ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-32

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
 ジョセフの放った砲丸の射撃は、これまでのパワーバランスを一変させるに相応しい威力を持っていた。
 突然現れたボウガン持ちのゴーレムに警戒した傭兵達は、少々距離を取ったり、壁の後ろに身を隠していたりしていたが、それは無駄な努力であることをむざむざと思い知らされることとなったのだ。
 入り口付近の壁を易々と破壊し、壁の後ろに陣取っていた不幸な傭兵を吹き飛ばした挙句、それでも威力が死ななかった弾丸は射線上に立っていた他の傭兵達をも薙ぎ倒した。
 発射の反動に振動する弦を構わず掴み、胴体から次の弾丸を装填するワルキューレに矢が殺到するが、それもまた無駄な努力でしかなかった。鋼鉄の鏃が頭に当たろうが胸に当たろうが、ワルキューレの稼動になんら影響を及ぼすことはない。
 二発目の弾丸が飛んだ直後、もう一体同じゴーレムが現れるに至り、傭兵達はこれまでの攻撃一辺倒の姿勢を止め、次に砲丸を食らう不幸に選ばれない様にと逃げ腰になって入り口付近からの撤退を始めた。
「うふふっ、流石はダーリンだわ! と言うかギーシュ、こんな便利なゴーレムがあるなら早く出しなさいよ!」
 泡を食う傭兵達の様子を手鏡で見物していたキュルケが、ギーシュにジト目を向けた。
「さっきまでは出せる状況じゃなかったんだよ!」
 頭を出せば矢が飛んでくる状況で、手鏡で遮蔽の向こうの様子を見るという手段が思いつかなかったのは仕方ないことではあった。
「まあいいわ、ここから私達の反撃の時間だわ。ねえギーシュ、厨房に油の入った鍋があるでしょ」
「揚げ物の鍋でいいのかい」
「そうそう。それを貴方のゴーレムで取ってきて」
「よし、了解だ」

 ギーシュは再び薔薇の造花を振って花びらを舞わせると、今度はオーソドックスな造詣のワルキューレが錬金される。ゴーレムはテーブルの陰から厨房へと駆けて行くが、ワルキューレを狙う矢はそれほど多くは無かった。
 数本の矢がワルキューレに刺さりはしたが、ゴーレムはめでたくカウンター裏の厨房に辿り着き、熱く煮えたぎる油の鍋をつかんだ。
「オーケー、それを入り口に向かって投げて」
 キュルケは手鏡を自分の顔の前に持ってきて、化粧を直していた。ジョセフは既に照準を頭の中で把握していたので、盲撃ちでも傭兵達に恐れを為させる射撃をすることは容易だった。
「こんな時にまで化粧しなくてもいいじゃない、ツェルプストー」
 ルイズが呆れた様に言うが、キュルケは頓着せずに言い返した。
「だって歌劇の始まりよ? 主演女優がすっぴんじゃ締まらないでしょ」
「誰が主演よ、誰が」
 ギーシュは、こんな時でも相変わらず始まる二人の口喧嘩に言葉を差し挟むのは無駄だと理解して、「じゃあ投げるよ」とだけ言ってゴーレムにフリスビーの様に鍋を投げさせる。
 油を撒き散らしながら空中を飛んでいく鍋に向かってキュルケが杖を振ると、中の油が引火した鍋が落ちた入り口は、人の背丈ほどもあるほど勢い良く燃える炎で閉ざされた。
 ジョセフの射撃で動揺していた傭兵達は、それでも雇い主から命じられた突撃命令を実行しようとしたのが運の尽きだった。
 数人の被害を構わず一気に距離を詰めようとした傭兵達も、自分達の背丈ほどもある炎を前にしてはたじろがざるを得ない。半ば特攻気味に駆け込もうとしていた一隊は、辛うじて足を止めて炎に突っ込む事態は避けられたのだが、メイジの追撃はそれだけではなかった。
 キュルケはテーブルの陰からおもむろに立ち上がり、まるで誘惑のダンスを踊るかのような艶かしい身振りで呪文を詠唱して再び杖を振った。

