ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロと奇妙な隠者-17

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匿名ユーザー

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 フーケが破壊の杖を置いて行ったであろう場所は、時を置かず発見できた。
 煌々と月明かりが大地を照らすハルケギニアでは、よほどの暗がりでもない限り明かりを用意せずとも光度は問題が無い。
 ひとまず用心には用心を重ねようと、シルフィードを離れた場所に着地させ、ハーミットパープルで周囲に怪しい反応がないかも確認する。
 だが三人の警戒を無駄にするかのように、ハーミットパープルのレーダーには何も反応を示すことは無かった。
「……ここまでされると本当に何もなかった時がバカみたいじゃの」
「確かにこんなに早く追跡されるだなんて考える方がおかしいんだけど。無用心だわね」
「逆に言えば、裏をかいたという事。今が奪還のチャンス」
 そうと決まれば、まだシルフィードの背中ですやすやと寝息を立てているルイズも起こさなければならない。
 ジョセフは波紋を練ると、太陽の光のように柔らかく光る両手をルイズの背に当てた。
 人間は睡眠に落ちる際に自らの体温を低下させ、目覚めるに従って体温を上昇させる。寝起きが悪いのは体温の調整がうまく出来ないのも一因である。
 それに体温が上昇すれば自然と寝苦しくなって――
「ううっ……あ、暑い……」
 ルイズの寝起きの悪さをよく知っているキュルケが驚くほどの早さで、ルイズは覚醒した。
「波紋って色んな使い方があるのねー。私も真剣に覚えてみようかしら」
 普段の口調とは違い、かなり真剣に波紋の習得を検討するキュルケにルイズが噛み付くのを適当に宥めつつ、手短に事情を説明してから破壊の杖のある場所へ歩いていく。
 そこは森の中でもやや開けた草むらで、その中央には随分と年季の入ったボロボロな小屋が一軒建っていた。

「地図から見るとあっこに破壊の杖があるようじゃな」
 ハーミットパープルを使うまでも無く、周囲に人気が無いことは丸分かりである。
 とは言え、それでもいざという時に備えて、外に見張りを立てた上で中に入ろうという計画が立てられる。
 四人で相談した結果、キュルケとタバサが外で待機し、ジョセフとルイズが小屋に入るということで一応の決着を見た。
 ルイズの前に立ち、身を屈めながらも心持ち早足に小屋へ接近すると、扉を押し開けて中へ入る二人。
 ジョセフが波紋を全身に回せば、ほのかな光が小屋の中を照らす。
 誰もいないと判っているはずなのに、ルイズは懸命に伸ばした腕の先で必死に杖を構えている。
 杖の先が緊張を恐怖を如実に表わして震えているのが、ジョセフの苦笑を誘う。
「こらこら。見ての通り誰もおらんじゃろ? 気楽にしとけ気楽に」
「わわわわかんないじゃない、だだだ誰かいたらどうすんのよ!」
 年頃の少女にとってはこのような状況が怖くないはずもないし、現にルイズはありもしない敵の幻影に警戒しすぎていた。
 その気持ちはわからなくもないので、ジョセフはとりあえずルイズの手を握る。
「な……何するのよっ。勝手にご主人様の手握ってんじゃないわよっ」
 目元を赤らめながら顔を背けるルイズだが、それでも無理に手を離そうとはしない。
「まあまあ。この哀れな使い魔めにご主人様の手を握る栄誉をお与えくだされ」
 何かを言おうとしたルイズだが、結局しばらく口をパクパクさせた後で頷くだけだった。
 とりあえず片手は繋いだまま、ハーミットパープルを発動させる。
 手に持った宝物庫の欠片を媒介とした紫の茨は、すぐさまある一点に奔り、一抱えもある高価そうなケースに絡みつく。
「これが破壊の杖か?」
 ひとまずケースを開けて確認すれば、その中身にジョセフは思わず驚きを露にした。

