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霧原涼様からのご依頼品



喫茶店でごめんなさい



これまでの涼とヤガミ
 芥辺境藩国の技族、霧原涼は14才の元・少年(現在・少女)。
 ヤガミ大好きっ子の涼は藩国の旅行でマジックアイテム・乙女のキッスを使って念願の2251ヤガミ(職業 海賊)との対面が叶う。
 しかし夏祭りを一緒に楽しむだけのつもりが何故か時間を超えて1ヶ月の海賊見習いの冒険に出掛けたり、かと思ったらあっさり元に時間に戻されたり。
 海賊の見込み無しとして帰されてしまったものの、その時お土産として持ち帰ったヤガミのイエロージャンパーの切れ端が涼のトレードマーク。
 その後ピドポーションで女の子になったのにすぐに元に戻されたりまた女の子になったり、色々した結果クリスマスには何だか良い雰囲気に。
 と思ったら不意に持ち上がったヤガミのお見合い話。
 当然のように妨害に出た涼は結果的にヤガミを怒らせてしまいしょんぼり。
 なんとか謝罪しようと場を持つ事になったけれど、さて、どうなりますか。

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 海に面した砂漠とオアシスの国、芥辺境藩国。
 この藩国の技族である涼はその日、瀟洒な雰囲気の喫茶店で身体を硬くしてテーブルに着いていた。
 普段なら心を落ち着かせてくれそうな心地よいコーヒーの香りとBGMのジャズも今の涼には余り力になりそうもなかった。
 それというのも彼女にとって一番大事な人であるところの彼女のヤガミを、この間とても怒らせるようなことをしてしまったからである。
 まあ、急にお見合い話が持ち上がって相手がどうもヤガミの好みっぽいサーラ、と聞けば心穏やかに過ごせという方が土台無理な話だ。
 そんなわけで、気持ちに任せて突貫した結果、ようやく訪れた我が世の春を謳歌せんとしたヤガミにぎっちりと怒られ、いたくへこみつつもその謝罪のためにヤガミを待っているのだった。
 前回の経緯からヤガミにどんな顔をすればいいのか、逃げ出したいような気持ちに駆られつつも、涼はやっぱりヤガミへの思いを断ち切れずにここにいる。
 もし決定的に嫌われて顔も見たくないと言われてもいい、前のように子供扱いでこっちを振り向いてくれなくてもいい、とにかく謝って、そして顔を見て声が聞きたかった。
 どのくらいそうしていたのか、脳裏を様々な思いが去来する涼の耳にちりん、というドアベルの澄んだ音が聞こえた。
 瞬間的にびくっと背筋を伸ばす涼。一緒にヤガミの服の切れ端を結んだ尻尾がぴーん、と緊張する。
 かけていた椅子から立ちあがって会釈する涼の前には彼女のヤガミと赤い短髪の男。夜明けの船陸戦隊長アキリーズ・ポーランドウッド。
 彼はヤガミと2、3言葉を交わすとちらりと涼に視線を投げてからカウンター席の方へ離れていった。
 そんな彼を特に気にする様子もなく涼の座っていた対面の席に座るヤガミ。
「え、えと。こんにちは。…先日は、申し訳ありませんでした。
 ご、ごめんなさい」
「座れ。何か飲むか?」
  なんと言って良いのか、言葉に詰まりつつ深々と頭を下げて謝罪する涼にヤガミは素っ気ない口調で促した。
 何だか初めて会った頃に戻ってしまったような印象に少し表情をこわばらせ、再び小さく一礼して席に着く涼。
「はい。…失礼します。
 え、ええと。アイスティー、ください。」
「オレンジジュースもあるぞ」
 同じ口調でヤガミが言う。
 相変わらず涼=お子様という図式があるようで、わざとそういう言動で涼をからかっているのか素なのか判別しにくい。
 ましてやまともにヤガミの顔が見れない今の涼には。
「……オレンジより、アップルが好きなのです。けど、今はアイスティーで。
 …甘くないの」
「どういう風の吹き回しだ?」
 子供じゃないんだから、というところ見せたい涼に初めて微笑みを見せるヤガミ。
 その背伸びしてるところが子供なんだよな、とでも言いたそう。
「い、いつもどおりです。……セロリだって食べられます」
「いいじゃないか。こどもっぽくても」
 やっぱり子供扱いしてからかっていたらしい。
 ちなみにセロリは涼が苦手な食べ物の一つで、それがまたヤガミの子供認定度を上げているらしかった。
「いいと思ってました。
 …けど、ダメだったみたいなので変わるんです。
 ……あ、アイスティーは元から好きですけど」
「……」
 眼鏡の奥、底冷えのするような、独特の灰黒の瞳で涼をじっとみつめるヤガミ。
「………だ、だんまりは困るのです」
「いや。元から大人だから、なんかおかしなやりとりだなと」
 ふ、と口元を緩めるヤガミにみつめられた涼は思わず頬を染めてまた視線を落とす。
 ヤガミには涼の、いわゆる中の人が立派な大人の女性であることは告白してある。
「それは…その、確かにですけども」
 赤面してしどろもどろになる涼。
 改めて確認されるとやっぱり何だか気恥ずかしいモノがあったり。
 そんな様子にヤガミは屈託無く笑った。
「あの時は俺も悪かった」
「…や、ヤガミさん…」
 何気ないヤガミの、大人の男性の言葉に、その後が続かなかった。
「むかつく奴はいるもんだな。お前が悪いわけじゃない」
「う、うう…。
 …でも、自分もお見合い邪魔しました。ヤガミさん怒ってたのにすぐ謝れなくて、ずっと凹んでました」
 ヤガミの言葉が優しいだけに辛い。
 涼ががくりとうなだれると尻尾も一緒にへにゃ、となって先に結びつけた黄色い切れ端が揺れる。
 そのうなだれた涼の頭をテーブルの上に差し伸べられたヤガミの手が優しく撫でた。
