ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ラ・ロシェールにて-1

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
ギーシュ・ド・グラモンは敵の攻撃から身を隠しながら考えていた。
どうやってモンモランシーと仲直りできるかを必死に考えていた。浮気がばれて以来モンモランシーが口をまともに利いてくれないのだ。
しかし命の危険が間近に迫っているのになぜこんなことを考えるのか?
勿論現実逃避だ。
ヨシカゲやルイズには強気なことを言った怖いものは怖いのだ。この場で冷静に振舞えたのも現実を受け止めずにいたからに過ぎない。
わかってはいるのだ。現実逃避していてはだめだと。わかっているのだがやはり怖い。
キュルケやタバサを見ると二人とも慌てた様子もなく怯えた様子もない。むしろこれぐらいがどうしたという感じがする。
二人を見ていると突然キュルケがこちらを見る。
「ギーシュ、あなたよく冷静でいられるわね。てっきり見栄張って無茶するか怯えてビクビクするかどっちかだと思ってたんだけど」
「普段ぼくをどんな風にみてるんだい……」
図星を突かれ少し動揺する。そしてそんなに頼りなく見られていたのかと思うと悲しくなる。しょうがないじゃないか、怖いものは怖いんだ!
しかしふと思い出す。
(命を惜しむな、名を惜しめ)
父の言葉だ。
そうだ、今自分が怖がってどうするんだ。死ぬのを怖がってどうする!それに女の子に守ってもらうなんて情けなさ過ぎるじゃないか!
普通男が女を守るものだろう!
そうだ、まさに今この状況こそが父の言葉を、ぼくのプライドを見せ付けるときじゃないか!
「いいかい、ぼくはグラモン元帥の息子だぞ。卑しき傭兵ごときにどうして怯えなくちゃいけないんだい?」
本当は物凄く怖いに決まってる。でも今こそ父上の言葉を受け止め真の男になるんだ!ギーシュはそう思った。
「ふ~ん、案外根性あるじゃない。少し見直したわ。」
「女の子を守るのは男の役目だからね」
「期待しとくわ」
ギーシュの言葉にキュルケが笑いながら返す。そしてキュルケは杖を指で回転させ握りなおす。
「じゃあおっぱじめますわよ」
キュルケの眼が輝く。戦場だというのにまるで『これから舞台が始まるぞ』って感じな眼だ。
「ねえギーシュ、厨房に油の入った鍋があるでしょ」
「揚げ物の鍋のことかい?」
「そうよ。それをあなたのゴーレムで取ってきてちょうだい」
「お安い御用だ」
どうやらキュルケのあたまの中には既に打開策が出来ているらしかった。
それを信用しギーシュはワルキューレを作り出す。そしてワルキューレを厨房まで走らせる。
青銅は美しい金属光沢を持つが結構やわらかい。錫の含有量によって硬度を変えれるが、ギーシュは勿論この世界にそこまで理解できているものはいない。
硬い青銅が作れる者は長年の経験と勘によるものだろう。
そしてギーシュは『青銅』の二つ名を持つがまだそこまで硬い青銅は作れない。敵の矢はきっとワルキューレに刺さるだろう。
何本かなら別に問題は無い。しかし沢山刺されば厨房に着く前にボロボロにされてしまう可能性がある。ボロボロにされてしまってはゴーレムとしてまともに使えない。
それを考慮して低い姿勢を保たせつつ厨房に行かせる。
たしかに硬い青銅は作れないが『青銅』の二つ名は伊達じゃない。自分の青銅の性質を理解はちゃんとしている。用心のし過ぎに越したことは無いのだ。
それが功をそうしたのか矢は1本しか当たらなかった。そして厨房にあった油の鍋をつかませる。
「それを、入り口に向かって投げて?」
キュルケが手鏡を覗き込んで、化粧を直しながら呟く。
「舞台でも始める気かい?」
それを見て呆れたように口に出すが、言われたとおりワルキューレを操り鍋を入り口に向かって投げさせる。
それを見たはキュルケが堂々とした振る舞いで立ち上がる。
「その通り、歌劇の始まりよ。主演女優がすっぴんじゃ……」
油を撒き散らしながら飛ぶ鍋に向かって杖を振るう。
「しまらないでしょ!」
キュルケの魔法によって鍋の中の油が引火する。そして入り口のあたりに炎を撒き散らした。
傭兵たちが炎にたじろぎどよめく。
キュルケは立ち上がったまま過剰なほど大仰な身振りで呪文を詠唱し始める。彼女が言ったとおりまるで歌劇のように。
そして杖を振るうと炎はさらに勢いを増し傭兵たちに燃え移った。
キュルケはその様子を見ながら髪をかきあげる。まだ敵は沢山いるのだ。そんなことをすればまるで敵に矢を射ってくださいと言っているようなものだ。
だというのにキュルケはそんなことは意に介さず杖を掲げる。
当然のように何本もの矢がキュルケに迫る。しかしそれらはすべてタバサの風の魔法によって狙いを逸らされキュルケにあたることはない。
タバサの顔には何も浮かんではいないがこうやって当然といった感じがするし、キュルケもこうなって当然といった顔をしていた。
事前に打ち合わせしていたわけではない。ただお互いがして欲しいことがわかっただけである。
ギーシュはそれを理解したときに思った。
(羨ましい)
ただそう思った、理由はよくわからないがそう思った。
「名もなき傭兵の皆様がた。あなたがたがどうして、あたしたちを襲うのか、まったくこちとら存じませんけども」
降りしきる矢嵐の中キュルケは朗々と台詞を歌い上げ場違いな微笑を浮かべて一礼する。
「この『微熱』のキュルケ、謹んでお相手つかまつりますわ」
舞台の幕が上がった。


使い魔は今すぐ逃げ出したい外伝 『ラ・ロシェールにて』

登場人物

『微熱』のキュルケ(キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー)
火の系統の魔法を得意とするトライアングルメイジ

『雪風』のタバサ(シャルロット・エレーヌ・オルレアン)
風系統のトライアングルメイジであり、「風」に「水」を足し合わせた氷雪系の魔法が得意

『青銅』のギーシュ(ギーシュ・ド・グラモン)
いつもバラの造花を口に咥えているキザな男

『土くれ』のフーケ(マチルダ・オブ・サウスゴータ)
トリステインを初め各国の貴族に知られるメイジの盗賊

『傭兵部隊』A(そこらへんで雇われた傭兵部隊)
やられ役

『傭兵部隊』B(そこらへんで雇われた傭兵部隊)
やられ役

『傭兵部隊』C(そこらへんで雇われた傭兵部隊)
やられ役



圧勝だった。キュルケとタバサが炎を操り傭兵たちを退けたのだ。キュルケは炎をさらに激しくし、タバサはそれを風によって遠くの敵まで運ぶ。見事な連係プレーだった。
しかしやり過ぎたのかあちこちに火が燃え移りもはや何もしなくても火の勢いは増していった。
「おっほっほ!おほ!おっほっほっほ!」
そんな中キュルケの笑い声がこだまする。
「見た?わかった?あたしの炎の威力を!火傷じゃすまなくてよ!あっはっはっはっは!」
そんなキュルケに1本矢が飛来する。まだ諦めていない傭兵がいるようだ。
しかしその矢をギーシュのワルキューレが弾く。ギーシュには特にやることが無かったのでこういったことしか出来ないでいた。
(父上、ぼくは真の男にはなれませんでした)
さっき胸の奥で誓った決意は結局叶わずキュルケとタバサは余裕で傭兵たちを撃退してしまった。しかも自分には出来ない圧倒的な力で……守られたのだ。
それは決意をしたギーシュにとって落ち込むに足る理由だった。しかし死なずにすんだという喜びもあった。やはり死ぬのは怖い。
またモンモランシーに会えると思うと落ち込んでいた気持ちも喜びで浮上する。
「でも歯ごたえが無いわね。さっき崩れたゴーレムが残ってたらまだちゃんとした勝負になっ……て……」
ノリノリで喋っていたキュルケはギーシュの後ろを向くと突如言葉が止まる。しかも顔は呆けた表情で固まっている。
タバサもギーシュの後ろを見たまま視線を動かさない。どうしたのだろうか?
「どうしたんだい?」
後ろを皆と同じ方向に視線を向けるとそこには巨大なゴーレムが出来始めていた。
「……キュルケ、最近モンモランシーが口を聞いてくれなくてね。どうやったら仲直りできるかな?」
「……浮気するから悪いんじゃない?」
ギーシュは現実逃避を再開した。


フーケは目を覚ますと胸と腹、そして右頬に激痛を感じた。自分はどうなっているのだろうか?
頭のめぐりが悪い。どうしたというんだ?周りに目を向けると炎が吹き荒れ傭兵たちが逃げ惑っているのが見える。
なんと頼りにならない連中だろうか。その程度の炎が何だというのか。
体を起こそうとする。しかし痛みで思うように動けない。どうしてこんなに痛いんだ?息をするだけで胸が痛い。口の中は血の味がする。
それでも構わず起き上がろうとする。きっと何かの勘違いだろう。
もしかしたら寝ぼけているのかもしれない。そう思いながら必死で起きようとする。すると目の前に水溜りが見えた。
炎に輝いて周りの景色が映っている。しかし水溜りにしてはどうも色が変だ。
そこによく見ようと顔を近づけると自分の顔が映る。そこに映った自分の顔ではなかった。鏡を見て左頬、つまり右頬がなく歯がむき出しになっている顔が映っている。
「ヒッ!?」
誰だこれは!?思わず胸に手を当てるとねちゃっとした感覚が手についた。その手を顔の前まで持ってくると手には水溜りと同じ色をした液体が付いてた。
そして思い出す。自分はヨシカゲとかいうあの使い魔によくわからない攻撃をされたのだと。
理解する。この水溜りは水ではなく自分の血なのだ!そしてそこに映ったのは自分の顔なのだと。
それを理解して、声にならない悲鳴を上げた。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー