和子@リワマヒ国様からのご依頼品


クリサリス・ミルヒ。無骨な男。無口な男。実直な男。アポロニアの精霊戦士。青にして水色。清廉の絢爛舞踏。やるべき事をやる男。

様々なイメージがあるだろう。クリサリス・ミルヒという人物に対して誰しもが抱くイメージもある、が。


その場所でクリサリスはゆっくりと空を見上げる。呼吸をする、吐く。それだけだ。意味も何もない。
いや、本当に無い訳じゃない。ただ、そうしたかった。この空気を、感じていたかった。ただそれだけだ。

「こんにちは!」

明るい声。にっこりとした笑顔。その声の主にクリサリスは頷く。頷くだけしかしない。

「今日は一緒にピクニックにいきませんか?お、おべんとうつくってきました!」

その言葉を聞き、返事をするよりも早くクリサリスは歩き出す。否定ではない、むしろ肯定だ。

彼が例え否定しても、彼の悪癖の一つに相手に返事をせず、行動で示すという物がある。
それは戦場や戦友の間柄では非常に頼もしく、また信じるに足る生き方の一つではある、が。

断言しよう。恋愛には少し……いや、かなり向いていない、難儀な性格とも言える。

それでも声をかけた彼女は嬉しそうにその後を付いてくる。ある意味、クリサリスに適うのはこのような強い女性だけなのかもしれない。

にこにことしながら歩く彼女と、無骨なまでに堅実に、何よりも無駄の無い歩きをするクリサリスは傍目にも対照的だ。

「荒れているな」

ゆっくりと口を開く。特に意味はない。いや、あったのかもしれない。それは彼にしか判らない。

それはこの場所のことかもしれない、情勢のことかもしれない、心のことかもしれない。

ただ、彼は感じるままにその言葉を言った。

「荒れているのは 何処ですか?ええと・・私ですか・・?」

「お前は何にでも理屈をつける」

クリサリスは彼女の言葉をそれだけで切って捨てた……ように見える。

確かに傍目にも、そして当人達にもその様に感じただろう。だが、事実は違うかもしれない。

クリサリスの生き方は理屈ではない。ご大層なお題目やましてある種の一般的な正義ともまた違う。
彼の生き方は感覚的だ。助けるのも感覚ならば、話すのも感覚。別に頭が悪いわけではない。ただ、感覚が重要なのだ。

それは恐らく、何度も死線を潜り、生き残ってきた中で得た教訓。
指揮官で在り続けなければならない善行が全てを統制するのと対照的に、1兵隊である彼は感覚によって生き延びてきたからかもしれない。

「そうなのかもしれません・・」

「傷つかないでいい」

クリサリスは微笑んだ。微笑みは親愛の証。彼は彼女に対して悪感情を抱いていない証拠。

「手、つなぎたいです……脈絡なくてごめんなさい・・ええと駄目なら我慢します」

求められるまま手を繋ぐ。クリサリスは確かに優秀な兵隊だ。決断力、行動力、そして実力。
どれを取っても最高の兵隊かもしれない。だが、忘れてはならない。彼だって生き物だ。苦手な物がある。

それが恋愛だとしたらどうだろう? 中々、可愛らしくはないか?

クリサリスは求められるまま手を繋ぎ、歩き続きける。決して自分から手を離すことはしない。

「喋らないでも笑ったりとかで、気持ち伝わると思うんです。手を繋り肩をたたいたり、私はそっちのほうがすきです」

「なぜそうしない?」

心の中でそれを全面的に肯定しながらも、クリサリスの口調はどうしても少しとげとげしく感じる。

「けどあんまりなれなれしいのもよくないみたいで・・うーその分喋って補おうとするのですが上手くいかないようです。手を繋ぐのは嬉しいことです」

「そういうことだ。笑顔をつかうといい」

それを聞いて、彼女はにっこりと笑う。クリサリスも微笑んだ。それで十分ではないか?
お互いの好意を伝え合うのに言葉が必要なこともある。だが、笑顔で十分な時も……確かにあるのだ。

しばらく山を登る。山というのは様々な表情がある。いつ登っても飽きない。それが良い。

そうすればベンチが沢山おいてある休憩所に着く。きっと登山客はここで休憩し、お弁当を食べたりするのだろう。

「ベンチでご飯にしましょうか?」

照れた様子の彼女に頷きながら、クリサリスもベンチに座り空をみる。
恐ろしいほどの快晴。或いは何かの前触れをも思わせるようなすこぶる快晴である。

「お弁当つくってきましたーじゃーん」

言われて視線をそちらに戻す。タッパーを開き、お弁当が堂々と姿を現している。お弁当は豪勢である。

クリサリスがそれを少し食べてみる。美味い。素直に思う。だから、更に食べる。美味ければどんどん食べる。それが当たり前の反応だから。

「わー嬉しいです」

「うまかった」

彼女が赤くなったのを見て、クリサリスも言葉を返す。端的な感想だが、彼は事実しか言わない。なので語尾に「ありがとう」を付けるとクリサリスの言葉の意味が大分現代語になる。

「アイスティー入れてきました。冷えてますよー」

クリサリス、紅茶好きである。それは芝村の影響やらなんやらと理由はさておき、紅茶好きな事実は変らない。

彼は微笑む。その心遣いが嬉しかった。だから、感謝を笑顔で表した。

「先日リワマヒ国にきた鳥さんと猫さんは何を伝えにリワマヒ国へ来たのでしょうか?」

「突然だな」

突然の言葉にやや面食らいながらも少しだけ考える。だが、結局言うべき事は変らない。クリサリスの生き方はそういう物だ。

「まあ、お前はどちらにつくのか、だな」

「どちら、とは?」

「いずれわかる」

「ふむ、わかりました。時を待ちます」

彼女の言葉に紅茶を一口飲む。その間、彼女は空を見上げていた。空は恐ろしいほどの快晴。

「雨も降りそうにない晴天ですね。 さっき空を見いらっしゃいましたが、誰か通りすぎたのですか?」

「お前は何にでも理屈をつけようとする……何の理由もなく、空は見ないのか?」

「いいえ、理由なしに見ることはあります」

クルスはそこで笑った。微笑みを少し強めただけのような笑いだが、それでも笑ったのだ。

「じゃあそういうことだ」

******

クリサリス・ミルヒ。無骨な男。無口な男。実直な男。アポロニアの精霊戦士。青にして水色。清廉の絢爛舞踏。やるべき事をやる男。

様々なイメージがあるだろう。クリサリス・ミルヒという人物に対して誰しもが抱くイメージもある、が。

もしも彼が、女性とのデートで空が晴れていることを喜び、相手にそれを伝えるようとして笑顔という手段しか持たない……そんなシャイな男性だとしたら?

中々イメージは湧かない。湧かないが……それはそれで、とても素晴らしいことだと思う。



作品への一言コメント

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  • クリサリスが可愛かっこいい描写におなかいっぱいになりました・・・wありがとうございましたー! -- 和子@リワマヒ国 (2008-06-09 02:13:47)
  • 心震えました -- くろ (2010-01-25 11:16:47)
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引渡し日:2008/06/08


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最終更新:2010年01月25日 11:16