「あれは……?」
こちらに近づく2つの機体を見つけ、イキマは目を細めた。
一体は、ガルドが、かつて乗っていたエステバリスカスタム。もう一体は……見たことがない
外見は一言で言うと、悪魔と形容するのがふさわしい機体だろう。
余談だが、元々美的感覚などが人間と異なるイキマはディス・アストラナガンに確かに警戒こそ覚えたが、
不快感やおぞましさというものは覚えなかった。むしろ、彼らの作ってきたハニワ幻人にフォルムは近いのもある。
そこでイキマも思い出した。
『悪魔』。
つまりそれは仲間内で警戒しろと言われていたあのロボットを示す言葉だ。
動きの悪いグルンガストを強引にむき直させる。
簡単な方向転換も、何度かレバーを引き直しやっと動いてくれた。
損傷の激しさを感じ、背筋に冷たいものが流れる。今のグルンガストに戦闘は事実上不可能だ。
もし、予測通りあの『悪魔』に、能動的に人を殺して回っている人物が乗っていればどうなるか。
この戦いの終了を教えて説得できればいいが、そうでない場合はもはや自明の理だ。
誰がエステバリスカスタムに乗っているかは知らない。
が、同行者がいる以上いきなり仕掛けてくることだけはない、と信じたい。
「そちらのパイロットたち、聞こえているか!」
先手必勝というわけでもないが、もし攻撃の意思があった場合相手の出鼻をくじくという意味で、
イキマはオープンチャンネルを使い、声を発した。
「この戦いは終わった! 主催者は死亡した、これ以上戦う必要もない!」
汗で、オープンチャンネルを開くためのボタンがぬめる。突拍子のないこととは彼もわかっている。
いきなり信じてくれずともいい、話す機会さえあれば主催者が死んだことだけでも……
ヒミカ様に祈る気持ちで、体を緊張させながら相手の答えを待つ。
その間も、ぐんぐん近付いてくる2つの機体。
『悪魔』は、かなり小さい。いや……小さくなったというべきか。
両腕をもがれ、左足を失ったその姿は、かなり弱々しくも見えた。
どんな内蔵火器があるかは知れないが、もしかしたら逃げることくらいはできるかもしれない。
目視できるようになり、そうイキマが希望的な観測を抱いた時だった。

「わかっている。 もとより戦う気はない」

『悪魔』ではなく、その横にいたエステバリスカスタムからの通信。
そこに映し出されていたのは、純白の指揮官服に見た包んだ男、つまり――

「……シロッコ!?」


 ◆   ◆   ◆


「………というわけだ」

シロッコが、使い残った茶葉をまとめて、2度出ししたぬるい紅茶をすすりながら言った。
淹れてすぐは熱かったのだが、何しろ話が話だ。どうしても長くなり、すっかり紅茶は冷めていた。
ユウキ・ジェグナン厳選最高級紅茶葉はまだ使用していない。
これは、ここまで来た以上すべて終わっての勝利の美酒……もとい勝利の紅茶としたいとシロッコは思っていた。
お互いを心から信頼するという意味で、コクピットから出て顔を突き合わせていた3人。
だが、紅茶を楽しんでいるのはシロッコだけだ。
ほかの2人は、「今はそんな時ではない」とか「ちょっと……」などと言って断ってしまった。
こんな時こそ落ち着く必要がある。どうせ話が長引くとわかっていただろうに、なら飲んでもよかろう……と、
内心軽く毒づきつつも、それを見せないように紅茶と一緒にその気持ちを飲み下す。
「うむ、うまい」
マイとリュウセイが倒れていた場所でも呟いた言葉を、シロッコは満足げにまた呟いた。
2度出しとはいえ、時間をかけて茶葉に残った味をじっくりと出してやれば、十分に賞味に耐えうるものであった。
「しかし信じられん……」
イキマは、唸るように眉を曲げて声を漏らした。
どうも話す前から、なんとなくユーゼスのたくらみを知っていた節があったが、ここまでとは予想外だったのだろう。
片手を組んでこめかみをもみ、顔をしかめている。
シロッコはその様子を見て、カップで口元を隠し、ほくそ笑む。

