ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-34

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匿名ユーザー

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 それから数時間後。大人しく空賊に捕らえられたジョセフ達は、空賊船の船倉に閉じ込められていた。
 ジョセフ達をここまで運んできた船、『マリー・ガラント号』の乗組員達は自分達のものだった船の曳航を手伝わされているようだ。
 ジョセフはデルフリンガーを取り上げられ、メイジ達は杖を取り上げられた。後は鍵を掛けてしまえば何も出来ない、という認識はおおよそ間違ってはいない。
 だがジョセフは特に何か行動を起こすでもなく、酒樽や穀物袋や火薬樽が雑然と置かれた船倉で静かに寝転がっていた。
「どうするんだジョジョ! 空賊なんかに捕われてしまったんだよ、どうにかしないと!」
 空賊に発見されてからこの方、徹頭徹尾徹底抗戦を唱えているギーシュが、船倉の中で唯一この状況を打開できそうなジョセフに詰め寄った。
 だがジョセフは起き上がる素振りさえ見せず、寝転がったままギーシュを見やった。
「ここで暴れてもどーもならんじゃろ。まだわし一人だけが捕まったんならどーとなりとでも出来るが、お前達まで人質になっとったら正直どうもできんぞ。幾ら何でも五人も守りながら戦うだなんて器用なマネはわしにはできん」
 杖を取り上げられたメイジが五人雁首を揃えたところで、足手まといにしかならないのはここにいる全員が理解していることである。
 更に言えばジョセフの傷は包帯の下で波紋を流しているとは言え、まだ治療中である。今の傷の具合では戦いに必要なだけの波紋を練るのもやや厳しい。
 そうなればジョセフは傷を癒す時間を得る為、黙って寝転がっているという次第だ。
(ッつーか今回はハイジャックとはなァー。つくづくそーゆー星の下に生まれとるんじゃよなァわしは)
 ほとんど他人事のように心の中で呟いたジョセフは、他の面々の様子を伺ってみた。
 一番落ち着きが無いのはギーシュだ。

 船倉の中で何か使えるものはないかと探した結果、火薬樽を見つけて何やら奇跡の逆転劇の台本を書いているようだが、あんなものをこんな場所で使えばどうなるか、については考えが至っていないようだ。後で鉄拳制裁混じりの説教をすることにした。
 ギーシュの次に落ち着きが無いランキングに入賞したのはルイズだった。
 こちらは大人しく自分の横にぺったり座ってはいるが、視線が落ち着き無く彷徨い続けている。
 それに加えて暇を見つけては傷は大丈夫か痛くは無いか、と心配そうに尋ねてくる事も忘れない。
 その度に大丈夫だこんな可愛いご主人様に心配してもらえて光栄だ、と笑って答えればルイズは顔を赤らめながら「そ、それならいいのよ」と顔を背けてしばらく黙る。
 あんまり同じ受け答えだと向こうもそれに気付くので、頭を撫でたりちょっと腕を上げて力こぶを作って見せたりのバリエーションをつけることも忘れない。
 第三位に入るのはワルド。ギーシュと同じく船倉の荷物を興味深く検分してはいるがギーシュとは違い、脱出目的のために見ている訳ではないようだ。
 空賊の荷物はどんなものか、を見ている程度のものだろう。
 第三位と甲乙つけがたいが、第四位はキュルケだった。彼女は生来の肝の太さを遺憾なく発揮し、看守の男を色仕掛けで虜にしようとしていた。
 だが意外と看守の男は身持ちが固いらしく、キュルケの悩殺を楽しみはするもののそれに乗る様子はない。
 そしてぶっちぎりの第五位は言わずと知れたタバサである。
 空賊に発見される前から今に至るまで、取った行動と言えば『読書』一択。
 ページを捲らずに読んでいるフリをしているとか、本が逆さまだということなど断じて無く、普通に本を読み続けている。
(それにしてもあのお嬢ちゃんはただモンじゃねェよなァ)
 ジョセフは内心で感心しつつ、包帯の上から腕を撫でて傷の具合を確認する。


