久珂あゆみ@FEG様からのご依頼品

step by step ...
  from the game at 9 Jun

 窓からのやわらかい日射しにまどろみながら、あゆみはソファーの上で大きく伸びをする。反動で少しずり落ちた綿毛布を肩までひっぱりあげながら、随分すごしやすくなったなと思った。これが風野緋璃なら、半年ほど前の砂漠が一大緑地に変わった事件との関係と今後の気象予測などを、広瀬都なら国民生活や軍事に与える影響を考察しだすのだろうが、この人はそんな細かいことよりも暖かい天気を素直に喜んだ。

 十二月の二つの戦いの事後処理に奔走するうちに、そのまま年越しと立国一周年記念式典の慌しい日々が続いた。ようやく出来た休日に、次のデートは何を着ようかなとか手紙のお返事来ないかなとか悩んでいたはずだったが、気がつくと眠りに落ちていたらしい。
 (ま、こんな日もいいよね。冬場は炬燵で丸くなるのが猫だし)
などとよく分からないことを考えながら、あゆみがもう一眠りしようとした時。

 ”コツン”

 どこからとも無くそんな音がした。
 寝ぼけ眼をこすりながら、頭上の大きな耳をぴくぴくと動かす。

 ”コツ コツ”

 気のせいではないらしい。そう気づいたあゆみが、慌ててソファーから立ち上がりあたりを見渡すと、曇り硝子の窓越しに人影が見えた。
 ――何だかとっても見覚えがあった。

 (にゃー!!)

 思考停止が3秒。
 その後、慌てて髪に手櫛をかけ乱れたスカートの裾を直し、身だしなみを整えるのが4秒。
 ソファーの上の毛布や菓子皿などを片付けようとし始め、彼をいつまでも窓の外に待たせるわけにいかないと我にかえるまで、さらに2秒。
 以上が、あゆみが窓に飛びついて鍵を開けるまでの行動だった。

 曇り硝子の向こう、冬の少し寂しくなった庭に居たのはあゆみの予想通りの人だった。
「いや、一応優しくしてるつもりだから!」
 そこにいた無表情な男――晋太郎は、あらかじめ考えてきたようなその台詞を口にすると、用は終わったと言いたげに立ち去ろうとした。ぐるぐるしているのはお互い様のようだ。
「じゃ、そういうことで」

 一瞬呆気にとられたあゆみだが、思考停止も束の間にしてすぐに手を伸ばした。そうしないとこの人は本当にさっさと帰ってしまうことを十分過ぎるくらい知っていたのだ。

「えーーーーーー」
「いや、明日も学校あるし」
「じゃあ送らせてください」
「いいよ。手下みたいだから」

 そう言うと、晋太郎はさっさと帰っていった。
(なんだ、気にしてたのはお互い様だったんだ)
 あゆみはそう気づくと、肩の力を抜いた。くすっと小さく笑う。そして玄関先に走りコートと靴だけ身につけて、後を追いかける。走るまでもなく、すぐに追いついた。

「手繋いで歩いたら手下っぽくないですよ!」

 あゆみの言葉に、晋太郎は足を止めて振り返る。少しの躊躇いののち、そっと手を出した。とは言えよほど照れくさかったのかその掌はあゆみが取る暇もなく、すぐに戻されてしまった。

「いいよ、そんなの」
 照れ隠しに頬をかきながら、晋太郎は言う。あゆみはそんな彼のために、少し話をそらした。

「手紙みてくれたんですよね?」
「読んだ。傷ついた」
「ごめんなさい…」
 しょぼん、と耳をたらすあゆみを見て、晋太郎は笑った。
「嘘だよ。僕が悪かった」
 その台詞を聞いたとたん、下がり気味だったあゆみの頭は元気良く晋太郎の方を見上げた。
「…うん。私も素直じゃなかった」
「……」
「仲直りしましょう。」
「最初から喧嘩なんかしてないよ」
「そうですね ケンカっていうのもおかしいですね(笑)」
 その言葉を聞いて、晋太郎は少しだけ微笑んだ。その様子にあゆみは、(晋太郎さん、少し元気ないのかな)と思う。そう考えたのはすぐに伝わってしまったようだった。

「元気はあるよ。……恥ずかしいだけで。」
 そう言いながらも、彼は手を伸ばした。あゆみは今度こそ、それをしっかりと握る。
「えへへ」

 駅のホームまでの短い間、二人は手をつないだまま歩いた。仲良く喋ったり、歌ったりしているその様子は、道行く人にとってとても微笑ましいものだった。
 幸せな時間はあっという間に過ぎ、ホームには電車がやってくる。

「次の休暇の時にでも」
 優しく言う彼の言葉に、耐えられなくなったあゆみは言う。
「……わたしも…ついていっちゃ…だめですか」
「勉強にならないよ」
 どこか嬉しそうに小さく笑って、晋太郎は答えた。
「邪魔なんてしません」
「僕が、手につかないのさ」
 照れたように笑うと、晋太郎はあゆみの頬にそっと触れた。
「ばいばい」
「”また”です! ばいばいじゃないですよ」

作品への一言コメント

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最終更新:2008年04月17日 12:14