やひろ@ナニワアームズ商藩国さんからの依頼



はっぴばーすでー でぃあ おおさか

~貴方が生まれて生きていて良かった~


人物紹介
やひろ 
外見年齢8歳ほどの猫妖精の少女。
一人称はおれでいつもはボーイッシュな動きやすい服装を好むがこの日はおめかし。
がんばりました。
時折年不相応の言動を見せる。
必殺技は蝉だっこ、エイリアンだっこ、ハイジャンプお姫様だっこなど。

大阪
ナニワアームズ商藩国に滞在する有名人。
主にセクハラまがいの言動が有名だが、その心根は数々の異名に相応しい清廉な正義に満ちている。
精神的には結構ナイーブらしく最近ちょっとへこみ気味。

久遠寺 那由他
やひろの先輩に当たる駄猫文族。
お姉さん風を吹かして色々世話を焼くが、主に助けられているのは那由他の方らしいという噂も。
本編には登場せず。



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 天領。春の宵。
 その日ナニワアームズ商藩国の文族お手伝いやひろは精一杯のおめかしをしてとある家の前に一人立っていた。
 やひろの目の前にあるのはこぢんまりとした何の変哲もない小さな家で表札もかかっていない。
 やひろは大事に抱えてきたバスケットを左手に持ち替えると背伸びするようにして呼び鈴を押した。
 わくわく。
 どきどき。
 間を置かずがちゃ、とドアが開いて、薄闇が立ち籠めだした街路に漏れる暖かい光と共に長身の男性が姿を現す。
 ナニワアームズ滞在ACE・大阪万博。
 滞在と言っても戦いがあればそこに赴くのが性のような大阪だから国元にいることは実は少ない。
 常のようにスラックスと半分はだけさせたシャツというセクハラまがいな服装の美貌の男は、ドアの前にたたずんでこちらを見上げるやひろを認めると相好を崩して家の中へと招き入れた。
 意外にもというか男性の一人住まいの割に室屋内は綺麗に片付いている、というより生活感が殆どなかった。どうやら宰相府で構成員向けに貸与しているセーフハウスの一つらしい。
 これも殺風景なリビングに通されたやひろは小走りに大阪に駆け寄るとバスケットを床に置いて大きく両腕を広げた。
「おおさかー!
 えっとね、えっとね」
 何かを期待する輝くような笑顔で大阪を見上げる。
「どうしたんだい?」
「ぎゅーしたい。だめ?」
 なるほど、と笑ってしゃがみ込むと大阪はやひろの小さな身体を抱き上げた。
「?」
 だっこが嬉しいのか?という感じに抱き締めるとやひろは両手足でぎゅーと抱きつき返した。
「わあー!えへへー」
 大喜びで大阪の首もとにすりすりして歓声を上げるやひろ。
「あのね、この前は、ねこさんをしょうかいしてくれてありがとう!
 おおさかのおかげで、みんなぶじだったんだよ」
 それはナニワアームズ商藩国の隣国、玄霧藩国襲撃事件である。
 やひろも小さいながらも藩国士官としての責務を全うし、大阪の傍らで戦うべく参加した。
 この時玄霧藩国を襲った圧倒的不利な軍勢に対してナニワは大阪の紹介で訪れたライダーキャットの知恵を借り、遅延防御戦術によるAR切れで敵軍を撤退に追い込んだ。
 ナニワにとっては大阪の本格的初参戦であり、その存在感を強く印象づける作戦だったのだが。
「なんのことかな。忘れちゃったよ」
 大阪は何処か寂しそうに笑ってそう呟くと、やひろを床に下ろした。
「おおさか、あのね。それはちがうよ。
 うまくいえないけど、ちがうの。
 だから、今日はきてくれてありがとう!」
「そうか?」
「うん!」
 あなたのしたことはあなたがどう思っていても貴いこと。
 わたしはそれを知っています。
 言外に込められたやひろの思いに納得し切れていないながらも大阪は頭をかいてま、いいか、と小さく呟くとやひろをもう一度抱き上げた。
 本日二度目のだっこにやひろはご満悦で抱き締める。
 さながら大阪に張り付く蝉の如し。
「えへー」
「ま、美人がいうのが正解だ。
 どこかあそびにいくか。こんな小さな家の中じゃなくて」
 いつもの調子に戻って軽快に大阪が提案するとやひろは今日ここに来た目的を切り出した。
「うん、でもね、あのね、あのね。
 おたんじょうびって聞いたから、おいわいしようと思って、ケーキ作ったんだよ。
 おたんじょうび、あってる?」
「俺の?」
 自分の誕生日を覚えている人間がいたことに少し驚いて、大阪は一瞬悲しげな目をしてそれを打ち消すように笑みを浮かべた。
「ああ。そうだ。
 俺の誕生日だ」
 お誕生日は、嬉しくないの?
 不思議そうに首を傾げて至近距離でその目をみつめるやひろ。
「歳を取ると、うれしくなくなるのさ」
 多分それだけではないのだろうが、大阪はそう言って微笑んだ。
「それはちがうよ、えっとね、おろしておろして」
 真面目にそう言ったやひろを下ろして大阪は目の前の少女をみつめた。
 床に下ろされたやひろは大阪の前に静かに歩み寄るとその大きな右の手を取って両手で押し頂くように指を絡めた。
 瞳を閉じ、軽く俯いて、祈りを捧げるように。
 唇には笑みを。
「今日、ここにあなたがいてくださることに感謝します。
 そして、これからの一年が、あなたにとってこれまでで最も良い一年であることを、願っています」
 年不相応な口調で言葉を紡ぎ出すやひろ。
 その姿は厳かで清廉であり異界の巫女のように映った。
 それは心に思う誰かを持つならば誰にでも使える神聖な魔法の一瞬。
 わずかな間を置いてえへー、と笑って大阪を見上げるやひろ。
