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PROMISED LAND(1)


世界が終わった。

コワレ逝く世界は、数多の亡骸とともに塵へと帰る。
神降ろしの儀式のため生まれた、そのための理想郷――プレーン・ワールド。
役目を果たしたモノはただ去るのみ。

新たな世界の産声を聞くのに、古き世界は必要ない。
嗚呼、美しき新世界よ。我が声を聴け。新たな世界に光と祝福を。
嗚呼、素晴らしき新世界よ。我が祝詞を受けよ。新たな世界に平穏と安息を。

――例え、血と肉と呪詛と憤怒の上に成り立つ世界としても。



……どこでもない場所で、6つの光が右へ左へと舞い踊る。

異様な場所だった。
『其処は何処か?』
――敢えて言語化し、共通点をあげるとするならば『宇宙』。
上もない。下もない。右も左もない。重力のような力の指向性もない。

だが、宇宙ともまた別個たるもの。
なぜならば、ここには星がない。銀河がない。命がない。
ただ、広がる闇の中、光の線が前から後ろへと駆け抜けていく。

ここが、どれほどの広さかですら理解することはできない
距離感をはじき出すために必要な比較対象物すら乏しく、ただただ不変に変わらぬ空間。

ここは世界にあらず。
広がり、縮み、寄り添うように人間が持つ時間という概念そのもの。
空間という概念すら本来存在しない空間という矛盾。

言葉とは、人間がお互いの認識を分け合うための道具。
ならば、どんな世界の人間も認識できぬはずのモノを言語化し、表現することはできない。

ここはどこでもあってどこでもない場所。次元にひしめく無数の世界の、狭間の狭間。

――故に、すべてに繋がる可能性を持つ。



すべての、始まりにすら繋がっている。




「おおおおッッ!!」

修羅王は獅子神の如く髪を振り乱し、まっすぐにゼストへと拳を繰り出す。
電光よりも速い踏み込み。
大地という概念無き場所を踏み抜き、生み出される加速は、視ることすら難しい。

ヤルダバオトの猛拳を、ゼストの右の拳がボールでも受け取るように掴む。

「砕けろ!」

グランゾンの胸より紫電が何度となく弾け、音という概念無き場所に轟音を鳴り響かせる。
稲妻が収束し、虚無色の光が閃くと、全てを吸い込む空洞を形成する。
集団〈クラスター〉の名が示す通り、重力球の中に重力球を内包する――ブラックホールクラスター。
それが、ゼストの体内に直接転移する。

ゼストは左手を軽く振って、空間転移のために必要な粒子跳躍の経路を断つ。
転移途中の一撃は、ゼストの間近で出現するが、ゼストの動きを鈍らせることはなかった。

「こぉんのおー!」
「落ちてもらおうか」

ブラックサレナのグラビティ・フィールドを利用した突撃。
ジ・Oのグラビトンランチャーの重力衝撃砲。
どちらも、届く前にゼストの体を守るように伸びた黒翼が弾き飛ばした。

「行け……ガンスレイヴ!」

だが、その隙をついて、複雑怪奇な軌跡を描きながら、ガンスレイヴがゼストの全身に牙を突き立てる。
あるものは、鋭角的に肩へ。あるものは、弧を描くように背後へ。あるものは、弾丸のようにまっすぐ胸へ。
だが、末路は同じ。全て、ゼストの放つ衝撃波で、欠片すら満足に残らず破壊される。

「空輪脚!」

交差する神と修羅。
ヤルダバオトの繰り出す、刈り取るような回し蹴りは、ゼストの頬へと叩きこまれた。
ゼストに変わりない。蹴りが直前で当たっていない。顔の前に展開された黒い障壁が、完全に食い止めている。
先ほどまで、こんなものはなかった。
その場しのぎで適当に張られた黒いフォトンシールドが、蹴りの威力を上回っているのだ。

「ほう……『ガイア』を基にしているだけあって、フォトンの発生は速いようだな」

自分でも驚いていると言わんばかりのユーゼスの声。

「クズが!」

ヤルダバオトごとゼストを切り裂こうと、グランゾンが大剣を横薙ぎに振るう。
ワームスマッシャーのシステムを利用した、空間ごと相手を断つ、必断の剣。
フォルカが拳をひねって外すと、上方へ飛ぶ。直後、襲い来る空間の断絶。
しかし、あっさりとゼストは切り裂かれた空間ごとグランワームソードをつまみあげた。
グランゾンは、どこかへ空間転移して、即座に距離をとる。

