蒼のあおひと@海法よけ藩国様からのご依頼品


/*広くない景色*/

 さて。
 見知らぬ場所に来ました。
 何もかもが不思議でした。
 初めて訪れたそのときは、そもそも、訪れたという感覚だってありませんでした。
 だからよく見てみました。
 目にうつるすべてを、ずっと、見つめていました。

/*/

 結局あの能力はなんだったんでしょうねえ。そう言って、蒼の忠孝は首をかしげる。その腕は、幼子の柘榴を抱いている。
 んー、素養はあったんだと思うんですけれど…私が不安になったから、使わないようになったんじゃないですかね? そう答えるのは、蒼のあおひとである。その足下には、ひなぎくと翡翠がいる。
 ひなぎくはちょっと浮きかけていたが、あおひとの言葉で、浮くのをやめた。

 二人が話しているのは、数日前の出来事です。翡翠とひなぎくが、二人の見ている前で、突然、ぱっ、と姿を消してしまったのでした。
「……うわあ…すごーーーーーい!!!」
 そう言っていたのも束の間、二人は次々に姿を消し、お隣の猫を抱いて戻ってきたり、空から落ちて来たりと大変なことになりました。柘榴だけはそういうことは無かったけれど、不安に思うと頬をさわってきたり、怖がると泣いたり、もしかしたら思いを感じる事が出来るのかもとあおひとは考えました。
 けれどそれも少しの間。
「いやまあ、便利な能力ではありますが、育つまえに僕が心労で死にます。たぶん」
「私も倒れそうです……。あぁ、駄目です……今なんだか凄く不安になってしまいました……」
 二人が、そう言った直後、柘榴も、ひなぎくも、翡翠も泣き出しました。特に翡翠は大声で泣いていました。
 そして三人が泣き止んだ頃には、ぱっ、と瞬間移動することは無くなっていました。

 でも、うちは普通の子でいいと思います。三人がぐっすり眠った後で、あおひとはこぼした。蒼の忠孝は、そうですね、と苦笑した。
「さて。じゃあ、僕が見ていますよ。お風呂に入ってきてはいかがです? ずっと見ていて、暇がなかったでしょう?」
「あ、そうします」
「着替えとバスタオルは置いておきました」
「ふふ。ありがとうございます」
 あおひとはにこりと笑ってから風呂に入りに行く。忠孝はやれやれ、ずいぶん気を張ってますね、と自分のことは棚に上げて独りごちる。彼はあおひとの座っていた椅子に静かに腰掛けると、くーっ、と心地よさそうに眠りこけている三つ子を見た。今日は久しぶりにぐっすり眠れそうですね、と心の中でつぶやき、微笑んだ。
 まあしかし。戦争がうまいと言われるよりは、育児でおたおたしている方がいいですね。
 忠孝は背もたれによりかかると、あおひとが戻ってくるのを待った。そしてしばらくしてうとうとしかけたところで、パジャマに着替えたあおひとが戻ってきた。その手には二つのグラスと水出しの烏龍茶。
「おまたせしましたー」
「お茶ですか?」
「はい。そろそろ冷たい物が恋しい季節ですし」
「そうですね。ずいぶん暖かくなってきました」
 のんびりと話を続けながら、二人は隣り合って座る。こういうとき、二人で座れるソファがあったらいいなぁとあおひとは時々思う。子供達もいることだし、いっそのこと、全員が座れる物を探そうかしら。
「それにしても、ほっとしました」蒼の忠孝は烏龍茶を一口飲むと、ため息をつくように、そう、口にした。「あれからは、いきなり消えたりということもありませんし……」
「そうですね……」
「……どうしました?」
「え? いえ……その」
「今は三人とも眠ってます」
「……はい」ふぅ、とため息をつくあおひと。「実はその。確かに不安なんです。いきなりどこか、目の届かないところに消えるというのは。だけど……」
「だけど?」
「無理強いして、出来ることを出来なくしてしまうのが、いいことなのかな、と思うと心配なんです」
「ああ……」忠孝は頷く。「確かに、そうですね」
「正直を言うと、突然能力を使わなくなったことも、少し心配なんです」あおひとは一口烏龍茶を飲んだ。「勿論、この間みたいなことは、やっぱり心配なんですが」そして首を振る。「ああ、心配だらけです」
「そうですね。僕もまあ……」こりこりと顎を掻く。「もう少し、年上の子供ならにどうにかなるんですけどね」
「あはは」
「ですが、もてあましてしまう力はあっても不健康だと思いますよ。少なくとも、こちらで対応できないことは、流石に――」
「でも、でもですよ」あおひとはじっと忠孝を見た。「誰だって、よちよち歩きから、二本足で歩くようになるんです。でもそのとき、転んだりすることはありますよね? それは確かに危ないけれど、でも、歩けるようになるには必要だと思うんです」
 なるほど、と忠孝は頷いた。
「確かに。ですがこの場合、問題は、子供達の能力に僕たちがおいつけないということですね……。フォローできればいいんですが」
「あ、でも、もちろん能力がなくちゃいけないというわけじゃないですよ?」
「そこのところは誤解してませんよ」忠孝はくすりと笑うと、あおひとの耳元に口を近づけた。「あなたのことはよく知ってます、僕のあおひと」
「は、はい」少し顔を赤くするあおひと。それからそっと、子供達を伺った。「でも……うん。とにかく、しばらくは様子を見ていましょうね」
「そうですね。それが妥当だと思います。ああ、時々来るあの子には知らせておいた方がいいかもしれませんね?」
「そうですね。亜細亜ちゃん、驚くかなぁ」
 にこにこ笑うあおひと。忠孝はのんびりと笑うと、残りの烏龍茶を飲み干した。

/*/

 それからまだ、二人は子供達から能力を使ったところを見てはいません。
 二人は良く笑っています。
 子供達もそれをみて良く笑っています。
 そこが居心地がいいことは、誰にとっても明らかでした。
 つまり、それだけの単純な事実。
 子供達が何を選んだかは実に簡単。
 なにしろ子供達は、二人をずっと見ていたのですから。


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最終更新:2008年05月25日 13:02