ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

DIOが使い魔!?-54

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匿名ユーザー

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怒りという攻撃的な感情は、恐怖という守備的な感情を容易く塗りつぶしてしまう。
ギーシュがこういう行動に出ることは百も承知だったのか、
ルイズはとっくに杖を構えていた。
呪文など、ギーシュのビチグソ発言と同時にほぼ終了させている。
今のギーシュは忘我状態であり、彼が操るワルキューレも動きが直線的だ。
これは最初から決闘などではなかった。
ルイズの憂さ晴らしという名の出来レースであった。
だが、ギーシュのワルキューレ達がその間合いに入る前に一陣の風が舞い上がり、
ワルキューレを吹き飛ばしてしまった。

「誰だッ!」
ギーシュは激昂してわめいた。
もう少しであの憎きビチグソを、こうしてああしてヘラヘラアヘアヘ……etc.
な所だったに! という具合だ。
ギーシュの喚き声に応じるように、朝靄の中から一人の長身の貴族が現れた。
立派な羽帽子に、立派な髭、それに精悍な顔つきをした若者だ。
その顔を見て、確かアンリエッタの行幸の供をしていた人物であると、
ルイズは思い出した。
思い出した途端、ルイズは驚きの声を上げた。

「ロードローラー……!!」
勿論、彼の名前はロードローラーなどでは断じてない。

彼の名はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
れっきとした人間であり、貴族であり、子爵であった。
ルイズは先日のショッキングな夢を、まだひきずっていた。

「貴様、神聖な決闘を冒涜するか!」
ギーシュはすっと薔薇の造花を掲げたが、ワルドはギーシュよりも素速い動作で杖を引き抜き、薔薇の造花を吹き飛ばした。
主の指示を伝える媒体を失い、二体のワルキューレは音もなく土に還った。

「水を差して申し訳ないと言いたいところだが、残念ながら貴族同士の決闘は禁じられている。
紳士ならば、そこの所をよく理解してくれ」
長身の貴族は帽子を取り、一礼した。

「女王陛下の魔法衛士隊が一つ、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。
姫殿下より、君達に同行することを命じられてね。
君達だけではやはり心もと無いらしい。
かといって、隠密の任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかない。
そこで、僕が指名されたってワケだ」
文句を言おうと口を開きかけたギーシュは、相手が悪いと知ってうなだれた。
魔法衛士隊は、全貴族の憧れである。
それはギーシュも例外ではなかった。

しかし、ルイズのした事はどうにも腹に据えかねるようで、
ギーシュは不満げな顔をしたままだ。
ワルドはそんなギーシュの様子を見て、首を横に振った。

「すまない。
婚約者が危険な目にあっているのを、見て見ぬ振りは出来なくてね」
それを聞いたギーシュは、有り得ないといった表情でルイズを見た。
あのルイズが! 魔法の使えない『ゼロ』が!
魔法衛士隊隊長と、婚約しているとは。
そういうところは、腐っても公爵家三女ということかと考えると、
ギーシュは何だかやり切れない思いだった。
その当のルイズはというと、俯いて何やらブツブツ呟いている。
目が虚ろだ。
冷静になって考えてみると、ルイズはやはり恐怖の対象以外の何者でもなかった。
しかし、ワルドはそんな事はお構いなしといった風にルイズに駆けより、
人懐っこい笑みを浮かべた。

「久しぶりだな、ルイズ!」
しかし、ワルドの呼びかけにも、ルイズはその顔を上げることはなかった。
俯いたままのルイズを、ワルドは恥ずかしがっているのだと思い、抱えあげた。
その時初めてルイズはワルドを見たが、その目はまだ光を取り戻してはいなかった。

「相変わらず軽いな君は! まるで羽のようだね!」

「……へ? あ、あぁ、そうですね。
テントウ虫はお天道様の虫です。
幸運を呼ぶんです」
支離滅裂な返答に、ワルドはようやくルイズの異変に気が付いた。

「ル、ルイズ?
僕のルイズ?」
ワルドはルイズの体を二、三度揺らした。
そのおかげか、いろんな意味で頭がコロネになりかけていたルイズが現実に舞い戻った。

「…………ハッ!?
ミ、ミスタ・ワルド!! いつのまに!?」
ルイズは、突如目の前に現れたワルドに目をぱちくりさせた。
ルイズがまともな反応を返してくれたことに、ワルドはひとまず安堵のため息をついたが、
やがて寂しそうな顔をした。

「ルイズ、随分と他人行儀じゃないか。
昔のようにワルドと呼んでくれないのかい?
悲しくなってしまうよ」
ルイズは取りあえず自分を下ろすようにワルドに目で訴えた。
ワルドはルイズを地面に下ろし、帽子を目深にかぶった。
ワルドの寂しそうな声を聞いても、ルイズは何故かワルドをワルドと呼ぶ気にはなれなかった。
それは、ルイズ自身にとっても不思議な感覚であった。

例え過去の人物であったとしても、ワルドはルイズにとって憧れの人であり、
ルイズはそんなワルドを信頼していた。
しかし……心の中の何かが、過去に囚われるなと言っているのだ。
あらゆるものに勝利し、あらゆるものを支配しろと声高に命令してくる。
その対象は、目の前のワルドですら例外ではない。
どうしてこんなことを考えているのだろうとルイズは思索しようとしたが、
そうしようとすると、決まって頭がボーっとしてくるのだった。
ルイズはとうとう、ワルドの願いを無視することにした。

「ミスタ・ワルド。
同行するものを紹介します。
使い魔のDIOと、ギーシュ・ド・グラモンです」
ルイズは交互に指さして紹介した。
シエスタをワザと除外していたルイズだが、シエスタは全く意に介していないようだった。
ルイズはまた少し苛ついた。
ルイズの冷たい態度に、ワルドは少し傷ついたような顔をしたが、
直ぐに真面目な顔つきになると、DIOに近寄った。

「君がルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったな」
礼儀正しく話しかけたつもりのワルドを、DIOは一瞥した。

最初こそしげしげと見つめていたDIOだったが、
やがて興味を失したのか、ふいと視線を逸らした。

「僕の婚約者がお世話になっているよ」
「全くだな」
DIOの皮肉に、ワルドは気まずそうな笑みを浮かべた。
その隣で、ルイズが鬼のような顔をしていた。
いつものように爆発するかと思いきや、ワルドが隣にいるからか、
ルイズは躊躇しているようだった。
DIOは、そんなルイズにつまらなさそうな顔をした。

大方の顔合わせが終わると、ワルドは口笛を吹いた。
すると、上空からグリフォンが現れ、一行の目の前に着地した。
鷲の頭と上半身に、獅子の下半身を持った幻獣であった。

「おいで、ルイズ」
ワルドはひらりとグリフォンに跨ると、ルイズに手招きした。
ルイズはDIOとシエスタを交互に見て、しばらく考える仕草を見せた。
やがて顔を上げ、ルイズはワルドに答えた。

「嬉しい申し出ですが、遠慮させていただきますわ。
もう馬も用意してしまったことですし」
誘いが空振りに終わってしまい、ワルドはますますもって寂しそうな顔をして、ガックリとうなだれた。
ルイズは構わず馬に跨った。
そして、対抗心丸出しの顔をシエスタに向けた。

だが、シエスタはやっぱり澄ました顔だ。
DIO以外のことなど、眼中にないようにも見える。
認められていない。これはルイズにとって我慢ならないものであった。
ルイズは、『ゼロ』と呼ばれてきたこともあり、他人から認められないということに対して強いコンプレックスを抱いていたのだ。
ましてや相手が平民ともなれば……何をか言わんやである。
(絶ッッッ対! ギャフンと言わせちゃるッ!!)
メラメラと目に炎を燃え上がらせるルイズを、
先程の不機嫌もどこへやら、DIOは如何にも楽しそうに眺めていた。

その内にワルドも気を取り直したようである。
用意も整い、さあいざ出発かという空気が流れたが、そこに思わぬ人物が現れた。
朝靄の向こうから、一人の女生徒が姿を現したのだ。
立派な金髪を縦ロールにしている、
見た目だけで気位が高いとわかる少女だった。
靄が濃いせいか、誰だかはっきりせず、ルイズは怪訝な表情を浮かべた。
小走りで一行に近づいてくる少女の正体にいち早く気が付いたギーシュが、
目を見開いて驚きの声を上げた。

「モ、モンモランシー……!」

ギーシュの言葉で、ルイズはようやく少女の正体が思い出せた。
『香水』のモンモランシー。
ギーシュの二股事件の被害者のうちの一人である。
最近立ち直ったと聞いたが、どうやら本当だったらしい。
そのモンモランシーがここに姿を現したということは……
ギーシュは彼女とよりを戻したということだろうかと、ルイズは推測した。
こんなモグラ好きのどこがそんなにいいのかねぇ、と思ったが、
ルイズには全く関係ないことだったのでどうでもよかった。

「あぁ、モンモランシー!
やっぱり僕の身を案じてくれているんだね!
でも心配しないでくれ!
つらい任務だけれど、君のその気持ちさえあればきっと乗り越えられるさ!」
パタパタと駆け寄ってくるモンモランシーに、ギーシュは有頂天だった。
今は太陽の明けきらぬ早朝であり、まだ少し肌寒い。
しかし、彼女は貴族の証であるマントを身につけておらず、
制服の上にストールを羽織っているだけだ。
息遣いも少し荒いようである。
その様子から、彼女がよほど慌てて来たのであろうことが窺えた。
感激の余り腕を広げて迎えるギーシュに、モンモランシーは駆け寄って………
……その横を通り過ぎた。

「……なんですと?」

想像していたのとは異なる展開に、
ギーシュは間の抜けた声を出しつつ振り返った。
そこには、馬に跨るDIOと、そんなDIOを不安げな顔で見上げるモンモランシーの姿があった。

