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*&color(red){shine} さて、最後の御伽噺〈おとぎばなし〉を語ろう。 悠久を超えて続いた、荒唐無稽な物語の紡ぎ手たちの行く末を。 果ててなお、終わらぬ夢の未来の先を。 ――夢。 ―――ずっと、終わらない夢。 ――ずっとずっと夢の中にいる夢。 ―――夢しかないから現実がない。 ――けど、これは夢だと分かってる。 ―――なら、現実と夢の境界線はなんだろう? 「おいおい起きろ、いつまで寝てるんだ?」 誰かに肩を揺すられることを感じ、彼は目を覚ました。 目の前にあるのは、デスク。乱雑に積まれた本の山、そして図面。 どれもこれも、もう見慣れた職場のものだ。顔をあげると、白色灯が目に飛び込んで痛かった。 「僕は……寝ていた、のか?」 開口一番、眠気眼をこすり、銀髪の髪を掻きあげる彼に、彼の同僚は呆れた声を出した。 「ここずっと根を詰めすぎなんだ、たまには休んだほうがいいぞ。もう朝の5時だ、彼女も待ってるぞ」 「この時間なら、もう寝てるよ。ただ、もう少しでできそうなんだ。これができたら君たちもだいぶ楽になるはずだよ、ギャバン」 「噂の超電導コンバットスーツか? 今のままでも結構俺たちは満足してるけどなあ」 腕を組んでうーんと唸る同僚のギャバンに、彼は指を立てて自慢げに言った。 「超電導コンバットスーツの試作として出来た『バリオゼクター』でも、通常のコンバットスーツの300%以上の戦闘力を発揮できるんだ。  ギャバン、シャリバン、シャイダー……君たちエース級三人を一人で相手にすることだって可能になる。  これまで以上に過酷な任務にも、より安全に参加できる。『彼ら』の手ばっかり借りるわけにはいかないからね」 「『彼ら』? ああ、ウルトラマンたちか」 「そう、彼らの力があれば、何でもできるだろうけど……でもやっぱり僕たちだけでできることをやっていくべきだと思うんだ」 「そうだな、俺たちみんなの力で世界を少しずつ平和にしていくんだ」 大きく頷くギャバン。 白衣を脱いで壁にかけ、代わりに防寒用のコートを彼ははおる。その様子を見て、ギャバンも帰り支度を整えた。 研究畑は、場合によっては徹夜もよくある。 まばらではあるがまだ職場に残っている仲間たちに一声あいさつをし、頭を下げると彼はギャバンとともに銀河連邦警察局を出た。 外は、日が沈んでいて暗くなっている。が、もう30分もしないうちに太陽が顔を出すだろう。 少し寒いくらいの空気を気分転換も兼ねて彼は肺腑一杯に吸い込んだ。 「そういえば、お前がきてもう6年か。記憶、何か思い出せたか?」 玄関近くのクレジット・ロッカーにカードを押し当て、中身を出しながらギャバンが言う。 「時々、浮かぶような気がするけど……一体自分がどこの誰なのか、誰か両親なのかもさっぱりだ」 「まあ、気長に探せばいいさ。俺も同じ生まれだ、いくらでも協力するぜ」 彼には、記憶がなかった。いや、ココロごと丸ごと失っていたと言ってもいい。 突然、銀河連邦警察局の前に現れ、廃人となっていた彼が発見されたのが6年前。 治療のかいもあって心を得て、銀河連邦警察局に勤め出してからは2年になる。 非常にすぐれたバード星の医療技術でも、ココロを取り戻すことはできなかった。記憶もなく、ほぼ別人格だと彼は説明を受けたが、彼としては別人と言われても彼は彼でしかない。 せめて何か手掛かりを、との本人の要望もあって様々な検査が行われたが、分かったことは1つ。 遺伝子解析の結果、両親がバード星人と地球人のハーフということだ。 記憶を失った彼とギャバンが出会ったきっかけもこれだった。 同じ出自をもつ彼とギャバンは、今日も夜の街を歩き家へと急ぐ。 「地球じゃカードはあまり使えないんだって?」 「そうなんだよ、おかげで現金を持ち歩かなきゃならなくて、よく忘れてなあ。