限りある永遠の中で(1)


「反応値B-、念動フィールドの収束率をA+に設定……CPSの稼動状況はどうなっている?」
ユーゼスの言葉に合わせて、4,5個のウィンドウが現れ、現在の状況を表示していく。
ユーゼスはそれを見て、仮面の下で顔を歪ませた。
それらの推移値は……ユーゼスからすればあまり芳しくないものだったのだ。
負の心は加速的に集まっている。人数こそ減ったものの、この12時間の膨大な死者の心は水準値を越えていた。
しかし、ゼストに宿すための、『魂』がまったく足りていない。

あの、マシュマーの一撃。

それは、ユーゼスにとって最悪のケースを導いたと言ってもいい。
ゼストに込める負の心は集まっているが、肝心の肉体が完成していないのだ。
事前に、多元世界を巡りこのヘルモーズのズフィルードクリスタルを打ち込むことで、
様々な文明の超技術を記憶させた素体のズフィルードを用意してある。
肉体も、異相空間で安定を取り戻しつつある。
奇しくも、オルトスではないとはいえベターマンを取り込んだことで肉体はDG細胞の再生が促進され、持ち直したのだ。
不幸中の幸い、というものだろう。早期に素体ズフィルードを組み込み、欠損を補っているのも大きい。
クロス・パラダイムゲート・システムを筆頭に、
ズフィルードクリスタル、マシンセル、ターミナス・エネルギー、時流エンジン、XNガイスト、ラムダ・ドライバ、
ベターマン、ダイダルゲート、次元連結システム、超重力エネルギー装置、ゲッター線、DG細胞………………
上げていけばきりがない力の数々がクリスタルを通してゼストへ流れ込み、その肉体を完成させていく。
ここまで聞けば、普通は順調に完成に向かっていると誰でも思うだろう。
しかし、実際は違う。
ユーゼスはズフィルートクリスタルの使用によりヘルモーズ最大の切り札であるズフィルードを失った。
さらにゼストも決定的な欠陥、『魂』の不足を抱えている。
いくら強靭で強壮で強烈な力を持った存在も、動くための意志を持たねば意味はない。それでは空っぽの人形だ。
最後には、自分自身を組み込み意識を統率することにより、自らの意思で動かすつもりだ。
しかし、あまりにも膨れ上がった力は、一人の人間には荷が重過ぎるのだ。
強引に一人で力を管理しようとすれば、あっという間に自分の精神もゼストも崩壊してしまうだろう。
だからこそ、『魂』を集め群体となし、それらを統率することで負担を減らすのだ。
それに、とユーゼスは内心付け加える。
力は意志を持って当然、いや持たねばならない。

なぜなら、

意志のない力は、結局ウルトラマン達と何も変わりはしないではないか、と。

あの日、自分が言った言葉を、ふとユーゼスは思い出した。
「お前達のように正体を隠して他文明の危機を救うのではなく、当初から絶対者として宇宙に君臨する。
 それが…超絶的な力を持った者の定めだ!!ウルトラマン、お前達は私や銀河連邦警察の宇宙刑事達に不可能なことを……
 お前達はあっさりと成し遂げ、無力な人々に奇跡を見せる。その結果、人々に与える印象は何だ!?
 私が汚れた大気を命をかけ浄化しようとも………宇宙刑事達が命をかけて犯罪者を捕まえようとも………
 ウルトラマンの存在を知った人々が思うことは一つ!

 『ウルトラマンがいれば何とかしてくれる』!!

 それだけだ!そして自ら動くことを忘れる!
 意味もなく意思もなく人々を救うお前達は自分達より弱い立場にいる者を甘やかしているだけだ。
 偽善者面で神を気取っているだけなのだ!お前達は弱者の自立を遅らせている!
 宇宙はお前達の存在など必要とはしていない!!
 この宇宙に必要なものは…全てを支配する者!そう……因果律を調整する者なのだ!!」

