ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-5

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匿名ユーザー

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男は少し興奮したような様子だが当たり前のように家の中へ入っていく。
しかし、この家は男の家ではない。そう私の『直感』告げた。
それと同時に、このまま見続けたら、このままここにいたら確実に自分にとって不幸が訪れる、とも告げている。
そういった事態は避けなければならない!自分にとってこのまま見続けることで不幸が訪れるというのなら、この劇は絶対に見てはならない!
だが、体が動かない!
自分の体が椅子と同化してしまったかのようだ。気がつけば手足の感覚すらなくなっている。
そうだ!これは私に夢だろう!?なら少しぐらい私の意のままになるもんじゃないか!?自分にとって都合が悪くなるようなものを見せるわけがないはずだ!
早く夢から醒めたい!誰か俺の目を覚まさしてくれ!俺を夢から救い出してくれ!誰か助けてくれ!もうこんなものは見たくない!
しかし、そんな心の訴えなど聞かぬというように、一向に目が覚める気配はない。そして目を見開き舞台を見続ける。
男が家の中に入ると、舞台はやはり家の中へと移り変わる。家の中は当然のように暗かった。外は夜だし、家の中には電気がついていないためだ。
そんな中、何故か男の姿だけははっきりと視認できる。とは言うものの、右手はよく見えない。
男は玄関のドアを閉める。そしてそれだけではなくドアの鍵も閉める。そして男は移動しながら手当たりしだいに窓の鍵を丁寧にしっかりと閉めていく。
その様子はまるで何を追い詰めているように感じられる。
男は1階の鍵を閉め終えると足音を立てないように気をつけながら階段を上がっていく。男は階段を上がりきると、今度は2階の窓の鍵もこれまた丁寧にしっかり閉めていく。
閉め終わると今度は適当にドアに耳をあて、中の様子を探ろうとしている。そして探っていたドアから耳を離し、慎重にドアを開け中に入っていく。
部屋の中には、一組の男女が仲睦まじく眠っていた。年齢は大体40半ばといったところ。きっと夫婦に違いない。
二人とも明日も繰り返されるだろう日常を思っているのか、眠っていながらもどことなく幸せな表情に見える。
そんな二人に、男はゆっくりと足音を立てることもなく近づいていく。
そのとき、私はふと気がついた。グラン・ギニョル座っていうのは人間を使った人形劇だ。
隣の女がそう言った。そして現に人間が役を演じている。
ということは……この劇で殺された人間は実際に殺されてるってことじゃねえか!
これが夢のことだというの再び忘れ、叫んだ。
だが、やはり今までのように声は出ない。息一つ漏れることはない。
男は眠っている男の横に静かに移動すると、右手に持っていた何かに左手を添え、高々と持ち上げる。そして、私は男が持っていたものがようやくわかった。
ナイフ。
男が持っていたものはナイフだった。男は持ち上げていたナイフをなんの躊躇いもなく眠っている男の咽喉に深々と突き刺し、そのまま引き裂いた。
そしてその勢いで隣に寝ていた女の口を掴むと、ナイフを女の胸に何度も何度も突き刺し、そして刺し殺してしまった。
私はその光景を絶叫しながら見ていた。もちろん声が出ているわけではない。出るわけがない。
さらに絶叫した理由は、今までのようにわけがわからないや、何かを認めたくないというものではなかった。
このままでは結論が出てしまうからだ!何故、男の考えを理解できるのか。何故殺人鬼に恐怖してしまうのか。
その結論が出てしまいそうになったために叫んだのだ。
この結論は、絶対に出してはいけないものなのに!そう私の『勘』が告げている。
しかし、そんな私の思いとは裏腹に結論は出ようとしていた。それと同時に男が動き出す。
男は部屋から出ると、またドアに耳をあて中の様子を探る。そして先ほどと同じように、静かにドアを開けた。
そのとき、舞台は真っ暗になった。しかし例のごとく、またすぐに明るくなる。
場所はさっきの場所と同じだった。ただ、あの男だけが消えていた。そして、
ピチャ!……ピチャ!……ピチャ!……ピチャ!……ピチャ!……ピチャ!……ピチャ!……ピチャ!……
そんな、何かの滴がたれ落ちる音が耳に聞こえてきた。さっきまではなかった音だ。
そんな中、ドアから一人の女が出てきた。顔は暗くてよく見えない。
初め女は辺りを窺うように辺りを見ていたが、やがてある一点に目線が止まる。
「ヒッ!?」
女が恐怖に染まりきった短い悲鳴をあげる。そこには、音の発生原因が存在していた。
壁のコート掛けに首を切り裂かれた犬がぶら下がっていた。このピチャ!ピチャ!いっていた音は、犬の血が床に滴ってたっていたのだ!
女は恐怖に満ちているであろう顔で自分が出てきた部屋を振り返る。すると、
「おじょうちゃんの手ってスベスベしててカワイイね。クックックッーン」