 まだ痛みはするが、死ぬほど痛いというわけではない。もう少し時間を掛ければ完治もするだろう。また呼吸を整え、波紋を練り込んでいると扉が開いた。
 太った男がスープの入った大きな鍋と水差しの乗ったトレイを持ってやってきたのだ。
「メシだ」
 扉の近くにいたジョセフが受け取ろうとするのを、男はトレイを持ち上げて阻止した。
「おっと、質問に答えてからだ」
 その言葉にルイズが立ち上がった。
「言って御覧なさい」
「お前達、アルビオンに何の用だ?」
「旅行よ」
 ルイズは腰に手を当てて、毅然と言い放った。
「トリステイン貴族が今時のアルビオンに旅行だって? 一体何を見物するつもりだい」
「さあね。考えてみたら?」
「随分と強気だな。トリステインの貴族は口ばかり達者なこった」
 空賊の男は苦笑いすると、トレイをジョセフに渡す。それを船倉の中央に置くと、腹をすかせた全員がわらわらと寄ってきた。
「なんだいこれは、こんな粗末なものを食わせようと言うのか!」
 具も殆ど浮いていないスープを前に、憤懣やるかたない様子のギーシュだが他の面々は黙ってスプーンを手に取っていた。
「文句があろうがなかろうが食っとけ。腹が減ってヘバっとったらマヌケもいいとこじゃ」
 そう言ってジョセフが最初にスープを飲み、口の中で転がしてから飲み込んだ。
「お、けっこう旨いぞ。ヘンなモンは入っとらんようじゃ」
 その言葉に全員がそれぞれスープを飲むが、すぐに飲み終わってしまうと再びやることが無くなった。


 また時間を持て余そうとした時に、ジョセフが不意に口を開いた。
「なあ。こんなにヒマなんじゃしちょいと賭けでもせんか」
 壁に凭れ掛かって脚を組みながら、泰然とした態度で船倉を見渡す。
 使い魔の言葉に眉を顰めるのはルイズだった。
「ちょっとジョセフ、こんな時に何を言ってるのよ」
 だがジョセフは主人の言葉を意にも介さず、船倉にいる全員に向けて言葉を続ける。
「なあに、とても簡単な賭けじゃよ。誰が乗る?」
 ニヤリと笑うジョセフの言葉に、悠然と立ち上がるギーシュ。
「いいだろう、だがどういう賭けかを聞いてから乗るか反るかを決めてもいいんだろう?」
「ああ構わん。他に乗るヤツぁおらんか?」
 ワルドは興味深そうに見ているだけで立ち上がらないし、タバサは我関せずと読書を続行している。
 そしてルイズは頬を膨らませながら腕を組んで、『こんな時になんて不謹慎な』という態度を崩していない。
 残った一人であるキュルケは、そんな一行の様子を見てやれやれと立ち上がった。
 彼女としてはこういうイベントがあれば参加したいというのもあるが、ジョセフの持ちかけた賭けに興味をそそられたのが最大の理由であった。
「じゃあ私もその賭けに参加させてもらおうかしら」
「グッド!」
 ジョセフがニヤリと笑って親指を立てる。
「で、賭けの対象はなに? それを聞かせてもらわないと話が始まらないわ」
 早速すすすとジョセフに近付いたキュルケは、ジョセフの前に座り込んで聞いた。ギーシュも貴族然とした優雅な足取りでジョセフに歩み寄った。
 他の面々はそれでも興味を引かれて聞き耳を立てることとなった。