あの時ほど饒舌になったことは……その前にもその後にもないだろう。
思えば、自分も若かった。あれほど深い絶望と見果てぬ羨望と燃え尽きるほどの熱望を抱いたことはあっただろうか。
ユーゼスは後ろを振り向き、一本の円筒の筒を眺めた。
あの時と、自分は違う。熱く流動していた心は冷え、確固たる意志をもって固まった。
そして、確実に神の座へ昇りつめつつある。円筒の中に入っているのは、……とある人間のクローンだ。
これも、あの時と同じ手順で作ったもの。しかし、これは絶対に自分を裏切らない。
………第2、第3のイングラムなど生み出さない。やつのような存在は必要ない。
背を向けていたウィンドウをちらりと見て、今の時刻を確認する。
現在の時刻は、7時38分。現状は大きな転換を見せていた。
消えた3人もあるが、何よりも大きいのは、マジンカイザーの大破、クォヴレーのディス・アストラナガンの拒否。
MAP上の光点や、大まかなデータによる予測ではあったが、判断は正確だった。
会場の現状は、ゼストの現状と真逆にユーゼスにとって最高の状態にある。
いくら調整の機体が終わったとはいえ、さしものユーゼスも、最悪グランゾン、ディス・アストラナガン、ブライガー、マジンカイザー、
さらに加えて、フォルカ・アルバーグと 一騎当千の兵<ツワモノ>たち全員を ゼスト以外でまとめて相手にしては、勝つのは厳しい。
マイ・コバヤシというサイコドライバーになるかもしれない強念者もまだ生存している。
人数は減りつつあったが、反攻の中核は決して崩れていなかった。
しかし、この一件で、彼らの戦力の大きく減退した。
W17の正体が周知のものとなりつつあることは、もはやさしてマイナスにもならない。
ここまで泥沼化した今なら、勝手に潰しあうだろうし……あの人形は、最大の仇敵たるヤツの精神を落としめた。
もうこれだけで何にも勝る金星と言えただろう。
しかし、とユーゼスはここで思考を反転させた。
逆に今のW17の存在は、マイナスにしかならないのではないか?
意のままに動く戦力としては相変わらず優秀だが、その正体が知れた今、逆に相手が手を組むのを促進させてしまう可能性がある。

―――ユーゼスがスパイを使い、殺し合いを煽っている。ここは手を組むべきだ。

そう言い出す可能性は、もはや確定的なほど高い。
最大の敵である自分と、目の前に迫った脅威の前では、多少の不利益など吹き飛んでしまう。
それに、会場のカタがついても、ゼストが生み出せないのでは意味がない。
またもう一度この儀式を開くには、エネルギーが足りなすぎる。貯めるには果たして何度因果を巡ればいいか見当がつかない。
―――結局、大なり小なり遅かり早かり自ら手を加える必要はあるか。
会場を操作し、狭めて魂を集めた所をゲートで強制的に回収する?
――あまり良い手とは言えない。空間操作はダイダルゲートが行っている。
下手に操作して負荷がかかりすぎ、破損してはそれこそ水の泡だ。
どこに散ったか観測し、各個捕獲?
――これは手間がかかりすぎるし、それほど何度もゲートを起動するエネルギーがあるとは思えない。
ユーゼスは会場を眺め、頭を巡らす。
フォルカ・アルバーグ達を示す2つの光点は、E-4を今現在南下している。
あまり移動速度が速くないのは、E-4の惨状と変化を見て、何か調べでもしているせいなのか。
クォヴレーは、あの転移が起こった戦場周辺をうろうろしている。おそらくイキマを追っての行動だろう。十分に理解の範疇にある。
シロッコは、一人明後日の方向へ移動している。この男の行動は毎回そんなものだ。捨て置いていいだろう。
さて、どこに何があって、どう魂が貯まっており、どうすればいいか?
仮面のこめかみの上ににあたる場所をコツコツとユーゼスが叩いた。
<アラート!>
突然ウィンドウがポップアップされ、黄と黒の縞模様を背景に!マークが表示される。
「何事だ?」
慣れた手付きでキーを2,3度タッチ。警告の内容を表示させようとして―――気付いた。
目の前の液晶のMAP、E-4上の光点が5つに増えたことに。
ポン、と軽い音をたて、内容が映し出される。
<空間転移の出力が行われました。転移先の現状を確認しますか?>

その時だった。
ユーゼスが、最高で、同時に最大に危険な賭けを思いついたのは。






「それにしてもなんて有様だ………」
フォルカが目の前の荒野を見てつぶやいた。
目下すべてのものが、なくなっている。そっと、その荒野の中心にあったクレーターに竜が下りる。
まるで凹凸がなく、鏡面のように磨かれた地面。
まさか、一々その凹凸を削るような真似で、できたものではないだろう。
フォルカは、その状態の原因に、大まかな当たりに付けた。
おそらくは、強烈な熱による地面の蒸発。それも、急激で、圧倒的な火力による。
「断面に、融解が見られます。……多分、その通りだと思います」
エルマも、科学的見地からその現象を解説しようとした。
「いや、いい」
フォルカはそれを手でさえぎる。
別に言葉で説明せずとも、それが途方もない力がここで消費されたのは容易に予想がつく。
フォルカの頭に浮かぶのは、あの悪魔の姿。
エルマの話と合わせても……あの時の禍々しさにふさわしいまでのパワーを持った存在だったと確信できる。
……デビルガンダム。
あれは、明らかに、増殖、再生を行っていた。
それから9時間余りたった今、どれだけの力を持っているかは想像がつかない。
しかも、この現象があの悪魔によってもたらされたとして……何故ここでそのような力を発したかも謎だ。
「……くっ」
情報が、足りなさすぎた。
彼自身、積極的に動き回っていたが、接触した参加者はかなり少ない部類だ。
自分一人の情報では限界が来ている。結果として、それを否応なしに感じていた。
生き残りは、もう一桁まで減っている。なのに、何も見えない。
歯噛みするが、何か変わるわけでもなく。
「ん……んん……リュ……ウ……」
コクピットのマイの声が、フォルカの耳に届く。
「起きたか……?」
フォルカがマイに――といっても通信手段が貧弱なため、エルマに声を拾ってもらって
再通信をしているのだが――通信を通して話しかける。
「フォ……ルカ?」
完全に、意識が覚めたようではなかったが、確かに半覚醒状態にはあるらしい。
フォルカは、わずかに思い悩んだような表情を見せた。

―――――この少女に、知らせるべきか。リュウセイという青年の死を。

いつかは、必ず教えねばならない現実だ。
しかし……親しい他者を失うということの痛みは、フォルカもよく知っている。
今の、弱々しいこの少女に伝えてもいいものか。今教えることは、彼女の心を壊しかねないのではないか。
エルマも似たような心情なのだろう、おしゃべり、というわけではないが、割と口を開くこのAIも黙っている。
ポツリと……マイがいった。
「リュウが……『後のことは頼んだ』と言っていた」
「何?」
ある意味、予想の外の一言。エルマと、フォルカが顔を見合わせる。
………彼女は、すでにリュウセイの死を知っている?
二人の疑問に対する答えのように、マイは続ける。
「『俺はここまでみたいだ』だから、『お前がユーゼスを、ぶっ飛ばしてやれ』って」
「起きて急で悪いが……そのユーゼスについて……教えてくれないか?」

マイは、うなずいた。フォルカを見る。
その眼には……親類縁者を失い弱った少女の心ではなく、強い戦士の心が映っていた。

………………
……………
………
……

「……というわけなんだ、ユーゼスが何を目標としてたかは……よくわからない」
マイの話を、腕を組み聞くフォルカと、目をピカピカと光らせるエルマ。
「話を聞いてたら……運命すら変える力を欲しがってるみたいですけど……」
「その力で、何をしたがっているか、だな」
フォルカは、ユーゼスの目的についてマイに聞いてもみたが、結局かんばしい答えは得られなかった。
分かったことは、バルマーでも謎の存在であり、素顔は誰も見たことがない。
どこから来たのかもわからないが、CPSというシステムで、運命すら変えようとしている……。

完全に、その行動の果てにある目的が見えない。

例えば世界征服も、その後の世界を自分の望むものにするために行うものだ。
あくまで、それ自体は手段ではあって目的ではない。 求める目的に比例して、大きな行動が必要となるだけだ。
では……運命を変えることでユーゼスがやろうとしている目的とは?
「だが、逆にはっきりしたこともある」
フォルカは、腰を上げると、また竜の背に戻ろうとした。
「ええっ、なんですか?」
エルマの質問に、背を向けたままフォルカは答えた。
「ユーゼスは、ここでその『運命を変える力』を手に入れようとしている。
おそらく、この殺し合いも、デビルガンダムの存在も。そのための手段だろう」
そう言って、手綱を2,3度引く。竜が羽ばたき始める。
エルマもマイも、R-1のコクピットに戻っていく。
その時だった。
「……ッ!!」
真っ先に気付いたのは、フォルカ。
空を睨みつけ、急いでエスカフローネを人型の形態に変形させ、R-1のコクピットを守るように立つ。