 すると炎は更に火勢を増し、入り口でたたらを踏んだ傭兵達に襲い掛かり、燃え移る。
 炎に巻かれた傭兵達の獣のような悲鳴が巻き起こり、地面を転げ回って必死に火を消さねばならない事態へと陥らされた。
 タバサの展開する風のバリアで守られたキュルケは、飛び来る矢を物ともせずに優雅に赤毛をかき上げ、杖を掲げた。
「名も無き傭兵の皆様方。はした金で私達の襲撃に参加されて非常にご苦労様です。けれど金に目が眩んで自分の力量も弁えられないその愚かさ、死ぬまでたっぷり後悔させて差し上げましょう」
 雨霰と降りしきる矢嵐の中、キュルケは微笑を浮かべて一礼した。
「この『微熱』のキュルケ、謹んでお相手仕りますわ」
「な、ちょ! 何一人だけ目立ってんのよ!」

 *

 巨大ゴーレムの肩の上で、フーケは舌打ちをした。今しがた突撃を命じた一隊は炎に巻かれて大騒ぎをしていたところに謎の大爆発までお見舞いされ、完全に闘争心をへし折られていた。隣に立った白仮面に黒マントの貴族に、フーケは呟く。
「もう少しまともな働きをしてくれるかと思ったけど。結局無駄足だったようね」
 マントの男を横目で見る。無言ではあるが、震えるほど握り締めた拳が彼の心中を物語っている。
(自分の取った手が相手に全部読まれてるような感じがするんだろうね)
 フーケは、かつて戦ったあの老人の顔を忘れもしない。手玉に取られる、という言葉を自分の身で体得させられたあの夜明けの事を思えば、このプライドばかり高そうな男がどれだけ腸を煮えくり返らせているかは想像しやすい。

 先程まで勝利を確信していた傭兵達は浮き足立ち、更に宿の中から吹き荒れる風が炎を撒き散らし、傭兵達の中に僅かに残った戦意を根こそぎ奪っていく。
 既に逃げ出し始めた傭兵も少なからずいるし、なおも砲丸の直撃を受けた金属と肉のへしゃげる音と、人間の上げるものとは思えないくぐもった断末魔が聞こえ続けている。
 悔しいがあのじじい……ジョセフの戦闘の才は認めざるを得ない。
 ジョセフが下の連中と合流するまでは酒場のメイジ達は烏合の衆そのものでしかなかったのに、合流してそれほど時間も経たないうちにあの有様である。岩のゴーレムがあるにせよ、果たしてジョセフに勝てるかどうか。
(……参ったわ。勝つ場面がどうにも思い浮かばない)
 フーケの中で出された答えが弱音ではなく、正確な戦況判断であることに再び舌打ちが漏れる。
 既に戦況は向こう側の圧倒的優位が確立されているし、ここで撤退するのは傷口を広げない為の勇気ある戦術である。
 だが、横の貴族は。
「――やはり平民は役に立たん。ここは引く。フーケ、殿を務めろ」
 ふざけんな三下貴族が、と心の中で悪態を吐いた。
 つまり自分は逃げるから注意を引き付けておけ、と来た。何やら大層なお題目を唱えたレコン・キスタとやらもそう長くはないな、とフーケは直感した。
 適当にやった後、逃げの一手を打つことに決めた。屈辱の返礼は当然したいに決まっているが、今度捕らえられたらレコン・キスタの助けの手は二度と差し伸べられないだろう。そんな内心を億尾にも出さず、フーケは答えた。
「いいわ。じゃあとっとと退却してくださるかしら。ここは私が足止めするわ、合流は例の酒場でいいわよね」