電にも借りたし本当に困った」 「……きちんと地球の貨幣でも、シャリバンに借りた分は返しておきなよ」 そんなことを言いながら、暗闇を照らしだすほどの光にあふれた夜の街を見上げ、彼はふと息をつく。 彼が極度の自然愛好家であることを知っているギャバンは、励まし、フォローするように、彼の肩を叩いて言った。 「ほら、今度お前も休暇を取って地球に来ないか!? 緑も多くていいところだぞ、お前も故郷に行けば何か思い出すかもしれないぜ。   お前も『大気浄化弾』のためにも環境の測定をしたいと言ってたんだ、一石二鳥じゃないか」 「ああ、あれなら開発をやめたよ」 「そうそう……って、おい!?」 地球を美しい形に戻すと『大気浄化弾』開発に腐心していた彼が、それをあっさり手放したことに驚くギャバン。 そんなギャバンを尻目に、彼は光であまり見えない夜空を見上げて言った。 「『大気浄化弾』は開発しない。あんなもの使って一時的に浄化できても、地球に住む人たちが変わらなければ同じことの繰り返しだよ。  それに、地球は汚染物質のわりに汚染が遅いんだ。調べてみたら……どうやら異次元世界に汚染物質が流れ込んでるらしい」 異次元空間と聞いてギャバンはいやな顔をする。 「異次元世界……マクー空間みたいなもののことか?」 「僕は、この空間を「クライシス空間」と名付けてる。おそらく、この空間は地球の汚染物質で深刻な危機〈クライシス〉を引き起こしてる筈だ。  むしろ、崩壊していないのが不思議なくらい。そう言う意味では『怪魔界』と呼んでもいいかもしれない」 「なら、なおさらなんで開発をやめたりなんかしたんだ?」 「言ったじゃないか、地球に住む人が変わらなきゃ意味がないって。使って、また汚して、また使って……じゃきりがない。  大丈夫、きっと変われるよ。人は弱い生き物じゃない。苦しくても倒れはしない」 何もかもを失い、這い上がった彼だから言える言葉だった。 さまざまな人々の温かい助力あってこそ、彼はこうして心を得た。きっと、一人きりなら彼は今でも壊れたままだったろう。 見ず知らずの自分を受け入れてくれた素晴らしい人々が彼の側にいた。今自分の隣に立つギャバンもまたその一人だ。 ココロもない、知り合いもいない。 それでも人は助け合って信じあって生きていける。 人間は、力は弱くとも心は決して弱くない。そう今の彼は心の底から信じている。 今の彼の人格は、たった2年で形成された人格だ。人によっては吹けば飛ぶ薄っぺらいものと思うかもしれない。 けれど、今も積み続ける生きる実感は、彼にとっては短いながらもかけがえのない記憶。 何もかもが新鮮で輝いて見えるこの世界を守るための仕事をできることも誇りの一つだった。 突如、記憶にノイズが起こる。きしみとともに、フラッシュバックする幻影の記憶。 またか、と思いながらも横のギャバンにはどうにか気取られないように姿勢を意識して保ち、歩き続ける。 ――このままやつらに任せていれば地球環境の崩壊はさけられん。私は『大気浄化弾』の使用を提案する。 ――却下だ。それを使用すればレーダー網に甚大な影響が出る。結果、侵略行為による原住民の殺戮が起こる可能性がある。 ――それになんの問題が!? 地球が滅びなければまた人口は立て直せるが人が残っても地球が滅びれば終わることになる! ――宇宙コロニーという手段もある。とにかく、『大気浄化弾』の使用は却下する! ――そんな馬鹿な理由があるものか、母の星が死んでいくのを見過ごせるはずがない! ――いい加減にしろ、何度言おうと首は縦にふれん! おまえを謹慎処分に処す、ユーゼ……… 「おい、どうした?」 ギャバンの声にはっとなる。慌てて小さく首を小さく横に振った。 「別に、なんでもない……なんでもないよ」 嘘だ。時々こうして襲う記憶が、自分を締め付ける。 