「「な、何ですとォォオオオッッッ!?」」
何故か、ギーシュの叫びとルイズの叫びがシンクロした。
そのシンクロっぷりにお互いともがビックリして、
二人は顔を見合わせた。
そんな二人の驚きをよそに、モンモランシーは息を整えながらDIOを見つめた。
その瞳は、かつてない何かを秘めて熱く潤んでいた。

「あ、あの、窓の外を見たら、あなたがいるのが見えて……。
それで私、居ても立ってもいられなくなっちゃって、その……」
言葉に窮すモンモランシーを、DIOは馬上から静かに見下ろした。

「えと……どんな任務に行くかは、聞かないわ。
言えないものね。
私、あなたを困らせたくない。
でも……でもね、何日か会えなくなってしまうのでしょう?」

「そうだな。
正確な日数は分からないが、暫くはこの学院を離れることになる」
モンモランシーは今にも泣きそうな顔をした。
それを見たDIOは、懐を探って小さな何かを取り出すと、モンモランシーに放って寄越した。

慌ててモンモランシーが両手を差し出すと、それは彼女の両手の上にポトリと収まった。
それは鍵であった。
小さいながらも、金属製で、綺麗な装飾が施された物である。
恐らくは、というより十中八九ルイズの部屋の鍵だ。
それを悟ったルイズは、いつの間に合い鍵なんて作りやがったのだと、一瞬キレそうになったが……やめた。
なんというか、独り身の人間には入り込めない雰囲気が漂っているのだ。
これが……これがラブ臭か! と、ルイズは鼻を押さえて戦慄した。
どこかの妖精のように、くっさーー! と言いつつ割り込んでやりたかったが、
生憎とルイズは空気の読める女の子であった。
DIOの意図が分からず、鍵を受け取ったモンモランシーは数瞬それを見つめた後、
キョトンとした顔でDIOを見上げた。

「私がいない間の留守を任せていいな、モンモランシー?」
DIOの言葉の意味を知ると、モンモランシーの顔がパァッと輝いた。
手の上に光る鍵をそっと握りしめて、モンモランシーは大事そうに胸に抱いた。
DIOに信用されているという事実が、彼女の胸をより一層熱く高ぶらせるのであった。

「あ、あたりまえでしょう!
この私が留守を預かるからには、大船に乗ったつもりでいなさいよ!!」
素直に嬉しいと言えばいいのに、
モンモランシーは真っ赤になってそっぽをむいた。
モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。
生来の気位の高い性格がわざわいして、
彼女は肝心な時になかなか素直になれない子であった。
そんな二人のやりとりを無理矢理見せつけられているルイズは、
呆然として開いた口が塞がらなかった。
気分はもう、『何このラブコメ?』といった感じだ。
やはりワルドのグリフォンに乗らなくて正解だった。
DIOをとっちめられなくなってしまうではないか。
プルプルと身を震わせる一方で、ルイズはチラッと隣を見てみた。
ルイズの横では、目の前の現実についていけていないギーシュが
石像のように固まっていた。
復活した使い魔のヴェルダンデが、鼻を擦り寄せて慰めているが、
ギーシュは固まったまま動かなかった。
終わったわね、とルイズは誰にも聞こえないように呟いて、馬に跨った。
人間、罵られたり叩かれたりするうちが華であるとは誰が言った言葉であろうか。
何が辛いって……無視されることより辛いことはない。

モンモランシーは、ギーシュに一瞬たりとも視線をくれていなかった。
DIOだけを真っ直ぐに見つめている。
この事実が、ギーシュの心を滅多打ちにするのであった。
まぁ、浮気をしたのがケチのつき始めであろう。

「ミスタ・グラモン、出発でございます」
錯乱しているギーシュを見咎めて、シエスタが急かした。

「モ、モンモモンモモモモンモランシー……」
しかし、今のギーシュにそんな事が耳に入るはずもない。

「……出発でございます」
「もんもらんしいぃいい!!」

「出発でござ…………当て身!」
「もんもぐぶるぁっ!!」
シエスタのメガトンボディーブローが、ギーシュの鳩尾に炸裂した瞬間であった。
手加減はしているだろうが、その威力は折り紙付きだ。
それを見たルイズは顔をしかめて、Oh,my God……! と呟いた。
低いうめき声を残してあえなく気絶したギーシュを、
シエスタは軽々と肩に担いで馬に跨った。
ギーシュの馬も引いていってやるつもりのようだ。
それを確認して、DIOは手綱を握った。

「では、出発だな」
DIOの馬が駆け出すのを皮切りに、ルイズが後に続く。

その次をシエスタが進み、最後の最後でようやくグリフォンが駆け出した。
見る見るうちに一行の後ろ姿が遠のいてゆき、
やがて朝靄の向こうへ消えてしまった。

「……気をつけて」
一行の姿が見えなくなった後、
モンモランシーは胸の前で両手を組み、一行の旅の無事を心から祈った。
そんな彼女の手の中では、DIOから渡された鍵が小さく輝いていた。

to be continued……


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