私は遠くの岩陰に遥ちゃんを見つけた。
帽子を全開でかぶっていて、私たちを見ている。
一緒に泳ごうと思って駆け寄ると、逃げられてしまった。

ああ。前にもこんなことがあったな。後ろのやり取りを聞きながら思い出す。
あの時遥ちゃんは泣いていて、泣きながら走っていて、なかなか追いつけ中たんだっけ。
水着を着ているからスカートの心配はいらないけれど。

あともう少しで追いつく、というところで銃声がした。

―――遥ちゃんが倒れる。

「は、遥ちゃん!遥ちゃん!」
最後の距離をすごい速さで詰める。
よくよく見てみると、遥ちゃんはこけているだけだった。
あの銃声が(信じられないことに)石を遥ちゃんの前にはじいて
それで転ばせたのだ。
少し半泣きになって傷を確かめる。
よかった、よかったよぅ…。

伏せたままの遥ちゃんの背中をやさしくなでて話しかける。
「遥ちゃん、もう大丈夫だから。ほら、お話、しよう?」
「あの人……こわい」
「大丈夫。何かあったら、絶対に守るから」
そう。絶対に。
私は遥ちゃんと青森さんの間にいるように移動した。

遥ちゃんの頭に石があたる。
また銃で石をはじいたのだった。
「……あの人、国に帰ったら、女の恐ろしさを見せてやる」
遥ちゃんは涙目だ。いいかげんに怒りが湧いてくる。

それは遥ちゃんも同じだったようで、わぁぁぁと泣きながら
青森さんをぽかぽかしにいった。
青森さんとりんくさんは海でゆうゆうと泳いでいる。
だけど、遥ちゃんは海岸前で立ちすくんでいる。

足元を遥ちゃんの帽子が転がってきた。
私はそれを鞄に入れて鞄を適当な所に置いた。
「遥ちゃん、いっしょに、泳ご?」
そういうと遥ちゃんは眼鏡を外して海に入って行ってしまった。
それをどこか嬉しく思いながら追いかける。
表情には出さないようにして。

一生懸命、泳いでいる姿がかわいい。
水が冷たくて気持ちが良かった。


前の方にいる遥ちゃんが溺れた。
後ろから回って助ける。前から行って一緒に溺れてしまわないように。

「遥ちゃん、いきなりは無茶だよ!……どうしてもなら、代わりに行くから」
遥ちゃんはボロボロ泣いていた。
「ひどい。ひどいよ。私が何か悪いことしたの?あの人はなんで私が気に食わないの?」
「遥ちゃん……あのね」なんて言おうか、迷う。
「なによっ」

気持ちだけが先走って言葉が荒がないように気をつける。
やさしく、ゆっくりと。
「遥ちゃんは、嫌われてるんじゃないよ。うぅん。嫌ってる人なんて、居ない。
居させないから。
遥ちゃんの一面だけ見て嫌いだって言う人が居たら、私がその人のところに行くよ。
そんなの、遥ちゃんを嫌ってるんじゃないもん。
だから、私はその人のところに行くよ。貴方の勝手に決めた遥ちゃんを嫌うな、って」

遥ちゃんが青森さんと私を交互に見る。
青森さんが遥ちゃんを命のやり取りが大好きな目で見てきた。
私は青森さんから遥ちゃんをかばうように、戦うように見る。
「だから、今は泣かないで。私がきっと何とかする」

そして青森さんはこう言った。
「ま、スパイならもう少しいい尻をしているか」

―――ん?

遥ちゃんの悲鳴が上がった。
直後に、私のお尻が触られる。
「!何!?」
触られる、というよりはつんつんされたような…。
もしかして…。

イルカだ。
水の中で目を開けた私の目に遥ちゃんをつつくイルカの姿があった。
どうしたんだいおじょうちゃんな感じ。

「ほら、いるかさんだよ。かわいいねぇ」
「イルカ……?」
「ちょっとなでさせてもらおうよ。いるかさん、駄目ですか?」
私の言葉を理解したように、イルカはきゅーとないた。
「ほら、遥ちゃん、撫でさせてもらおう。かわいいよ」
迷っている風の遥ちゃん。
思わず微笑んで見ていると、遥ちゃんは手を伸ばしてイルカを撫で始めた。
「かわいいね。それにあったかい」
私も笑いながらイルカを撫でた。
遥ちゃんはイルカに抱きついている。
「わ、遥ちゃんずるい。私も」
ぎゅーする。
「おおきいねぇ。泳ぐのもきっと早いんだろうなぁ……」

すぐ後ろでは扇さんと青森さんがイルカと遊んでいる。
青森さんが扇さんで遊んでいると言うほうが正確かも。
思わず笑ってしまう。


遥ちゃんの方を見ると―――。
イルカに捕まって流されていた。
「わ、わ」置いて行かれた。
遥ちゃんは溺れだした。

すぐに助けに行く。
そして私も溺れてしまった。
「いるかさーん!」
返事がない。
「は、遥ちゃんだけは……青森さん!」

首筋をつかまれて私たちは助けられる。
「あ、ありがとうございますー」
あぁ。よかった。ほっとしたせいで力が抜けた。
「ほら、遥ちゃん。嫌われてなかったよ」
「おっ、子供だがいい眺めじゃないか」
「青森さん!」

私が青森さんをたしなめると、遥ちゃんが青森さんを殴った。
遥ちゃんはわめいている。
青森さんはどこか、うれしそう。
遥ちゃんが大きな声を出していることに、どこか安堵する。
なにか間違っているのかもしれないけれど。
父親的な愛情はこんなものなのかな?
「青森さん、それじゃあ、まるで娘に嫌われる典型的なお父さんですよ……」
扇さんがため息をつきながら言う。
「殴り合いもできないようじゃな。人間関係なんか、出来はしない」
「青森さん……」
もしかして、もしかしなくても、いままでのは。

青森さんはは優しく笑うと、吉田に殴るなら急所を狙え、ここだと、教えた。
え!?
二人であわてて止めようとする。
「い、今やったら危ないです海です!」
青森さんは眉間を狙って撃つ遥ちゃんの拳をよける。
「いいぞ。戦場はどこででもある。
今やるなとか、別のところでただとか。戦いはそれができないから戦いだ」
「……そうですか」
私は青森さんの後ろに回って頭を固定。
扇さんが遥ちゃんを支える。
青森さんは笑っている。

「やっちゃえ遥ちゃん。これも戦いです」
「吉田さん、いっちゃえー!」
懇親の一撃。
青森さんは何食わぬ顔で水にもぐった。
私も一緒に引きずられる。
そして、私は直撃をうけた。
鼻血が飛び散った。

「あ、ア・・・あ。ああ」
「だ、大丈夫だよ」
ほんとに大丈夫だよ。私は水に潜って鼻血を落とす。
「あ、浅田さん……ごめんなさい、ほんとうにごめんなさい」
私はそれににこり、と笑って答える。
「ね、遥ちゃん。これだけは覚えてて。どんなことが私は貴方のことが嫌いじゃなくて大好きだし、何かあってもきっと助けるから。
だからこんなこと程度、大丈夫」

扇さんが青森さんを追いかけて海岸へ行った。
遥ちゃんは私に預けられた。
私は遥ちゃんを支えた。
ついでに目隠し。その状態で二人を追いかける。

「またあそぼうね」
また一緒に遊ぼうね―――。


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最終更新:2007年09月25日 18:47