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鍵は揃えど未だ気付かず


「……トウマ、俺たちが逃げている間に例の放送が入ったようだが……お前、内容は聞いてたか?」
 バグ・ニューマンの追跡から逃れて十数分後。
 ようやく追跡を振り切ったと安堵して、クォヴレーはトウマに話しかける。
「……悪い。あの時は逃げ出すだけで精一杯だったから、放送聞いてる余裕は無かった」
「そうか……」
 トウマから返ってきた答えを聞いて、クォヴレーは苦々しげな表情を見せた。
「そういうお前は……って、その顔だと聞く必要もないか。お前も聞いてなかったんだな」
「……すまん」
「いいさ、お互い様だ」
 その言葉に反し、表情は晴れない。だが、それも当然だ。
 ただでさえ“ハズレ”の機体を寄越されて苦戦は避けられないのに、それに加えて情報まで失った。
 こういうのを、泣きっ面に蜂というのだろう。
「まったく……ついてねぇなあ……」
 肩を落とし、溜息一つ。このゲームが始まってからこっち、状況としては最悪と言えた。
 ……だが、実の所。この最悪な状況を打開する鍵は、この場に存在していたのだ。
 その事実に、鍵の持ち主が未だ気付いていないだけで。

「それにしても、不公平だよなぁ……」
「何が、だ?」
「他の連中にはマトモなロボットが支給されてるみたいなのに、俺たちは車とバイクだぜ?
 コイツを不公平といわず、何を不公平と言えばいいんだよ」
「そう言われても、俺が今までに接触したのは、お前を除けば先程の男くらいだ。
 他の参加者に支給された機体の事を言われてもな」
「はぁ……そいつがボルフォッグみたいに変形する車だったらなぁ……」
「変形?」
「ああ……普段は車になってるのに、いざとなれば人間型に変形。
 そういうロボット、ちょっと知ってたもんでな」
 愚痴る口調でトウマは言う。
 ……だが、気付かない。自分の言葉が、正鵠を射ていた事に。
「ふむ……変形、か……」
「なあ……その車、本当に何かあるんじゃないのか?
 もしこれがただの車だとしたら、ビームなんかついてないはずだし……」
「それは……確かに、な」
 トウマの言葉にクォヴレーは頷く。
 そう、かもしれない。
 この車を指して、ユーゼスは確かに“強力な機体”と言った。
 あの時は奴の皮肉かと思ったものだが……トウマの言葉が正しいとなれば、それにも納得がいく。
「マニュアル、念入りに読んでみろよ。ひょっとしたら、隠された機能とか……」
「いや、それが……」
 ……だが、もしそうなのだとしたら。
 クォヴレー・ゴードンは、とんでもない過ちを犯したことになる。
「ど、どうした!? なにか、まずい事でもあったのか!?」
 クォヴレーが沈みこんだ表情になったのを見て、トウマは慌てて声をかける。
 それに、クォヴレーは――
「マニュアルは……無い。単なる車の運転教本だと思って、窓から捨ててしまった」
「なっ……!」
 答え難い事を、ごくあっさりと答えていた。
「どうすんだよ、お前……」
「……どうしようもないな」
「そんな、他人事みたいに……」
「ことさら意味も無く不安になってみた所で、現状の打破には繋がらないだろう?」
「そりゃ、そうかもしれないけど……お前なぁ……」
 はぁと溜息を吐きながら、トウマは思わず頭を抱える。
「……どの辺りに捨てたのか、覚えてるか?」
「いや、全く。それに今からマニュアルを拾いに行くのは危険すぎる。
 せっかく振り切ったあの男と、鉢合わせしてしまう可能性もあるからな」
「くっ……打つ手無し、か……」
「そのようだな」
「お前……自分の事だろうが……」
「それを言われると辛いな……」
 はぁ。今度は二人、示し合わせたように溜息を吐く。
 ……今の二人の状況を端的に言い表すとするのなら、八方ふさがりと言うやつだろう。
 だが、繰り返し言おう。状況は彼らが思うほど、悪い事ばかりではなかったりする。
 そう。トウマは、気付いていなかった。
 この状況を打ち破る鍵を、自分が握っている事に。