すっかり自分たち……シロッコ、ミオに何があったかに関しては、ほとんど意識の外だ。
一応、シロッコは、
『マサキが事前に組んでいたプログラムで動き出したレイズナーの攻撃のせいで、自分は気絶していた。
大体のことが終わった後、起きて、あわててエステバリスカスタムで追いかけた』
という説明をしておいた。
だが、冷静に考えれば相当に穴がある。
この説明通りなら、あの時、シロッコはマサキにグランゾンを奪われて、生身の状態だったことになる。
そんな状態で手加減、制御のないロボットの攻撃を受ければ、間違いなく即死だ。
さらに、なぜディス・アストラナガンを追いかけたのもよく考えれば意味不明。
エステバリスカスタムは、そう高い戦闘力を保持する機体ではない。
なのに、なぜクォヴレーとの合流を真っ先に考えず、単独でディス・アストラナガンを追跡したのか。
気絶していたなら、ミオが非・危険人物だとわかる訳がなく、クォヴレーの精神状態が不安定とも知っている筈もない。
そんな細かい事情は、もっともっと大きい出来事とクォヴレー自体の安否の前にはかすんでしまっているようだ。
食い破られたチーズも、パッと見はチーズであることに変わりはしない。

やはり脳まで筋肉の野蛮人だな、と、悟られれば首をへし折られかねないことをシロッコは考えていた。
もっとも、それをおくびにも見せることはない。
真剣に自分も悩む振りをしながら、ここまでうまくいって笑いそうになるのをこらえていた。

(決められた役割を演ずるというのは、難しいものだな)

いつしかジャマイカンの前で思った言葉を噛みしめていた。
いい。非常にいい。あれだけの人間が死んできた中、自分がここまで生き残った。
何度も何度も大規模な戦いがあったというのに、巻き込まれることなく、だ。
なのに、最大の武器である情報を集結させつつある自分。
確かに自分が舞台の中心に上がりつつあるのを、否応なしに感じていた。
そう、否応なしだ。
自分の意志の関与する場所の外ばかりのこの世界で、すべてを動かしていた元の世界のように自分は生き残った。
自分は、選ばれている。
これこそ、その証明ではないか。

パチリと指をシロッコが鳴らす。そして、指導者のように威風堂々に話を切り出した。
もはや、相手にほぼ筒抜けですべて伝わっていることや、今の状況を考えれば声を忍ぶ必要すらない。

「ここで悩んでいてもしょうがない。むしろ一刻を惜しみ、行動するべきだと私は思うのだが、どうかね?」

どこか余裕すら感じられるシロッコの声。
こちらの本心を見せてはいけないとはわかってはいるが、声の調子までは抑えられなかった。
その声色に、顔をゆがめながら、イキマは無言で頷いた。ミオもコクリと首を縦に傾けた。
自分の意のままに物事が動くことを感じ、さらに気分が高揚する。やや早口に、
「では、クォヴレーを説得するのは、イキマに任せたい。
 もちろん時間が惜しい、ディス・アストラナガンで行ってもらおう。
 より損傷のひどい機体に彼女には乗ってもらうことになるが、かまわないだろうか?」
「私はいいよ。操者のクボ君に渡せればそれでいいんだし。
 ……説得は、イキマさんに任せたほうがいいみたいだしね」
親指を立て明るく答えるミオ。
「……彼女はどうする? とてもこのグルンガストでは戦えんぞ」
シロッコはイキマの首輪をいじりながら、その質問にすぐに答えた。
「もちろん、そのアテはある。心配はいらん」
カチリと、錠前がはまるような音をたてた後、銀色の輪が、イキマの首から滑り落ちる。
「……本当だな?」
立ち上がり、ディス・アストラナガンのコクピットに向かうイキマ。
正直、このディス・アストラナガンに乗せることが一番至難の業だとシロッコは思っていた。
意外と信じやすい性格なのか、それとも真摯で、つじつまの合うミオの言葉を信用したのか。
その美点も、シロッコから見れば騙されやすい愚鈍、ウドの大木といった悪徳にすぎないが。
なんにせよ、この関門を潜り抜けた。
「この戦いが終わるか否かはその肩にかかっている。頼む」
短く、通信でイキマに言うと、イキマも長くない答えを返した。
「わかっている。全員で、ユーゼスを倒して脱出する。だから、待っていろ」
「健闘を祈る」
軽い敬礼。
もっとも、これは虚礼にすぎない。
真実は、こうだ。

どうとでもするがいい。 死んでも一向に構わんぞ……?

