空、遠く――(小笠原ゲーム マイトとミズキと初心者達より) ―ゲームに参加された皆様に捧ぐ―


賑やかな祭囃子が、辺りに響いている。
これぞ祭りといわんばかりの浮かれた空気だ。
小笠原に来ている面々も、やや気分が高揚しているようだ。

「本物の笛とは、風流ですねー」

辺りはまだ明るかったが、雰囲気としては十分だった。
なにせ、近頃には珍しい、本物の笛の音が聞こえてきていたのだ。
浴衣を着て、うちわで扇ぎながらあたりを歩けば、もうお祭り真っ只中である。

「お、ここでは本物の笛を使っているんですねー。本格的だなー」
「夏って感じがしますねー」
「誰が吹いてるんですかね~?」

そんなことを言いながらそぞろ歩いていると、やがて笛の主が見えてきた。
法被を羽織り、裾を端折って笛吹く姿も似合いすぎる、オーキマイトその人だ。

「うんうん、いい音色だ。上手いね」

SW-Mをはじめ皆が口々にマイトを褒める横で、ミズキは日記を書きながら歩いていた。
口をぽかんと開けながら、物珍しそうに辺りを見ている。

「原始的……」

どうやら、こういう祭りは初めての体験のようだった。
にゃんにゃん町内会主催、夏祭り。

「ファンタスティック」

ミズキは、やや心ここにあらずといった風につぶやいた。

「ミズキさん、原始的かもしれませんが、こんな祭りも楽しいですよ。」

西條の言葉にうんうん頷くミズキ。
心から楽しんでいるようだ。

「髪、切るのやめておけばよかった」

うなじの辺りに手をやりながら、ミズキがそうつぶやく。
周りは皆、浴衣を着ているのを見て、それで自分も着てみたいと思ったのだった。
浴衣には、きっと髪が長いほうが似合ったのに、と少し残念だった。

「また伸ばせばいいですよ。どっちも良く似合います」
「みんなで浴衣着たいですねぇ」
「どこかで貸衣装とかやってないかなぁ?」

星青玉の言葉で、皆で貸衣装を借りることにする。
衣装代は全てSOUがもった。
なんとも太っ腹である。

「どう着るの?」

着方のわからないミズキのために、女性陣が残って着付けを手伝うことになった。

一方マイトはといえば。
あちらこちらに呼ばれては笛を披露し、人気者になっている。
そして気がつけば、なにやら小さい子と話をしているようだった。
笛のおかげでか、はたまた彼自身の人徳でか。
ちびっ子にもモテモテ。
さすが我らが主人公である。

「みんなのアイドルですなぁ」
「(…SW-Mさんと離れていますが。当初の目的が)」
「なんかほほえましいですね~」
「ちょっと、うらやましいかも…」
「あー,手ごわいライバルですねぇ(笑」
「SWさん、ミズキさんの着付けはー?」

そうこうしているうちに、ミズキの着付けが終わった。
桜色に、鳳仙花があしらわれたその浴衣は、なかなかに派手であったが、ミズキによく似合っていた。

「おおーかわいー」
「おぉ。かわいいですね♪」
「・・・えっと・・・すんごく似合ってます、ミズキさん(頬を染めて)」
「・・・・見とれてしまったな」
「おぉー」
「ほら、マイト君もなんかいってあげなよ。」
「綺麗だな…」

各自、それぞれに誉めそやすなか、マイトもSOUの言葉にこちらを振り返り、やってきた。

「綺麗だよ」

直球である。

「いや、マイト君や。女の子をほめるんならもっといろいろ言ってあげなよ」
「綺麗以外にうまいいいかたってあるのかな」

SW-Mの呆れたような忠告にも、さらりとそう返す。
ミズキが照れて思わずよろけた。

「マイトさん、SWさんも褒めてくださいね?」

すかさず西條につっこまれ、マイトはそこで初めて、困ったように頭をかいた。

「いや、僕はその、参ったな。SWさんにも言ったつもりだった」

本当に、そつがないのがこの男の欠点といえば欠点なのかもしれなかった。

「そうか。じゃあお姉さんから忠告だ。ほめるときは一人ずつにしなさい。他の人に誤解されるのは嫌だ」

そう言ったSW-Mの言葉にも困ったように笑うだけだった。
何もかもわかっていて、それでこんな風に笑うのが、マイトという人物だった。

それが、SW-Mには少し、悔しかった。

だから、写真を撮ることになったとき、何かを吹っ切るように明るく言った。

「おっと、写真写真。ほら二人とも入ろう」

マイトとミズキをひっぱって、カメラのフレームにおさまる。
何であれ、想い出の欠片が増えるのは大歓迎だ。

「3-1は?」
「「にー!」」

SOUの声にあわせて押されるシャッター。
それは、消えない夏の思い出になるはずだった。

笑えといわれて、目元だけ笑ったマイトは、写真を撮り終わると一人何も言わずに身を翻して歩き出していた。
すかさずSW-Mが呼び止める。

「ちょ、マイト?どこ行くのー?」
「ちょっと」

振り返りもせずにそう言って歩いていたマイトは、後からSW-Mがついてきていることがわかると振り向いた。
立ち止まったマイトに、SW-Mが言う。

「ちょっとじゃ分かんないでしょうが(ハリセンで軽く叩く)」

わかられてもこまるし、と内心で思いながら。
けれど心配してくれているのがわかってマイトは素直に謝った。

「そうだね、ごめんなさい」
「………本当にそう思ってる?(ジと目で見る)」

そういう意味では信用のない男、マイト。
SW-Mにそう言われて、ちょっとだけ寂しそうに告げた。

「僕はいつも、女性を困らせずにどこかにいきたいとおもってる」
「だからって何も言わないのが一番困る」

何も言われないほうが悲しい時だってあるのだ。
だが、マイトは。

「どうせ、すぐ忘れる」

ぽつりと小さく呟くと、にっこり笑ってSW-Mに綿菓子を手渡した。

「ん、ありがとう……って、これは?」

渡された綿菓子に視線を落として、もう一度戻したときには。
そこにマイトの姿はなかった。

「マイト……?」

姿が消えた。
周囲には誰もいないように見えて、それがさらに胸騒ぎを誘った。
SW-Mの胸騒ぎは、他のメンバーにも感じられたようで。

「よし。とりあえず探せ。ついでにミズキちゃんのボディーガード&エスコート買って出たいやつは各自対応」

すぐに周囲を捜索することになった。
SW-Mが、ふと空を見上げる。
まだ、日が沈む前の、薄紫色をした空が見えた。
青い光が見えないことに胸をなでおろし。
一度首を左右に振って、嫌な思考を振り払うと、SW-Mは駆け出した。
祭りの喧騒は、まだ賑やかに。
辺りの空気を震わせていた――



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最終更新:2007年09月25日 20:39