 見た目より大きく感じる、骨太だけど繊細なパイロットの指の感触。
「偉いぞ」
「そ、そういうのも…凹みます。撫でられるの好きだけど、違うんです…」
 うー、と内心でうなってぼそぼそ答える涼。
 ヤガミのそれはおとーさんがするやつっぽいのが…。
「?
 女の髪は大事らしいからな」
「か、髪は確かに大事なんですけど……えと。それはこっちに置いてですね」
 思わず顔を上げて置いといて、とジェスチャーする涼にやっぱりヤガミは解ってなさそう。
 親子的な親愛の情の示し方と恋人的な慈しみ合い、というのの差は、やっぱり説明しづらい。
 なんというか色々な意味で。
「?」
「あ…あのですね。いいこいいこ、よりもこう…ぎゅーしていいこいいこの方なんです」
「机越しだろう」
「……そ、それは。そっち行ったらしてくれるということですか」
 もっともなヤガミの答えに思わずテーブルの上に身を乗り出さんばかりになる涼を見て面白そうに笑う。
 尻尾は正直というか、期待にふりふりと黄色い切れ端を揺らす。
「どういう話だ」
「ご、ごごごごごごごごごめんなさい。
 落ち着きます」
「そうだな」
 照れ笑いを浮かべて椅子に戻った涼の前にコーヒーとアイスティーが運ばれてくる。
 居心地が良いのか悪いのか、よく解らない少し不思議な間。
 今日のヤガミは何だか優しい。
 アイスティーにちょっと口を付けた涼は上目遣いにヤガミを観察して深呼吸すると、思い切って自分の思いを言葉にした。
「あ、あのですね。ご存知かどうか…わ、わからないですが……えと、わたくしヤガミさんのこと大好きです。
 好きじゃなくて、大好きなんです」
「そうだな?」
 意を決して大まじめに話す涼に何を今更、という調子でコーヒーカップを手にしたヤガミが答える。
 ひとまずそういう認識ではあるようだ。
「そ、そう。そうなんです。
 で、ですね。それはライクじゃなくて…ら、らぶ方面なんですが…ですが」
 ひとまず前提はクリア。
 こくこくと頷きながら涼は遂に核心に触れた。
 もう赤面も最高潮。
 あたまぐるぐる、どうにでもなれ~である。
「それが邪魔した原因か?」
「う、う、う……。ご…、ごめんなさい」
 ヤガミは再び眼鏡越しの視線で涼を捉えるとコーヒーカップを置いた。
 かちゃ、というソーサーとカップの触れる小さな音にも何故か小さくなる涼。
「最初からそういえ」
「は、はい。ごめんなさい!ごめんなさい…!!!」
 ひゃー、と小さくなる涼に思っていたよりもずっと軽い調子で言ってヤガミは笑った。
「よし、許した」
 再び手を差し伸べて涼の頭をぽふぽふ、とするヤガミ。
 言葉よりもその手の平の感触が許している、というサイン。
「あ…ありがとう、ございます。
 うう…良かった。今日はすごく怒られると思ってました…」
「怒ってた。
 けどまあ、顔見たら許す気になった」
 実のところ、呼び出しを受けた時点でのヤガミは前回の件を受けてかなり警戒していたのである。
 せっかくのお見合いをぶちこわしにされて、今度は何がある、というわけでアキを護衛として連れてきたわけだ。
 そうして仮想敵地に乗り込んでみたら一人で待っていた涼はがちがち、ただ謝りたいだけと解って拍子抜けしたヤガミはあっさりと涼を許して、後はまあ、涼のカワイイ反応を見て楽しんでいたわけだ。
 そのくらいは役得というか謝罪の一部だよな、とかヤガミは思いつつ、くるくる変わる涼の表情と揺れる黄色い切れ端の動きをみつめた。
「…………あ、ありがとうございます。許して貰えて嬉しいです。うう…」
 安心して思わず涙ぐむ涼にしょうがないな、という風に微笑んで優しく頭を撫でるヤガミ。
 子供扱いされたとか言って涼は拗ねるかも知れないが実は結構気に入っている。
「いいこだ」
「…うう、いいこっていう年齢じゃないのですよ。たぶん…」
「人間は見た目が全てだ」
 うん、やっぱり俺達の間ではこういう遣り取りが良い。
 ちょっと意地悪したくなってヤガミはまたそんなことを言う。
「…どんなに大人ですって言い張っても…ずっと子ども扱いってことですか?」
「いやまあ、気にするな」
「……気にするです。大人、ですもん」
 ちょっとむくれる涼。
 何度言ってもヤガミは中々大人扱いしてくれそうにない。
 それも仕方ないという意見もありそうだけれども。
「大人でも子供でも、お前はお前だ」
「う、うん。それは確かにそうです。」
「ああ」
 頷いて三度ヤガミは涼の頭をなでなでした。
 前2回よりそっと。
「な、なでなでよりも、ぎゅっとしてちゅーとかのほうが断然嬉しいんですが。が…」
「ここで出来るとでも?」
 でもまあやっぱり物足りないわけで。
 すっかり緊張が解けたらしい涼が小声で抗議してみると、ヤガミは流石に苦笑して喫茶店の中を見回した。
 平日の昼間でがらがらとはいえカウンター席にはマスターとアキもいるし、涼とヤガミの着いているテーブルは通りに面した窓の側だ。
 それに、狭い。
「…う。じ、じゃあ!
 人が居なければしてくれるですか?」
 大人として扱ってくれそうな言質を何とかして取りたい涼は勢い込んで聞いてみるのだが。
「状況次第だな」
 コーヒーを口にしたヤガミはしれっとそう言って笑う。
 今はまだ。
 子供な涼との時間を過ごさせてくれよ。
 いつか俺が大人のお前を受け入れられる心の準備が出来るまで。
 あとすこし。
 心の中だけで呟いたヤガミの前でむ~、と考え込んでしまった涼を見て、彼はとびきり優しく微笑んだ。
 黄色いリボンのような切れ端を尻尾に結んだ、ちょっとおかしな手中の珠。
 案外海賊ヤガミの宝物は身近にあるのかも知れない。