「ああ」
 短く答えた貴族はゴーレムの肩から飛び降りると、夜の闇へと消えた。
「……ああ面倒くさい。他人の思惑で生かされるのは何とも窮屈だわ」
 傭兵達は既に駆逐されている。飛び来る砲丸に荒れ狂う炎に炸裂する爆発に暴れ回る青銅のゴーレムと、メイジ達の領域に投げ込まれた傭兵達は少年少女達の容赦ない洗礼の前に完全敗北を喫していた。ラ・ロシェールの傭兵の評判が地に落ちた夜であった。
 フーケは気が進まないながらも、ゴーレムを前に歩ませながら拳を振り上げると、それを入り口に叩きつける。それと同時にゴーレムのコントロールを自律動作型に変更すると、肩から降りて屋根沿いに逃げ出して少し離れた場所から見物する。
 宿屋でめくら滅法に暴れているゴーレムに、程無くして花びららしきものが舞い散ってくっついたかと思うと、その花びら達が何かになってゴーレムに纏わり付いた。
 そして岩のゴーレムにファイアーボールが飛んだ次の瞬間、ゴーレムは一気に炎に包まれた。
(――なるほど、花びらを油か何かに錬金したんだね。もうあいつらに30メイルゴーレムは通用しないってコトだわね。けっこう自慢だったんだけどしょうがないか)
 敗北を喫するのは二度目だが、完膚なきまでに喫した敗北は逆に心に傷を残さない。ここで無駄足を踏んで捕まる義理は自分には無い。
 首輪と鎖付きでも自由は自由である。フーケはひらりひらりと屋根を飛び、その場からの遁走に成功した。

 *

 今夜の宿をなくした一行は、矢を受けて呻いている主人にせめてもの気持ちとして皮袋に金貨を入れて渡してから、逃げ出すように宿を後にした。

 一行を背に乗せたシルフィードが空に飛び立つと、激しい戦闘を潜り抜けた一行は大きく息を吐いた。
「はぁ……それにしてもなんて礼儀知らずなのかしら傭兵って。せっかくの宴会が台無しになったじゃない」
 キュルケが肩を竦めれば、ジョセフはがっくりと肩を落とした。
「わし結局メシもワインもお預けじゃよ……」
「実は一本いいのを失敬してきた」
「ああタバサ! 今のお前の頼みならわしはどんな頼みでも聞いちゃうぞ!」
 タバサから受け取ったワインボトルに頬ずりするジョセフの耳をルイズが捻る。
「ちょっとジョセフ! ご主人様ほっといて何を他の女に尻尾振ってるのよ!」
 明るい月明かりの下、相も変わらず賑やかに騒ぐ一行。
 そうやってシルフィードが飛んでいく先、小高い丘を越えた先に見えた巨大な樹に、さしものジョセフも「おお」と感嘆の声を上げた。
 四方八方に枝を伸ばしている樹は、山ほどもある巨大なものだった。夜空に隠れて頂点は見えないが、高さは一体どれほどあるのだろう、ワールドトレードセンターとどちらが高いだろうか、と考えてしまうほどだった。
 目を凝らせば枝には大きな何かがぶら下がっている。まるで巨大な枝に実る巨大な果実のように見えたそれが飛行船のような形状をしているのを見止めると、ジョセフは自分の中で合点が行った。
「なるほどなあ、確かにありゃフネじゃわい。空に飛ぶならここは確かに港町じゃよ」
 ジョセフは一人でうむうむと頷いていた。
 シルフィードが樹の根元へ降り立つと、根元はまるで巨大なビルの吹き抜けのホールを思わせる、巨大な空洞になっていた。

(枯れた樹の幹を利用しとるんじゃな。それにしてもこっちじゃこんなデッカイ樹が生えるんじゃなあ……すげえなあ異世界)
 と、興味深くホールを見物するじじい一人。
 夜なので人影も無い広大な空間に心を踊らせたりもする。
 やがてワルドが「諸君、こっちだ」と声を掛けたのが聞こえる。それぞれの枝に通じる階段には鉄で出来たプレートが貼ってあり、辛うじて「アルビオン行き」と書いてあるのが読めた。
「字が読めるのはええことじゃなー」
 ニヒヒ、と笑いながらジョセフは一行の一番後ろで階段を駆け上がっていく。全員女神の杵亭での交戦でかなりの精神力を消費しているのは明白である。となれば、追っ手を防ぐ為にも魔法に頼らず戦えるジョセフが殿を務めるのは至極当然な話である。
 木でできた階段は一段昇るたびにぎしぎしと心臓に悪い音を立てて軋む。手すりが付いているものの、これに体重をかけるのはやめておこうと思わせる代物だった。
 しばらく走っていると、後ろから何者かが駆け上がってくる足音が聞こえた。
 ジョセフは反射的に剣を引き抜き、背後から駆けて来る黒い影に怒鳴りつけた。
「何者じゃッ!」
 だが黒い影は誰何の声に答えることなく、駆けて来る勢いそのままに跳躍すると、ジョセフだけでなくキュルケ達の頭上さえ跳び越してルイズの背後に着地した。
 ジョセフの声に振り向いたルイズの眼前に着地した男は、悲鳴を上げさせるよりも早く彼女を肩に抱え上げた。
「きゃ、きゃあ!?」
 悲鳴を上げたルイズを抱えたまま、男は躊躇わず手すりを乗り越えて地面へ跳んだ。
 ジョセフも一切の躊躇を見せず、男の後を追って宙へ身体を舞わせた。


