鋸星耀平@ビギナーズ王国様からのご依頼品

その日、城島月子は長い入院生活を終えて、
久しぶりに学校へ戻ってきていた。

病院での生活に慣れていた月子にとって、
学校生活は楽しいものである。

しかし、友達とはしゃぎすぎて疲れてしまったのだろう。
下校のチャイムが鳴り響く中、席で座ったまま、ぼんやりとしていた。

今日は皆と話せて、楽しかった。
お弁当も、皆と一緒に食べると美味しかった。

今日一日のことを思い出しながらほぅと息を吐いていると、突然声を掛けられた。

「こんにちはー、あの、はじめまして。城島月子さん……ですよね?」

驚いて顔を上げ、声の主を見る。
見知らぬ男性。

「こんにちは」
挨拶を返したものの、緊張で声が上ずってしまう。
どうしよう、どうしたらいいんだろう。
男の人に声かけられたこと、あまりないのに――

「あー、びっくりさせちゃってすいません。僕は星青玉と言うものです」
「すみません」
「前から、あなたと話してみたいなーと思ってて。良かったら一緒に帰りませんか?」
「いえいえ」
「おじいちゃん臭くてすみません」

月子、更に緊張。
知らない異性に話しかけられ、戸惑っていた。
なんだか、自分の話し方が、おじいちゃんみたいだ。
そう思った月子は、恥ずかしさのあまり、うつむいた。

初めて会う男の人に、一緒の下校を誘われた。
月子のこれまでの経験にはなかったことだ。
考えてしまう。

一緒に帰ろうって、誘われた。
初めての、男の人に。
どうしてこの人は私を知っているんだろう?
――怖い。

「えっと、帰るのは少し。その、ごめんなさいっ」

ガタンッと音を立て、椅子から立ち上がり、荷物を抱え、
月子は長い黒髪を靡かせながら走り去っていった。

廊下を走る。自分の足音の他に、もう一つ足音が。
後を振り返ると、先ほどの男性が追いかけてきていた。
全力で走る月子。星青玉を、怖いと思い続けた。

しばらく走って、校門を過ぎた辺りで息が切れて立ち止まった。
振り返る。もう、星青玉は居なかった。


翌日。
昨日の記憶をなるべく思い出さないようにしながら、
再び穏やかな学校生活を送っていた月子。

昼休みになり、友達と机をくっつけてお弁当を広げる。
和やかな会話を楽しみつつ、おかずを交換したりした。
月子のお弁当は、友達に人気であった。
料理の腕をほめられ、喜ぶ月子。
昨日のことなど、もう忘れかけていた。

昼休みが残り20分となった頃。
教室の扉を開けて、男子生徒がやって来た。
扉の音に振り返る月子。そして固まる。
星青玉だったのだ。

「あの……その昨日は警戒させちゃってごめん。お詫びにバナナ持ってきました」
「好きだと海法さんとか是空さんの書いたもので読んだので……」

完全に思考が固まる月子。
バナナは好きだが、急に差し出されても困る。
ましてや、相手は昨日の不審な男性である。

「あ、いえ。えーと、もらえません。ごめんなさい」
「んー、じゃあー一本ならどう?」
「量のはなしじゃなくて」
「あー、そっか……ごめんもしかして食べられ……ない?」
「そうじゃなくて」
「う~ん?困った」

戸惑う月子。彼女が怯えているのを見て、
仲の良い女子が月子を庇った。

「(のこちゃん…)」
「(いいから立って)」

こっちにおいで、と月子を立たせて、星青玉から離す。
月子は、女子たちと共に外に出た。
のこと呼ばれた少女―鋸山信児だけは教室に残り、星青玉と話をしているようだった。

外に出て、ようやく安心した月子。
体の力が抜け、廊下に座り込む。
そんな彼女を、周りの女子たちは慰めていた。


更に翌日。
鋸山から星青玉が謝りたいと言っていると伝えられた月子は、
その願いに応じることにした。
また、彼はただ月子と仲良くなりたかっただけだ、
ということも教えてもらった。
しかし、これまでの出来事で星青玉に対して恐怖心を持っている
月子は、鋸山に一緒に来てくれるように頼んだのであった。