「んじゃ賭けを発表するぞ。賭けの対象は『この船の主が空賊か否か』じゃ!」
 船倉の中で呆気に取られなかったのは、ジョセフとタバサ、そしてワルドくらいのものだった。
 しばらく妙な雰囲気の沈黙が漂ったが、それを打ち破ったのはギーシュだった。
「は……はははははは! なんだいジョジョ、何やら随分と落ち着いてると思ったら何の事は無い、一番混乱しているのは君じゃないか! いきなり何を言い出すかと思ったが、正直僕は君の正気を疑ってしまってるよ!?」
 いかにも最高の道化師を見たかのような破顔の笑みでジョセフを指差して笑うギーシュ。
 聞き耳を立てていたルイズも、あちゃあ、と言わんばかりに顔に手を当てて眉間に深く皺を寄せていた。
「で、ダーリンはどっちに賭けるの?」
 しかしキュルケはチェシャ猫のように笑いながら、さも愉快げに問いかけた。
 ジョセフは余裕めいた笑みを全く崩さず、二人の貴族に下向けの掌を緩やかに見せた。
「わしが賭けるのは、お前達の後でいい。お前達の反対に必ず賭けよう。空賊だと賭けたらそうでない方に、そうでない方なら空賊だと言う方に賭けよう」
「そんな賭けでいいのかい? じゃあ僕は当然、空賊だ、という方に賭けるよ。賭け金はどこまで賭けたらいいんだい?」
 勝ちを確信、どころか勝利を疑うこともせず、ギーシュは嬉々として上限を聞いた。
「幾らでも青天井で構わん。わしはそれに見合った代償を賭ける」
「そうか! じゃあそうだな……では僕は、100……いや、200エキューを賭ける!」
 120エキューで平民一人が一年間暮らせるだけの金額だというのに、それを易々と超える金額を提示するギーシュ。
「ほう太っ腹じゃな。負けたらきちんと払ってもらうぞ」
「なあに、こんな勝ちを譲ってもらえる勝負ならこれくらいのコトはしないとね!」
「ちょっとギーシュ! いくらなんでもジョセフに200エキューなんて手持ちがあるわけないでしょ!?」
 ルイズが慌てて二人の間に駆け寄るが、ギーシュは芝居がかった動作でルイズに指を突きつけた。
「おっとミス・ヴァリエール。使い魔の言葉は主人の言葉だということでもある。もしジョジョが賭け金を払えないというのなら、君に払ってもらってもいい……が、それではつまらない。だから僕は、君ではなくジョジョから全てを取り立てることにしたッ!」
 ゴゴゴゴゴ、と何やら特徴的な書き文字がバックに出ているようなポーズと顔でジョセフに視線を向ける!
「この200エキューの代償として、ジョジョ! 君に一年間、僕の執事をやってもらおうッッッ!!」

 ドォーーーーz_____ン

 どこからか特徴的な効果音さえ聞こえそうな勢いで言い放ったッッッ!!
 ジョセフは無論、口端をこれ見よがしに大きく吊り上げて叫び返すッッッ!!!
「グッドッ! いいじゃろう、その賭け乗ったッ!!」

 バァーーーーz_____ン

 二人とも不敵な笑みを浮かべて視線をぶつけ合えば、ドドドドド、と音が聞こえそうなすさまじい緊迫感が二人の間に流れた。
 ルイズは懸命に叫びたててこの賭けは無効だ主人が同意してないから成立しない、と言っているが、この二人は聞き入れる気配など微塵も無い。

 やがて愉快げな笑みのまま、ジョセフはキュルケに視線を向けた。
「で、キュルケ。お前はどっちに賭けるんじゃ?」
 問われたキュルケは、赤い唇を褐色の指先で色っぽく撫でて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「あたしは、ダーリンの賭けた方に乗るわ」
「ミス・ツェルプストー! 君まで僕に200エキューをただで渡すというのかい!?」
 笑いが止まらないとは正にこの事だろうと言う満面の笑みで、ギーシュはキュルケを見やった。
「いいわ、なんなら私もミスタ・グラモンの召使をやってもよくってよ?」
 自慢の赤毛を両手でかき上げれば、ふわりと立ち上る女性の色香。
「あ、それはモンモランシーが誤解するから本気でやめて」
「誤解させるつもりだったんだけど」
 素で返されたのでキュルケも素で返す。
「じゃ、私も200エキューをベットするわ。それでいいわね」
 つまんないわね、と唇をちょっと尖らせてから、ジョセフににまりと笑みを向けた。
「よし! ではわしは『この船の主は空賊ではない』に賭けるッ!」
 この時点で賭けは成立した。
「んもう! 本当にどうして私の使い魔は主人の言う事を聞かないのかしら……!」
 大きく天を仰いで嘆息しつつ、力が抜けたようにルイズは壁際に寄りかかった。
 その時、再びドアが勢い良く開き、随分と痩せぎすの男が入ってきた。空賊はじろりと一行を見渡すと、ニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。
「おめえらは、もしかするとアルビオンの貴族派かい?」
 敵意を持った沈黙と、この場にはそぐわない余裕めいた沈黙が空賊に答えた。

