駒地真子様からのご依頼品


My Friends ~心の青色~

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駒地は、森が廃役になっていた事を信じられなかった。
絵の学校に行ってて、いつか森の描いた絵を見せてもらうんだ。
ずっとそう思っていた。

「私、何か悪い事、したのかな・・・。」

喫茶店を出てから、駒地はずっと、そんな気持ちを抱えていた。
思い切りよくテーブルを叩いて出てきたものの。
(tactyさんは悪くなかったのに・・。)
という自責の念もあり、ほぼ思考が止まっていた。

ふと目に入った青空が、すごく眩しいような気がした。

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「・・、ダメだ。こんなの柄じゃない。」

駒地は目を瞑り、ゆっくり深呼吸をした。
(今は青空を追いかけないといけないんだ。)
ぴしゃっと自分の頬を叩くと、宰相府にもう一度問い合わせることにした。

「はあい。こんにちは。」

電話越しに聞こえてきたのは少し力の抜けたような声だった。
(今度は誰だろう・・・?)
秘書官であるだろうと思うのだが、とりあえず今は森の方が大事だと、本題を切り出した。

「こんにちは、廃役ACEに関して教えていただきたい事があるのですが。」

この頃の宰相は何でも無限父性が発現したと言うことで、帝國の娘に関しては殊更甘かった。
後藤亜細亜が廃役ACEを助けたいと心に決めて動いた時から、宰相府では廃役ACEの情報をどこからでも集めていた。
この部分だけ見ると、大金持ちの社長が娘に対して影から多くの資金援助を行っているように見えなくもない。
駒地は帝國中で噂になっているこの情報を信じて、もう一度口を開いた。
例え、今、新しい森という存在を用意しているという、宰相府であっても。

「いいとも。なんだい?今は深夜絵行だ。」

秘書官の返事が結構軽かったのが、少し拍子抜けた感じだったが、教えてくれるのであればありがたかった。

「詩歌の、元々いた森精華さんについてです。」

そこまで言って、声が張り詰めていることに気づいていた。
もっと厳しい審査があるかと思っていたので、自分の弱さが出ないように虚勢を張っていたのだが、逆に相手を不快にさせていないか不安になった。
そして、今が夜であることに気づいて、慌てて付け加えた。

「夜分申し訳ないです。」

相手は、森精華と聞いて少し驚いていたようだが、直ぐに事情を飲み込んだみたいだった。

「ああ。……じゃあ、駒地はあんただな。」
「はい。騎士になったという事は、どこからとは言いませんがお伺いしました。」

一息ついて、言葉を続ける。

「その後、今どうしているのか、どこにいるのか知りたいんです。」

相手の返事の言葉に、神経を集中させる。
焦れて、受話器の紐を指に巻きつけていることに、自分で気づいていない。

「絵を勉強しているよ。たまに会ってるがね。」
「・・・廃役ACEの処遇について、よくない話を聞きました。」

「会わせていただくことは、出来ませんか?」
「……いいとも。」
「ありがとうございます!」

ここまで聞いて、駒地はとりあえず一安心して、絡まっていた紐を解いた。
騎士になったACEの処遇と言うのは、いわゆる厄介者の扱い。
いつ死んでもいいように扱われる。
そういう風に聞いていたので、まだその可能性が棄てきれない分辛かったが、絵の勉強が出来ている事には素直に喜んだ。

そして、ふと思った。
(森さんを身近に知っている人物で、しかも何度も合っているというこの秘書官は、もしかして・・・。)

しかし、それを確認する前に駒地をまた不安にさせる一言が相手から発せられた。

「お見合いが近いんで、その前にでも。」

お見合い、というキーワードは駒地にとって宇宙外からの単語であった。
え、森さんが、え、なんでお見合い?え、だれと?
と、いくつもの疑問と不安が胸のそこから湧いてきた。

「お見合い、ですか?誰との?」

とりあえず、相手には悟られないように、疑問部分だけを相手に投げかけた。
幸いにも、相手には気取られずには済んだが、また予想外の言葉が飛んできた。

「tactyだったかな。まぁ、そういう名前だった。」

電話越しの駒地の顔は、もはやぽかーん。どころではなく、あごが半分外れかけているのではないかと疑うほど口が開いていた。

「急いで手配する。急げるな?」

相手の声に、ひとまず我を取り戻した駒地は、「ええ、急ぎます。」と口早に告げて、相手の指定場所を聞くとそこから猛ダッシュをかけた。
(お見合いってー、あの子何考えてるのっ。)

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森はいつも昼休みに来ている中庭で、一人で待っていた。
夜の中庭も結構絵になるんだなぁ。と今いる場所の絵の構図をぼんやりと考えていた。
宰相府に絵の勉強をしに来てから、ずっと絵に打ち込んできたので、何かをぼんやり考えることがそんなになかった。
(瀬戸口くんに言われて、中庭に来て見たものの、本当に真子ちゃん来るのかなぁ。。)
(でも、真子ちゃんのことだから絶対来るよね。自分が元気なところ見せて、心配させないようにしないと!)
そうやって、澄んだ夜の空を見上げた。