空が、割れた。
冗談ではなく、突然空がひび割れ、中から3体の機動兵器が落ちてきたのだ。
「あれは……」
エルマが真っ先に口を開いた。
「あれです!あの天使みたいな白い機体です、確かにトウマさんたちの記録に写っていた……」
「ユーゼスの送り込んだ刺客か」
フォルカは即座にどう動いてもいいように、臨戦態勢をとる。
だが、エルマとマイの驚愕はこれでおさまらない。
「く……ここはどこだッ!? 現在位置の情報を再観測……」
木原マサキの声。
「この声も、記録にあった……木原マサキの声です!」
通信用のウィンドウに、その男の顔が表示される。なんと、首輪がない。
これにはさすがフォルカも驚く。
まさか、一気にこの戦い最大の邪悪であり、最大の情報を持つであろう存在が揃ったのだから。
「させん!」
最後の一機が、動き出そうとしたグランゾンに剣を振り上げる。
「え……今度はイキマさん!?」
3人目は、別れた反逆の牙組の一人。邪魔大王国幹部イキマの声。
「ちょっと待ってください、何があったんです一体!?」
完全に話が見えぬまま、当事者同士で話は進んでいく。
グランゾンは咄嗟に、一日一回しか使えぬネオ・ドライブを使ってグルンガストから距離をとった。
「チィッ!脳筋クズがッ!お前が戦う相手は俺ではなくそこのユーゼスの犬だろう!」
「黙れッ!仲間を殺したお前を放置してはいられん!」
天使が、フラフラと立ちあがりグルンガストの横に立つ。
「悪いが、木原マサキ……お前を放置はできん」
天使から聞こえてくるのは、よく通る女性の声。

「どうなっている……?」
フォルカは、両者の間で、拳を構えたまま固まっていた。
まず、木原マサキは、非常に危険な存在だ。
どうも首輪を解除しようとはしているが、他人を殺すこともいとわない存在。
次いで、確定ではないが、資格と思われる天使に乗る女。
ユーゼスのスパイとしたら、殺し合いを煽ろうとしているはず。
どちらの道、この女も危険だ。
最後に、イキマ。
彼は、あくまでエルマの仲間らしい。聞く限りの言動では、決して裏表のある存在とは思えない。

それらが、なぜこのような形で敵対しているか?

大まかな道筋が見えない以上、どこにどう加勢していいかがわからない。
どちらにしろ、危険人物に加担することになる。
確定的に危険な木原マサキと、信頼できるであろう仲間といる疑惑の女。
どちらかを不用意に打ち倒せば、この一桁まで減った大詰め、致命的になる。

落ち着け、状況を整理しろ。

大きく肩で呼吸し、乱れを整える。
「何してるんです、早くイキマさんを助けないと!」
エルマの声を、この時だけは意識の外に出す。

イキマが、何故マサキを攻撃するか?
―――――先ほど仲間を殺されたと言っていた。
女は、何故マサキを攻撃するのか?
―――――………    分からない。
逆に返す。
マサキは、何故ユーゼスの刺客から攻撃を受けるのか?
――――ユーゼスにとって好ましくない存在だから。消したいから。
それは何故か?
―――――……
―――――首輪がないから。
女がユーゼスの刺客でないとすれば?
―――――同じく仲間を殺された故か。だが、いつ女はイキマと合流した?
待て。奴が刺客でないとすれば、エルマから聞く話におかしい所ができる。
エルマが嘘をついている可能性は?エルマこそが刺客ではないか?
―――――そうだとしたら、知りすぎるうえに、あまりにも多人数のことを話しすぎだ。
―――――袖を広げれば広がるほど、嘘はほどけやすい。
そうだ、マサキの先ほどの言葉。
『お前が戦う相手は俺ではなくそこのユーゼスの犬だろう』
意識を他人に向けさせるでまかせにしても、これはユーゼスが刺客を送り込んでいると知らねば出ない言葉だ。
マサキが、エルマの仲間とまともに情報交換できるとは思えない。
つまり、別の角度から、奴も刺客の存在を嗅ぎ取ったということか。

さらにフォルカは思考する。
目の前では、まだ小競り合いに近いとはいえ戦いが始まりつつある。

「―――――みえたッ!」

フォルカが走り出した。
下手に、手間取っては話がこじれる。一意専心、狙うは一撃!
3人が戦う現場へ、走りこんで割って入る。3人が、同時に闖入者へ視線を向ける。
フッと、エスカフローネがぶれるように消える。
「とおぁ!」

「何―――――!」

その一撃は、まっすぐ、天使のもとへ。
ラーゼフォンが、慌てて飛び上がろうとする。
しかし、

―――――ズシィ!

グランゾンの重力結界が、ラーゼフォンから自由を奪う。
咄嗟にマサキは、フォルカの攻撃に重ねて見せた。
グルンガストが、それを解こうと、ファイナルビームを撃つ。
それが着弾する前に、ラーゼフォンを機神拳が打ち貫いた。
グランゾンの肩にファイナルビームが当たる。
重力結界が消える。それにより、ラーゼフォンが弧を描き舞い上がった後、落ちる。

―――フォルカが動き始めて、合計2秒間の攻防だった。

「待てッ!木原マサキ、話がしたい!」
「イキマさん、話を聞いてください!」
そして、二人が同時に口を開いた。

   ◆ ◆ ◆

一刻後――

「ふん、そんなことは単純なことだ。この女の行動を予測しただけだ。
 直接引き込もうとしてかたくなに拒否したのもある」
フォルカが、『何故この女が刺客と思ったか』を聞くと、つまらなさ気な声で言った。
「よくもぬけぬけと……!」
イキマが歯噛みする。
今にもマサキにとびかかっていきそうなのを、エルマがなだめ、フォルカはエスカフローネの手で制する。
あくまで、フォルカとエルマの提案で『一時的に』休戦しているだけだ。
女――ラミアは、フォルカが先ほどの一撃で気絶させた。
甘くはないかと問われたが、望んで人を殺す理由もない。
『内部に直接拳の振動を通した。昏倒してしばらく起きない』
と一応答えておいたので、どうにかこの場は成り立っている。

「こういった場所では、言った言わないは重要になる。ログもあるから聞くといい」
グランゾンから、録音テープが流れる。

「……聞こえているか、白い機体のパイロット」
「何の用だ。まさか今更、命乞いでもあるまい」
「俺を見逃がせ。ユーゼスを倒すのが目的なら他にやることがあるはずだ」
「……呆れた奴だな、ガルド・ゴア・ボーマンを殺したのはお前だろう」
「奴が俺を殺そうとしたから、正当防衛で反撃したまでだ。
 ……言っておくがこれは忠告だ。俺の敵はユーゼスのみ。
 貴様らなんぞに関わっている暇は無いが、死にたいというなら容赦はせんぞ」
「貴様一人で何ができる。せいぜいが殺し合いに乗って勝ち残ることくらいではないのか」
「女、そこの奴やクォヴレーから聞いていないのか?首輪を外したのはこの俺だ。
 そしてこの閉鎖空間からの脱出方法も、必ず見つけ出してみせる。
 だが、問題はそこから……お前達はユーゼスと戦う際に必要な、貴重な駒だ。
 死んでもらっては困るというのは事実なんだよ」
「そうか……お前は本気でそう考えているのだな……」
「そうだ。だから――――ッ!?」

ここで、大きな物音。

「女、貴様は何故、俺に襲い掛かってくるのか……ユーゼスを倒されたらまずいからか?
 この殺し合いも佳境に入ってきた段階でその強力な機体、しかもほとんど無傷……。
 そうか……貴様がユーゼスの犬かッ!ならば全て合点がいく!」
「…………ッッ!!」
「女、これが最後だ。死にたくなければ俺と一緒に来い」
「スパイの貴様を奴等と置いておくのもまずいのでな。
貴重な駒を減らされてはたまったものではない……。
 それに俺も貴様に聞きたいことが山ほどある。残らず喋ってもらうぞ」
「……知らんな。私がスパイ?何の話だ」
「今更とぼけても無駄だ。だがもし貴様がそうでないというなら、どちらにしろここで死ね。
 さっきの行動で貴様はユーゼスより俺を倒す事を優先した。利用価値の無いクズに用は無い」
「さあ答えろ!貴様も命が惜しいなら、イエスと言え!」
「……ノーだ。何故なら私は人形だからな」
「貴様……ならば死ぬしかないぞ!」
「ノーと言った!人形に死への恐れなど存在しない!」