「おいおい、黙ってちゃ判らないだろうよ。でもそうだったら失礼したな。俺達は貴族派の皆さんのおかげで商売させてもらってるんだ。王党派に味方しようとする酔狂な連中を捕まえたら、それもまた商売になるって寸法だ」
「じゃあ、この船はやっぱり反乱軍の戦艦なのね」
 ほら見ろ、と言わんばかりにギーシュがジョセフに笑って見せた。
「いやいや、俺達は別に雇われてるワケじゃねえ。あくまで対等に協力しあってるだけだ。ま、お前らにゃ関係のないことだがな。で、どうなんだ? 貴族派か? それならちゃーんと港に送ってやるよ」
 ねめつけるような空賊の視線に、ルイズはあからさまな怒りの視線をぶつけながら立ち上がった。
「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか! 寝言は寝てから言ってほしいものだわ! 私は誇り高きアルビオン王党派への使いよ、まだあんた達が勝ったわけじゃないんだからアルビオンは王国だし、正当なる政府はアルビオン王室よ!」
 凛とした態度を崩さずに、怯えも恐怖も見せずに言ってのける。
「私はトリステインを代表してそこに向かう貴族なのだから、つまりは大使だということよ! だから大使としての扱いをあんた達に要求するわッ!」
 ギーシュは今にも顎が外れそうなほど口を大きく開けて、叫んだ。
「きっ……君は大バカか、ミス・ヴァリエールッ!?」
「誰がバカよ! 命惜しさに誇りを捨てて空賊風情に媚を売るだなんてマネを易々とするほうがよっぽどバカだわ!」
 ギーシュに向き直ったルイズは、躊躇うことなく怒鳴った。
「それはそうだが、時と場合を選んでくれないか! 君がどういう行動をしようが勝手だがね、それに僕たちまで巻き込むのはやめてくれ!」

「うるさいわね! ならアンタは貴族派ってことにすればいいじゃない!」
「何を言うかミス・ヴァリエール! このグラモン元帥の四男たる僕に、アンリエッタ王女の信を裏切る真似をしろとでも!?」
 ムキになって言い返すギーシュを見たキュルケは、呆れた顔で二人を見た。
「これだからトリステインの貴族は……。どうしてこんなに口だけ達者なの?」
 頭痛を感じ始めた額に手をやって、やれやれと首を振った。
 そんな様子を見ていた空賊はやがてさも楽しげに笑った。
「正直なのは美徳だろうが、お前達ただじゃすまねえぞ」
「あんた達なんかに嘘ついて頭下げるくらいなら、死んだほうがマシよ!」
 断言するルイズに、ジョセフが立ち上がると主人に近付いていった。
 何をする気か、と空賊も含め、船倉にいる全員の視線を集めたジョセフは、ルイズの横に近付くと、不意に帽子を脱いでルイズの頭に被せ、その上から力強く撫で回した。
「よく言ったッ! よく言ってのけたルイズッ!」
「え、あ!?」
 突然のことに真っ赤になりながら、されるがままに頭を撫でられるルイズ。
「そうでなくっちゃな、それだからわしの可愛いご主人様なんじゃよなッ! いいぞルイズ、流石わしのご主人様じゃッ!」
 かか、と満面の笑顔のジョセフはそれだけに留まらず、膝を折ってルイズと視線を同じ高さにすると、頭を撫でる手で主人の顔を引き寄せ、頬ずりまでして見せた。
 ついに気が狂ったか、と考える者もいたし、はいはいバカ主従バカ主従、と呆れを隠さない者もいた。
「……頭に報告してくる。その間に遺書の文面でも考えてな」
 余りの展開に気圧された空賊は去っていった。

「……ところでミス・ヴァリエール。僕達はもう破滅だと思うんだが」
 大きく溜息をついて肩を落とすギーシュに、ルイズは毅然と言葉を掛けた。
「最後の最後まで私は諦めないわ。地面に叩きつけられる瞬間まで、ロープが伸びると信じるわ。――それに、私にはジョセフがいるんだもの」
 帽子を被せられたまま、躊躇わずに断言したルイズの頭が再び大きな掌で撫でられた。
「あのねえ……ジョジョの手は君がとっくにリザーブしてるじゃないか。僕達はどうしろって言うんだい。せめて嘘くらいついてもバチは当たらないだろう」
 もはや死を覚悟し始めたギーシュに、それでもルイズはきっぱり言い切った。
「それとこれは話が別よ! 嘘なんてつけるもんですか、あんな連中に!」
 はああ、と大きく溜息を吐いたギーシュは、もはや問答は無駄だと判断して次の言葉を接ぐ事を諦めた。
 ワルドもルイズに近付こうとしたが、ジョセフの凄まじい気迫(ワルド以外には欠片も感じさせなかった)に気圧されて近付くことができなかった。
 やがて程無くして扉が開いた。先程の痩せぎすの男だった。
「頭がお呼びだ」


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