この記憶のよみがえりが起こるたびに、彼の脳には、記憶ではなく莫大な知識が与えられた。 まだこの世界では実用化されてない、いやそんな概念すらないような兵器や機械の知識が自分に刻まれるたび、全身が震える。 ―――いったい、自分はどんな人間だったんだろう? 浮かぶ断片の記憶には、未来の日付やありもしない星の記憶がある。 そしてなにより……思い出すたびに、誰かに裏切られた酷く冷たく悲しい感情と一人ぼっちの寂寥感が、わき上がる。 けれど、彼はそれを未来に変えた。さびしくても、誰かがいることを信じた。禁忌の知識を、人命救助のために使った。 「そうか……とにかく、無茶はせずにゆっくり休めよ、明日はせっかく休日なんだ」 「そう、するよ」 二股に分かれた道。ギャバンの家は右へ。彼の家は左の道を先に行ったところにある。 ギャバンは、当然最後に別れの台詞を残し、去ろうとしていた。 「なあ、ギャバン……次の休日、地球に行くよ。もしよかったら、案内してくれ」 ギャバンの背中にぽつりと彼が言うと、ギャバンは大きく笑い、サムズアップした。 「任せとけ!」 「ああ、任せるよ」 つられるように彼も思わず笑ってしまう。彼も手を軽く振ると、ギャバンも手をこちらに振り返した。 「それじゃ、また今度」 狭い路地に入ると、明かりも減って暗くなってきた。 寒い気候に合った冷たい風が、安物のコートの隙間に入ってくる。思わず身を縮めながら夜空を見上げて歩き出す。 顔も知らない自分の母親が生まれた星――地球。 一目見ただけで、心から魅きつけられた。全てを捨ててでも守りたいという衝動がわいた。 自分ひとりで、星を守るなどと言うつもりはない。けれど、彼は何を捨ててでもそうしたいと思えたのだ。 建物の隙間から見える地平線から、太陽が昇る。 彼は、それを見て眼を細めた。 ―――夜明けを告げる詩を歌う、小鳥の声が聞こえた。 そろそろ、家も近い。 孤独に揺れる夢追人。過ぎ去りし日々の影。―――それはきっと、昔の自分。 ふと、彼は何かの歌を口ずさんでいた。世界を調律する、そんな歌。虚ろになびくメロディが、空に消えていく。―――多分、いつか歌った歌。 閉ざされた扉<仮面>の向こうには、散らばった感情のパズルが広がっている。―――きっと、哀しい記憶。 全部全部過去になった。 自分はどうやって生きてきたのだろう? 今、この瞬間に生きている僕らは―――何を見つけられるのだろう? 家が視界に入る。きっと、真っ暗だと思った。けれど、光がついていた。 驚きながらも、彼は玄関のロックを指紋認証で外す。ゆっくりとノブを回し、開いたドアの向こう――― 「遅くなるし、帰れないって言ってたのに……起きてたのか? ごめん」 「気にしなくていいのよ。だって、あなたが帰る場所はここだもの」 多分、一人じゃない。自分を待ってくれる人がいる。自分と歩いてくれる人がいる。 みんなと一緒なら、地球を守ることも……きっとどんなことも掴める。見つけられる。 夜の闇の向こうに太陽は顔を出す。どんな朝も、長い夜を超えて輝きは初めて生まれる。 同じところを一人でぐるぐる回るんじゃない。みんなと一緒にここから繋げよう。明日と言う名の未来へ。 何もかも失った男。何もかもを奪われた男。 彼が最期に失ったのは……自分自身を証明するもの。自分のココロ。自分の記憶。 何もない持たざる彼に与えられたのは……ムゲンの希望。ムゲンの未来。そして彼が欲してやまなかったもう一つのもの。 ムゲンが無限か夢幻か正解は――――きっと、彼の胸の中にだけ。          「おかえりなさい」                                        「&italic(){ああ、ただいま }」 &color(yellow){【【??? @ スーパーヒーロー作戦 } &color(yellow){状態 スーパーヒーロー作戦 ダイダルの野望世界にて新生。しかし―――】}