………
すべての録音が流れきったあと、マサキがまた口を開く。
「と、いうわけだ、これで分かっただろう」
「……テープを改ざんしているかも知れんぞ?」
イキマの声に、マサキとエルマが否定の言葉を述べた。
「戦闘中、この短時間にか? 少しはものを考えてからしゃべったらどうだ、クズが」
「残念ですが、特に改ざんの跡はありません。おそらく……オリジナルのテープです」
「たしかに、そのようだ」
フォルカはうなずいた。
感づかれた時の息の乱れに加え、自己申告まで入っているこのテープは、決定的だった。
「次は、イキマの話を聞かせてほしい」
マイが言うと、今度はイキマが話し始めた。
あの後の、地獄の顛末を。こちらも、凄惨なものだった。
一体どれだけの血が流れたのか―――
「……そして、ガルドが殺された。それを追う形で、渦に巻き込まれて……」
「今に至るというわけか」
「あれは、正当防衛と言ったがな、聞こえなかったか?」
イキマの怒りの気配が膨れる。
「……あまり、煽るな。 ……俺も、似たようなものだ」
怒りをぐっと抑え、冷静に話を聞くことに努める。
なるほど、エルマの話と同じだ。ここで、エルマの言動が本当であることをフォルカは確認した。
……放送があってこの2時間で、一気に情報がそろっていた。
しかし、唯一そろわないのは、デビルガンダムの情報。あれが、今どうしているのか……
それが気掛かりだった。
「それで、どうする? もうこの女を生かしておく理由もあるまい」
マサキは、ラミアを指さして言った。
「……何か事情があるのかもしれん、起きたら彼女からも話を聞く」
フォルカが答えると、マサキは喉を鳴らした。
「自らを『人形』と言い切った女が……裏切るとは思えんがな。
 それに、事情があったとして、どうする? お前に何ができる?」
言葉の端にあるのは、嘲り。

『お前に何ができる?』

そうマサキは言っていた。
「それでも、だ。 それに、『人形』では決してない。 Noと答えたあの、強い声は……
 『人形』には無理だ。」
―――それに、無理だとしても救ってみせる。何としても。
口には出さない。
「く……うぅううううう……」
思ったよい話が長くなったのもあり、ラミアが眼を覚ました。
自分の失態に気付いたのか、飛び退くように機体を立ち上げる。
「よせッ!こちらに戦うつもりはない。 そちらの事情も分かっている。
 何故ユーゼスにつく!? 事情を話してくれ」
フォルカは、咄嗟に戦闘態勢をとる3機に割って入る。
「……どうやら、すべて知ったようだな」
ラーゼフォンが、光の弓を構える。
「ああ、お前が、何故ユーゼスにつくのか、ということ以外は」
フォルカの言葉に、ラミアは冷たく言い放つ。
「私は、命令をこなすための人形だ。それ以上でも、それ以下でもない」
「それなら、木原マサキの提案をのみ、行動してもよかったはずだッ!
 だが、あれほど頑なに拒否したのは、他でもない、自分の意思じゃないのか!」
「だから言ったろう? 無駄だとな」
木原マサキは、滑稽な喜劇を見るような眼で、ラミアとフォルカのやり取りを見ていた。
「あれは……あくまで自分の判断で行動しただけだ」
「それを『意志』というんだ!」
禅問答のような、やり取りだった。
ラミア態度は変わらないが……それでもフォルカは会話とはいえないような会話を続ける。
「ほう?」
マサキが、わずかに眉をあげた。
ラミアが、徐々に答えに窮しているのだ。
しかも、攻撃を仕掛けるようなそぶりもあれからしない。
………本当に人形というなら相手の話など聞かず攻撃を仕掛けたほうが早いのに。
「だからそれは………ッ!」
「それは………なんだ!?」
ほかのものは、口をはさまない。その二人のやり取りの最中………

「よくやった、W17.結果的にお前は『番人』たる奴に大きな傷を残した」

すべてを遮って、冷たい声が降る。
その場にいる全員によく響く声で通信が入った。それは……この戦いの元凶、ユーゼスの声。
「ユーゼス・ゴッツォ……ッ!何かが来る!」
フォルカが呟いた。
パチパチと何もない場所が瞬く。突然、渦状に空間が歪み、『門』が現れた。
「お前たちは、よくやってくれた」
重苦しい音を立てて、円形の『門』が横滑りして開いていく。
「本当に私の思ったとおりに動いてくれた」
中から現れたのは、100mを超す巨体。『ホワイトデスクロス』と地球で呼称されたマシン。
「故に、最期は私が相手をしてやろう。心残りなく逝けるようにな」
6本の腕を持ち、蛇の下半身を持つ邪神像。かつて、『α』の世界でユーゼスが乗り込んだモノ。
「あれは……」
マイが、震えた声でその巨体の名を告げた。

「……ジュデッカ……ッ!」




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最終更新:2008年09月06日 19:43