「来いっ! 双覇龍!」

直後、ゼストの右斜め前方から、巨大な光波の双龍がうねりながら激進する。
顎〈アギト〉を広げ、ゼストの何倍もの全長の巨龍が食い掛かろうとした。
本来なら、獲物を飲み込み空へと舞い上げる龍たちが、ゼストの前で停止。
黒い壁が、龍が顎を閉じることも動くことも許さない。

指を一度ゼストが弾く。それだけで、黒い奔流が、一頭の龍の上顎と下顎を分断した。
さらに、残った竜の両顎を手でつかむ。そして力任せに引きちぎった。
生命力そのものである光を、黒い闇が蹂躙する。
引き裂いた直後、ジ・Oの火器を使った連射の爆炎がゼストを包み込む。
二機による光の尾を引き放たれるレール・ショットガンと、32mmハンドガンの援護付きだ。
事実上、手持ちの火器による武器による一斉発射。

ゼストの放つ黒い疾風が煙を晴らす。当然、無傷。

ブラックサレナが、フィールドをまとって突撃する。
さらにグランゾンが空間跳躍を利用したエネルギー波を放つ。
ヤルダバオトの両拳が唸りをあげ、相手に打ち込もうと振われる。
ディス・アストラナガンのZ・Oサイズが銀光を輝かせ、両断しようとする。
ジ・Oが足止めするべく、足を失っても宙間をスラスターで駆け巡り、けん制する。

打つ、撃つ、放つ、振るう、繰り出す、歪める、刺す、断つ。

届かない。



「これほどとは……どうやら、想像以上に力の差がつきすぎていたようだ」



ユーゼスが嘯く。
全員が、そのユーゼスの嘲りを無言で受け止めた。受け止めるしか、なかった。

どれだけ果敢に攻撃しても――
どれだけ重ねるように攻撃しても――
どれだけ繰り返し、繰り返し攻撃しても――

一撃たりともゼストには届かない。

グランゾンのマイクロブラックホールと空間断裂が。
ブラックサレナのフィールドアタックとハンドガンが。
ヤルダバオトの双覇龍と機神拳が。
ジ・Oのビームライフルとブライソードが。
ディス・アストラナガンのZ・Oサイズとガンスレイヴが。

まったく、届かない。

圧倒的な反射速度と身体能力で、点の攻撃は受け止められる。
圧倒的な光波量と収束度のフォトンシールドで、面の攻撃は受け止められる。
遠距離も、近距離もない。

圧倒的な絶望。
ゼストは、まだ反撃もしていないというのに、だ。

「どうした、あえて私は手を出していないのだぞ?何を絶望している。もう終わりか?」
「舐めるなっ! 神気取りのクズ風情が!」

唯一、グランゾンだけが動いた。
剣を振り上げ、ゼストに切りかかる。
ワームスマッシャーを並行起動し、全方位からの攻撃に加えての空間断裂。

届かない。

ゼストを覆う、殻のような黒い障壁は欠片も揺るがない。

「木原マサキ……所詮造物主を超える人形は存在しないのだ」

ゼストの腕に漆黒のフォトンが絡み付く。
手に沿うように伸びる黒光は、肘から指先までの倍ほどの大きさの剣に変わった。
瞬間、一閃。
空間ごと断つグランワームソードが、ゼストの手刀で剣ごと断ち切られた。
いや、それに留まらず、グランゾンの両腕を粉々に粉砕し、吹き飛ばす。

「ぐ……あああああッッ!?」

見えない壁にぶつかり、蹲るグランゾン。
度重なる損傷に加え、ついに両肘から先を失ったその姿は、酷くくすんでいた。
幾多の世界で、最悪の紫蒼の魔神として存在していた影は……ない。

「……理解したか?あれだけの戦闘力を持つグランゾンも、ゼストの前では塵にすぎん」
「ふざける……なよ……」

グランゾンの胸部装甲が開かれ、コントロール・コアが前方に展開される。
胸からあふれる何十という重力波が、360°オールレンジでゼストへ降りかかる。
しかし、黒いフォトンシールドはあっさりとグラビトロン・カノンを遮断した。

「……お前にもう用はない。次元の隙間で永遠に漂うがいい。コード・アポロン」

小さく、ゼストが胸の前で十字を切る。
黒いフォトンはグランゾンを包み込むと、急激に収縮し――跡形もなく消え去った。

「次元移動と空間転移ができようと……グランゾンでは抜け出ることはできん」

グランゾンから視線を切り、4人にユーゼスが語りかける。

「……何故、私の邪魔をする?貴様らは私が何を望んでいるか知っているのだろう」
「並行世界を支配し、自分の望む世界に作り替える。
 ……それがお前の目的だ。俺は、決してそんなことを許さない」