屋上に上がると、柵の辺りに星青玉が立っているのが見えた。
月子は、鋸山の後に反射的に隠れる。

鋸山は、つかつかと星青玉の傍へ行くと、月子を手招きした。

「さあ。星青玉くん」
「はい!……城島さん、申し訳ありませんでした!」

鋸山の声に勢いよく応じると、星青玉は頭を下げた。

「人と初めて話すって状況、なれてなくて、その、うまく言えないんですが、城島さんを恐がらせてしまいました。ごめんなさい!」

頭は下げたまま、星青玉は更に続ける。
言葉からは、誠意が感じられた。

「あ。えっと」
「私も臆病で……すみません」

月子も、頭を下げる。

「よし! 仲直り!」
鋸山の勢いのいい声。

「じゃ、帰ろうか。皆一緒の方向だよね」
「は、はい」
鋸山はそう言うと、月子と星青玉の間に立って歩き出した。
星青玉は、鋸山に近づくと小声で何か話した。
すると、それに対して鋸山が何か応えた。

月子はそのやり取りを見ている。
鋸山と、星青玉は仲がいいのだろうか。

「のこちゃんと仲いいんだね」
思ったことを口に出す。

「誰が!」
即座に、鋸山が否定した。

「はっ!?そ、そういえば、まだお名前を伺っていなかった!?」
その言葉に振り返る鋸山。

「鋸山信児!」
「し、しつれいしましたー!」
鋸山の剣幕に押され、何故か敬礼する星青玉。
何かぶつぶつ言いながら、二人に背を向けて歩き出す鋸山。

「……やさしい人ですね」
そっと、小声で星青玉は月子に話しかけた。

「……うん」
星青玉さんは、いい人なのかも。
月子は少し笑った。


それから、数日後。
月子は星青玉、鋸山と共にお弁当を一緒に食べることになった。
屋上に向かう途中、鋸山はさっさと二人を置いて一人で行ってしまった。
取り残される二人。並んで歩き始めた。

「のこちゃんとは、どんな?」
聞いてみる月子。

「実は、この前の騒ぎの時、初めて知り合いました」
「色々と叱られました」

月子は、驚いた。その割には、ずいぶんと仲がよさそうだったのだが。
「そ、そうなんだ」
「ほんとに?」
「はい、すごい勢いで」

そうなんだ、と再度呟く月子。
彼女はこれまで、鋸山が誰か一人の男子と一緒に居るところを
見かけたことがなかった。
男子には興味がないのだろうかと思っていたのだが…。

そうこうしているうちに、屋上に着き。
屋上の隅で弁当を広げる三人。

会話がない。気まずい雰囲気。
月子は、何か話題を探していると、星青玉が言った。

「えっと、い、良い天気ですね」
「そ、そうだね」

何か話題が出たことに、安堵する月子。
横で鈍い音がした。見ると、鋸山が倒れている。

「大丈夫ですか?のこさん」
「いやもう。不器用になにか期待した私がバカでした。はい」

鋸山の顔が赤い。
月子は、ひょっとして?と思い、こう言ってみた。

「あー」
「やっぱりのこちゃん、星青玉くんのことが好きなんだ」

「えぇ!?」
「違うわよ!」
「そこ!、意味不明のリアクション禁止!」

月子の発言に驚く星青玉、即座に否定する鋸山。
鋸山は星青玉の動揺を見て、バカー、バカーと連発しはじめた。
もはや食事どころの騒ぎではない。
鋸山の顔は、耳まで真っ赤だった。

鋸山は昼飯を置いて屋上から逃げ出した。


「……おーい」
「ど、どうしよう……」

取り残される二人。首をかしげる。

「ほんとだった・・・・・の?」
「いえ……さすがに解かりません、本当にあったばかりですし……でも、あの反応は……」

鋸山の弁当を、綺麗にまとめる星青玉。
「とりあえず追いかけましょう、一緒に探してもらえますか?」
「は、はい」

月子は頷くと、星青玉の後に続いて屋上を後にした。

のこちゃん、星青玉さんの事好きなんだろうな。
さっきの会話も、息があっていたように思う。
きっと、いいコンビになれるだろう。
鋸山を探す途中、月子は思った。


(「コメディは突然に」へ続く…)



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最終更新:2008年04月13日 02:18