「……コイツが破壊の杖じゃと? どういうこっちゃ」
 M72ロケットランチャー。映画や雑誌などで目にしたことはあるが、さすがのジョセフも実物を触るのは初めてのことである。
「それが何か知ってるの?」
「ああ。こいつぁ……わしの世界の兵器じゃぞ。なんでこんなモンが……」
 手にとって使えるかどうか確認しようとロケットランチャーに触れたジョセフの左手が、今度こそ存在を強く主張するかのように手袋の中で眩く光る。
 それと同時に、正確には知らないロケットランチャーの使い方が頭の中に『浮かんで』きた。
 その感覚はデルフリンガーを掴んだ時にもあった感覚だが、その時に左手から漏れる光を感じたのはフーケとの交戦時もあわせて、今夜が二回目である。
 やっと手袋を脱いで確認すれば、義手に刻まれたルーンが眩いほどの光を放っていた。
「……こいつぁ一体、なんなんじゃ……」
 その答えはまだ誰からも提示されていない。ルーンを刻んだ張本人ともいえるルイズも、訝しげな顔をして光っているルーンを見ているだけだ。
「のうルイズや。一体わしに何が起こっとるんか判るかの」
「……えーと、ごめん。私にも何が何だか」
 魔法が使えないだけで、様々な知識は豊富なルイズにも判らないとなれば、もはやお手上げとしか言う他はない。
 得体の知れない力、という点で言えば生まれ持った波紋や、突然ある日発現したスタンドもあるので、さして不安材料にもならないのだが。
「とりあえずルイズや。こいつぁこっちの世界の人間にゃ使い方が判らんモンじゃからの。ひとまずこいつはわしが持っておく」
 断りを入れて、背中にロケットランチャーを背負ってから、改めて狭い小屋の中を見渡す。ここをアジトと呼ぶには、あまりにも生活感の無さが目立ってしょうがない。

「うむ、となるともうここに用はありゃせん。出るぞ、ルイズ」
 ルイズと共に小屋を出て、外で所在無さげに待機している二人と合流し、これからの行動を相談することにした。
「えーとじゃな、フーケは今この辺りにおるな。どうやら来た道をトンボ返りしとる」
「まさかまた学院に盗みに行く気かしら? それはそれで気合入ってるわね」
「破壊の杖が目的ではなく、学院を愚弄するのが目的とも考えられる」
「どっちにしたって、私達がバカにされたのは事実だわ! とっ捕まえてギャフンと言わせなきゃ気が済まないわ!」
 約一名、バカにされたと憤っている少女が『フーケをとっ捕まえてギャフンと言わせる』のを強硬に主張する。
「んーまあそうじゃな。破壊の杖は取り戻しましたがフーケは逃しました、じゃ画竜点睛を欠くのもいいところじゃしな」
「そうそう。取られたものを取り返しただけじゃ、何の解決にもなってないわ。悪いネズミちゃんは捕まえて懲らしめてあげないとならないものね?」
「今から追跡を再開すれば夜明けまでに追いつく」
「そうとなれば善は急げだわ! さあみんな、フーケを捕まえに行くわよ!」
 約一名、ここまであまり役に立っていない少女が意気揚々とシルフィードが待っている場所へと歩き出すが、約二名は苦笑混じりに、残り一名は感情を伺わせない顔をしながら彼女の後ろをついていく。
 再びシルフィードが風を捕らえて空に飛んだ時には、ルイズも眠気を訴えるようなことはせずにバスケット一杯のイチゴを食べて目を見開いていた。
「覚えてなさいよフーケ……追いついたらギッタギタのメッタメタにしてやるわ!」
 どこぞのガキ大将のような事を言うもんじゃのう、と苦笑するジョセフ。