「ダーリン!?」「ジョジョ!?」
 キュルケとギーシュにとっては、突然ジョセフが怒鳴ったかと思うと黒い影がルイズを浚って飛び降りてジョセフが後を追って空を飛んだ、という急転直下の状況。
 精神力を使い果たしたメイジはただの人と同じ。飛び降りていくジョセフに後を託すしかないのだ。
 ワルドが杖を振って生み出した風の槌が男を直撃し、ルイズから手が離れた。
 その隙を見逃さずジョセフが突き出した左腕からハーミットパープルを発生させ、落下したままのルイズを確保する。他の茨が大樹に伸び、波紋でくっつくことで落下速度を殺しながら左腕にルイズを抱き抱え、そのまま大樹を伝って踊り場に着地する。
「ここで仕掛けてきたか!」
 険しい横顔に、ルイズはジョセフにしがみ付いたまま「何! 何なの!?」と聞くしか出来なかった。
「刺客じゃよ、今度はちっとハードじゃぞ!」
 厳しい視線の先には、魔法の風に包まれたままふわりと踊り場に降り立つ黒い影……白仮面の黒マントがいた。背格好はおよそワルドと同じ程度。
 剣を振り回すには問題のない広さだが、ここにルイズがいるのが問題だ。
 ルイズを守らなければならない、敵も排除しなければならない。
(両方ともやらなくちゃいかんのが使い魔の辛いところじゃよなッ)
「後で叱ってくれッ!」
 突然の事態に思わずジョセフにすがりついたままのルイズに、波紋を流し込むッ!
「きゃうッ!?」
 反発する波紋を流すことで、痺れたルイズの手がジョセフから離れるのと同時に、多少の攻撃ならダメージを軽減できる程度の防御力も付加する。

 これまでのメイジとの戦いで、魔法を使わせないことが肝要と理解しているジョセフはすぐさま剣を正眼に構え、男に斬り掛かる。
 男は構えた杖を振り、ジョセフの斬撃をかわし続けながらも呪文の詠唱を続ける。
 ジョセフは両手で掴んだ剣を左腰に構えると、今度は右手に波紋を集中させる。
「食らえいッ! 流星の波紋疾走(シューティングスター・オーバードライブ)ッッ!」
 横薙ぎに振るう剣の柄を握る手を鍔際から柄頭まで滑らせることにより、間合い、威力、速度の全てを高めた剣客コミック受け売りの必殺剣が夜闇を切り裂いて男に放たれるッ!
 だが男は必殺剣の間合いを見切り、背後への強い飛び退きで切っ先を回避してみせた!
 男は剣で切り裂かれた空気の流れに唇の端を歪ませながら、なおも呪文を唱え続け……
「隙を生じぬ二段構えッ! 双龍波紋疾走(ダブルドラゴン・オーバードライブ)ッッッ!!」
 意外ッ! 男の胴体を殴り飛ばしたのはなんと鞘ッ!!
 最初の斬撃を回避されたと悟ったジョセフはすぐさま、自由になっていた左手の指を鞘の縁に掛けると、剣を振り抜いた勢いになおも更なる一歩の踏み込みを加えた鞘での殴打を加えたのだ。
 当然コレもジョセフ愛読のサムライコミックからの引用である。
 しかし波紋をたっぷりと流された鞘に吹き飛ばされ手すりを飛び越えさせられながらも、男はなおも呪文を唱え続けていたッ!
「相棒! 構えろッ!」
 流石に二撃目の斬撃で体勢を崩したジョセフに三撃目を放つ余裕も無く、辛うじてデルフリンガーの叫んだように構えた瞬間、男の周辺から発生した稲妻が狙い違わずジョセフを襲う!
「『ライトニング・クラウド』ッ!」
 呪文の正体を悟ったデルフリンガーが叫ぶが、幾らジョセフだろうと電撃を回避する術も無く、全身に雷を走らせる結果となる。