とりつく間もない突き放すクォヴレーの言葉に、ユーゼスが失笑を漏らした。

「ヴィンデル・マウザーが言っていたが……世界征服とは手段だ。あくまで目的ではない。
 手段の善悪と目的の善悪は別だ。それに聞かせてもらおうか、並行世界の番人。
 では、お前は今世界全てを支配している存在が、正義とでも言うのか?」

深く、深く深くユーゼスが息を吸う。

「自分勝手な神の理論で、世界を滅ぼすような存在が正義か!?
 確固たる意志もなく、その場しのぎで人を救いはしても、全体を考えぬ存在が正義か!?
 宇宙すべての命を自分の勝手な判断で奪う……命の意味すら知らない存在が正義か!?
 答えてみろ! 並行世界の番人、『アカシックレコード』の番犬!」

一度吐き出した言葉は、もう止まらない。

「お前は次元移動を禁忌とし、世界を乱すならば、と排撃する!
 ならば、世界を乱すとはなんだ!?そこにいる修羅王も知っているだろう!
 滅びに瀕した世界は、例えその先に戦乱が待つとしても生きるためには世界の壁を越えなければならない!
 お前はそんな世界に生まれてきた運が悪かった、だからおとなしく死ねとでも言うのか!?」

ユーゼスは、断言する。
ユーゼスはそのために無限螺旋を歩む決意をしたのだから。
ユーゼスが、ユーゼスであるために必要なモノ。

「私は、絶対の調停者として宇宙に君臨する!」

負の思念が、ゼストの核。
ゼストは『アカシックレコード』に理不尽に踏みにじられた人々の絶望。
ゼストは『アカシックレコード』に理不尽に未来を奪われた人々の慟哭。
ゼストは『アカシックレコード』に信じた正義を悪と断ぜられ滅ぼされた人々の憤怒。

闇に生き、闇の力を使い、偽善を切り裂く。


正しき怒りを胸に、憎悪の空より来たる使者―――ゼスト。


「争いや破壊のすべてを悪とは言わん、戦争は時に発展に寄与する。破壊あってこその創造だ。
 平和や友好をすべて悪とも言わん、平和があってこそ安心、平穏がある。
 ……だが、塵も残さず宇宙を破壊するのも、無理やりすべての思念を統合し平和にするのも間違っている」

「お前は……文字通り神になるつもりか? たかが人の身で」

「たかが」という部分にたっぷりと皮肉を込め、シロッコはユーゼスに問いかけた。

「……私は人間の持つ『弱さ』を知ったうえで、『弱さ』を捨てて超越する。
 故に、争いが起こることに絶望しない。私が手を出すのは、一人の愚行で、世界を穢したときだけだ。
 争いなら当事者同士でやればいい。ただ、環境を崩し、平穏に生きる人間に干渉したときだけは容赦しない」

「つまり……スペースノイドとアースノイドのような戦いには干渉しないというわけか?」

シロッコの言葉に、ユーゼスは即答する。

「地球を破壊しない限りは……だ。
 どうだ? 修羅王、お前たちのように世界が崩壊することもなくなる。
 大きな価値観がぶつかり合えば、人間は必ず戦いが起こる。まして、世界の壁を超えるとなればなおさらだ。
 だが、その必要もない。世界は決して終わることなく続いていく。
 大きな戦乱は起きず、いつの日か、世界の壁を超えるのは平和の交流として禁忌ではなくなる」

大きく、ユーゼスが――ゼストが目を伏せ大きくうなずく。

「理想とは思わんか?」

「……なるほど、確かに理想かもしれない」
「ならば、そこをどいてもらおうか。神の力で弱き人間を蹂躙するのはいささか気が引けるのでな」
「だが、それはお前が本当に信頼できるなら、だ!」
振り払うように、腕で空を右から左にヤルダバオトが切る。

「お前は、力を手にした時、確かに『もはやどうでもいい』と言った。
 今でこそ、奥に潜んでいるが……ユーゼス、お前も人間! 弱さを捨てて神になどなれない!」

ジ・Oが、ビームライフルを再度構える。

「まったく同感だ。自分の弱さを捨て、人の上に立てるというのがすでにエゴにすぎんよ。
 仮に今そうだったとしても、永遠に権力欲を捨てて生きられるような賢人にも見えんな」

