ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔は手に入れたい-43

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匿名ユーザー

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空は段々と茜色が増し、それに比例し木々の陰は大きく、そして長く伸びる。
その黒い影は茜色の空と対比してとても綺麗な模様を大地に描いていた。
しかし、黒い影は模様を描くだけではない。
何かを飲み込むような、そして何かが潜んでいるような、そんな何か悪いものがそこに佇んでいるような感じがする。
実際、この時間帯のことを『逢魔が時』という。
『逢魔が時』とは大禍時が転じたと言われている。
何故ならこの時間帯が一日のうちのもっとも禍々しい時間帯と言われているからだ。
忌まわしく、不吉な感じの漂う時間帯、物陰に潜む魔物のような何かの気配、禍々しいと言われても仕方ないだろう。
そう言われている理由は恐らく日が沈み、それまで明らかだったものの輪郭がぼやけて見えなくなっていく、その覚束なさから生まれる不安なのだ。
少なくとも一般的にはそう考えられている。
だが実際、稀にだが、本当にそういうところに本物の魔物がいたりすることもある。
魔物とは言ったが、本当のところは人間の幽霊だ。
しかしその姿は魔物と呼ぶに相応しいほどの異形に成り果てている。
実際にその異形を見たときは本当に驚いたものだ。
なにか強い執念を持っていたりするとそういう風になりやすいらしい。
私から言わせてもらえばそんな姿をしている時点で人間とは言えない。
幽霊はそいつの精神が直に反映され、自分の形を作る。
そんな姿になってる時点で人間の精神じゃないって言ってるようなものだ。
草原への道すがら、あの尼から聞いたことを思い出しながらそんなことを思っていた。
なぜそんなことを思い出したのかは自分でもよくわからない。
おそらく、この夕暮れと、そこらに生えている木々が思い出させたのだろう。
今となってはもう懐かしいと言えるほどの思い出だ。
「ヨシカゲさん?どうかしたんですか?なんだか遠い目をしてましたけど」
「え?」
「そうよ。あんまりこっちの話も聞いてなかったみたいだし」
そうだろうか?
いや、確かにそうかもしれないな。
きっと過去の思い出に自分でも気づかないほどにどっぷり嵌っていたのだろう。
「……日本にいたときのことを思い出していた」
私はルイズたちの問いに素直に答えることにした。
別に知ってほしいとは思わないが、隠す理由もない。
この思い出はただの知識だ。
私のそのときに感じた感情、考え、思いを話さなければそれは客観的な知識になる。
何かの役に立つわけでもない、人に知られて困ることもない、どうでもいい知識だ。
そんな知識を隠すことに何の意味があるのだろうか?
あるわけがない。
「へえ、どんなこと思い出してたの?」
「この時間帯についてのことさ。日本じゃ逢魔が時って言ってな。黄昏時とも言って……」
ふと木々の陰の中に人影を見た。
その人影は私に酷く似ていて、しかし全く違う。
直感的にだが、そう感じた。
しかし次の瞬間には消えていた。
あれ?見間違いだったのか?
いくら見てもそこには誰もいなかった。どんな生き物もいなかった。
本当に見間違いだったらしい。
しかし、あの人影は何故かくもの巣のように私の頭に引っかかっていた。

何だかんだでルイズたちと話しているとやがて草原に着いた。
草原がよく見える位置に連れて行くと言うシエスタのあとについて行く。
そして私とルイズはそこから草原を眺めてみた。
「これは……」
「すごい、きれい……」
シエスタが私に見せたいといったその草原は、私たちの視線を捕らえて離さなかった。
頭に引っかかっていた人影のことなど、それこそ初めからなかったのごとく消し飛んだ。
ただただ広いその草原はシエスタが言っていたようにありとあらゆるところに花が咲いている。
草原の向こうに見える山上にある夕日は美しく、そして儚げに輝きは、その草原をまるで染め上げるかのように草花を優しく茜色に輝かせていた。
たったそれだけの光景が、私たちの心を支配していたのだ。
何て綺麗なのだろうか。
こんな景色を見たことがあるか?
あるわけがない。
元の世界では、電車に乗りながら、窓から見る空が晴れ渡っているだけで、私はその光景がとても大事なものだと思うことができていた。
この世界に来て、晴れ渡る空を見ながら木々に囲まれ風を感じることに、私は喜びを見出すことができていた。
しかしそれらが色あせてしまう。
自分の中でどんどんと色あせていく。
言葉でなかった。発することができなかった。
ただ、この光景を何時までも見ていたい。心がそう訴えていた。
隣にいたルイズも言葉を発することはなった。
ただ暖かな風の音だけが聞こえていた。
しかし、時というのは止まることなどない。
人間のことなんて考えないで何時までも動き続ける。
やがて、夕日は山上から山の間へと沈んでいく。
茜色に染め上げられていた景色も段々と、鮮やかなその色を失っていく。
風も暖かみを失い始める。
そして、あれほど美しかった夕日は完全に山に沈んでしまった。
「シエスタ」
「はい」
「……ありがとう。こんな素晴らしいものをみせてくれて」
自分でも驚くほど自然にそんな言葉が漏れていた。
「わたしも始めてあんなきれいな景色を見たわ」
ルイズも私のことに追従する。
シエスタの方を振り返るとシエスタの顔にはこれまで見たことのないほどの笑顔を称えていた。
その表情から見て取れるものは自分の故郷に対する限りない誇りと自信、そしてそれを認められた嬉しさだった。
「そう言ってもらうのが一番嬉しいです。私の一番気に入ってる場所ですから」
そう言って私たちに笑いかけるシエスタの笑顔を私は草原に劣らないほど綺麗だと感じた。
隣にいるルイズの感動した顔も、やはり草原に劣らず綺麗だと感じた。
別にそれがあの景色に影響されて一時的な気の迷いでそう見えるだけでも構わない。
ただこの言葉にし難い感情を何時までも胸に閉じ込めておきたかった。
「それじゃあ帰るか」
それだけ言うと、誰も反応を返さず、しかしみんな足を動かし村へ戻り始める。
帰り道、私たち3人の間には何の会話もなかった。しかしそれは苦痛ではなかった。
ただ穏やかなな時が流れていた。


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