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プレゼント要点

  • 手作りのオルゴールです。
  • オーソドックスな木目調。
  • 元々はFVBの古いからくり店で販売されているもの。
  • クリスマスらしく、「もろびとこぞりて」のメロディーが流れます。

SS

もういくつ寝ると………………
子供の頃、歳が暮れはじめると良く歌っていた歌を思い出しながら、シグレは手を止めて窓を開けた。
手を動かし始めたときに傾きかけていた日はすっかり落ち、外には暗闇が広がっている。
空を仰ぐと、星は見えない。
代わりに見えるのは、綺羅びやかな装飾に輝く、威圧的な「なにか」――いわゆる“宇宙怪獣”だ。
(星の見えない空か)
今に始まったことではないが、改めて空を見て少し陰鬱な気分になった。
FVB、そしてシグレ自身にとって、夜の空の先にある宇宙は“海”だった。
生命が生まれた始まりの場所であり、そして未来へ繋がる果てのない道。
(これから、どうなるんだろうな)
戸惑いと不安の中でそんな風に思って、今度は手元に目を落とす。
机の上には、ここしばらくの間、手を動かして作っていたオルゴールがあった。
すっかり宇宙の国となったFVBだが、一方では古くから続くローテクのからくり国家という側面もある。
一部の第七世界人がアンティークとして持っている“花時計”など、その代表格だ。
このオルゴールもそういったからくりの一つで、まだからくり立国を考えていた40年ほど前から続く、数少ないオルゴール店で購入したキットだった。
オルゴールを作るのは初めてだったので少し手間取ったが、まあまあの出来…………だと思う。
外箱は割とオーソドックスな部類になるであろう、木目の入った宝石箱型。
内箱には、ピンクのバラのコサージュを入れた。
曲は色々迷ったが、結局「もろびとこぞりて」にした。
子供の頃から一番好きなクリスマスソングだ。
オルゴールを箱に入れて包装し、シグレは席を立った。
冬の地上のむき出しの空気は、ひどく冷たい。
進むためには一歩一歩歩く必要があり、その度に体の重さと気だるさを感じる。
浮くことが出来ないから、翔ぶことも出来ないのだ。
久しぶりに地上を歩きながら、ここが宇宙ではないという当たり前のことを、文字通り肌で感じていた。
そして、自分がそう感じていることが、ふとおかしくなった。
違和感を感じるのは、当然といえば当然だ。
常時運行艦を作った十年以上前から、シグレはずっと無重量の宇宙で生活していた。
遠征や政務、外交のために地上に戻ってくることは度々あったが、その生活時間の大半は宇宙で過ごしている。
しかし、運行艦に移るまでシグレは――多くの人間がそうであるように――地上から宇宙を「そら」として見上げていた。
今ではそんな日々があったことが信じられないくらいに、地上に違和感を感じている自分がいるのがおかしかったのだ。
不思議なことだと思うが、その理由は明白だ。
いや、それだけではない。
今自分が何故ここにいるのか。
何をしなければいけないのか。
何をしたいのか。
今のシグレにとって、全ては自明の理だった。
彼女―――エステルがいる。
それが今の自分を形作る全てだ。
重力の煩わしさを跳ね返すように確かな足取りで歩を進めながら、ふと、昔地上の道を彼女と一緒に歩いたことを思い出した。
あの時は近くはなく、さりとて離れることもない微妙な距離で、彼女は重力に不慣れだった。
そしてそれから第一世界で3年。ニューワールドでは36年。
時間が経っても、今でも自分は彼女と共にある。
それが、シグレにとって一番大切なことだった。

イラスト:猫野和錆さん
SS:アキラ・フィーリ・シグレ艦氏族
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