*&color(red){shine} さて、最後の御伽噺〈おとぎばなし〉を語ろう。 悠久を超えて続いた、荒唐無稽な物語の紡ぎ手たちの行く末を。 果ててなお、終わらぬ夢の未来の先を。 ――夢。 ―――ずっと、終わらない夢。 ――ずっとずっと夢の中にいる夢。 ―――夢しかないから現実がない。 ――けど、これは夢だと分かってる。 ―――なら、現実と夢の境界線はなんだろう? 「おいおい起きろ、いつまで寝てるんだ?」 誰かに肩を揺すられることを感じ、彼は目を覚ました。 目の前にあるのは、デスク。乱雑に積まれた本の山、そして図面。 どれもこれも、もう見慣れた職場のものだ。顔をあげると、白色灯が目に飛び込んで痛かった。 「僕は……寝ていた、のか?」 開口一番、眠気眼をこすり、銀色の髪を掻きあげる彼に、彼の同僚は呆れた声を出した。 「ここずっと根を詰めすぎなんだ、たまには休んだほうがいいぞ。もう朝の5時だ、彼女も待ってるぞ」 「この時間なら、もう寝てるよ。ただ、もう少しでできそうなんだ。これができたら君たちもだいぶ楽になるはずだよ、ギャバン」 「噂の超電導コンバットスーツか? 今のままでも結構俺たちは満足してるけどなあ」 腕を組んでうーんと唸る同僚のギャバンに、彼は指を立てて自慢げに言った。 「超電導コンバットスーツの試作として出来た『バリオゼクター』でも、通常のコンバットスーツの300%以上の戦闘力を発揮できるんだ。  ギャバン、シャリバン、シャイダー……君たちエース級三人を一人で相手にすることだって可能になる。  これまで以上に過酷な任務にも、より安全に参加できる。『彼ら』の手ばっかり借りるわけにはいかないからね」 「『彼ら』? ああ、ウルトラマンたちか」 「そう、彼らの力があれば、何でもできるだろうけど……でもやっぱり僕たちだけでできることをやっていくべきだと思うんだ」 「そうだな、俺たちみんなの力で世界を少しずつ平和にしていくんだ」 大きく頷くギャバン。 白衣を脱いで壁にかけ、代わりに防寒用のコートを彼ははおる。その様子を見て、ギャバンも帰り支度を整えた。 研究畑は、場合によっては徹夜もよくある。 まばらではあるがまだ職場に残っている仲間たちに一声あいさつをし、頭を下げると彼はギャバンとともに銀河連邦警察局を出た。 外は、日が沈んでいて暗くなっている。が、もう30分もしないうちに太陽が顔を出すだろう。 少し寒いくらいの空気を気分転換も兼ねて彼は肺腑一杯に吸い込んだ。 「そういえば、お前がきてもう6年か。記憶、何か思い出せたか?」 玄関近くのクレジット・ロッカーにカードを押し当て、中身を出しながらギャバンが言う。 「時々、浮かぶような気がするけど……一体自分がどこの誰なのか、誰か両親なのかもさっぱりだ」 「まあ、気長に探せばいいさ。俺も同じ生まれだ、いくらでも協力するぜ」 彼には、記憶がなかった。いや、ココロごと丸ごと失っていたと言ってもいい。 突然、銀河連邦警察局の前に現れ、廃人となっていた彼が発見されたのが6年前。 治療のかいもあって心を得て、銀河連邦警察局に勤め出してからは2年になる。 非常にすぐれたバード星の医療技術でも、ココロを取り戻すことはできなかった。記憶もなく、ほぼ別人格だと彼は説明を受けたが、彼としては別人と言われても彼は彼でしかない。 せめて何か手掛かりを、との本人の要望もあって様々な検査が行われたが、分かったことは1つ。 遺伝子解析の結果、両親がバード星人と地球人のハーフということだ。 記憶を失った彼とギャバンが出会ったきっかけもこれだった。 同じ出自をもつ彼とギャバンは、今日も夜の街を歩き家へと急ぐ。 「地球じゃカードはあまり使えないんだって?」 「そうなんだよ、おかげで現金を持ち歩かなきゃならなくて、よく忘れてなあ。