の代金ぐらい私が払うわよ」
「何を言ってるんだ。私は代金を払ってもらう。あっちはそれでゼロ戦を研究する権利を得る。別に悪いことなんかしちゃいないだろう?お互いの利害が一致しただけだ」
「そ、そうだけど。なんだか利用してるみたいでいい気持ちがしないわ」
「ふ~ん。だが、世の中なんてこんなもんだぞ」
たしかに、実際はコルベールを利用しているだけだ。しかし、それは悪いことじゃだろうと私は思う。なぜなら私だけが得をしたわけじゃないからだ。
コルベールが興味深そうにゼロ戦を見て回る様を見ながら私はそう感じていた。それにしても、
「なあルイズ。私がコルベールさんに襲われていたとき、助けてくれてもよかったんじゃないか?」
「だって、わたしに的が向けられたらどうすんのよ」
知るか。


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