セタ・ロスティフンケ・フシミ@星鋼京さんからのご依頼品


 時にはただの少女のように

 悲しかった。
 貴方はそんな事言う人じゃないと思ったのに。
 気がつけばベットに寝かされていて、白衣の人間がバタバタしていた。
 窓が閉まっているのは、ベットで寝ている私に気を使ってかしら?
 すぐ傍で控えていたメイドに
「窓を開けて頂戴」
 上半身だけ起こして言ったら、すぐに風が入ってきた。
 そよそよとした大気の流れと一緒につん、と独特の匂いを感じた。

『風もね、吹く場所で感じ方が変わるものなんですよ』

 ぼんやり、つい数時間前お兄様から聞かされた言葉が頭をよぎって。またさっきと同じ気持ちになった。すぐ窓を開けたメイドにまた窓を閉めさせて、私はシーツを頭から被った。

『よろしければ、貴女の髪に触れる栄誉を得たいのですが』

 違う、そういうのじゃない。そういう事言われたいんじゃなくって・・・・・・・・・。
 こういう時、このモヤモヤした気持ちをどう言葉にすればいいのか分からなくって気持ちが悪くて仕方がなかった。
 ともかく、何かこういうのは嫌。
 そう思って私はそのまま一旦目を閉じる事にした。


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 次の日。太陽が丁度空の真ん中辺りに来た頃。
 私は温室の安楽椅子でぼんやりとしていた。天井が透明になっていて、そこから空が透けて見えた。
 太陽からなるべく目を背けて雲の流れるさまに見とれていたら、足音が聞こえた。宰相や警護の者達とも違う・・・・・・・・・あの人のだ。
 思った瞬間に慌てて安楽椅子から飛び降りて、その影に隠れた。
 昨日の今日で、お兄様に会うのは。
また会いに来てくれて嬉しいって気持ちと、昨日のモヤモヤした言葉にならない気持ちがごちゃ混ぜになって。
 どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。

「――ぽち?」
 優しい声。嬉しいはずなのに嬉しくない。
「……こんにちは」
 本当なら挨拶を返すべきなのに、昨日の今日で何を言えばいいのか分からなくって。黙って椅子に隠れたままお兄様の方にただ目を向けた。
 彼は眉を下げて困った風だったけど、私は何も言わなかった。言えなかった。
「お昼ご飯、できましたよ。食べますか?」
 言われて、そういえばお腹がすいている事に気付いて
「俺が笑ったから――悲しかった?」
 その言葉に小さく頷いた。
 そしたらその直後に
「ごめんなさい」
 頭を下げたのにびっくりして椅子の後ろから顔を出した。

「もう、笑ったりしないから。俺はその、意地悪だから、今まではそういうこともしてきたけども――もう、しないから。君が悲しいのなら、もうしない」

 多分私はひどい顔をしてあの人を見ていたんだと思う。だって、昨日の言葉がまだ心に引っかかっていたから、信じていいのか分からなかったんだもの。
 でも、お兄様は必死だった。私を悲しませたのを心底後悔しているという顔だった。

 だから、私に差し出してきた小指に小指を絡めたの。

「――約束。約束したことは必ず守るよ、ぽち。だから、何度でも会いに来る」
「絶対よ」
「破ったら、俺のことを好きにしていい」

 そして、お決まりの歌を歌って指切りをした。
 途端にお腹が鳴りそうになったから、うんとお腹に力を込めたわ。

「宰相は?」
「お昼ご飯を作ってるよ。今日はスクランブルエッグ」

 話しながら、温室を出る時にはお兄様の袖を握って歩いた。本当は手を差し出してくれてたけど、まだ全部許せたわけではなかったから。

「……スクランブルエッグ、苦手?」
「だいすき」
「なら、今日から俺も好きになろう」

 そう言って髪を撫でる手の温かさが心地よかったけど。

「もちろん、ぽちも好き」

 その言葉が凄く凄く嬉しくて顔が赤くなったけど。
 お昼ごはんを一緒に美味しく平らげてからじゃないと全部は許してあげない。


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 今回はご指名いただきありがとうございました。
 伏見さんと新ぽち王女の交流がとても微笑ましかったです。
 どうかいつまでも仲のいいお2人でありますように。

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ご発注元:セタ・ロスティフンケ・フシミ@星鋼京様
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最終更新:2008年05月09日 22:27