ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

DIOが使い魔!? 親友-2

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深く暗い森の中を、キュルケは一人疾駆していた。
時折り背中の火傷がズキズキと痛むが、それでも構わず全力で駆け抜ける。

「タバサ……!」
呟くのは、かつて無二の友人だった生徒の名前。
思い出すのは、いつだったか、『土くれ』のフーケの討伐に行った記憶だった。
あの時DIOと一戦交えてから、タバサは確実におかしくなっていった。
それに薄々気づきながらも、ついぞ止められなかった自分を情けなく思う。
もはや彼女は、DIOの操り人形なのだろうか。
……いや違う、彼女は人間だ、とキュルケは自分を叱りつけた。
諦めそうになっているのをタバサの冷たさのせいにして、
自分で勝手に彼女を見捨てようとしているのだ。
不甲斐ない。自分は此処に何をしに来たのだったか。
大切な大切な……親友を連れ戻すためだ。
キュルケは自分の背中を一撃した。
もう一回"ライトニング・クラウド"を受けたかのような衝撃が走り、
キュルケの精神に喝が入る。
腑抜けていた意識が、徐々に鮮明になっていくのを感じ、キュルケは周囲の状況を見る余裕が出てきた。
聴覚を周りに集中させてみる。
ふと気が付いたら、森を駆ける足音が増えていた。
自分も含めて、合計四つの足音。

聴覚が捉えたその情報を怪訝に思い、キュルケは後ろを振り向いた。
果たして、キュルケの聴覚は正しかった。
今度は耳の代わりに、我が目を疑うことになったが。
一人………、二人………、合計三人のタバサが、全く同じ構え、同じ足取りでキュルケを追いかけてきているのだった。

「んな……ッ!?
ちょ、反則……!」
キュルケは走るスピードを上げた。
しかし、タバサは元々暗殺を目的とした戦闘スタイルのメイジである。
育った環境も相まって、持久力と執念深さは筋がね入りであった。
バジリスクに追いかけられているような錯覚を感じ、キュルケは更にスピードを上げた。
囲まれたら、おしまいである。
祖国ゲルマニアで軍人としての教育も受けていたキュルケは、
並々ならぬ脚力の持ち主だ。
流石にこのスピードにはついてこれまいと、勝ち誇った顔で後ろを振り向くキュルケ。
見ると、タバサが二人。
一人消えていた。
どこに消えたのかなんてバカでも分かる。
反射的に空を仰いだキュルケに、上空から氷の刃が降り注いできた。
"フライ"で追いつき、そのまま攻撃してきたのだ。

"チュドドドドド……!"
ミサイルのように氷刃が襲い来る。

キュルケはそれをジグザグに走って回避した。
しかし、いくら俊敏に動いて見せても、上空から見てみれば止まっているも同然である。
照準を合わせることなんて容易い。
裂けきれなかった氷刃の一つが、キュルケの足を切り裂いた。

「ぐ、は……ッッ!」
バランスを崩し、キュルケはものの見事に転倒してしまう。
足を押さえてうずくまるキュルケに、すぐさま三人のタバサが追い付いてきた。
出血を止める暇なく、キュルケは"フレイム・ボール"を放った。
迷いを捨てた分、先程より強力な火球がタバサ『達』を襲う。

「「"アイス・ストーム"」」
けれど、二重で掛かってこられちゃ意味がなかった。
倍増というより、二乗されたのではないかと思うほどの威力の氷嵐がキュルケを襲い、
キュルケは数メイル後方に吹っ飛ばされることとなった。
二人のメイジとしての実力の差は、もはや歴然だった。
無様に地面に叩きつけられて、キュルケの肺から酸素が絞り出される。
三人のタバサがじりじりと迫る。
しかし、キュルケは諦めない。
キュルケは自分の足下の土に杖を構えた。

「イル・アース・デル……!」
"錬金"で土を油に変える。

「ウル・カーノ!」
そして"発火"の呪文。

ゴウッと炎が舞い起こり、キュルケの周囲を燃やした。
燃え盛る炎は油に引火し、その勢いを爆発的に増加させた。
自分だけの炎では、タバサの風にはかなわない。
ならば、上乗せすればいい。

「"ファイヤー・ウォール"!!」
周囲の炎を根こそぎ巻き込んで出現した巨大な炎の壁が、タバサ達に迫った。

「「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース……」」
しかし、恐れず慌てず、二人のタバサは一言一句調子を乱さず魔法を唱える。

「「"ジャベリン(氷槍)"」」
二人がかりで構成された、これまた巨大な氷の槍が射出された。
両者の魔法は正面から激突し、爆ぜた。
しばらくの拮抗の後、若干キュルケの炎が上回ったか、ジャベリンは全て溶けて水蒸気と化した。
ジャベリンによって威力を削がれたものの、炎の壁は持ちこたえ、タバサ達に襲いかかった。
その様子をキュルケは見守る。
轟音。
手応えは……無い。
ちゃっかり残りの一人が、防御の呪文で他のタバサ達を炎壁から守っていたのだった。

