久珂あゆみ@FEGさんからのご依頼品


俗に禁呪と呼ばれるそれは本来は深い暗闇に潜み、決して人の目に触れることなく終わる。

かつて世界を恐怖と混沌に陥れ、誰もが忌み嫌った一つの呪文がこの世に蘇らんとしていた

禁じられしその名はメチャゲドン-

魔術が世界を動かしていた時代、次々に生み出された禁じられた呪文が戦場を恐怖と混乱に叩き込む日常。
繰り返し続ける負の連鎖を憂いた一人の魔術師は、自らの生涯を賭して全ての戦乱を終わらせようとある呪文を生み出した。
その呪文が唱えられれば全ての戦場で阿鼻叫喚の後、争いは決して残らず、また誰もが剣を置く。
魔術師は世界から戦乱をなくすべく
だがそれ故に、悪用を恐れた魔術師は全て呪文を指輪に封じ込め、後の世に災いを残さぬよう封印をしたのである。
そして人々の記憶から呪文の名前が失われると共に、指輪の存在も人々の記憶から失われていた…

久珂晋太郎は訳あって現在宰相府藩国の住人である。
宰相府にいることと直接関係はないが、大切な人に頼まれて面倒事を片付けるために出かける数十分前の事である。
彼は居住区のバザーに出向いていた。砂を含んだ風の中を歩く。
純白の服に白い肌の男は西国である宰相府でも十二分に目立つ格好なのか、時折向けられる視線は好奇の視線か、彼の類まれなる美貌に対しての羨望の視線である。
いや一つ。その中に違う意図の視線を感じる。敵意は-ない。だが明らかに自分に向けた視線。
「もし」
声のする方に目をやると、一人の老人が立っていた。薄汚れたターバンに豊かどころか産まれた時から手入れしてないのではないかと思わせる、顔が見えないほどの白髪と髭であった。
「はい」
老人は何かを晋太郎の手に握らせる。魔力感知、何らかの魔法がかけられたアイテムであろう。
「力のある御方とお見受けします。これを、ただの指輪に戻してくだされ」
「わかりました」
二つ返事で返答である。老人は白髪の下で目を見開き、涙を流すとふ、と消えた。後には何も残っていない。足跡も、老人のいた名残も。
昔の僕だったら、どうしただろうか。老人の願いであっても魔術のかけられたものに対して二つ返事で引き受けただろうか。
笑みを浮かべると、指輪に籠められた魔力を自らに注ぎ込んでかけられた呪文を無害なものに変換していく。
呪文そのものの存在を全く役に立たない、意味のないものへと変える。そうしてこの呪文がどこかで使われればあの老人の願いを果たすことになるであろう。
「そろそろ時間、かな」
指輪を懐にしまうと、そこに立っているのは久珂晋太郎ではなく、白にして雲の名を持つ一人のオーマであった。

「じゃ、宰相府のバザーで貰ったんですね」
「うん」
パンとお茶で昼食を済ませた後、よけ藩国からFEGに向かう船の上である。
久珂あゆみは船の上で貰った指輪を愛おしそうに眺めている。正確にはその向こうにいる彼女の良人たる晋太郎を眺めている、としたほうが適格だが。
晋太郎の笑顔が心の底からであることが今はわかる。信じられる。
「すごく、嬉しい。ありがとう」
「うん」
それしか繰り返さない。心の底から、それ以外の事を考えていないからだろう。
本当は、指輪なんかどうでもよかった。この人と一緒に笑っていられれば。
…いや全然どうでもいいわけではないが。自分で買って渡すよりは貰ったほうが乙女的にもぐっと来るというか。
それでも、ずっと前の扱いからすれば…たぶん…それなりに…思い出すだけで何かめげそうになるので止めておこう。
あゆみは嫌な考えを振り払うようにぎゅ、と指輪を抱きしめる。ほのかに匂いがした。
あゆみはそのまま晋太郎に抱きついて離れないようにする。晋太郎はいつもより、他人から見ても微笑んでいると判るくらいの笑顔で彼女を抱きしめた。

晋太郎は少し驚いた顔をした後、またやさしく微笑んで彼女を抱きしめた。唇が一つの呪文を紡ぐ。
歌うように紡がれるその言葉は、かつてのように人を罰するためでもなんでもなく、ただオチをつけるためだけに唱えられる。
そう、その名はメチャゲドン-

「…アフロ?」
「そうなんだよ海法、あゆみさんと晋太郎さんが乗ってた船の乗客が何故かアフロになったらしい。何か原因知らないか?」
「馬鹿だなあぜくやん、そんな強引なオチをやる奴がいる訳ないじゃないか」

だが終わるのである。


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引渡し日:08/5/11


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最終更新:2008年05月11日 22:50