電にも借りたし本当に困った」 「……きちんと地球の貨幣でも、シャリバンに借りた分は返しておきなよ」 そんなことを言いながら、暗闇を照らしだすほどの光にあふれた夜の街を見上げ、彼はふと息をつく。 彼が極度の自然愛好家であることを知っているギャバンは、励まし、フォローするように、彼の肩を叩いて言った。 「ほら、今度お前も休暇を取って地球に来ないか!? 緑も多くていいところだぞ、お前も故郷に行けば何か思い出すかもしれないぜ。   お前も『大気浄化弾』のためにも環境の測定をしたいと言ってたんだ、一石二鳥じゃないか」 「ああ、あれなら開発をやめたよ」 「そうそう……って、おい!?」 地球を美しい形に戻すと『大気浄化弾』開発に腐心していた彼が、それをあっさり手放したことに驚くギャバン。 そんなギャバンを尻目に、彼は光であまり見えない夜空を見上げて言った。 「『大気浄化弾』は開発しない。あんなもの使って一時的に浄化できても、地球に住む人たちが変わらなければ同じことの繰り返しだよ。  それに、地球は汚染物質のわりに汚染が遅いんだ。調べてみたら……どうやら異次元世界に汚染物質が流れ込んでるらしい」 異次元空間と聞いてギャバンはいやな顔をする。 「異次元世界……マクー空間みたいなもののことか?」 「僕は、この空間を「クライシス空間」と名付けてる。おそらく、この空間は地球の汚染物質で深刻な危機〈クライシス〉を引き起こしてる筈だ。  むしろ、崩壊していないのが不思議なくらい。そう言う意味では『怪魔界』と呼んでもいいかもしれない」 「なら、なおさらなんで開発をやめたりなんかしたんだ?」 「言ったじゃないか、地球に住む人が変わらなきゃ意味がないって。使って、また汚して、また使って……じゃきりがない。  大丈夫、きっと変われるよ。人は弱い生き物じゃない。苦しくても倒れはしない」 何もかもを失い、這い上がった彼だから言える言葉だった。 さまざまな人々の温かい助力あってこそ、彼はこうして心を得た。きっと、一人きりなら彼は今でも壊れたままだったろう。 見ず知らずの自分を受け入れてくれた素晴らしい人々が彼の側にいた。今自分の隣に立つギャバンもまたその一人だ。 ココロもない、知り合いもいない。 それでも人は助け合って信じあって生きていける。 人間は、力は弱くとも心は決して弱くない。そう今の彼は心の底から信じている。 今の彼の人格は、たった2年で形成された人格だ。人によっては吹けば飛ぶ薄っぺらいものと思うかもしれない。 けれど、今も積み続ける生きる実感は、彼にとっては短いながらもかけがえのない記憶。 何もかもが新鮮で輝いて見えるこの世界を守るための仕事をできることも誇りの一つだった。 突如、記憶にノイズが起こる。きしみとともに、フラッシュバックする幻影の記憶。 またか、と思いながらも横のギャバンにはどうにか気取られないように姿勢を意識して保ち、歩き続ける。 ――このままやつらに任せていれば地球環境の崩壊はさけられん。私は『大気浄化弾』の使用を提案する。 ――却下だ。それを使用すればレーダー網に甚大な影響が出る。結果、侵略行為による原住民の殺戮が起こる可能性がある。 ――それになんの問題が!? 地球が滅びなければまた人口は立て直せるが人が残っても地球が滅びれば終わることになる! ――宇宙コロニーという手段もある。とにかく、『大気浄化弾』の使用は却下する! ――そんな馬鹿な理由があるものか、母の星が死んでいくのを見過ごせるはずがない! ――いい加減にしろ、何度言おうと首は縦にふれん! おまえを謹慎処分に処す、ユーゼ……… 「おい、どうした?」 ギャバンの声にはっとなる。慌てて小さく首を小さく横に振った。 「別に、なんでもない……なんでもないよ」 嘘だ。時々こうして襲う記憶が、自分を締め付ける。 この記憶のよみがえりが起こるたびに、彼の脳には、記憶ではなく莫大な知識が与えられた。 