人の造りしモノ


「おーい、何か見つかったか?」
 鋼鉄の巨人が建造物の中をチラチラと覗きながら尋ねた。高台にある無骨な建造物。
外にあったヘリポートから、基地又は工場だったのではないかと彼、流竜馬は推測した。
中には様々な機械が置いてあるようだが、何だかは分からない。
その建造物は、彼のダイテツジンが入るには少し(?)小さかったからだ。
ならば機体から降りればいいだけの話だが、そう簡単にもいかない。
これだけ目立つ場所にあれば他の者の目に触れていても不思議はないだろう。
ましていかにも「何かありますよ」と言わんばかりの建造物だ。
自分たちと同じように探索に来る者がいるかも知れない。
そして、それがゲームに乗った殺戮者である可能性も否定できない。
待ち伏せるなら絶好の場所だ。自分が殺戮者なら少し離れた場所からココを狙い撃つだろう。
中に入っていく無防備な背中を、機体から降りた無力な背中を。
(俺でも簡単に思いつく。あの意地の悪い主催者が考えつかない訳がない)
今、ハッターが中を探索をしている。ならば、その背を守る事が最善の策だろう。
「散らかり放題、だが先客の気配は、ない! まるでバーゲンセールの後、だな!」
 建物内のアファームドが、大げさに肩をすくめながら溜息をつくような素振りを見せた。
随分と人間くさい素振りが出来るロボだな、と苦笑すると共に気づく。
以前、自分はゲッターロボを手足のように操っていたと思っていたが、まだまだだったと。
そしてそんなハッターの素振りが、殺伐としかける自分を引き戻してくれていると。
「まともなモノは少なそうだが、売れ残りの掘り出し物を、探してみる!」
 そう言ったハッターが数少ない戦利品を抱ええて出て来るまでの間、竜馬は
周囲を警戒しつつ、ダイテツジンが何の目的で製造されたかを考えていた。
誰に造られたモノであれ、何かを守るために作られたモノであって欲しいと。


建物内部の探索を始めて、どれだけ時間がたっただろう。
 相変わらず、有人機の気配はなかった。
「まずは、皆が待ち望むこれまでの死亡者発表と行こうか・・・」
 耳障りな放送が流れてる来る。しかし聞かないわけにはいかない。
「ふざける、な!」
 思わずハッターが拳を壁に叩きつける。運搬用リフトが大きな音を立てて倒れた。
あの部屋には大人ばかりではなかった。少年もいた。少女もいた。
名前も知らない。素性も知らない。しかし彼らは生きていた。あの時まで生きていた。
無論、殺戮者に身を落とした返り討ちにあった者もいただろうが、そんな事は同でも良い。
ユーゼスという男が元凶であると、ハッキリ分かっているからだ。
「・・・・・・」
 命を落とした全員に短く黙祷を捧げると、再び探索を始めた。

 この建造物は何かのロボ(MS?)の格納庫として使われていたものらしい。
らしい、というのは残されているのは腕部や脚部といった予備部品ばかりで、
丸々1体などという大当たりは出てこなかった。内部をくまなく探せば1体分くらい
揃うかもしれないが、原型自体を良く知らないハッターに組み立てられるわけもない。
「しかし、ワザととしか、思えん!」
 散々漁って、見つけ出した武器を蹴っ飛ばす。それは見た目も派手な兵器の数々。
詳しい事は分からなかったが、明らかに本体からのエネルギー供給を必要とする兵器、
いわゆる専用武器と呼ばれるモノ達だった。一々主催者の意地の悪さが見え隠れする。
そしてその意地悪の影に、出血大サービスで補給をしてくれるカーペンターズ・ポイント
(略してCP?)も設置されていた。しかし故意か偶然か、残念な事にアファームドは
全く消耗していなかった為、「何も起こらないスイッチ」と見過ごしてしまったのだ。
 本当に底意地が悪い主催者だと言えよう。
(偶然の発生率を上げ、因果律を操作する。それも私だ)どこかで誰かが呟いた。

「友よ、すまない!ろくなモノがなかった!」
 時間をかけた割りに収穫がなかったハッターが竜馬に頭を下げる。
両手には短い鉄骨(高硬度のH鋼)、その体には作業用チェーンブロックが
投げ縄のようにタスキ掛けされていた。
SSテンガロンと合わせると、まるでカウボーイのようだった。
「何かが近づいて来ている。気をつけるんだ!」
 彼方を見れば、確かに西側から巨大なトレーラーが高台へ向かっていた。

「まだ着かないの?見た目どおりのウスノロね!」
 トレーラータイプに変形したダイモスの操縦席で惣流・アスカ・ラングレーが
一人つぶやく。エネルギー節約と狙撃の危険性を考えて、不得意な空中を避け、
地上を走行する事にしたのだ。ただ強いだけでは天才とは言えない。
周囲の状況を的確に判断し、冷静に最善を選択できる事が天才パイロットの
必須条件だと、少なくともアスカは思っている。思っては、いる。
だが、この異常な状況下に置いて、シンジ対する劣等感の拘っている時点で、
既に矛盾を生じているのだが、彼女は気が付かない。気が付こうとしないのだ。
一人だというのに頻繁に口を動かす事が、孤独への恐怖感と気づかない。
「なんなのよ、あれ?!バッカみたい!」
 高台にそびえ立つ派手派手な配色の鋼鉄巨人。その巨人と眼が合った気がした。
「だっさいカラーリング! 馬鹿シンジの棺桶には、お似合いだわ!」
 ダイモスの配色を棚に上げて、己に言い聞かせるように声を張り上ると、
変形しながらダイモスは鋼鉄の巨人に向かっていった。