「ははは。難しいこと言えるんだな。偉い偉い」
 大阪はやひろの言葉に真心を感じてそれ以上は何も言わずに頭をなでた。
「えへー。だからね、いい日なんだよ。みんなそうなの。
 おめでとう、だけじゃないんだよ」
 お誕生日は、良い日!
 繰り返しそう説くやひろに大阪はようやく心から微笑んだ。
「そうだな」
「うん! だからね、おようふくも、なーちゃが、『女の子だしお祝いだから可愛い格好しなきゃだめ』って。
 にあうかなぁ」
 言いました。はい。
 なーちゃとは那由他のやひろ独自の愛称である。
 やひろの脳裏に一瞬、『女の子は!可愛らしく!』と拳を握って力説する那由他とピンクやブルーのふりふりドレスを手ににじり寄るほか数名の藩国士官の図がよぎった。
 この前大阪に会って後、やひろもボーイッシュな普段着から女の子らしい盛装というのを意識してそれなりに悩んではいたのである。
 藩士達のはやりすぎだが。
「似合うとも。
 かわいいかわいい」
「ありがとう!
 あのね、おおさかに言われるのが、いちばんうれしい」
 瞳の色とよく馴染んでいる若草色のワンピースを差して、えへーとはにかんで笑うやひろに大阪は大きく頷いてみせた。
「ははは。そりゃ光栄だ」
 やひろの一番、という言葉に再び相好を崩す。
 二人はもうなかよしだ。
「えへー。えっとね、ケーキははんぶんこでいい?
 作ったら、ちゃんとたべてあげないと、だめだよね」
 やひろが大事に抱えてきたバスケットには前日苦心して作った小さなバースデーケーキが入っている。
「もちろん」
「じゃあ、じゅんびしないとねー」
 誰かに祝って貰う、これほど楽しい誕生日は初めてなのか、笑顔が絶えない大阪を見てやひろも とても嬉しそう。
 先に大阪がテーブルに着くとそこへバスケットを抱えたやひろが小走りに駆け寄って中からケーキとろうそくを出してささやかなパーティの準備を始める。
「へえ。ちゃんとしたケーキだな」
「えへー。がんばったんだよ。
 ろうそく、ぜんぶささるかなぁ」
 テーブルの上に置かれたケーキを見て感心する大阪。
 やひろの作った4号のケーキにはイチゴか4つと『Happy Birthday』と書かれたチョコレートのプレートが添えられていた。
「4、5本でいいぞ?」
 全て使う気満々でいちにー、と色とりどりのろうそくをしめて20本手に取ったやひろに大阪は苦笑気味に言った。
 この小さなケーキに彼の生きてきた年月の分ろうそくを立てるのは流石にちょっと無理がある。
「じゃあ、4っつー」
 あとは、マッチー。つけてつけて」
 イチゴの間にろうそくを立てたやひろがマッチを手渡すと、大阪は一つずつその先に火を灯した。
 無機質なリビングの中央、テーブルに着くやひろと大阪が暖かな灯火に照らし出される。
「わあー。きれいだねえ」
 揺れる炎を瞳に映して無邪気な笑顔を見せるとやひろは声の調子を改めて明るく歌い出した。
「はっぴばーすでーとーゆー♪
 はっぴばーすでーとーゆー ♪
 はっぴばーすでー でぃあ おおさかー♪
 はっぴばーすでーとーゆー♪」
 やひろの暖かく優しい演出に大阪は笑うと、大きく息を吹いて火を消した。
「嬉しいな」
「おたんじょうび、おめでとうー」
「ありがとう」
 内心感動しきりの大阪は優しくやひろに笑って心からそう言った。
「えへー。食べよ、食べよ。切って切って。
 チョコはねー、おおさかがたべるんだよ」
「ははは」
 ケーキのデコレーションは主役のもの、と言うルールがやひろの中にあるらしい。
 大阪は思わず声を上げて快活に笑うとケーキと、それからチョコも綺麗に半分に切り分けた。
「食べるか?」
「わあ、いいの?
 たべるー」
 差し出されたチョコの誘惑にあっさり負けるやひろ。
 無心にケーキを頬張るやひろを微笑ましく見守る大阪はひょいと手を伸ばしてその顔に付いたクリームを丁寧に指で拭った。
 手付きが何処かいやらしいのは仕方なし、彼にとっては第二の天性のようなものである。
 エロリスト大阪、未だ健在。
「えへー、ありがとう」
 …えっとね、食べていい?」
 やひろは大阪の指に付いたクリームをじーっとみつめてそう言ったのだが、大阪は余り手を付けていない自分のケーキをやひろの前に差し出した。
「それは、だめー。おおさかのぶんだよ」
「笑顔が見たい」
「おおさかがたべて、おいしいって言ってくれるのがいちばんうれしいよ」
 と、やひろは主張するが実のところ大阪は既に胸がいっぱいである。
 にこにこしているやひろの顔を眺め、指に付いたクリームを嘗めるとそれだけで満足したように笑った。
「うん。うまい」
 クリームの付いていない方の手でやひろの頭を撫でると、やひろはその手を取ってぐるりとテーブルを回った。
 手を繋いだままぴょん、と大阪に飛びつく。
 大阪はやんちゃだなあ。と嬉しそうに笑ってその小さな身体をしっかり受け止めた。
 最早この辺の息もぴったり。
 ちなみに『これをエイリアンだっこと呼ぶのです』とかつて那由他がやひろに語っていた。
 子供に何を教えているんだか。
「今日はいい日だね。すごくうれしいんだよ」
「そうか。俺にもいい日だ。死ぬまで覚えておくよ」
 輝くように笑うやひろに大阪も笑顔でそう返した。
 やひろはそれにはちょっと不満げな表情になったがすぐに再びすりすりと大阪の肩に顔を埋めて歓声を上げた。
『らいねんもその先もずーっといい日にするもんね』
 やひろは固く誓うと何時までも大好きな大阪の腕に抱き留められていた。