 それから程無くして、地図の上の金貨は小石に追いつこうとしていた。
「よしよし。もうそろそろフーケめに追いつくのう。さてここでわしは挟み撃ちの形を提案したい。四人全員でシルフィードに乗って追いかけても効率が悪いからの」
 そこからジョセフは、シルフィードに乗ったまま追跡するグループと、フライで追跡するグループに分かれての攻撃を提案する。
 スピードに勝るシルフィード組がフーケの進路に先回りしてフーケの移動を阻害しつつ、自由度に勝るフライ組がフーケを追い詰めるという作戦である。
 その作戦自体には誰も異論を挟まない。だがその組分けに強固に反対する少女が一人いた。我らがゼロのルイズである。
 シルフィード組とフライ組に分かれるということは、シルフィードを操るタバサは自動的にシルフィード組に回ることになる。
 必然的にフライを使える残り一名であるキュルケはフライ組に回る。となると、ジョセフとルイズは別の組に回ることになる。
「ダメよダメよ! ツェルプストーの色情魔とジョセフを一緒にするのは反対!」
「じゃがのう。わしがシルフィードに乗っててもわしは何も出来んぞ。わしがキュルケに連れてってもらって、遊撃した方が戦力的にはちょうどいいんじゃぞ。
 わしらじゃシルフィードを満足に操れるかどうか怪しいしな」
 それからもしばらく駄々をこねていたルイズだったが、月明かりの下に馬を走らせている、宝物庫襲撃の時と同じローブ姿のフーケが見えるに至り、渋々ジョセフの案を承認した。
「ああん、こんなにダーリンと密着できるだなんてぇ。ダーリンのたくましい身体がス・テ・キ☆」
「アンタ、今からフーケをブッちめるってことを忘れてるんじゃないでしょうね!」
 この期に及んでルイズをからかうことは忘れないキュルケと、挑発にいちいち乗るルイズ。
「ほらほら二人とも、そろそろ時間じゃぞ。気ぃ引き締めていかにゃならんぞ」

 シルフィードの影でフーケに気取られることのないように距離に気をつけつつ。やがて街道が林の中を通ろうとする段階で、キュルケはジョセフを背負ったままフライの魔法で大空に飛び出し、地表近くの高度を維持してフーケ追跡行に入る。
 それを見届けたシルフィードが、一気に加速し、林の木々にぶつからない高度を飛ぶことでフーケの頭上に影を落とす。
 フーケは当然時ならぬ影に視線を上げ、頭上にいる風竜が前に回り込もうとしていることに気付き、速度を落としつつ街道を離れようとする。
 しかし道の左右は林、夜の道を馬で走ることは非常に難しい。
 馬を捨てて林の中を逃げるべきか、それともUターンして来た道を戻るか逡巡したところで、背後から猛スピードで追跡する一つの飛行物体が一気に距離を詰めてくる――
「追いついたぞフーケッ!!」
 キュルケに背負われたジョセフが、左手にデルフリンガー、右手にハーミットパープル、全身に波紋の光を構えて突進してくる!
 フーケはいちかばちか馬のまま林の中へ入ろうとしつつ、突っ込んでくる二人目掛けて魔法を唱えようとした、が……
「行ってらっしゃいダーリンッ!!」
 キュルケはフライで出せる最大限のスピードを維持したまま、ジョセフはキュルケの背を蹴って跳躍する!
 加速したスピードのまま空を飛ぶジョセフは、ハーミットパープルを木の枝に巻きつけて速度を殺しつつも、なおもハーミットパープルをロープ代わりに林の木々を飛んでフーケへ急速接近していく!
「なッ!?」
 予想外の行動に、ジョセフに一瞬気を取られてしまったフーケ。


「どこ見てんのよッ!!」
 その一瞬の隙が、まだフライを解除していないキュルケの接近を許す結果となる!
 全身に風を纏ったまま、ありったけのスピードで空を駆けるキュルケのタックルは、質量と速度が重なることで高い攻撃力を持つに至る。
「ぐはッ!?」
 メイジと言えども、不意打ちを食らえばただの人間である。
 キュルケのタックルをモロに食らったフーケは馬から落ち、地面に叩き落される。
 だがフーケは地面に叩きつけられてなお、降参するどころかなおも抗う意思を示そうと、懐から素早く杖を取り出して呪文を詠唱していく!
「我が下僕達よ!!」
 素早い詠唱で完成させた呪文は『錬金』。
 ひとまずフーケは自分を囲むように三体のゴーレムを作り上げたが、素早く完成させるだけが取り得の『錬金』で完成したゴーレムは、30メイルのような大掛かりなものではなく、2メイルにも満たない土人形でしかない。
 それでも腕力は普通の人間を大きく上回るだろうが、如何せんキュルケとジョセフの前では時間稼ぎ以外の何者でもなかった。
「ハーミットウェブッ!」
「ファイアーボールッ!」
 頭上から奔る紫の茨と、正面から放たれる火の塊を防ぐだけで、一体はたっぷり波紋を流され爆散し、もう一体は火球を受け止め燃え尽きていく。
 主人を守る為だけにその身を差し出したゴーレムだが、二人はなおも攻撃の手を休めようとせず追い討ちをかけてくる。
「くッ……調子に乗ってんじゃないよッ!」

