ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

DIOが使い魔!?-56

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「おや、『風』の呪文だね……うぷ…」
シエスタによる公開屠殺を強制的に見せられて、今にもゲロを吐きそうな顔をしていたワルドが、
青い顔をしたまま呟いた。
未だに鉄錆にも似た異臭が漂う死地に、ばっさばっさと翼を羽ばたかせる音が響く。
どこかで聞いたことのある羽音だった。

「シルフィード……だったかしら」
名前はともかく、確かにそれはタバサの使い魔の風竜であった。
重なりかけた月を背景に、悠然と空に浮かぶ幻獣。
そのシルフィードが、何故この場にいるというのか。
ルイズの疑問に応えるように、風竜はゆっくりと地面に舞い降りた。
場に満ちる死臭が、人間の何倍もの嗅覚を誇る風竜の鼻を襲い、
シルフィードは実に嫌そうな顔できゅいきゅい鳴いた。
その風竜の背には、主人であるタバサの姿。
パジャマ姿のまま、本を読んでいる。
さっきシエスタを吹き飛ばしたのは、タバサの『風』魔法だったのだ。
(お姉さま、ここクサい! シルフィお鼻が曲がっちゃうのね!
クサい! クサい! ク~サ~い!)
(……我慢する)

そのタバサの後ろから、炎のように真っ赤な髪の女性が機敏な動作で飛び降りて、髪をかき上げる。
キュルケであった。

憎きツェルプストー。
ルイズの生涯のライバルであった。

「いくら礼節を弁えない者相手とはいえ、やり過ぎでなくて、ヴァリエール?」
後ろでヨロヨロと立ち上がり、頭を振っているシエスタを横目で見ながら、ルイズは肩をすくめた。

「あんたの夜の情事よりは幾分穏やかだわ。
……で、どうしてここにいるわけ?」

「ッッ!
…………朝方、窓からあんたたちが馬に乗って出かけようとしてるもんだから、気になって後をつけたのよ」
柳眉を逆立てて、キュルケは言い放った。
本当は助けに来たつもりだったのだが、ルイズの嫌味に対する反発心から、
つい無難な理由を述べたのだった。
しかし、良い所を邪魔をされたとあって、ルイズの嫌味は歯止めがきかない。
ウンザリした顔で、シッシッと追い払う仕草をする。

「おととい来て下さらないかしら、マダム?
大事な大事な男娼達が、首を長くして待ってるわよ?
あら失礼、長くしているのは首じゃなかったわね……オホホホホ」
ほくそ笑むルイズ。
仮にも十八の乙女に対してマダム呼ばわりである。
これには流石のキュルケも腹に据えかねたらしい。目つきが据わってきた。

「言ってくれるじゃない、『ゼロ』のクセに……」

「…………何ですって?」

「何よ!」
バチバチと火花を散らしながら睨み合う二人。
やがて、いつものように壮絶な罵りあいが始まるのであった。
売女! ナイムネ! 脂肪細胞の無駄遣い! 言ったわね!?
野蛮人! おチビ! 色狂い! 独り身! ツラに一発ぶち込むわよ!? ケツに一発食らわすわよ!?
…………………………………
…………………………………。
あらかた罵倒のネタが出尽くしたところで、タバサが止めに入った。
彼女がその身長よりも大きな杖を振ると、二人の体が宙に浮かぶ。
"レビテーション"の魔法を使ったのだ。

「非常時」
ポツリと呟くタバサの言葉で冷静になったのか、二人は渋々矛を収めることにしたようだった。
大人しくなった二人を、タバサはゆっくりと地面に下ろす。

「……改めて聞くけど、どうしてあなたがここにいるの、ツェルプストー?
私たち、お忍びの仕事の最中なの」

「ふん、勘違いしないで。貴方を助けに来た訳じゃないの。
……ねぇ?」
ルイズに対する渋い顔を一転、キュルケはしなをつくってワルドににじり寄った。

「おひげが素敵な紳士様。身を焦がすような情熱に興味はおあり?」
じりじりと近づいてくるキュルケを、しかし、ワルドは青い顔で押しやった。

「あら、どうして?」

「婚約者が勘違いしては困る。
それに……こんな場所で、そんな気にはとてもじゃないが……なれないな」
確かに、とキュルケは納得して頷いた。
辺り一面には、依然として濃厚な血の匂いが漂っている。
直ぐに危険な野獣が集まってくるだろう。
既に上空では、匂いに誘われてカラスやハゲタカが群を為し始めていた。
彼らは、地上にある今晩の食事をご所望であったが、シルフィードがいるために手が出せずにいた。
ギャアギャアという、彼等の愚痴にも似た叫び声が響くこの場所では、
とてもじゃあないがロマンチックな気分にはなれない。
ワルドの言うことは至極もっともであった。
そして、それにもましての驚愕の事実が、キュルケの興味を強く刺激していたのであった。

「なあに? ルイズ、あなた婚約者がいたの?
よりにもよってあんたに?」
「いちゃ悪いの? それに、まだ私は結婚するって決めた訳じゃないわ」

驚天動地といった顔をするキュルケだが、以外や以外、ルイズはあんまり気にしていないようだった。
もっと顔を赤らめるなりして照れるかと思ったのにつまんない、とキュルケは思った。
最近のルイズは、やけに冷静……というより、冷徹なのだ。
さらには、以前はまだまだ希薄であったはずのルイズから感じられるオーラのようなものが、
洗練され、さらなる深みを見せているようにも思われた。
何というか、カリスマ? とでも言うのだろうか。キュルケはルイズから発せられるそれをうまく説明することが出来なかった。
ただ一つ明らかなのは、ルイズが本格的に変わり始めた原因はDIOにあるということであった。
今でこそ、短絡的な感情表現をしてくれることもあるが、それもいつまで続くのか分からない。
ルイズの行く末を案じるキュルケであったが、そんな彼女をよそに、
ルイズは運良く生き残った一人に尋問を開始することにした。
地面に情けなく横たわって気絶している男にルイズはドカドカと近寄り、容赦なく鳩尾を踏んづけた。
激しく咳き込みながら、男は意識を取り戻した。
ゆっくりと目を開いた男は、自分を見下ろしているルイズの姿を確認すると、
途端に取り乱した。

「た、助けて!! 許して!
俺はただ、雇われてただけなんだよぉ……!!

