ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-20

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匿名ユーザー

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 東の向こうから昇ってくる朝日が、夜の闇を鮮やかに消し去っていく。
 まだ夜の名残を残す冷たい風の中を、追跡隊四人とフーケを乗せたシルフィードは気持ちよさそうに飛んでいる。
 フーケは口の中に布切れを詰め込まれた上で猿轡を噛まされ、後ろに回された両手は波紋を流された彼女自身の髪で親指同士をガッチリ結ばれてた上でロープを巻かれている。足首も同じく波紋の髪とロープで拘束されているが、しばらくは意識を取り戻す気配すらない。
 残りの四人も、夜を徹しての追跡行と先程までの戦闘が終わったという気の緩みで例外なく生欠伸を噛み殺しつつも、学院への帰還の途に着いていた。
「あ~~~~~……どうもあれじゃの、年寄りには徹夜が一番堪えるわい」
 この戦いで大量の波紋を消費したジョセフは、襲い来る眠気に苛まれながら横にいるルイズとキュルケに目をやった。
 今はジョセフを中心にして左にルイズ、右にキュルケという形で座っている。タバサは一人前に座ってシルフィードを操っている。三人と一人の中央にフーケを転がしているという状態だ。
「それにしても……ルイズの爆発があんなにすごいだなんてわかんなかったわ。それもダーリンのアシストがあったからだけど」
 ルイズを誉めてるのかバカにしてるのか判らない様な物言いにも、ルイズはまだ夢でも見ているような表情でこくりと頷いた。
「あれ……本当に、私がやったのよね」
 もう何度目になるかも判らない呟きに、ジョセフは苦笑しながら頭を撫でてやった。
「ああ、大丈夫じゃ。お前があのゴーレムをブッちめたんじゃぞ、ルイズよ」
 あまりにも信じられない出来事に、まだ現実を現実と認識し切れていないようだった。
 それもしょうがないと言えばしょうがないことではある。

 常日頃から『ゼロ』だの『無能』だの言われ続けてきた彼女が、ジョセフやキュルケやタバサでさえ決定打を与えることの出来なかったフーケのゴーレムを撃破したのだ。
 それは正確には系統魔法での破壊ではないし、学院の生徒達に言っても信じる者はいないと確信できるほど突飛な結果ではある。
 だが、ルイズには十分すぎる結果だった。三人のアシストを受けたとは言え、失敗魔法とは言え、ハルキゲニアの貴族達を翻弄した土くれのフーケを捕らえることが出来た。彼女にとっては世界を揺るがすほどの大戦果である。
 しかし。
 ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは、それを素直に喜べるほど間抜けでも恥知らずでもない。喜びに浸る前に、どうしても心に引っ掛かる小さな棘を意識せずにはいられないのだ。
 確かにフーケは捕まえられた。でも、あそこで。ジョセフとキュルケの邪魔をしていなければ、もっと簡単にフーケを捕まえられていたはず、という事実は、少女の胸を締め付ける。
 ここでそんなことに触れないで、何事もなかったかのように喜びに浸ることは出来ない。
 ルイズはしばらくの間、落ち着きなさげに三人の仲間達に視線をめぐらせてから、意を決しておずおずと口を開いた。
「その……ええと、あの……みんな……ごめんなさい。本当は、私が邪魔しなかったら、もっと簡単にフーケを捕まえられてたと思う……」
 やっとの思いで呟いた謝罪の言葉の後、自分がどうにも足手まといだったのではないか、という思いがより深く少女の顔を伏せさせる。
「みんなが喜んでくれるのは、嬉しい……けど、でも……」
 再びジョセフにキスされて舌入れられそうな言葉を言おうとしたルイズの言葉を遮ったのは、ジョセフではなかった。
「こーらルイズー? そういうのは言いっこなしだって言ったでしょ?」

 ルイズの前にやってきたキュルケが、彼女の頭を抱き寄せて自分の胸に埋めさせたのだ。
「むー!? な、ちょ!」
 大平原と高山の違いを見せひらかされたルイズのテンションは、すぐさま怒りに転じた。
 だがキュルケは、普段のようにルイズをからかう口調ではなく。まるで子供に優しい言葉を掛ける母のように、微笑を浮かべながら言葉を紡いでいく。
「私は気にしてないし、ダーリンやタバサだって気にしてないわよ。結果的に言えば、あたしとジョセフだけで捕まえるよりも、ルイズが……ううん、みんなであのゴーレムをやっつけた方がきっと一番よかったと思ってるわ。
 確かに大変だったけど、得た物だって沢山あったじゃない? ほら例えばルイズとダーリンの見ててこっぱずかしい愛の告白とかすっごいベーゼとか」
 下から飛んできたアッパーを、キュルケは余裕のスウェーバックで避けた。
「あっ……あんた……!」
 先程までのしおらしい空気は何処へやら、普段通りの睨みつける表情…ただし顔の赤みは特注品で、キュルケに怒りを向けた。
 しかしキュルケはなおも楽しげに笑うと、ルイズを再び褐色の谷間に埋めた。
「終わりよければ全てよしって言うじゃない? あんたとダーリンの信頼関係も築けたし、私達の間だって十分すぎるほど築けたわ。他の誰かさんが今夜の出来事を全部信じるとは思えないけれど、私達はそれを目の当たりにして、フーケを捕らえたのよ。
 私達の間じゃ、あんたは『ゼロ』のルイズじゃなくなったってコト。それはきっと何物にも得難い宝物なんじゃないかしら。そうは思わない?」
 よしよし、と子供をあやすようにルイズの桃色の髪を指で梳くキュルケ。
 ルイズはなおもじたばたしていたが、横目で見ていたジョセフは(うっわわしも埋められてぇー)と思うと同時に、えらく堂に入った慰め方じゃのうと感心もしていた。

 ただ単に男好きな少女なだけではないのと、ルイズを優しく見守っているその姿勢。ジョセフの中でキュルケの評価が大幅に上方修正されていた。
「それに」
 不意にタバサが後ろを振り向き、口を開く。
 何事かと思わず注目する三組の視線にも頓着せず、彼女は淡々と言葉を続ける。
「それを言うなら私達も貴方達に謝罪しなければならないことがある」
 頭にクエスチョンマークを浮かべる三人に、ぽそりと呟いた。
「実は武器屋でハーミットパープルを使うのを覗き見したのを黙っていた。ごめんなさい」
 事実だけを述べて深々と頭を下げたタバサを見て大慌てするキュルケ。
「え、ちょ、タバサ!?」
 鳩が豆鉄砲食らった顔をしているルイズとジョセフを交互に見た後、キュルケも意を決して勢い良く頭を下げた。
「えっと、あの、ごめんっ! 実はルイズとダーリンがどこかに出かけるのを見つけたから、タバサに頼んで尾行してたんだけど……あの、タバサは悪くないの! 私が嫌がるタバサを無理矢理連れてってたから、タバサは巻き込まれたというか不可抗力と言うか……!」
 二人の言葉に「OH MY GOD」と心の声が聞こえるくらい天を仰いだジョセフ。
(おいおいおいおい、それはねえと言うか何と言うか! 読心能力まで見られてたとか! まあ親父脅したのはともかくとして……なんかわしが二人を信用しきってないから読心使わなかったとか思われてたりせんじゃろな!?)
 今の段階では、赤の他人の心を読むには本人自身か、極めて本人に近い物体を媒介として用意しなければならない。フーケの残した土くれでは念写は出来るが読心は出来ないため、特に使わなかったのだが。
 ジョセフは皺の寄り切った眉間に当てていた指を離すと、大きく頷いた。

 そして右手からハーミットパープルを伸ばすと、自分の喉に緩く絡みつかせてから、三人の耳元に茨の先端を這わせ、押し付けた。さっきも使った骨伝導である。
 もしかしたらフーケに聞かれるかもしれない、という用心の為でもあるが、より「内緒話」感を強くするのも念頭に入れている。
「よし! もうハーミットパープルについちゃわしらだけの秘密にしよう! 今ハーミットパープルを知ってるのはわしらとオスマン学院長くらいじゃしな! で! 読心能力はこの身内には決して使わない!
 自分の心の中を覗かれて平気でいられる人間はおらんしの! プライバシーの侵害になっちまうからのッ!」
 心の中に隠していることを全て知られる、というのは随分と恐ろしい事である。三人は想像の範囲内ながらも、もし自分の心が人に知れたら……と考えて、その恐ろしさに身の毛がよだった。
 こくこくこく、と一も二もなく頷く三人。
「どーやらスタンドどころか波紋もあまり見せちゃいかんようだったが、もう波紋であれやこれややっちまったからそれはしゃーないッ。ただハーミットパープルのことは他言無用っつーことでな。オーケー?」
 全員でこくりと頷いた。
「よし。んじゃそーゆーことでヒトツ。ルイズもキュルケもタバサもそれぞれきちんとゴメンナサイしたことじゃし、これで水に流しちまおう。なッ?」
 これで一件落着……となるはずだった。が。
「うふふふふ……それで終わりだとか思ってるワケじゃないわーよーねー、ジョーセーフ?」
 まだ終わっていない人がいた。
 我らが『ゼロ』のルイズである。

「フラチにもご、ご主人様にッ……あああ、あんな、きききキス、するだなんてッ……!」
 乙女にとってキスとは神聖不可侵な問題である。
 ファーストキスはまだしょうがないとしよう。しょうがないのだ。
 だが、あのキスは。セカンドキスを奪われた上に。
「しっ……ししし、舌まで入れるだなんてッ……!!」
 ゴゴゴゴゴ、と特徴的な書き文字をバックに肩を震わせるルイズ。
 ジョセフの卓越した危機感知能力は、命の危険を判別したッ!
「……ま、待てルイズッ! ここはヤバいッ! 落ちたら死ぬからッ! な! 落ち着けッ! むしろ落ち着いて下さいッ!」
 全身全霊で命乞いをするジョセフに、ルイズはゆらりと杖を振り上げた。

(何が一番許せないって――!!)

 キュルケも死ぬ気でルイズを羽交い絞めにするも、ルイズの詠唱は止まらない!

(ちょっと気持ちよかったのが、一番ムカついたッッッ!!!)

「ハ、ハーミットパープルッ!!!」
「帰ってから! 帰ってからになさい! ね!?」
「ムゴゴッ! ムゴ、ムゴーーーッッ!!!(離しなさいよ! 離しなさいってば!!!)」
 後ろで巻き起こる大騒ぎから、前に視線を戻したタバサの唇には。
 小さいけれど、確かな微笑みが浮かんでいた。


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