「うおおおおおおおッッッ!!?」
 余りの激痛に意識が白に染められたジョセフは、気付いた時には踊り場に身を投げ打ってのた打ち回っていた。
(か……カミナリかッ! ダメージはッ! 右腕かッ!)
 見れば右腕の袖が電撃で焦げ付いている。中身は見るまでもない、相当な大火傷を負っているだろう。だが男は魔法を完成させたのが精一杯だったらしく、今度こそ男は地面へ向かって落下していった。
(波紋ッ……波紋で、痛みを和らげッ……!)
 激痛に荒れる呼吸を無理矢理整えようとしたジョセフに、小さな足音が駆け寄ってきた。
「ジョセフ!」
 蹲ったジョセフに、波紋のショックから回復したルイズが走ってきた。
 いきなりご主人様になんてことをしてくれたんだ、という怒りもジョセフの右腕を焦がす電撃の傷跡がすぐさま消し飛ばしていた。それほどに酷い傷を受けているジョセフの背に両手を置いて、懸命に使い魔を揺さ振る。
「生きてる!? 生きてるの!?」
 錯乱して判り切った事を聞いているルイズと、判り切った事を聞かれているのにツッコミを入れる余裕すらなく悲痛な呻き声を上げるジョセフの元へ、上から駆け下りてきた仲間達が駆け下りてきた。
「ダ、ダーリンッ!?」
「ジョジョ!?」
 キュルケとタバサだけではなくタバサも蹲るジョセフに駆け寄ってきた。
「タバサ、『治癒』はかけられる!?」
「……ム、ムリせんでいいッ……! お前達も疲れとるじゃろ、なぁに一晩くらいなら大丈夫ッ……!」

 明らかなやせ我慢だとは全員が判るが、実際精神力は傭兵達相手に枯渇している。ここで出来る事は何も無い、というのが正直なところだった。
「さっきの呪文は『ライトニング・クラウド』だな。『風』系統の魔法の中でも凶悪な魔法だぜ。あいつはかなりの使い手だ」
 ジョセフの手から落ちたデルフリンガーが心配そうに言った言葉に、同じ風系統のメイジであるタバサの表情が微かに曇る。それを見たキュルケは、蹲るジョセフを目撃した時と同じくらいに驚いた。
「だが腕ですんでよかった。本当なら命を奪うほどの魔法だぞ。……どうやら、この剣が電撃を軽減したようだな。よくわからんが、ただの剣ではないな」
 同じようにジョセフの傷を見やっていたワルドが呟く。
「知らね。忘れちまった」
 デルフリンガーがすっとぼけた声で答える。
「……なぁに、フネに乗ったら酒飲んで酔っ払っちまえばどーにかなるわいッ。ほら、随分後戻りしちまったからとっとと行かなくちゃなッ」
 よろよろと起き上がるジョセフを全員が心配するが、まだ階段を上り続けなければならないのは確かである。タバサは下で待機していたシルフィードを呼び出そうと口笛を吹こうとしたが、それはジョセフに止められた。
「また他の追っ手が来たら困るじゃろ……なぁに、心配はいらん。わしが何とかする」
 ものすごい強がりに、タバサは静かに頷いた。
(言ったら意見を譲らない所は主人と同じ)
 他の面々もその結論に達すると、改めて階段を登って行く。ジョセフはデルフリンガーを鞘に収めると、焼け焦げた右腕を押さえながら波紋を緩やかに流し込んでいった。


 To Be Contined →

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー