5分前


木々が生い茂る森の中を、司馬遷次郎の駆る一台のバイクが軽やかに駆け抜けていく。
上空ではロイ・フォッカーのアルテリオンが先行し、その後ろを木原マサキのレイズナーが追っていた。
(ちっ…このペースでは、このまま何もなくても基地に辿り着けるのは次の放送の直前になるな…)
前方を走っている遷次郎のスカーレットモビルを見下ろし、マサキは心の中で舌打ちした。

「おいおい、マジかよ…」
ドラグナー3型のレーダーを確認したイサム・ダイソンは驚愕した。
自分達が現在居るG-6の基地に向かう複数の機体を確認したのだ。F-6側からニ…いや、三機。
正確には、仲間であるヒイロ・ユイのM9のある格納庫の真下…
地下ドックにもう一機、惣流・アスカ・ラングレーのダイモスが眠っていたのだが…
偶然にも機体の存在を示すアイコンがM9と重なってしまい、イサムはこの存在を見落としてしまっていた。
最初に基地に来た時には全く存在していなかったものが、
突如として現れているのだから、不可抗力と言えない事もないのかもしれなが。
F-6側の機体は、すでに基地にかなり接近していた。このままでは接触は時間の問題だ。
「くそっ、ゲームに乗ってない連中ならいいが…」
相手の解析を始めながら、イサムはヒイロのいる格納庫へと向かった。

「…何かあったのか?」
身の丈より大きな角材を握り締めたヒイロが、彼の予想よりはるかに早く戻ってきたドラグナー3型を見上げた。
角材を床に置いたヒイロの前で鎖に縛られていたヤザン・ゲーブルは、安堵の表情を浮かべている。
(死ぬほど痛いって、あんなので殴られたら死ぬに決まってるじゃねーか…ま、ここは様子見だな)
ヒイロによる死ぬほど痛い…かもしれない拷問を免れ一人ほくそ笑むヤザンをよそに、イサムは状況説明を始めた。
「この基地に近づいて来てる奴らがいる!それも三機だ!」
「…そうか。通信はできたか?」
「今やってるところだ。この辺は電波障害がきついみたいで、もうちょいなんだがな…」
周辺一帯はイサムのドラグナー3型によってジャミングがかけられていたが、元々ミノフスキー粒子の濃度も濃い地域でもあった。


「よし、これで…」
解析が進み、次第に相手の構成が分かってきた。
一機レーダーでとても小さく表示されていた機体があったが、どうやらそれはかなり小型の機体…いや、恐らくは車両らしい。
もう一機は戦闘機。そして残りの一機は…
「おい、ひょっとしてこいつは…マサキか!?」
見覚えのあるデータが見つかり、イサムは驚きの声をあげた。
「マサキ…?」
マサキとはヒイロにも聞き覚えのある名前だった。移動中にイサムが話していた、ゲーム中に見つけた仲間の一人。
もっとも、あの『赤い機体』の襲撃後は消息不明になっていたとの事だったが…
「あの野郎、生きてやがった!」
イサムの声はすでに喜びに包まれていた。相手がマサキだと確信しているらしい。
「…通信はできるのか?」
「ああ、あいつとは何度も通信してるからな。すぐに繋がるぜ!」

「通信だと?」
G-6の基地を目前にしての通信。それは木原マサキにとっては幸運だった。
わざわざ通信をしてくるという事は、相手が好戦的である可能性は低いといえる。
前方にいるフォッカーや遷次郎に気取られぬよう、マサキは回線を開いた。
「おい、マサキか!?マサキだよな!?」
「えっ…イサムさんですか?」
「ははっ、生きてやがったかこいつ!」
「イサムさんこそ!無事でよかった…!」
モニター越しに、お互いの笑顔が光った。紛いのない、心からの笑顔が。
(イサム・ダイソンか…まだ生きていたか。だがこれで労せず基地に辿りつけるな…!)

…紛いのない、心からの笑顔。

こうして、マサキは移動を続けながらもイサムから色々と情報を聞き出した。
イサムにはヒイロという仲間とヤザンという捕虜がいる事。彼らと自分達以外には周辺に機体は見当たらないという事…
マサキも情報を伝えた。もっとも、首輪の解析については一切触れず、同行している味方の名前程度の情報だったが…
「…なに?ロイ・フォッカーだって!?」
だったのだが、遷次郎に続いて告げたフォッカーの名前に、イサムは意外な程に大きな反応を見せた。
「知り合いだったんですか?」
「知り合いも何も、ロイ・フォッカーっていえば、俺の元居た世界じゃ何十年も昔のエースパイロットだぞ!
 しかも、とっくに戦死してるってのに…」

