ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

DIOが使い魔!?-52

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匿名ユーザー

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「……あなたは?」
ルイズが疑問の声をあげたが、
頭巾の少女は口元に人差し指を立てた。
静かにしろと言いたいらしい。
こんな夜更けに突然押し掛けてきて、
なんて図々しいとルイズは眉をひそめた。
挙げ句このルイズ・フランソワーズに命令をするとは。
心の底で徐々に敵意を抱き始めているルイズをよそに、
真っ黒な頭巾の少女は、同じく真っ黒なマントの隙間から、
杖を取り出した。
―――それをルイズが見逃すはずがない。
敵意が一足飛びで殺意に変わったルイズの行動は迅速だった。
頭巾の少女がルーンを呟こうとする前に、
ルイズは少女の口元を押さえた。
反射的に悲鳴を上げようとした少女だったが、
それは苦痛の喘ぎ声に取って代わられた。
杖を持つ少女の手首が、ルイズによって鷲掴みにされたのだ。
ギリギリと万力のような力で締め付けられて、
少女は杖を取り落とした。
それを遠くの方へ足で蹴り飛ばし、
ルイズは少女の足を払う。
壮絶な足払いが炸裂し、少女の体がルイズの部屋へと転がり込んだ。
後ろ手でドアを閉めるや否や、
ルイズは少女に踊り掛かり馬乗りになった。

これで抵抗らしい抵抗もできまい。
相手の生死を手中に収めたことを知り、ルイズは凶悪な笑みを抑えられなかった。
最近微妙に伸び始めた八重歯をチラつかせ、
ルイズは杖を取り出して頭巾の少女に突きつけた。

「私を消そうなんていい度胸だわね。
どこの手のものかしら?
ゲルマニア?
ガリア?
それともトリステインの低級貴族?」
杖で少女の頬をグリグリしながら、ルイズは歌うように尋問をした。
少女は小さくひっ……
と悲鳴を上げた。
暗殺者のくせに、まるで生娘みたいな声を出す奴だと、ルイズは思った。
「ほら、キリキリ吐きなさい。
言わなきゃ三秒ごとにあんたの体を少しづつ吹き飛ばすわ。
……まずはその綺麗な指からね」
少女の指に狙いを定め、ルイズは杖を振りあげた。
残虐な興奮で埋め尽くされ、
ノックの合図のことなどすっかり忘れているようである。

「ひと~つ……ふた~つ……
…………みっ」
「ル……ルイズ?
あなたルイズでしょう?」
ようやっと自分の置かれた状況を理解できたのか、
少女はルイズの名を呼んだ。
少女の鈴を転がしたような声に覚えがあるのか、
タイムリミット寸前でルイズの体がピタリと止まった。

振り下ろしかけた杖をそのままに、ルイズは恐る恐る少女の頭巾を取った。
何と、頭巾の下から現れたのは昼間顔を見たばかりの、
アンリエッタ王女であった。
すらりとした気品のある顔立ち。
きらきらと輝く栗色の髪。
ハルケギニアの一輪の華とまで呼ばれる美貌の持ち主であるが、
その美貌を引き立たせるはずの彼女のブルーの瞳は、
今は死の恐怖と不安で揺れている。
ルイズはうっと息をのんだ。
ひょっとして自分はかな~りマズいことをしてしまったのではなかろうか?

(いか~~んッ!!
ドジこいたぁぁあああ!!!)
言い知れぬ後悔の念に苛まれながら、
ルイズは王女から飛びのいて慌てて膝をついた。
「ひ、姫殿下!!」
アンリエッタはヨロヨロと立ち上がり、
スカートに付いた埃を払って下手な作り笑いをした。

「お久しぶりね。
ルイズ・フランソワーズ……」
気品たっぷりの立ち振る舞いだったが、彼女の声は未だに震えていた。
それからのルイズはただもうひたすらの平謝りだった。
膝をついては謝り、廊下に蹴り転がした王女の杖を拾ってきては謝り……。

マシンガンのように次から次へと飛び出す謝罪の言葉に、
謝られることに慣れているはずのアンリエッタすらたじろいだほどだった。
突然杖を取り出した自分も悪かったのだと、アンリエッタは不問に付した。
改めて『ディティクト・マジック』をかけて、部屋を調べた後、
アンリエッタは感極まった表情を浮かべてルイズを抱きしめた。

「ああ、ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」
「……恐れながら姫殿下、なぜこのような所へ」ルイズは畏まった声で言った。
DIOは、王女に乱暴狼藉を働くルイズの一部始終をソファーに腰掛けて見学し、
一連の騒動が終わった後は、興味がないといった感じでワインを楽しみ始めていたが……
どこかつまらなさそうな空気を纏っていた。

「そんな堅苦しくならないで頂戴!
わたくしたち、お友達じゃあないの!」
アンリエッタの顔が、ノスタルジーに綻んだ。

「幼い頃、ふわふわのクリーム菓子を取り合って、
よくケンカをしたものだわ!」
過去の自分のお転婆ぶりを思い出しルイズは赤面した。

「あなたは小さい頃からナイフ投げが上手だったわね!
けれど、いつだったかラ・ヴァリエールの領地の森で狩猟ごっこをした時に、
野兎をしとめようとして……!」
「はい。
手元が狂って、侍従のラ・ポルト様を危うく殺しかけました」
実際は手元が狂ったのではなく、故意に狙ったものであったのだが……
知らぬが華よ、とルイズは開き直った。
ラ・ポルトは幼いルイズにとっては本当に憎たらしい侍従だったのである。
暗殺は失敗したものの、その事件から間もなくして、
ラ・ポルトは幼いルイズの謀略によって宮中を去ることとなったのだが、
それはともかく。

「あぁ、ルイズ。
あの頃は毎日が楽しかったわ。
何にも悩みなんかなくって……」
深い、憂いを含んだ声であった。

「あなたが羨ましいわ。
自由って素敵ね、ルイズ・フランソワーズ」
やれやれ隣の芝生が青く見える年頃か、
とルイズは内心ため息をついた。

「なにをおっしゃいます。
あなたは姫君にございましょう」
「王国に生まれた姫なんて、籠に飼われた鳥も同然よ、ルイズ……」
アンリエッタは、窓の外の月を眺めて、寂しそうに言った。
それからルイズの手を取り、ニコリと笑った。

「結婚、するのよ。
わたくし」
「それは、おめでとうございます。
して、お相手は?」
アンリエッタは再びため息をついた。
話が見えてきた。
ようするに、意中の相手と結婚できない愚痴を言いに来たのだ、
このお姫様は。
まぁ、宮中でも外でも常に人目にさらされて、
愚痴の一つも言えない状況なのは分かる。
しかし、人の視線をその身に受けるのは王者の義務である。
次期女王のアンリエッタがそれに耐えられないようでは、
トリステインの未来は明るいとは言えない。
謀反が起きるか、他国に占領されてしまうくらいなら、
いっそ乗っ取ってやろうかしらと、ルイズは一瞬思った。
だが、愚痴を言うためだけにワザワザこんな夜更けにやってくるだろうか。
ルイズは少し身構えた。
「わたくしが嫁ぐことになったのは、ゲルマニアの皇帝なのです……」
「ゲルマニアですって!」
キュルケつながりでゲルマニアが嫌いなルイズは、
悲鳴にも似た声を上げた。
よりにもよってあんな野蛮な国に。

「でも、しかたがないの。
同盟を結ぶ為なのですから」
アンリエッタはハルケギニアの政治情勢をルイズに説明した。

アルビオンの貴族たちが反乱を起こし、今にも王室が倒れそうなこと。
反乱軍が勝利を収めれば、次にトリステインに攻めてくるであろうこと。
それに対抗するため、トリステインは先手を打って
ゲルマニアと同盟を結ぶことになったこと。
今までの鬱憤を吐き出すように、
アンリエッタはまくし立てた。
「そうでありましたか」
まぁ、内憂も払えない王家に存在価値なんてないわねと、
ルイズはぼんやり思った。
話に一区切りついたのか、アンリエッタはルイズの部屋を見回した。
目に映る色鮮やかな絵画の数々や、
はっと息をのむような装飾品や彫刻。
その豪華さに、アンリエッタは感嘆の声を上げた。
「まぁ、ルイズ・フランソワーズ!
いつの間にこんなにたくさんの素晴らしいものを集めたのかしら!
まるで絵本の中の王様の部屋のようだわ」
ルイズは思わずむせかえってしまった。
失態である。
まさか姫君がお忍びで訪問あそばされるなどとは夢にも思わぬ故。
隠す暇など到底ござらぬ。
見よ、部屋に飾られたる豪華美麗を極める美術品の数々。
元に納められたるは他でもない、
トリステイン魔法学院宝物庫である。
トリステイン王族が時折査察に入る場所なれば。