まだこの世界では実用化されてない、いやそんな概念すらないような兵器や機械の知識が自分に刻まれるたび、全身が震える。 ―――いったい、自分はどんな人間だったんだろう? 浮かぶ断片の記憶には、未来の日付やありもしない星の記憶がある。 そしてなにより……思い出すたびに、誰かに裏切られた酷く冷たく悲しい感情と一人ぼっちの寂寥感が、わき上がる。 けれど、彼はそれを未来に変えた。さびしくても、誰かがいることを信じた。禁忌の知識を、人命救助のために使った。 「そうか……とにかく、無茶はせずにゆっくり休めよ、明日はせっかく休日なんだ」 「そう、するよ」 二股に分かれた道。ギャバンの家は右へ。彼の家は左の道を先に行ったところにある。 ギャバンは、当然最後に別れの台詞を残し、去ろうとしていた。 「なあ、ギャバン……次の休日、地球に行くよ。もしよかったら、案内してくれ」 ギャバンの背中にぽつりと彼が言うと、ギャバンは大きく笑い、サムズアップした。 「任せとけ!」 「ああ、任せるよ」 つられるように彼も思わず笑ってしまう。彼も手を軽く振ると、ギャバンも手をこちらに振り返した。 「それじゃ、また今度」 狭い路地に入ると、明かりも減って暗くなってきた。 寒い気候に合った冷たい風が、安物のコートの隙間に入ってくる。思わず身を縮めながら夜空を見上げて歩き出す。 顔も知らない自分の母親が生まれた星――地球。 一目見ただけで、心から魅きつけられた。全てを捨ててでも守りたいという衝動がわいた。 自分ひとりで、星を守るなどと言うつもりはない。けれど、彼は何を捨ててでもそうしたいと思えたのだ。 建物の隙間から見える地平線から、太陽が昇る。 彼は、それを見て眼を細めた。 ―――夜明けを告げる詩を歌う、小鳥の声が聞こえた。 そろそろ、家も近い。 孤独に揺れる夢追人。過ぎ去りし日々の影。―――それはきっと、昔の自分。 ふと、彼は何かの歌を口ずさんでいた。世界を調律する、そんな歌。虚ろになびくメロディが、空に消えていく。―――多分、いつか歌った歌。 閉ざされた扉<仮面>の向こうには、散らばった感情のパズルが広がっている。―――きっと、哀しい記憶。 全部全部過去になった。 自分はどうやって生きてきたのだろう? 今、この瞬間に生きている僕らは―――何を見つけられるのだろう? 家が視界に入る。きっと、真っ暗だと思った。けれど、光がついていた。 驚きながらも、彼は玄関のロックを指紋認証で外す。ゆっくりとノブを回し、開いたドアの向こう――― 「遅くなるし、帰れないって言ってたのに……起きてたのか? ごめん」 「気にしなくていいのよ。だって、あなたが帰る場所はここだもの」 多分、一人じゃない。自分を待ってくれる人がいる。自分と歩いてくれる人がいる。 みんなと一緒なら、地球を守ることも……きっとどんなことも掴める。見つけられる。 夜の闇の向こうに太陽は顔を出す。どんな朝も、長い夜を超えて輝きは初めて生まれる。 同じところを一人でぐるぐる回るんじゃない。みんなと一緒にここから繋げよう。明日と言う名の未来へ。 何もかも失った男。何もかもを奪われた男。 彼が最期に失ったのは……自分自身を証明するもの。自分のココロ。自分の記憶。 何もない持たざる彼に与えられたのは……ムゲンの希望。ムゲンの未来。そして彼が欲してやまなかったもう一つのもの。 ムゲンが無限か夢幻か正解は――――きっと、彼の胸の中にだけ。          「おかえりなさい」                                        「&italic(){ああ、ただいま }」 &color(yellow){【【??? @ スーパーヒーロー作戦 } &color(yellow){状態 スーパーヒーロー作戦 ダイダルの野望世界にて新生。しかし―――】}

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