イサムは驚愕していたが、マサキにとってはさほど驚くべき事ではなかった。
これまでに会ってきた様々な人物達。彼らは自分とは少し、或いは全く異なる世界からこの世界に連れて来られていた。
中にはホシノ・ルリやテンカワ・アキトのように同じ世界から連れて来られた者もいた。
また、これまでの移動中に話を聞いた限りでは、
遷次郎の息子・宙も父と同じようにゲームに参加させられ、そして命を落としたようだ。
つまり、同じ世界から複数の人間がゲームに参加する事は決してありえない事ではない。
ましてや世界だけではなく、その時代や年号が違うケースも少なくなかった。
という事は、同じ世界出身でありながらも時間にズレが生じている事も、十分に考えられる。

そんな事を考えているマサキに、イサムは執拗にフォッカーに回線を繋ぐよう求めた。
まだフォッカーと遷次郎に一連の状況を説明していなかったので、
マサキはかなりいらつきながらも二人に簡単に事情を話し、フォッカーに回線を繋いだ。
「あんたがマサキの仲間のイサム・ダイソンか?」
「うおっ、やっぱり本物かよ…!」
モニターに現れたフォッカーの顔に、思わずイサムは背を仰け反らせた。
「…でもま、多分腕は俺の方が上だな」
「あん?何か言ったか、お前!」
「い、いえ、お会いできて光栄であります!」
(ふぅー、やべぇやべぇ)
イサムはこの基地に来て、初めて冷や汗をかいた。


「何だったんだ、あいつは…」
通信を終えたフォッカーは、イサムの言動をいぶかしむしかなかった。
どうも、自分の事を知られているような、何か奇妙な感覚。
基地で会ってみればはっきりするのだろうが、そもそも『あの』マサキの仲間である。
どうにも不信感が拭い切れないマサキと、そのマサキの仲間というイサムのあの態度。
いよいよフォッカーの疑念は増すばかりだった。

次の放送まで残り20分前後となったが、マサキ達は基地に辿り着く事ができた。
基地に味方がいて、しかも着けば補給も受けられるとあって、多少はペースアップを図る事ができたからだ。
唯一の足手まといだった遷次郎も操縦が上達しており、森の中をかなりのスピードで走り抜けていた。
「マサキ、ちゃんとここまで来れたみたいだな!」
基地の入り口からドラグナー3型に乗ったイサムが出迎える。
彼の前にはマサキのレイズナーの他、遷次郎のスカーレットモビルとフォッカーのアルテリオンを確認した。
「腕に…リフターもやられたんですね…」
マサキは心配そうな表情を作り、さも仲間を案じる台詞を吐いておいた。
「お前はどこもやられてないみたいだな。ったく、どうやったら無事でいられるんだよ…っておい、何だあのバイクは…!」
遷次郎の姿を初めて視認したイサムは驚愕した。人間ではなく、小型の機械が乗っているからだ。
「それについては、この後ゆっくり説明しよう」
遷次郎は慣れたように返し、イサムに案内を促した。


格納庫に入った一同はヒイロが乗り込んだM9と、そのそばで鎖に縛られ、あちこちを殴打されたヤザンを見た。
「げっ、結局そのでかい角材でやったのか…で、こいつは何か吐いたか?」
「いや…まだ何もない」

あれだけ痛めつけていながらけろりとイサムに返事をしたヒイロに、フォッカーは不信感を抱いていた。
(こいつ、あれだけ平気で人を拷問にかけたのか…しかも、そんな奴が『あの』イサムの仲間…!)
実際にはヤザンはイサムやヒイロに攻撃を仕掛けているし、
ヤザン自身はかなりの人数を殺している以上、このくらいの拷問は受けてもやむを得ない。
だが、これまで殆どのゲームの参加者と遭遇しなかったフォッカーに、そんな事情が分かるはずがなかった。
一方、全身に激痛が走っているヤザンだったが、彼はなおも不敵に笑っていた。
(これだけ機体が揃うとは…なら、隙だっていつかは生じるはず!)
彼の目に留まったのは、遷次郎のスカーレットモビル。他の機体に比べれば、いざという時の強奪はいくらか容易なはずだ。
(ま、何かゴタゴタでも起きれば一番なんだがな…)
何も起きないはずはない。何故かヤザンはそう確信していた。

「…補給や情報交換は後にしよう。もう間もなく放送だ」
ヤザンの視線に気付く事もない遷次郎が取り仕切り、一同は時計に目を向けた。
放送まで、あと5分――

「…結局、次の放送までに基地に行けなかったな…」
E-6の森まで進んだ碇シンジは、周囲を生い茂る木々の中で歩みを止めた。
「基地に行くのは、放送が終わってからにしよう……アスカ、どうか無事でいて…!」
シンジは祈るように時計を見つめた。放送まで、あと5分――

そして、地下ドックには…アスカと闘将が今も眠り続けていた。



【木原マサキ 搭乗機体:レイズナー/強化型(蒼き流星レイズナー)
 パイロット状態:絶好調
 機体状態:ほぼ損傷なし
 現在位置:G-6基地(格納庫内)
 第1行動方針:放送終了後に補給と情報交換を行う
 第二行動方針:遷次郎とともに首輪の解析と解除を行う
 最終行動方針:ユーゼスを殺す】