如何に暗愚なアンリエッタとはいえやはり王族。
これだけあればそのうちの一つや二つ、見覚えがあるに相違ない。
ルイズの頬につつーッと汗が伝った。
そしてルイズの懸念は現実のものとなりつつあった。

「……あら?
あちらに飾られている女性の肖像画は
………どこかで見覚えが」
といって、アンリエッタは一枚の絵を指差した。
帽子を被り、椅子に座った女性の絵である。
白い帽子とドレスの質感描写や、深青と紅の背景という構成が、
見るものを淡い美の世界へと誘う。
このような絵は、トリステインはおろかハルケギニアでは見られないものであった。
だからこそアンリエッタの記憶にも刻まれていたのだろう。
『帽子の女』……そういうタイトルだと、ルイズはDIOから教えられていた。

「あ、あれは!
えと、あぅ、私の姉の親戚の妹の友人の叔母の……その…娘の知り合いの肖像画ですわ!」
しどろもどろで、ルイズはあらぬことを並べ立てた。
顔に浮かべた誤魔化しの笑みが痛々しい。
幸いにして今夜は月明かりが弱い。
絵をしっかりと確認するには、部屋は暗すぎたのだった。

「あら、そう?
どこかで見た絵に似ていた気がしたのたけれど。
ごめんなさい、勘違いだったわ」
ルイズはほぅっと安堵のため息をついた。
暫く興味深そうにルイズの部屋の美術品を鑑賞したアンリエッタは、
やがてソファーの上でワインを飲んでいるDIOに目を留めた。
そこで初めて、DIOはアンリエッタを見た。
碧と紅、二つの視線が濃厚に交わり、アンリエッタは頬を赤らめた。

「あ、あらルイズ、ごめんなさい。
お邪魔だったみたいね、わたくしったら」
「お邪魔? どうして?」
「そちらにいらっしゃる素敵な紳士様、あなたの恋人なのでしょう?
羨ましいわ、いつの間にこんな美しい殿方と
恋仲になったの、ルイズ」
恋人と言われて、ルイズの思考が
『硬質』の魔法をかけられたように停止した。
アンリエッタは、ほんのり上気した頬に両手を添えチラチラとDIOに視線をやっている。
ルイズが固まっている間に、アンリエッタはDIOに歩み寄り、
親愛のこもった礼をした。

「いずれ名のある貴顕紳士と伺います。
宜しければ、名をお聞かせください」
DIOはソファーに横たわったままだというのに、
アンリエッタがその無礼を意に介した様子は全くない。

否定するタイミングを逸してしまったルイズだったが、
意を決してアンリエッタに申し立てた。

「あの、それ、私の使い魔なんですけど……」
言われて、アンリエッタはきょとんとした。
ルイズとDIOを、交互に見る。
ルイズに『それ』呼ばわりされて、DIOは肩をすくめた。

「人にしか見えませんが……」
「人と申しましょうか、何と申しましょうか……。
とにかく私のこ、恋人などではありません!」
顔を真っ赤にしてまくし立てるルイズに、
アンリエッタはどこか納得したような顔をした。

「そうよね、ルイズ・フランソワーズ。
あなたって、昔から何処か変わっていたけれど、
相変わらずね」
アンリエッタの天然な発言に対して、
ルイズは最大限の作り笑いを返した。
頬の筋肉がピグピグしたが、最大限の努力をしたつもりだ。
必死に笑おうとして、傍から見たらワザと変な顔をしているようにしか
思えない顔つきになっているルイズ。
しかし、アンリエッタはため息をつくだけであった。
あー、こりゃ何か尋ねろという合図か、
とルイズは遅まきながら察した。

「一体どうしたのです、姫様。
御様子が尋常ではありませんが……」

ルイズの問い掛けがきっかけとなったのか、アンリエッタは決心したように頷いた。

「先程も話しました通り、アルビオン王室はもはや有名無実。
礼儀知らずのアルビオンの貴族たちは、
トリステインとゲルマニアの同盟を望んでいません」
どうも雲行きが怪しくなってきたぞと、ルイズは感じ始めた。

「……彼らは、わたくしの婚姻を妨げるための材料を血眼になって探しています」
まさかそんなものあるはずがない、とルイズはたかをくくっていたかったが、
どうもアンリエッタの様子はおかしい。
……あるのか?あるのか、ひょっとして?
ルイズはごくっと唾をのんだ。

「……もしかして、姫様の婚姻を妨げるための材料が?」
アンリエッタは悲しそうに頷き、顔を両手で覆うと床に崩れ落ちた。
崩れ落ちたいのはこっちの方だと、ルイズは思った。

「……わたくしが以前したためた一通の手紙なのです」
両手で顔を覆ったまま、アンリエッタは苦しそうに呟いた。

「もしそれがアルビオンの貴族たちの手に渡ったら……あぁ!
ゲルマニアとの同盟は反故になり、
トリステインは一国にてあのアルビオンと戦わねばならぬでしょう!」

そこまで大事になるような手紙の内容に、ルイズは非常に興味を抱いた。
ゲルマニア皇帝の悪口でも書き連ねているのだろうか。
寝小便たれ、とか。
どうせ聞いたって教えてくれそうな雰囲気ではなかったので、
ルイズは内容を聞くのはあきらめた。

「その手紙は、アルビオンのウェールズ皇太子さまの手元にあるのです。
反乱軍と骨肉の争いを繰り広げている、
王家の皇太子さまの手に……」
ルイズはとうとう話の全てを理解した。
だから姫様はワザワザこんな夜更けにやってきたのだ。
密命を下すために。

「私にそれをトリステインへ奪還せよ……
そうおっしゃるのですね」
言い終わった途端に、アンリエッタは狼狽えだした。

「あぁ、わたくしったら、何て事でしょう!
友人を戦乱最中のアルビオンに送り込むなんて!
危険だわ! 忘れて頂戴!」
この王女はワザと言っているのではないかと、ルイズはチラッと考えて、それを否定した。
何て事はない、アンリエッタは天然なのだ。
自覚なしに人を巻き込む才能を持っている。
幼い頃の付き合いで、ルイズはそれをよく理解していた。
その点で、ルイズはアンリエッタの全き理解者と言えた。

理解しただけで、慣れることはなかったが。
いずれにせよ、二人は『まだ』王家とその家臣の関係。
王家直々の密命を断るなど、ルイズにはできなかった。

「いえ、やります、やらせていただきますともひめさま」
ルイズはもはや諦めていた。
セリフを漢字に変換することすら億劫だった。
ルイズの憂鬱を知らず、アンリエッタは感激の声を上げた。

「このわたくしの力になってくれるというの?
ルイズ・フランソワーズ!
懐かしいお友達!」

「いちめいにかけても。
いそぎのにんむなのですか?」
「アルビオンの貴族たちは、王党派を国の隅まで追い詰めていると聞き及びます。
敗北も時間の問題でしょう」
―――その時、部屋の外で微かな物音がしたのを、
ルイズは聞き逃さなかった。
さっきまでの呆け顔を一転させ、ルイズは取り敢えずアンリエッタに一礼した。

「早速明日の朝にでも、ここを出発いたします。
……唐突ですが姫様、お目汚し失礼仕ります」
アンリエッタの返答を聞く前に、
ルイズは音もなくドアに歩み寄った。
ドアに耳をそっと当てて、外の様子をうかがい、
ルイズはドアを勢いよく開けた。

すると、金髪の少年が驚きの声を上げながら
部屋に転がり込んできた。
すってんころりん、いっそ清々しいほどである。
果たしてそれは、『青銅』のギーシュ・ド・グラモンであった。
こっそり部屋の様子を覗いていたのだ。
無様に床に転がる彼の前に立ち、
ルイズは腰に手を当てて、ギーシュを見下ろす。
ギーシュのひきつった笑い声を背景に、
ルイズはペロリと舌なめずりをした。

to be continued……


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