 かつて、トウマが大雷凰と共に挑んだ戦いより以前。地球圏を舞台に繰り広げられた戦いがあった。
 そして当時の戦いには、トウマと出会った事の無い、数多くの戦士たちが参加していた。
 それは例えば、勝利の名前を関する白き戦士。
 それは例えば、海と大地の挟間より浮上した者達。
 それは例えば、木星の支配者と戦った宇宙海賊。
 それは例えば、原子力を力の源とする巨人。
 トウマは彼らとの直接的な面識こそ無かったが、その戦い振りは資料や伝聞で知らされていた。
 特に某筋金入りのスーパーロボットマニアなどは、こちらが聞いてもいない事を詳しく教えてくれたものだった。
 掛け声、必殺技、操縦方法。当時の仲間達を通じて知った知識の数々を、彼は惜し気も無く披露していった。
 そして、彼が詳しく教えてくれた機体の中に、その名前は存在した。
 コズモレンジャーJ9の変形戦闘メカ――“ブライガー”の名前が。
 そう、トウマは知っていたのだ。
 本人が気付いていないだけで、ブライガーへの変形機能を作動させるキーワードを、彼は確かに知っていたのだ。
「それにしても……なぁーんか、引っ掛かるんだよなぁ、その車……」
 ……だが、彼は未だ気付かない。自分の記憶に、その機体を目覚めさせる鍵が存在する事に。

「……それよりトウマ、これからの方針を話し合わないか?」
 ブライサンダーを見て頭を悩ませるトウマに、クォヴレーは淡々と話しかける。
「方針、ねえ……で、具体的にはどうするつもりなんだ?」
「……考えが、ある」
「考え?」
「ああ。俺は、この近くで様子を伺うべきだと思っている」
 周囲に広がる見渡しの良い平地。
 身を隠す場所の無いその場所で、クォヴレーはそうトウマに告げる。
「こんな、だだっ広い平地でか? もし、誰かに見付かったら……」
「……危険だろうな。俺達には戦う力が無い。
 もし、俺達を見付けたのが戦う気になっている人間だとしたら、そこで終わりになる可能性は低くない」
「だったら……!」
 この戦う力が無い状況で、それがどれだけ危険な事か。
 それを諭そうとするトウマの声を、しかしクォヴレーは遮って言う。
「……だが、戦う気の無い人間が俺達を見付けたらどうする?」
「どうするって、そりゃ……」
「バイクと車だ。こちらに戦う意思が無い事……いや、戦う力自体が無い事は納得してもらえるだろう。
 携帯食料辺りと引き換えに、情報を聞き出す事が出来るかもしれない」
 クォヴレーの言葉には、それなりの説得力があった。
 この状況下で、バイクと車の組み合わせを脅威に思う人間はまずいない。
 戦う気の無い人間ならば、恐らく見過ごしてくれる事だろう。
 クォヴレーの言うとおり、情報の交換に応じてくれる事も考えられなくはない。
「それは、そうかもしれないが……」
「それに、むやみやたらに動き回っていれば、禁止エリアに足を踏み入れる可能性が高くなる」
「う……」
「勿論、この場所が禁止エリアである可能性もあるわけだが、決して高い確立ではない。
 闇雲に動き回らないでいた方が、まだ安全性は高いだろう」
 ……説き伏せられて、トウマは頷く。
 クォヴレーの案は、確かに悪い考えではなかった。
 自分達の状況を考えれば、むしろ最善の案かもしれない。
 しかし、それは……。
「なあ……それって、運任せにならないか?」
「そうなるな」
 そう、運任せだった。
 これから自分達が接触する人間が、必ずしも戦う意思を持たない人間だとは限らない。
 自分達の今居る場所が、禁止エリアでない可能性が無い訳でもない。
「まったく……」
 今日、何度目になるかもわからない溜息。
 だが、トウマの腹は決まっていた。
「……いいさ。その考え、乗ってやる。こうなりゃ一蓮托生だしな」
 にやり。笑って、頷き合う。
 この選択が吉と出るか、凶と出るか――
 それを知る者は、誰一人としていなかった。


【クォヴレー・ゴードン 搭乗機体:ブライサンダー(銀河旋風ブライガー)
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好(変形不能)
 現在位置:C-7
 第一行動方針:この場に留まり誰かと接触する
 第二行動方針:なんとか記憶を取り戻したい
 最終行動方針:ユーゼスを倒す】

【トウマ・カノウ 搭乗機体:ワルキューレ(GEAR戦士 電童)
 パイロット状態:良好
 機体状況:良好
 現在位置:C-7
 第一行動方針:クォヴレーの案に付き合う
 第二行動方針:アルマナの発見、保護
 最終行動方針:ユーゼスを倒す
 備考:副指令変装セットを一式、ベーゴマ爆弾を2個、メジャーを一つ所持しています】


【時刻19:40】


※同一作品の人物以外とは面識がない(バンプレオリについてはオリ同士のみ)という設定により破棄





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第110話「人の造りしモノ 投下順
第101話「いんたぁみっしょん 時系列順

前回 登場人物追跡 次回
第104話「車上の戦い、そしてヘタレ クォヴレー・ゴードン
第104話「車上の戦い、そしてヘタレ トウマ・カノウ








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