部屋の中から声が聞こえてきた。それがあの男の声だとすぐにわかる。声は物凄く浮かれていた。
まるで初めて遊園地に来た子供のような声だ。
「う、うそ……」
女はそういいながら1、2歩後ろの下がる。
「両親もすでに殺したぞ」
女はそれを聞いた瞬間その場から逃げだすために走り出した。そのすぐあと部屋から男が飛び出してきて、女を追いかける。
女は一目散に階段を駆け下り、1階へ向かった。男もそれに続き階段を駆け下りる。
しかし、1階へ下りたとしても玄関には鍵がかかっているし、窓にも全て鍵がかかっている。女が逃げるためには鍵を開けるか、ドアや窓を破壊するしかない。
だからと言って、そんなことをしていては女は男に殺されてしまう。まさに絶体絶命の状況だった。
だが、女は玄関や窓なんかに目を向けた様子はなかった。とにかく一つの部屋を目指しているような感じがする。
その瞬間、いつの間にか舞台の中心が男から女になっているのに気がついた。
そして女は目当ての目当ての部屋を見つけたのか必死になって手を伸ばし、ドアノブを掴み急いで中に入る。
後ろには殺人鬼が今にも部屋に入ってきそうなほど迫ってきた。
女が入った部屋には、3~4歳と思われる幼い子供がいた。部屋の隅っこに蹲って震えている。
「露伴ちゃん!」
「鈴美おねえちゃん!こわいよ!なにかいるよ!」
女が叫ぶと子供は顔を上げ涙を流しだした。この子供は家の中に何かがいることに気がついていたのだろう。
女は急いで窓まで近づくと窓を勢いよく開け放ち、子供を抱きかかえ、その窓から外へ出す。
「露伴ちゃん!速く逃げて!速く!」
その瞬間、ドアが勢いよく開け放たれ、男が女に走りよった。
そして、手に持っていたナイフを大きく振りかぶり女の背中に根元まで突き立てる!
「あぐぁっ!」
さらに男は、そのままナイフを自分の方向へ一気に引っ張る。女の背中は大きく深々と裂け、体内を露出した。
「ろ……は…………ちゃん…………にげ……」
女はそこまで呟くと、そのまま事切れた。そして、窓から月明かりが入り女の顔が照らされ、そして舞台は今度こそ完全に暗くなった。
私は殺された女の顔を見て悲鳴を上げることはなかった。ただ、全身から汗が止まらなかった。
何故なら、女の顔は私の隣に座っているはずの女だったのだ。
そんなバカな!?だって今隣に座っているのを感じるんだぞ!あんなところに、死んでいるわけがない!
「これで劇は終わりよ。お疲れさま」
隣の女の声と同時に劇場が明るくなる。とたんに体中の感覚が戻るのを感じた。
もう、動くことはできるだろう。しかし、私は動けなかった。汗を諾々と掻きながら、荒い息を繰り返している。
「どうしたの?具合が悪そうだけど」
隣の女が声をかけてくる。その声は舞台で殺された女の声と同じだった。
私はゆっくりと、ゆっくりと女の方を向く。女はそこに座っていた。舞台で殺されたときの姿そのままに。首を切られ血を滴らせている犬の頭を撫でながら。
目の前が真っ赤に染まっていく。
「一体これは……、どうなってるんだ。俺の夢じゃ……。こんな悪夢が!あるはずが!」
「あなたの夢?なにか勘違いしてない?これはあなたの夢なんかじゃないわ。本当は気がついてたんじゃない?」
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……
どこからかそんな音が聞こえてくる。それもかなり近い。
「もしこれがあなたの夢だったら、あなたが知らないことなんてないわ。そしてこんな劇はしないでしょう。自分の『幸福』を願って生きているんだから」
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……
なんなんだよ、なんなんだよこの音はよぉおおおおおおおおお!
「さっきから凄い震えてるわね。たしかにあんな光景を見せられたらそんなものかもしれないけど」
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ……
震えてる?俺が?自分の手を見る。
その手は本当に自分の手かと思うほど細かに震えていた。震えを止めようと手に力を入れるが、その意思に反して手は震え続ける。
それが解った瞬間、このカチカチという音がどこから聞こえてくるか理解した。いや、自覚した。
自分の歯の根が合わずカチカチと音をたてていたのだ!
「あたしの名前は杉本鈴美。あなたに会うのはこれで2回目ね」
「…………杉本鈴美」
その名前を呟くと同時に最後のピースが嵌ったかのように一つの結論が出た。もうとっくに出ていたはずの、認めたくもない結論。
あの舞台の男は、吉良は俺だった。あれは記憶をなくす前の吉良吉影だった!
「うぉお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
全ての想いが咽喉から叫びとして迸った。自分でもこの感情がなんなのか分からない。ただ叫んだ。
そして突然頭部に生じた頭痛に頭を押さえ膝を突いた。


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