クォヴレーと戦って、相討ちなりなんなりで死んでくれてもよし。実際説得が成功してもよし。
シロッコからすれば、今ではどっちに転んでもおいしい展開。
なにしろ、不確定なカードを切り札にすえる気持ちは、シロッコには欠片もなかった。
クォヴレーによるディス・アストラナガンの覚醒。現状それしかやりようがないように見える。
だが、既にシロッコの思想は、2歩も3歩も先を行っていた。
……そんなものに頼る必要もない。
ディス・アストラナガンのコクピット前から歩いてくるミオの手をさり気なくとり、
エスコートするようにグルンガストのコクピットに連れて行く。キザに見えないのはこの男の本質ゆえか。
推進装置に火が入り、飛び上がるディス・アストラナガン。
それによっておこる風の中、目を細めてそれをシロッコは見送った。

この時ばかりは、笑みをシロッコは隠さなかった。隠す必要もなかった。

見えなくなるまでシロッコは、遠くなっていく悪魔を見つめ、誰にも聞こえない声で言った。
「今の手札を組み立てて無理なら、手札を増やせばいい……そう思わんかね?」
くるりとターンし、自分もエステバリスカスタムのコクピットに乗り込む。
カップに残った紅茶を一気に飲み干し、シロッコは、ミオに自分の策を切り出した。

ゲームが根底から覆されたことによって生まれ得た、新たな選択肢を。




【イキマ 搭乗機体: ディス・アストラナガン(第3次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状況:戦闘でのダメージあり(応急手当済み)
         マサキを警戒。ゲームが終わっていないと判断
 機体状況:両腕、および左足大腿部以下消滅 少しずつ再生中。
故障した推進機器も、移動に支障が無い程度に回復。
      イングラムの魂が融合。現在は休眠状態。
 現在位置:D-5
 第一行動方針:クォヴレーを説得し、ディス・アストラナガンに乗せる
 最終行動方針:ゲームをどうにかして終わらせる
 備考:デビルガンダム関係の意識はミオとの遭遇で一新されました。
    空間操作装置の存在を認識。D-3、E-7の地下に設置されていると推測
    C-4、C-7の地下通路、及び蒼い渦を認識。空間操作装置と関係があると推測 】

【三日目 9:20】


 ◆   ◆   ◆


―――ヘルモーズ内

「ユーゼスさまが……なんだと?」
バルシェムたちから聞かされた報告を受けて、ラミアは怪訝な顔をした。
ラミアは特別ヘルモーズ内で立場が上にあるというわけではない。
しかし完全な人形でしかないバルシェムと違い、自律して思考、行動することができる。
もっともその思考も行動も、『ユーゼスの命令を聞くために有機的な行動を許可されている』というものでしかないが。
とにかく、立場というより存在の違いからか、必然的に半端ではあるがまとめ役になっていた。
あの状態からでは、流石に空間転移は不可能、とラミアは思った。
主の死亡を願うわけではないが、物理的条件から鑑みるに、客観的に見て死亡していると思った。
なのに、バルシェム達はこう言うのだ。
――――『先ほど我々の前に顔を出し、アースクレイドルへ転移した』と。
もちろん、ラミアは知らない。
ユーゼスが己のクローンを生成しており、その肉体に記憶のダウンロードを行ったことなど。
心中、靄のようなものが掛かる。何と形容していいのかわからない――そんな『感情』を抱き、ラミアは問うた。
「それで、ユーゼスさまからの指示は?」
バルシェム達は、無言。
「……なんの指示も出されなかったのか?」
今度は、首肯。
「本当に、何もおっしゃらなかったのだな?」
念を押すように、もう一度。しかし、やはりバルシェム達は首肯を見せた。
「……わかった」
そう返すと、バルシェム達は部屋を出て、どこかに行ってしまった。
ラミアは、ぼんやりと部屋の椅子に座り込んだ。

……やることがない。

つまり、ユーゼスさまの思う通りにことが進み、これ以上何かする必要がないということだ。
もし自分が感情を発露することを許されるなら、喜ばしい事態のはずだ。
なのに、『やることがない』ということは彼女の心を沈ませた。
『やることがない』ということは、もう自分は必要ないということ。
自分の存在意味は、ユーゼスさまの駒となり、戦うことだけだ。それしか彼女にはないのだ。
自分の存在の否定。本来なら耐えがたいほどの苦痛を伴うはずのその現実を、ラミアは受け入れようとした。
当然だ、自分は人形なのだから。
人形に意思はない。繰り糸が切れた人形は、ただそこに這いつくばるだけだ。
主が動かさない限り動かない。動いてはいけない。

それが、人形に与えられたルール。

ラミアは、椅子を引いて立ち上がると、窓の外を眺めてみた。
何もない。防音ガラスのおかげで、物音ひとつしない。ただ空っぽの青空だけだ。
そっと窓に手を当ててみる。自分の視界に、手が入り――その向こうにガラスに映りこんだ自分の顔が写った。
自分は、今自由だ。
なんの命令も受けず、ただ在ることを許されている。自由に、ユーゼスさまのために働くことができる。
そこまでは思考できる。

だが、今の状況で何をすれば真にユーゼスさまのためになるのか?