ディス・アストラナガンが、煌々と赤い悪魔の瞳を輝かせる。

「お前が思ったことは、イングラムを通じて知っている。言っていることは昔と同じだ。
 だが、あの時と違うのは……時間で、お前は歪んでいるということだ」

三者三様の、ユーゼスの拒絶。
ユーゼスを認めるようならば、最初から誰もここにいない。
最後に、ミオが、3人とはまた違う言葉を言い放つ。

「たしかにユーゼス、あんたの言ってること、正しいかもしれない。
 けどさ、ならこんなことやっちゃいけないんだよ。守るために、壊すなんて間違ってる。
 何回も違う世界で人生繰り返せるんなら、他人を奪わない方法でそれを教えればよかったんだよ、きっと」

ミオが告げられた言葉に、ゼストの動きがピタリと停止する。
一瞬で、ゼストから表情が消え……きれていない。僅かに苦虫を噛むような顔を横にそらした。
ユーゼスは一旦間を置き、次々と言葉を並び連ねる。
目を閉じ、酷く感情の起伏を抑えた声でありながら、染み出すように心が漏れていた。

「……そうか。それは、いささか残念だ。私の真実を知りえるものは数少ない。
 故に、それを知って共に歩むものを探すのも悪くないと気まぐれに思ってみたが……無駄だったようだ」

ゼストが、翼を広げ、胸の発光球の前で手を合わせた。
見開かれる瞳の色は、ユーゼスのアイカラーであるライトグレーではない。
くすみなく輝く金――完全に覚醒したラーゼフォンの「真理の眼」が解放される。




「来いッ! ヴァルク・バアル!」

ゼストが、天へ腕を掲げる。
空へ突き出された腕に一瞬でフォトンを収束させ、フォトンの奔流が激しい風を起こす。
一瞬で時空間に穴があき、その中から紫色に結晶化した機動兵器が出現する。
全身にこびりついた結晶の隙間からは、地肌の黄色と黒の塗装が見えていた。

「ネシャーマか!?」
「これが私に残された最後の機動兵器。乗っているのは……リョウト・ヒカワ」

この会場に来て、誰よりも絶望と狂気に彩られた青年の魂。
向こうでは、剣鉄也がいた故に使えなかった。2人を同一の戦場に放り出せば、同士討ちは必至だったからだ。
ユーゼスの手持ちの中では最高のバルマー技術で作られており、ズフィルードクリスタルと最も相性がいい。
故に、時間がかかっても出撃を劣らせ、ズフィルードの結晶に浸食し、とっておいたのだ。

DG細胞とも混ざり合ったズフィルードは、見る間にヴァルク・バアルを浸食し、生まれ変わらせた。
今のヴァルク・バアルは……言うならばヴァルク・ズフィルードとでも呼べる代物だ。

「クォヴレー・ゴートン以外は好きにしろ。お前の恨んだリュウセイとレビの魂も……お前の、目の前にある」
【う……ああああああああああ!! リュウセェェェェ!!】

ディス・レヴを持たない3人にもはっきり聞こえるような錯覚を起こすほどの、リョウトの怨讐。
まっすぐ……フォルカに向かって突撃してくる!

「まずい……!」

その怨嗟の量を感じ、前に出ていたクォヴレーが対応しようと銃を抜く。
しかしそれよりも速く、ゼストはディス・アストラナガンの正面に回り込み、銃身を掴み上へと向けさせた。
顔が触れ合うほどに……いやディス・アストラナガンとゼストが額をぶつけた状態で、ユーゼスがささやく。

「……決着をつけよう。我々にふさわしい場所で」

それは……お互いだけの戦いを望むユーゼスの意思。
あまりにも長すぎたユーゼスの道程の果てにあるものが、自分であることをクォヴレーも理解する。

クォヴレーは、もう一人のイングラム。
イングラムは、もう一人のユーゼス。
ならば、クォヴレーもまた、もう一人のユーゼス。

ユーゼスが、全ての点で対極に位置する自分自身。
イングラムと同じユーゼスの顔は、何よりもイングラムとのつながりを感じさせる。
クォヴレーの真っ青な髪が、クォヴレーとイングラムを結ぶ縁〈よすが〉であるように。

「いいだろう、これで……すべてを終わらせるぞ、ユーゼス」

ひとりでに滑り出す言葉。
まるで、自分が喋っているというより、誰かが自分を通じて話しているかのようだ。
だが、これは、誰かの意思であるのと同時にクォヴレー自身の意思。

ゼストと、ディス・アストラナガンが虚空へ溶けて消えさる。



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