【ロイ・フォッカー 搭乗機体:アルテリオン(第二次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:多少の疲労。マサキ、イサム、ヒイロに多少の不信感
 機体状況:弾数残りわずか
 現在位置:G-6基地(格納庫内)
 第一行動方針:放送終了後に補給と情報交換を行う
 第二行動方針:ユーゼス打倒のため首輪の解析仲間を集める
 最終行動方針:柿崎の敵を討つ、ゲームを終わらせる】

【司馬遷次郎(マシンファーザー) 搭乗機体:スカーレットモビル(マジンガーZ)
 パイロット状態:良好。B・Dの首輪を入手。首輪解析済み(六割程度)マサキと宙を重ねている節がある。
 機体状態:良好
 現在位置:G-6基地(格納庫内)
 第一行動方針:放送後に補給、情報交換、首輪の解析及び解除を行う
 第二行動方針:マサキを守る
 第三行動方針:ユーゼス打倒のために仲間を集める
 最終行動方針:ゲームを終わらせる
 備考:首輪の解析はマシンファーザーのボディでは六割が限度。
   マシンファーザーの解析結果が正しいかどうかは不明(フェイクの可能性あり)
   だが、解析結果は正しいと信じている】


【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス) 
 パイロット状態:気絶中
 機体状況:全体的にかなりの破損。右足は戦闘機動をおこなえば砕ける可能性あり
      後頭部タイヤ破損、左腕損傷、三竜棍と双竜剣を失った。
 現在位置:G-6基地(半地下ドッグ)
 第一行動方針:碇シンジの捜索
 第二行動指針:邪魔する者の排除
 最終行動方針:碇シンジを嬲り殺す
 備考:全てが自分を嘲笑っているように錯覚している。戦闘に関する判断力は冷静(?)】


【イサム・ダイソン 搭乗機体:ドラグナー3型(機甲戦記ドラグナー)
 パイロット状況:疲労
 機体状況:リフター大破 装甲に無数の傷(機体の運用には支障なし) 右腕切断 補給完了
 現在位置:G-6基地(格納庫内)
 第一行動方針:放送終了後、情報交換を行う
 第二行動方針:アムロ・レイ、ヴィンデル・マウザーの打倒
 第三行動方針:アルマナ・ティクヴァー殺害犯の発見及び打倒
 第四行動方針:アクセル・アルマーとの合流
 最終行動方針:ユーゼス打倒】

【ヒイロ・ユイ 搭乗機体:M9<ガーンズバック>(フルメタル・パニック!)
 パイロット状態:若干疲労
 機体状況:装甲表面が一部融解。補給完了
 現在位置:G-6基地(格納庫内)
 第一行動方針:放送終了後、情報交換を行う。ヤザンを尋問し、情報を引き出す
 第二行動方針:トウマの代わりにアルマナの仇打ち
 第三行動方針:アムロ・レイの打倒
 最終行動方針:トウマ、クォヴレーと合流。及び最後まで生き残る】


【ヤザン・ゲーブル 搭乗機体:無し
 パイロット状態:頭痛あり、全身打撲、チェーンで縛り上げられている
 現在位置:G-6基地(格納庫内)
 第一行動方針:隙を見て脱走(可能ならば機体も奪取)
 第二行動方針:どんな機体でも見付ければ即攻撃
 最終行動方針:ゲームに乗る
 備考:スカーレットモビルが狙い易いと考えている】


【碇シンジ 搭乗機体:大雷鳳(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:良好、全身に筋肉痛
 機体状態:右腕消失。装甲は全体的軽傷(行動に支障なし)。
      背面装甲に亀裂あり。燃料が残り少ない。
 現在位置:H-6森
 第一行動方針:放送を聞いた後、G-6基地へ向かい燃料を補給する
 第二行動方針:アスカと合流して、守る
 最終行動方針:生き抜く
 備考1:奇妙な実(アニムスの実?)を所持】

【二日目 17:55】





前回 第188話「5分前」 次回
第187話「そして偶然が連鎖する 投下順 第189話「花-algernon-
第189話「花-algernon- 時系列順 第191話「リョウト

前回 登場人物追跡 次回
第177話「集う者たち~宴の準備~ 木原マサキ 第195話「反乱軍
第177話「集う者たち~宴の準備~ ロイ・フォッカー 第195話「反乱軍
第177話「集う者たち~宴の準備~ 司馬遷次郎 第195話「反乱軍
第177話「集う者たち~宴の準備~ 惣流・アスカ・ラングレー 第201話「ミダレルユメ
第177話「集う者たち~宴の準備~ イサム・ダイソン 第195話「反乱軍
第177話「集う者たち~宴の準備~ ヒイロ・ユイ 第195話「反乱軍
第177話「集う者たち~宴の準備~ ヤザン・ケーブル 第195話「反乱軍
第177話「集う者たち~宴の準備~ 碇シンジ 第201話「ミダレルユメ


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最終更新:2008年06月02日 03:04