ミーア@愛鳴藩国さんからのご依頼品


 体育館ほどもある広さの受付を抜けると、
ミーアは繁華街の中央広場ほどもあろう、広場に降り立った。

ここは図書館藩国のメインエントランスだ。
天井や壁に組み込まれた照明からは調整された光が街路を照らし、
規格統一されたビルが遠く奥の壁まで続いているのが見える。
ビルの一軒一軒が100mはあろう書架(本棚)であることは
受付にあるパンフレットにも記載されていた。

遠景はおぼろげに壁面と繋がり、そのまま光の降り注ぐ天井へと
つながっていた。
広大な一つの宇宙船であることを 
いやが上にも納得させられる光景だった。

「すごい量の本ですね、バルク様」

ミーアは耳をぴんと立てながら、隣のローブの男にささやいた。
あたりに人影は無く、大声で話してもよさそうなものだったが、
図書館であることをミーアは忘れなかった。

「ええ。ここに移住したくなりました」
ローブの男は、やはりミーアにだけ聞こえる声で
そう答えた。
こころなしか、声に弾みがある。


ミーアはパンフレットに目を通しながら、
これだけ本があると探すのが大変そうですね、と
自分の想い人に問い掛ける。

バルクはその言葉に微笑むと、静かな声ではっきりと呪文を唱えた。
あたりの空気がわずかに燐光をまとうと、
二人を中心とした球状に、薄もやのような光が集まった。探知の魔法だ。
「すごい……」バルクは目を輝かせた。 
光点のひとつひとつが膨大な量の書物を示し、
薄もやの中には数限りなく光点が浮かんでは消え、また現れてゆく。

光点に目を移らせるバルク。
ミーアはバルクのすそをつかんだ。

「なにか?」
「本の間で迷子になりそうな気がします」

バルクはミーアの笑顔に優しく微笑んだ。

「そうだ。二人で読む本でもさがしましょうか」
「はい!」
寄り添うミーア。バルクは貴方の手を握って歩き出した。


「どんな本がお望みですか?」

ミーアは思い付くままにいくつかの例を挙げた。
「どんなものでも。恋の物語とかもあるかもしれませんね」
そう言いながら、付け加えるように言った。
「勿論図鑑でも、絵本でもいいですけどね」


ミーアの耳が動く。
「これだけ広いと変わった図鑑もありそうですしね」
「ええ」

バルクは再び探知魔術を使うと、光点を呪文でより分けてゆく。
光点は2区画隣を示した。

「なんでもわかっちゃうんですね」
「まあ、探し物なら」

「いってみましょう」そう告げられたバルクは
どこか嬉しそうに歩を進めた。



「ここですね」
二人の前には巨大なビルが迫っている。
ビルのような、巨大な書架だ。
各階層ごとにさらに書架が並んでいるのだろう、大きな巣箱のようにも見えた。


「これ1つの本読みきるだけでもしばらくかかりそう……」

二人を取り巻く光点はさらに上層を示している。
「40階くらいにありそうです」

そう言うと、バルクは烏になった。髪の色と同じ色だ。
羽ばたいてゆく。 ミーアもそれにならう。

ミーアが追いつくと、既に人型へと戻ったバルクが待っていた。
書架はさらにビルの奥へ進むにつれ、細分化されている。

「魚に、植物、いろいろありますね」

そう言いながら、バルクはある星の図鑑を手に取る。
バルクは少し本を降ろす。覗き込むミーア。

ページには歌う巨大な魚たちが出ている。
「すごい。こんな魚がいるところがあるんだ……」
ミーアの驚嘆する声にも、つぶやくように答えるバルク。
「鯨がいない星なのですね」

バルクは本棚に背をあずけると、
ミーアに並んで図鑑を読み進めた。

「鯨がいないので、鯨と同じようなサイズ、生態の生き物が
現れたのでしょう。生態地位といいます」
説明するバルク。

「鯨、また見に行きたいですね」
ミーアはバルクに寄り添うようにしながらささやいた。
バルクは気づかない。その距離にも。


「どんな星なんでしょうねー」

「大部分が海のようですね。個体数20万ということは」

軽く暗算するバルク。
すこし大胆によりかかってみるミーアだったが、
バルクの鍛えた身体は微動だにしない。
「簡単に計算する限りは、人間の数がよほど少なくないと
ありえないでしょう」


“わはは、むりかも”内心笑うミーア。

黒のオーマでも変わり者の彼。
強くて、優しくて、でも知的好奇心を押さえられない、可愛い人。


「海の星かあー」
うなづきながら、手を握ってみた。

「ええ」
嬉しそうな声で答えるバルク。 
その手はそっと、握り返された。



そうして二人は同じ海の星に想いをはせながら、
うまくいかなかったり、同じことを考えたりして時を過ごした。


キスしたときは、ちょっと笑った。


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引渡し日:2008/04/07


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最終更新:2008年04月07日 22:39