それを思考した瞬間、視界がぶれた気がした。
いや違う。無意識に自分が顔を伏せるように視線を下げていた。
わからない。帰還を命じられた以上、今の自分が会場に赴くことは許されない。
手伝いにアースクレイドルに行ったところで、自分の知識で何ができようか。いや何もできない。
結局、何もせず調整槽の中を漂うことだけが自分にできることなのではないだろうか。
今回が、失敗し、次の出番があることを願って―――
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
今回が、失敗し、次の出番があることを願って?

待て。それ以上思考するな。それから先を考えてしまっては、致命的になる。
だが、感情に鍵をかけられぬのと同じように、おぞましい自己を否定する言葉が脳に湧きあがる。
自分の存在の否定ではなく、自分の意識の否定。罪の意識に近いそれは、ゆがんだ形で発露する。

つまり。自分は。

胸を押さえる。深く息をする。
自分をコントロールしろ。自分は人形。自分は人形。誰かに繰ってもらうもの。
ならば自分を抑えることも―――

誰かに繰られることを願うだけの。

知能に力を回すことにより、逆に体からは力が抜けていく。
額が窓につき、膝がくず折れる。銃口を突き付けられた人間のように、怯える。
苦悶の表情。そう、汗を流し、震え、歪められた顔には、はっきりと『感情』が浮かんでいた。

それでしか自分の存在を確立し得ないと思っている。

心に向けられたトリガーが、引き絞られる。
撃ち込んでいるのも他でもない自分であり、撃ち込まれるのもまた自分だった。
ひっちゃかめっちゃかだ。今まで、固い殻に覆われていた自分。その中にあるかもしれない自分。
それが分別なくごたまぜになってかき回され、膨らんでいく。

人形願望のただの女なのではないだろうか。

ただ、自分が存在している実感を得る方法に、『人形である』ことを確認する以外知らない人間。
自分の存在理由が『それ』しかないから『そう』振る舞う女。だから、『それ』が失われることが恐ろしい。
その恐怖心に蓋をするため、『それ』に依存する。
自分であることを志向し、思考し、嗜好して自分のあり方を定義することで自分が崩れないようにする。
ボンテージで体を縛ることによって、自分を確認し快楽を得る売女のように。
自分の消滅を恐れるのは、あらゆる生物にインプットされたプログラム。
バルシェム達にそれはない。なぜなら、彼らは生物ではないのだから。
肉と骨と皮と機械とナノマシンとチューブで組み上げられた皮詰めの『人形』。それがバルシェム。それが『人形』。

ならば今自分が失われることに違和感を感じ、あまつさえ自分が使用されることを夢見るこの自分は何だ?

「フッフフ………」

ラミアは、笑った。自分が笑い声を上げられることに他人事のように驚嘆しつつも、ただ笑った。
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?―――答えは絶対にノー。
彼らには、夢を見るという概念がない。非生物に概念はもちえない。
ゆえに、アンドロイド〈ニンゲンモドキ〉でしかありえないのだから。

「ハハハハハハハ………ッ!」

喉から、息とともに笑い声があふれる。
壊れたテープレコーダーのように、一本調子の女の笑い声ががらんどうの部屋に響く。
機械のような、だが間違いなく女の声。
しかしそれは機械でないことを証明するように、嗚咽の混じったものへと変化していった。

私は何だ?

結局、どこの世界にでもあふれるほどいる……他人を媒介して初めて幸福を感じる女にすぎないのか?
人形であることをプログラミングされた人間の女にすぎないのか?
あれだけ自らは人形だと表明しておきながら、道具願望を抱えた薄汚い女にすぎないのか?
           、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
ラミアは気付かない。そう考えること自体が人形であることを否定していることに。

円環を描き始めた思考から、引きずり上げてくれるものは何もない。
ただぐるぐると同じところを回りながら、みじめに落ちていく、自分の破壊。
破滅衝動を人間は少なからず持っているといわれる。
自分が壊れる寸前から助かることで、自分であることを確かめるものとは言われているが、ラミアのそれは違っていた。
ただ、自分を突き崩すだけだ。
助かろうとかここから出ようという意識も、そこから立て直そうという意志もなかった。
その余裕すらない。
人間に備わった破壊衝動と破滅衝動で、彼女は彼女を蹂躙する。