「変形した?!ただのトレーラーにしては、大きいと思ったが!」
 ダイモスの、あまりに見た目どおりの変形に竜馬が多少動揺する。
最初のトレーラーを見た際に場違いだと感じたのだが、今この周辺にはユーゼスに
集められた参加者以外は存在しない事を改めて思い知らされた。
「俺は流竜馬! 敵意はない! 話がしたい!
「?! シンジじゃない?!」
 アスカのシンジに対する殺意が高まりきる前に、竜馬の声は届いた。シンジではない。
その事実だけで急速に戦意が削がれていく。派手派手な配色も影響したかもしれない。
「俺の名はイッシー・ハッターだ。ユーゼスを成敗するために、仲間を探している」
 ハッターが続けた。こいつもシンジじゃない。ならば用はないのか? 
「ここに男の子がいない? 大人しくて冴えない、暗そうな子」
 情報は全ての要とも言える。馬鹿シンジとは違う。そうだ忘れるな。私は天才なんだ。
「女、の子?だな(人探しか? ゲームに乗ったわけじゃなさそうだな)」
「東側から来たが、まだ他の者には出会えていない」
 東から来たのなら初号機を破壊したのはコイツ等じゃない。となれば北か?
「俺達と一緒に行動しないか?ユーゼスを倒すには仲間が必要だ!」
「そう、一人より二人、二人より三人だ。チームを組めばきっとユーゼスも倒せる!」
「チーム?!チームですって!」
 竜馬もアスカも、過去では三人一組みのチームで戦っていた。信頼すべき仲間と
憎むべき競争相手。お互いに大きな意識の格差がある事に気が付かない。
「そうだ!君の、大事な人も、早く見つかるぜ!」
「大事な人・・・そうよね。取り返しが付かなくなる前に・・・見つけなきゃ!」
 数時間前に味わった喪失感を再び繰り返すのはゴメンだった。シンジを殺すのは私だ。
「よっしゃ!たった今から、俺達は、仲間だ!」
 単純馬鹿。私の引き立役くらいにはなるだろう。こんな奴らなら何時でも殺せる。
今はシンジを見つける事。利用出来るモノは使うだけだ。アスカはそう考えた。
「俺は流竜馬。改めてよろしく。ところで、君の名前は?」
 竜馬が操縦席から身を出すと挨拶をしてきた。彼なりの信頼の証らしい。
(もう信用してるっての? バッカじゃないの? 本当に男って単純な生き物ね)
 他人を信じる心は人間だけが持つモノ。他の動物には真似できないモノ。
 少女は男の、アスカは竜馬の信頼の証に対して応えた。もはや戻る事のない遠い過去。
あの時は自然に笑えた。アスカは満面の笑顔を浮かべ、操縦席から身を出して名乗った。 
「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく!」
 それは偽りと嘲り、そして狂気によって造られたモノ。



【流竜馬 搭乗機体:ダイテツジン(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:良好
 機体状況:良好
 現在位置:G-6の高台から北の川沿いに西へ
 第一行動方針:他の参加者との接触
 第二行動方針:接触した相手が話の通じる相手ならば協力する、戦意があるようなら排除する
 最終行動方針:ゲームより脱出して、帝王ゴールを討つ】

【イッシー・ハッター 搭乗機体:アファームド・ザ・ハッター(電脳戦記バーチャロン)
 パイロット状態:良好
 機体状況:良好(SSテンガロンは頭に完全固定)
 現在位置:G-6の高台から北の川沿いに西へ
 第一行動方針:仲間を集める
 最終行動方針:ユーゼスを倒す
 備考:ロボット整備用のチェーンブロック、短目の鉄骨(高硬度H鋼)2本を所持】

【惣流・アスカ・ラングレー 搭乗機体:ダイモス(闘将ダイモス) 
 現在位置:G-6の高台から北の川沿いに西へ
 第一行動方針:碇シンジの捜索
 第二行動指針:邪魔するものの排除
 最終行動方針:碇シンジを嬲り殺す】


【初日 19:00】





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第109話「龍と悪魔 投下順 第111話「バトルロワイアル
第106話「歪み 時系列順 第109話「龍と悪魔

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第88話「ハッターのミス 流竜馬 第118話「熱血コンビと美少女(自己申告)
第88話「ハッターのミス イッシー・ハッター 第118話「熱血コンビと美少女(自己申告)
第96話「夕焼け空、狂気の闘将 惣流・アスカ・ラングレー 第118話「熱血コンビと美少女(自己申告)


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最終更新:2008年05月30日 05:12