「……ウっソ」
引きつった笑みを浮かべるキュルケ目掛けて、数え切れない程のエア・カッターが飛んできた。
キュルケはたまらず横に飛び、森の奥へと再び駆け出す。

木々の間を縫って、キュルケが駆ける。
森の影に隠れて、時折り氷の刃が飛んできた。
それは背後から飛び交ってくる時もあれば、
上空から降り注いでくるときもあった。
キュルケはその度に必死に身をかわし、反撃をした。
数えるのも面倒になるくらいの魔法の応酬の中、キュルケは場の空気がおかしいことに気がついた。
妙だ……、とキュルケは眉をひそめる。
悔しいが、今の自分はタバサにとって死に体だ。
その気になれば、囲みこんであっと言う間に叩き潰せるはずなのに。
何故かそれをしてこない。
せっかく分身しているというのに、攻撃は途切れ途切れだ。
足を負傷しているキュルケでも、それは何とか避けきれるものであった。
分身の利点が活かされていない。
タバサらしくない。
何か嫌な予感を肌で感じながら、キュルケは足を踏み出した。
―――"カチン"と、軽い音が足下から響いた。
見ると、自分の足が、半透明な紐のようなものを踏んづけていた。

「?…………!!」
その途端に、踏んづけていた縄から数本の氷刃が飛び出してきた。
とっさに後ろにジャンプして氷刃をかわしたキュルケだったが、
今度は背中から"カチン"という乾いた音が聞こえた。

背中に冷たい感触が広がる。
見ると、そこにも氷でできた線状の何かがあった。
氷刃が飛び出す。
体勢を変えることが出来ずに、キュルケはその氷刃をモロに背中で受けた。

「ガッ……!」
肉に刃が食い込む感触に、キュルケは身を捩った。
四つん這いで地面に叩きつけられる。
これまでのダメージの蓄積と、大量の出血で、フラフラする頭を押さえつつ、キュルケは辺りを見回した。
いつの間にか自分の周り、四方八方は、先程みた半透明の縛縄によって埋め尽くされていた。
ちょっとでも触れば、氷刃が飛んでくるだろう。
キュルケはその場に括り付けられてしまった。
先程の三人のタバサは、囮だったのだ。
自分をこの罠へ誘い込むための。
いつのまにか、タバサ達の気配が消えている。
油断せずに周囲の様子を窺っていると、タバサの声が聞こえてきた。
弾かれたように、キュルケは上を見る。

「「触れれば発射される"ウィンディ・アイシクル"の『結界』は……」」
上空に浮かぶタバサAとタバサBが、淡々と説明に入った。
二つ名の通り雪風のような冷たい目で、キュルケを見下ろしている。
細い氷の結界が、キィンと甲高い共鳴音を出した。

いつも無口なタバサが饒舌になっていて、その上ステレオときたもんだ。
その違和感たるや、鳥肌ものである。

「「すでにあなたの周囲、半径二十メイル……。
隙間なく張り巡らされている」」
続いて、タバサCとタバサDによるステレオ。

「「あなたはもう、一歩も動けない」」
ピシャリとはねのけるような、タバサEとタバサFによるステレオ。
果たしてそれは事実だった。
蜘蛛の巣さながら、キュルケの周囲に陣をなす氷の結界は、彼女の行動を完璧に封じ込めてしまった。
一歩でも迂闊に足を踏み出せば、身体のどこかが必ず結界に触れてしまう。
キュルケには、真正面からタバサとぶつかるしか選択肢が残されていなかった。
しかし、物量と破壊力の両面で、キュルケはタバサに圧倒的な差をつけられている。
正面から向かえば、どういう結果になるなんて、それこそ火を見るよりも明らかだ。
はめられたのだ、これ以上ないってほど完璧に。
……それでもキュルケは折れない。
普段通り、不敵な笑みを浮かべて杖を構える。
背中に突き刺さったままの氷刃が痛々しい。
その姿を見て、反撃の意思ありと六人のタバサは判断した。

五人のタバサが、一番大きな木のてっぺんに佇んでいるタバサに集う。
六人のタバサが重なり、その場には元の一人のタバサが立っていた。
杖を突き出す。
キュルケはこれから我が身に降りかかる事態に備え、
炎のバリアで身を包んだ。
後は野となれ山となれ、渾身の魔力を込めた防御であった。

「半径二十メイル……」
空気が凝縮し、凍り付く。
そして、その冷気は一挙に解放された。

「"ウィンディ・アイシクル"」
節くれだった杖を振り下ろすと、
術者の命令に応じて、氷の刃がキュルケめがけて一斉掃射された。

to be continued……

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