「ほらほら、五月蝿いわね……静かにしなさいよ、大人げない」
しかし、男は喚くのを止めない。それどころか、脇に立つシエスタの姿を目にするや、その叫び声を益々大きくしてゆくのであった。
ルイズは痛む頭に手をやり、ゆっくりと杖を取り出して男に突きつけた。

「黙れ」
首を吹っ飛ばされた仲間達の姿が、男の脳裏にフラッシュバックする。
男はピタッと静かになった。

「では、聞くわ。
あんたたち誰に雇われたの?」

「は、はい、ラ・ロシェールの酒場でメイジに雇われました……女です」
早くもアルビオンの貴族に気付かれたかと、ルイズは焦った。
しかし、思った通りこいつは唯の三下だ。
根掘り葉掘り聞いた所で、実りのある情報が得られる確率は絶望的といえた。
それでも、ルイズに対する恐怖からか、男の返事が素直そのものであったのが、唯一の救いだった。
余計な手間がかからずに済んだと思いつつ、ルイズは先ほどの戦闘で感じた疑問を男にぶつけた。

「じゃ次。
さっきの戦いで、どうして私だけ襲ったの?」

「雇い主にち、注文されたんでさぁ、へへ……。
緑色の髪をした、美人のメイジに言われたんです……。
桃色の髪をしたチビだけは絶対にこ、殺せって……。
胸がペッタンコだから、すぐ分かるって……。ヒヒヒ、本当にすぐ分かりましたよ」

「緑色? どっかで見たことあるような……。
それとあんた、一言多いわ。
こんど余計なこと言ったら、せっかく拾った命を無駄にすることになるわよ」
調子に乗りかけてニヤついていた男の顔が、再び凍り付いた。
ルイズはいったん振り返ってキュルケ達をチラリと見た後、男に向き直った。

「もう聞くことはないわ。あんたは用無し。
殺してやるつもりだったけど……フン、せいぜいキュルケに感謝しなさい」
どうやら、命だけは助けてやると言っているらしい。それを聞いた男の顔が少しだけ和らいだ。
希望に包まれ始めた男の顔は、ルイズにとって非常に神経に障るものであったが、この際我慢することにした。
何だかんだで自分はキュルケに弱い……この瞬間、ルイズはそのことを強く自覚した。
いずれは克服せねばならない課題だった。

そのためには理由を知る必要があったが、ルイズには何となくそれがわかっていた。
キュルケはルイズの姉に似ているのだ。
優しいカトレアに。厳しいエレオノールに。
そう考えてルイズは、ハッとなる。
基本的に姉には頭の上がらないルイズにとって、これはゆゆしき事態であった。
『ルイズは姉に頭が上がらない→キュルケは姉に似ている→ルイズはキュルケにも頭が上がらない』

こういうカラクリだから、キュルケはこれからのルイズにとって乗り越えねばならぬ障害足り得たということか。
ならば、ルイズの為すべきことは一つである。
キュルケを乗り越えるためには、まず二人の姉を…………。
自分は二人の姉を……どうするというのか。
そう考えるとモヤモヤしてくる自分の胸の内を誤魔化すように、ルイズは男を追い払った。
男は振り向くことなく駆け、やがてラ・ロシェールの夕闇に包まれていった。

「てっきり殺すと思ったが……慈悲深いじゃないか。
あのキュルケとやらに負い目を感じているのか?」
いちいち痛いところを突く使い魔だと、ルイズは思った。
人の心を纏う鎧の、ほんの僅かな隙間を縫って、中心に針を突き立ててくる。

ふてくされた顔で、ルイズは馬上のDIOを見上げた。

「……何なら、消してやろうか?
可愛い御主人様の為なら、はてさて……どうってことはない。遠慮するな」
DIOの悪魔の囁きである。
ここでYESと答えれば楽なのだろうが、ルイズは首を横に振った。

「いいえ、嬉しい申し出だけれど断るわ。
これは私とキュルケの……いえ、私だけの問題よ」

「そうか」
拍子抜けするほどあっさりした返事を残して、DIOはさっさとラ・ロシェールの街へと移動し始めた。
その後に、デルフリンガーを回収したシエスタがしずしずと付き従う。
だが、ルイズは遠ざかっていくDIOの馬を追いかけ、ひらりとその背に跨った。
突如として自分の後ろに飛び乗ってきたルイズに、DIOは振り向いた。

「私の馬、さっきの戦いで死んじゃったの。
だから、ラ・ロシェールまで乗せなさい」
そっぽを向いて一息に言い切ったルイズにDIOはニヤリと笑い、直ぐに前に向き直った。
DIOがルイズに見せた笑みは一瞬であったが、しかし、ルイズは見た。

DIOの目。
何もかもお見通しと言わんばかりのDIOの目は、確かにこう言っていた。

『キュルケを乗り越えるために、まず姉を殺せ』
殺す? 私が? エレオノール姉様と、カトレア姉様を?
………………………………。
ルイズは自分の杖をぎゅっと握り締めた。
両脇を峡谷に挟まれた、ラ・ロシェールの街の灯りが、怪しく一行を迎えていた。

―――ルイズ一行、無事にラ・ロシェールへ。

to be continued……

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