 しかしフーケも、キュルケのタックルを受けて落馬しながらも二人を相手取って戦闘を行おうとする時点で、今まで重ねてきた経験をここぞとばかりに発揮していた。
 次に完成させた呪文は錬金ではなく、直前までゴーレムだった土塊を周囲に拡散させる『砂嵐』。
 それで僅かにも二人の動きと視界を奪いつつ、意外と俊敏な動きで茂みに飛び込んだ!
 そしてシルフィード組のタバサとルイズが、シルフィードから降りてその現場に遅ればせながらやってくる次第だ、が。ルイズの不機嫌メーターは非常に危険な水域を示していた。
(何よ何よッ! デレデレしちゃって! 私だってフライさえ使えたら……!)
 今頃、あそこで勇ましくフーケと戦っているのは自分のはずだったのだ。
 それがあのにっくきキュルケというのがどうにも気に食わない。
 今夜はタバサにメイドにジョセフがデレデレしてたのも気に食わないのに(ルイズ視点ではジョセフはタバサとシエスタにデレデレしているようにしか見えなかった)、それだけでは足りないと、よりにもよってあのキュルケとまで!
「このッ……アンタが来なかったらぁ!!」
 今にも爆発しそうな(理不尽な)怒りをこらえつつ、茂みに飛び込んだフーケ目掛けて魔法を連発する!
 だがそれは残念ながら、フーケに利する行為となってしまった。
「ぬぅッ!?」
「きゃっ!? 危ないじゃないルイズッ!」
 ルイズの失敗魔法が炸裂したのは、一瞬前までフーケがいた地点でしかなく、そしてそれはジョセフとキュルケからフーケの姿を見失わせ、二人の追撃の足まで止めてしまった。
 その絶好のチャンスを指を咥えて見逃すはずも無いフーケは、林の中に微かに差し込む月明かりを頼りに決死の逃走を図る!


 ここでフーケと追跡者達の現状の差が如実に出た。
 数と優位さで勝るジョセフ達に対し、一人しかおらず手負いとなったフーケ。彼女がとる行動は当然、命懸けでその場を離脱して状況を立て直すしかない。
 仲間達が行動を共にするジョセフ達に対し、フーケが頼れるのは自分自身しかいない。余裕をもたらした弛緩と、決死の覚悟の差は、フーケの逃走を見事に成功させていた。
「いかんッ……ヤツを見失ったか!」
 ハーミットパープルを伸ばし、なおも追跡を続行するジョセフ。
「何してんのよルイズッ! ああもうッ、なんてこと……!」
 ルイズをからかう余裕さえ見せず、フーケの逃げた場所に照明弾代わりに火の塊を飛ばし、フーケの逃げた方向を注視するキュルケ。あと一歩のところまでフーケを追い詰めたというのに、それを逃した二人の失望はありありと横顔に出ていた。
 ジョセフはともかく、キュルケが自分をからかいさえしないという事実は、ルイズの心を叱責するのには効果抜群だった。
(なっ……何よ! そんな反応するなんてっ……!)
 ルイズにとって予想外の反応を示されたばかりか、叱る時間も勿体無いとばかりにフーケに注意を傾ける仲間達。
 ジョセフはハーミットパープルを伸ばし、直にフーケを追跡する。キュルケは照明代わりに火を飛ばし、隠れる闇を消していく。タバサは風を集めることで音を自分に集め、林の中を逃げるフーケがどこに向かおうとしているのかを感知しようとする。
 だがルイズには何も出来ない。
 魔法を使おうにも爆発するだけの魔法では、タバサの邪魔まですることになる。
 フーケを追う意思だけは他の仲間よりも強いルイズは、意志の強さに反するように、何も追跡に役立つ手段を持ち合わせていなかった。



 ――そして、フーケは反撃の体勢を整えた。


 林の木々を飲み込みながら、巨大なゴーレムが立ち上がる。
 それはジョセフ達を翻弄し、嘲笑ったものと同じ。

 30メイルの巨人が、再びジョセフ達の前に立ちふさがる――!


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