男はどことなく気品漂う顔で、スーツをしっかり着こなしている。
顔に表情は何一つ浮かんでおらず無表情そのもので何を考えているかは予想がつかない。
そしてこの男にはこれといって特徴がなかった。
影が薄い人間だ。
おそらく群衆にまぎれたらどこいるかすぐに判らなくなるだろう。
そして私はその男を深く知っているような気がした。
話したことなどない。
それどころかあったことすらない男なのになぜそんなことを思うのだろうか?
舞台の上に立つ人形を演じる男を見ながらそんなことに思いを馳せていた。
男は舞台の上をただ歩いていた。
荷物は書類などを入れるための鞄一つだけ。
しかしあの舞台なんかおかしくないか?
男ははっきり見えるのに男の周囲のは真っ暗だ。
まるで男一人にスポットライトが当たっているように。
それにさっきから男は歩いているのに現れた場所から移動していない。
床の方が動いているかのようだ。
まあ、深く考えることもないだろう。
だってこれは夢なのだから。
ここまでこれが夢だとはっきり認識しているのも珍しい。
認識しているからといってその夢を自由自在にできるというわけでもない。
目の前で不思議なことが起ころうと、それは夢だからと思ってみているほかないのだ。
というか、これのどこが恐怖劇なんだ?
男がただ歩いているだけじゃないか。
そう思っていると男は突然立ち止まり前方に手を伸ばす。
そして何かをひねるような動作をした。
まるでドアでも開けたかのような動作だ。
いや、実際に開けたのだろう。
ドアを開け、中に入った男はまた暫らく歩き始めた。
歩いていると、舞台の端から男に向かって車が向かってきた。
それも横向きにだ。
男が歩くたび、車は男に近づいていく。
ついに車は男の目の前にやってきた。
男はポケットの中に手をいれ何かを取り出した。
それは鍵だった。
男は取り出した鍵を車のドアに差し込むと鍵を開けドアを開いた。
そして車に乗り込む。
すると舞台に変化が起こった。
男と車の他に背景が見えるようになったのだ。
そこはどうやら駐車場のようだった。
男は車を発進させ駐車場からでる。
そのさい車は動いているはずなのに舞台の中央から移動しない。
さっきの男と一緒だ。
その代わり回りの背景が車が移動するのにあわせて変わっていく。
なるほど、移動すると周りが動いて移動しているように見せているのか。
本当に町を走っているようだ。
しかし、やっぱり気にかかることはこれのどこが恐怖劇なのかというところだ。
あまりにも平凡な風景。
普通の男が普通の車に乗って普通に運転している。
これのどこに恐怖を感じる人間がいるというのか。
隣の女に目を向けると女は食い入るように舞台を見詰めている。
他のとこに目を向けると他の観客も目に入った
他の観客もやはり隣の女と同様、食い入るように舞台を見詰めている。
いったい何だっていうんだ?
それにこいつらの様子は少しおかしいぞ?
いくらなんでも舞台に集中しすぎている。
瞬きすらしてないんじゃないかってくらいだ。
それに微動だにしない。
ちっ!
いくらこれが夢だといってもなんだか気持ち悪くなってきぞ。
みんな能面みたいな表情しやがって。
さっさと夢から醒めたいものだ。
そう思いながら再び舞台に目を向ける。
男は相変わらず車を走らせていた。
すると舞台の端のほうにふと人影が移った。
その人影は急速に舞台の中央、つまり車に近づいていく。
それに気がついたのか車はブレーキをかけた。
それと同時にその人影はもう一つの人影に引っ張られる。
よく見るとそこには3人の人間がいた。
服を見る限り学生だろう。改造されているが。
「おい、危ねーぜ康一~?ボケッと道路わたんじゃねーよ」
3人のうちの一人、リーゼントという今時時代遅れにもほどがある髪形の学生が背の低い学生に注意する。
どうやら道路を横断する際、車に注意を向けていなかったようだ。
「す…すみませんでした」
注意された彼は慌てて車に乗っている男に頭を下げる。
リーゼントの彼も一緒に頭を下げる。
ただ、彼らと共にいた刈上げの彼は頭を下げなかった。
なんとも頭の悪そうな顔をしている。
「………………」
男は謝る彼らに目を向けただけで何も返さずにまた車を発進させた。
3人はたちまち舞台の端へと消えていく。
男はまた暫らく車を走らせた。
「この辺りがそうなんだが……」
突然そんな声が聞こえてきた。
私はなぜか、その声が車にのっている男のものだと理解した。
思ったのではなく理解したのだ。
予想ではなく確信したのだ。
何故だ?
「杜王町の起源はね……昔『侍』の別荘があった避暑地なんだ。うちの祖先もそうさ。でも祖父の代で落ちぶれてね、残ったのは今住んでる家だけさ。
僕も今はしがない会社勤め……」
あの男は一体誰と喋ってるんだ!?
あまりにも不自然だ!
この男には独り言を呟く趣味でもあるっていうのか!?
男の言葉を聞いているうちに何故だかは判らないが背筋が引き攣る感じがする。
「おい、買ってやったオブレイの腕時計はどうした?……ああ、バッグの中か。そうだった、サイズがちょっと大きめだったんだな……。明日直そう」
男の様子は車の中なのでよくわからない。
しかし、男が誰かに喋りかけているのは明らかだ。
だが、車の中には男の他に誰もいない。
いるわけがない。
男の乗る車を見ながら、私の背筋は今度こそ氷を入れられたように引き攣った。
恐怖を感じているわけではない。
ただ、よくわからない気持ち悪さを感じているのだ。
やがて男の車一つの大きな屋敷の敷地に入った。
その屋敷に私はとてつもない懐かしさを感じた。
気持ち悪さと懐かしさ、この二つを胸に秘めながら私は舞台を見詰めていた。
もう舞台から目を逸らすことなどできなくなっていた。
顔に表情は何一つ浮かんでおらず無表情そのもので何を考えているかは予想がつかない。
そしてこの男にはこれといって特徴がなかった。
影が薄い人間だ。
おそらく群衆にまぎれたらどこいるかすぐに判らなくなるだろう。
そして私はその男を深く知っているような気がした。
話したことなどない。
それどころかあったことすらない男なのになぜそんなことを思うのだろうか?
舞台の上に立つ人形を演じる男を見ながらそんなことに思いを馳せていた。
男は舞台の上をただ歩いていた。
荷物は書類などを入れるための鞄一つだけ。
しかしあの舞台なんかおかしくないか?
男ははっきり見えるのに男の周囲のは真っ暗だ。
まるで男一人にスポットライトが当たっているように。
それにさっきから男は歩いているのに現れた場所から移動していない。
床の方が動いているかのようだ。
まあ、深く考えることもないだろう。
だってこれは夢なのだから。
ここまでこれが夢だとはっきり認識しているのも珍しい。
認識しているからといってその夢を自由自在にできるというわけでもない。
目の前で不思議なことが起ころうと、それは夢だからと思ってみているほかないのだ。
というか、これのどこが恐怖劇なんだ?