/*/
おまけ Q:アキは何してたんですか?
 非常に深刻そうな表情のヤガミに護衛を頼まれて芥辺境藩国まで着いてきたアキは、さてどんな強敵難題が待ち構えているかと身構えつつ喫茶店のドアを潜った。
 ところがまあ、そこにいたのは前に船にも来たことがある可愛い子一人で、ヤガミもまた拍子抜けしているようだったのがアキには少しおかしかった。
 それで『適当に時間を潰せ』と言われるまま、マスターとどうでも良い雑談を交わして暇を潰すことにした。
 カウンターからは二人の会話は聞こえないが護衛として着いてきた手前、全く無視していたわけではない。
 それがまた、初めは深刻そうに会話していたかと思えば、次第に何だか良い雰囲気になって最後はべったりな二人に、アキは肩の力を抜いて溜息を一つ。
 ふっ、とコーヒーカップの湯気を払った。
 視線を上げるとあくまで空気のように振る舞うマスターと目が合う。
 アキは小さくカップを掲げてみせると二人の前途を思ってマスターと微かに笑みを交わした。


拙文:ナニワアームズ商藩国文族 久遠寺 那由他





作品への一言コメント

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  • ご指名いただきありがとうございました!どうぞお納めくださいませ。しかし、今回も何気に甘うございました~=□○_こちらの作品も自サイトに掲載を予定しておりますがお気に召しませんでしたら何なりとお申し付けくださいませ。 -- 久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国 (2008-04-07 20:39:43)
  • ありがとうございます!とっても楽しく拝見させていただきましたっ!!護衛に来ていたアキには申し訳ないですホント。まさか存在を忘れていたとかそんなんじゃないです。ええもちろん!(笑)サイトへの掲載はもちろんOKでございますっ。(1点だけ…えと。藩国名を”茶辺境”→”芥辺境”に修正していただくことは可能でしょうか。宜しくお願い致します><) -- 霧原涼@芥辺境藩国 (2008-04-08 15:08:13)
  • ふお、大変な失礼を(;´ρ`)大至急手直し&差し替えをお願いしておきます~。 -- 久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国 (2008-04-09 01:02:44)
  • 素早いご対応ありがとうございますっ!今後とも宜しくお願い致しますー^^ -- 霧原涼@芥辺境藩国 (2008-04-09 17:24:17)
  • てなんというか駄猫ですいませんor2一度ならずも二度までも・・・。なにとぞお見捨てなく~(つд・) -- 久遠寺 那由他 (2008-04-10 13:09:46)
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