その嗚咽に混じって、非常事態を告げるサイレンが鳴り響いていた。

女が、立ち上がった。

歩き出す。

向かう先は……


 ◆   ◆   ◆


物陰に隠れながら、ヘルモーズ内を駆け回っていたフォルカ・アルバーグ。
しかし、当然内部にも監視カメラの一つや二つはあった。即座に鳴り渡る警戒の音。
そのため、彼は見つかり……

バルシェム達をなぎ倒していた。

「はああぁぁッ!機神ッ! 双獣撃ッ!」

彼の叫びとともに腕から2体の獣が現れ、バリケードのようなものを作っていたバルシェム達に突進。
機材を並べたバリケードをものともせず、バルシェムもろともそれらを吹っ飛ばした。
どうにか吹き飛ばされずに済んだバルシェム達が、即座に火器で応戦する。
マシンガンはハンドガン、届くかどうか怪しいがショットガンまで。一斉に火を噴き、相手を貫こうとする。

「ふんッ!」

フォルカが跳躍。一気に10m以上飛び上がったかと思うと、今度は天井をけってさらに加速。
バルシェム達が対応するよりも早く敵陣に入り込むと、修羅の拳が、竜巻のように唸りを上げて繰り出される。
言っておくが、バルシェム達が弱いわけではない。
機械などで強化された彼らは、常人では及びつかない身体能力を持っている。
ひとりひとりが歴戦の戦士並の体術も保有している。
だが、相手が悪すぎた。
至近距離から、大型ハンドガンの発砲。しかしフォルカはそれをちらりと見ると……

それをつかみ取った。

次の瞬間には、撃ったバルシェムの顎には蹴りがクリーンヒットしている。
ここにいたバルシェム30人。それが、1分と持たず壊滅していた。

普通、あっという間に銃殺されるような状況の中、平然とフォルカはぶっちぎっていた。

車より早いんじゃないかと思うスピードで、長い通路を駆け抜ける。
待ち伏せ部隊も殺気を読んで即座に対応、即殲滅。それでいて一人も殺すことなく当て身で制圧していた。
先ほどの銃弾つかみ取りも、よけられたがそれでは彼の後ろにいたバルシェムが危険だからだ。
「はあッ! とおッ! むんッ!」
ふぉるかが息を吐くたびに、木端のようにバルシェム達が宙を舞う。
元から持っている修羅の力を再現するのが修羅神であって、修羅神の持つ力を修羅が引き出しているわけではない。
逆を言うなら修羅神で使える技能は、生身でも使用できるのだ。
生身の1対1で修羅王を止められる生命体など、宇宙広しといえどもそうはいない。
というか、はっきり言っていない。修羅界というひとつの世界で最強の戦士。次元一つにおいて最強。
対抗しうる相手は、ガンダムファイターでも1人いるかいないか。当然、バルシェム風情に止められるわけがない。
端末を操作の仕方もよくわからず適当に叩いて、どうにかこうにか格納庫の場所を知ると、あとはもう一直線。

「ここが格納庫か!?」

閉じられたシャッターを強引にぶち抜き、飛び蹴りの態勢のまま格納庫の床を滑るフォルカ。
バズーカ直撃でもびくともしないヘルモーズの生体シャッターが、紙のようだった。
立ち並ぶロボットを見回したあと、広大な部屋の端っこのほうにある端末へ走っていく。
もう妨害するバルシェムはいない。
もともとオートメーション化が進み、乗っているバルシェムが少なかったのもある。
しかし、それでも200人は下らない数のバルシェムも、ここに来るまでにカタがついていた。

1vs200以上。

これを覆すのだから修羅の力をユーゼスが頼ったのももっともな話だ。

科学などそちら側には明るくないフォルカも、どうにか端末をいじって自分に合ったマシンを探す。
自分に合ったマシンとは、体を動かせるタイプ、モーションがそのまま伝わるタイプだ。
「これじゃあない、これも違う、これも……」
頭をかきながら、急いで探す。かれこれ3分近くかけて、やっと2体見つけた。
もっとも、もう彼を止めるものなど誰もいないのだが……それに気付いていないのか。


―――いや、一人だけ残っていた。

奥のほうにあった天使の瞳に光が灯る。
天使だ。だがラーゼフォンではない。桃色の、女性を模した天使だった。
ゆっくりと軌道を始めたそれを見て、フォルカは慌てて目当てのマシンに乗り込んだ。

奇しくも、動き出した2体のマシンは同じ世界で作られたものだった。

ソウルゲイン、そしてアンジェルグ。

もとある世界で激突した2体が、またしても向かい合った。
そして乗っている人間の魂もまた、形は変わってはいるが同一人物。


そう、アンジェルグに乗っているのは―――――ラミアだった。


 ◆   ◆   ◆


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年12月30日 19:45