走ってくる人がいる。
あ、真子ちゃんだ。と反射的に森は思った。

「精華ちゃん!」

すごい表情で駆け寄ってくる駒地にとりあえず、元気よく挨拶した。
そして、自分の心配をさせないように、駒地の様子を尋ねた。

「おひさしぶりです。」
「どうしたんですか?血相変えて。」

走ってきたせいか、俯いて赤く火照っている駒地の顔を覗き込んだ。

「試験の後、すぐに連絡取れなくなったから、心配したんだよ…。」

俯いていた駒地の顔が森に向けられる。
汗だらけでボロボロになっている駒地の顔に、森は少し驚いた。
目には、涙もたまっているようだった。

「元気だった?ちゃんと休ませてもらってる?」

その一言を聞いて、森は少し胸が痛んだ。
駒地にこんなになるまで心配させてたんだと思うと、申し訳なかった。

「すみません。学期終わったら一度詩歌に帰省しようと思ってたんです。」
「元気そうでよかった…。」

駒地はその一言を聞いてやっと気を落ち着けたようだが、キョロキョロと少しせわしなかった。
自分の胸元を見たり、周りをキョロキョロしたり。
やがて、駒地が自分に向き直ると、何かを決心したような表情で口を開いた。

「ところで。」

森は「?」と首をかしげて、続きを待った。

「何か、お見合いとかいう話を聞いたんだけれど。」

森は初めは何事かと思ったが、「さすが真子ちゃん話早い!」と思いながら、少し照れて笑った。

「ああ!そうです。一度やってみようと思っていて。」

「えへへー。」と恥ずかしそうにしている森。
「一度って!」とその場でずっこける駒地。

駒地は起き直ると、走ってきて赤かった顔を今度は力いっぱい膨らませた。

「ちょっと待って……いや、tactyさんは悪い人じゃないけど。」
「お見合いなんて…まだ早いっ!」

桃の様になっている駒地をよそに、森は照れながら下を向いて言う。

「え。でもお母さんもお見合いだったし、……うちも自力ではだめそうだし。」
「お母さんもそうなのねー。」

一つ間を置いて、一気に桃からリンゴになる駒地。

「ってそれはまあよくって、自力じゃだめなんてそんなことはないよ!」

目を><にさせながら、力説する駒地。耳まで真赤ッ赤。
しかし、森は自分に魅力がないことを力説できる女の子。
エーという顔はまるで渋柿そのもの。

「どうか、したんですか?」
「そりゃ、いつかは、誰かいい人を見つけるかもしれないけれど…。」
「?」

駒地は今度は絞られていくかのように、しゅんと小さくなっていく。
森はしぼんでいく駒地を見て、果てしなく思い違いをする。
(そうか、真子ちゃんも彼氏さんが欲しいんだ。だったら、二人でダブルお見合いだ!)
そう思って、興味があるのかをまず確かめようと、少しおどけてみる。

「あ。真子ちゃんもそういうのに興味が?」

今日の駒地の顔はよく変わる。
しぼんだ顔から今度は寂しそうな兎のような目で森を見て、そして飛び掛る。
慌てて森は駒地を抱きとめた。

「今度の事も、精華ちゃん一人で遠くに行かせることになって、すっごい心配したの…寂しかったのっ!」

抱きとめて、森は真子ちゃんは可愛いなぁと素直に思った。
よしよしと兎をあやすように駒地の背中を撫でる。

「わがまま言ってごめん。でも、もうね、遠くに行くのはやなのっ。」
「大げさだなあ。」

森は可愛くなっていく駒地に、こみ上げてくる笑いが止められずくすくすと笑った。
駒地はいろんな事を考えすぎて、元からぐるぐるになっているのだが、森は気づいていなかった。

「うん…自分でも大げさだなって思う…。でも…大丈夫だって、大した事ないって言って、そのまま帰ってこなかった人も、いるんだもん…。」

駒地がぎゅーっと、腕に力を入れる。

「そんなのはもう嫌なの…。」

森は、不安になっている駒地を安心させようと、努めて笑っていた。
おどけて少しでも駒地を笑わせようと頑張った。

「えー。帝國ではここが一番、安全ですよ?」

駒地の肩に手を置いて、体を少し離して、駒地の顔を覗き込んだ。

「でも、心配してくれてありがとう。」

しゅんとなってる駒地の目に目を合わせて、微笑んだ。

「嬉しい。」

駒地はやっと落ち着いて笑えた。
お見合いのことは置いておいても、嬉しいといってくれた言葉だけで、何よりも安心した。
だが、お見合いはお見合い。駒地の現時点での最大の問題が撒き戻してきた。

「お見合いは…どうするの?」
「受けてみようかなって。」

猫のような額になりながら、ううーん。とうなる。
本当はお見合いなんか行って欲しくないって言えるほど、駒地は勇気がなかった。

「どうしてもって言うなら、私も同伴するっ!」

悩んだ結果の帰結点は、一緒に行く、だった。

「心配性だなあ。」

森はよく自分の事を考えてくれる友人が嬉しかった。
だが、駒地はその先を行っていた。

「心配性でもいいのっ。だって家族みたいに思ってるもん。」

森は、その言葉に目を丸くした。

「家族は付き添うものでしょー?」

目を細めて、嬉しそうに笑った。
(真子ちゃんは、私の一歩先を行ってたんだ。)

「そっか。」
「ずっと一緒にいるからねー。」
「うん。」

姉弟は茜しかいなかったから、女の姉妹としての付き合い方が分からなかったが、森もそうなればいいと思った。
だが、流石にずっと姉妹でいようねとは言えなかった。
だから、

「ずっと友達でいようね。」
「うん。」

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夜空一面に、心の青色が広がったような気がした。


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上手くコメディになったかどうか分かりませんが、頑張ってみました!
森さんと駒地さんの微妙なすれ違いは、不謹慎ながら可愛いなぁと思ってましたので、表現できてればいいなと思いますー。
ご依頼ありがとうございました!

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  • 読んでいて、改めて幸せーと思いました>< そして自分のぐるぐるっぷりがいかにも!と面白かったです(笑)この度はありがとうございました。 -- 駒地真子 (2008-05-13 01:18:42)
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引渡し日:2008/


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最終更新:2008年05月13日 01:18