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 一方その頃。
 やひろの国元ナニワアームズ商藩国では那由他が女子寮の自室で端末を向かっていた。
 ふと手を止めて航空時計に目をやる。
「やひろさん、平気かなあ」
「ふなーご」『ま、那由他よりは心配ないんじゃないか?』
 あくびまじりに答える猫士の明宗を軽く睨み付ける那由他。
『もっと大阪さんと仲良くなるには二人きりで会わないと』
 と言って天領への定期便からやひろを送り出したのは那由他なのだが。
「なご」『それより、締め切り近いんだろ?仕事仕事』
 明宗の言葉で物思いからあっさり現実に引き戻された那由他は溜息をつくと今思い付いた新しい物語のタイトルを打ち込んだ。
『しあわせのおうじ』
 それは他人のために自分の身を削る美しく輝かしい王子と、その王子に最後まで付き従う小さな子猫の物語。
 明宗がうたた寝を始めてキーを打つ小さな音だけが支配する部屋で夜は静かに更けていく。
 今宵も、ナニワは平和である。


拙文:ナニワアームズ商藩国文族 久遠寺 那由他



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  • 甘味三割増しどころか三倍増しで……PCの前で倒れております。ありがとうございました! また一緒にACEに会いに行けることを願ってー。 -- やひろ (2008-04-20 22:43:40)
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製作:久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=1018;id=UP_ita

引渡し日 2007/



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最終更新:2008年04月20日 22:43