男がただ歩いているだけじゃないか。
そう思っていると男は突然立ち止まり前方に手を伸ばす。
そして何かをひねるような動作をした。
まるでドアでも開けたかのような動作だ。
いや、実際に開けたのだろう。
ドアを開け、中に入った男はまた暫らく歩き始めた。
歩いていると、舞台の端から男に向かって車が向かってきた。
それも横向きにだ。
男が歩くたび、車は男に近づいていく。
ついに車は男の目の前にやってきた。
男はポケットの中に手をいれ何かを取り出した。
それは鍵だった。
男は取り出した鍵を車のドアに差し込むと鍵を開けドアを開いた。
そして車に乗り込む。
すると舞台に変化が起こった。
男と車の他に背景が見えるようになったのだ。
そこはどうやら駐車場のようだった。
男は車を発進させ駐車場からでる。
そのさい車は動いているはずなのに舞台の中央から移動しない。
さっきの男と一緒だ。
その代わり回りの背景が車が移動するのにあわせて変わっていく。
なるほど、移動すると周りが動いて移動しているように見せているのか。
本当に町を走っているようだ。
しかし、やっぱり気にかかることはこれのどこが恐怖劇なのかというところだ。
あまりにも平凡な風景。
普通の男が普通の車に乗って普通に運転している。
これのどこに恐怖を感じる人間がいるというのか。
隣の女に目を向けると女は食い入るように舞台を見詰めている。
他のとこに目を向けると他の観客も目に入った
他の観客もやはり隣の女と同様、食い入るように舞台を見詰めている。
いったい何だっていうんだ?
それにこいつらの様子は少しおかしいぞ?
いくらなんでも舞台に集中しすぎている。
瞬きすらしてないんじゃないかってくらいだ。
それに微動だにしない。
ちっ!
いくらこれが夢だといってもなんだか気持ち悪くなってきぞ。
みんな能面みたいな表情しやがって。
さっさと夢から醒めたいものだ。
そう思いながら再び舞台に目を向ける。
男は相変わらず車を走らせていた。
すると舞台の端のほうにふと人影が移った。
その人影は急速に舞台の中央、つまり車に近づいていく。
それに気がついたのか車はブレーキをかけた。
それと同時にその人影はもう一つの人影に引っ張られる。
よく見るとそこには3人の人間がいた。
服を見る限り学生だろう。改造されているが。
「おい、危ねーぜ康一~?ボケッと道路わたんじゃねーよ」
3人のうちの一人、リーゼントという今時時代遅れにもほどがある髪形の学生が背の低い学生に注意する。
どうやら道路を横断する際、車に注意を向けていなかったようだ。
「す…すみませんでした」
注意された彼は慌てて車に乗っている男に頭を下げる。
リーゼントの彼も一緒に頭を下げる。
ただ、彼らと共にいた刈上げの彼は頭を下げなかった。
なんとも頭の悪そうな顔をしている。
「………………」
男は謝る彼らに目を向けただけで何も返さずにまた車を発進させた。
3人はたちまち舞台の端へと消えていく。
男はまた暫らく車を走らせた。
「この辺りがそうなんだが……」
突然そんな声が聞こえてきた。
私はなぜか、その声が車にのっている男のものだと理解した。
思ったのではなく理解したのだ。
予想ではなく確信したのだ。
何故だ?
「杜王町の起源はね……昔『侍』の別荘があった避暑地なんだ。うちの祖先もそうさ。でも祖父の代で落ちぶれてね、残ったのは今住んでる家だけさ。
僕も今はしがない会社勤め……」
あの男は一体誰と喋ってるんだ!?
あまりにも不自然だ!
この男には独り言を呟く趣味でもあるっていうのか!?
男の言葉を聞いているうちに何故だかは判らないが背筋が引き攣る感じがする。
「おい、買ってやったオブレイの腕時計はどうした?……ああ、バッグの中か。そうだった、サイズがちょっと大きめだったんだな……。明日直そう」
男の様子は車の中なのでよくわからない。
しかし、男が誰かに喋りかけているのは明らかだ。
だが、車の中には男の他に誰もいない。
いるわけがない。
男の乗る車を見ながら、私の背筋は今度こそ氷を入れられたように引き攣った。
恐怖を感じているわけではない。
ただ、よくわからない気持ち悪さを感じているのだ。
やがて男の車一つの大きな屋敷の敷地に入った。
その屋敷に私はとてつもない懐かしさを感じた。
気持ち悪さと懐かしさ、この二つを胸に秘めながら私は舞台を見詰めていた。
もう舞台から目を逸らすことなどできなくなっていた。