室賀兼一@リワマヒ国様からのご依頼品


聳え立つ摩天楼の街、ニューヨーク。
その片隅の路地裏に、長身痩躯の青年―――室賀兼一は佇んでいた。
今回のゲームにおける召喚ACEである、モシン・イブラヒムとの待ち合わせの場所だった。
ゲーム内容はセプテントリオンが仕掛けた核爆破の阻止。
いわゆる、がちさわらだ。
今の室賀は正直、本調子ではなかった。
最近ある人物に死ねと言われた。
別に初めての話でもない、むしろ死ね死ね言われているのは慣れているつもりだった。
気にしているわけではない。ただ、いやだとは思う。
それだけのことだ。
だから、室賀はゲームを逃げるつもりはなかった。
そんな感情の問題よりも優先すべきことがある。
ゲーマーとしての誇り、そして男としての尊厳。
何よりも。自分には、目の前の危機を看過するようなことは出来ない。
それこそが室賀兼一、否、ニンジャという男の義理だった。

/*/

室賀兼一戦記 ニューヨーク危機一髪

「こんにちは」
現れたモシン・イブラヒムは、浅黒い肌に不釣合いな黄色いジャンパーが印象的な男だった。
「こんにちは、室賀兼一と申します。今回は突然のことで、すみません」
「はじめまして左宮の7番のモシンです」
「あ、そうだったんですか。はじめまして」
初対面の礼儀にのっとって、二人は互いに頭を下げる。
同時に、「左宮の7番」という言葉で室賀はモシンの素性を得心した。
エースはトランプのように左宮と右宮に分けられ、その上でナンバーが振られている。
自分は右宮の20番だから、モシンは偉大な先輩のプレイヤーキャラクターをACE化した、いわばPLACEなのだろう。
「爆発三分前から介入します。爆発地点はビルの屋上です。爆発の規模は20キロトンの戦術核ですね」
頭を上げたモシンは、早速任務内容の確認を開始する。
そして室賀も、それに習う。
「私たちは、ニューヨークのマンハッタンにあるセプテントリオン本部に向かうんですね」
「広島型原爆と同じ規模です」
「はい」
うへえ、生きて帰れますかねぇなどと少し弱腰とも取れる事を考えながら、室賀はモシンに相槌を打つ。
この青年は、決して自分の力に傲慢になるということはない。
「午前中、ミチコを追ってヒットマンチームが送られました。4名です。これがミチコを追ってエレベーターに乗ったあたりで爆発します」
「青森さん、熊本さん、ペンギンさん、今日子さん」
「はい」
「我々の仕事は、ミチコが仕掛けて起動するまでのどこかで、射殺するか、核を見つけて解除するかです」
「はい、射殺できれば越したことはないですし、爆破の指示スイッチを持っているでしょう。それを抑えられればいいのですが」
静かな緊張感を湛えながら、二人は淡々とゲーム内容について打ち合わせを続ける。
その流れは初対面、しかも突発のゲームであるにもかかわらず淀みない。
「相手の評価は19、解除難易度は13だそうです。器用で」
「なら、器用で13の解除に行きましょう。幸い、今の私は医師です」
モシンのACEとしての評価は未知数だった。
枝の深さから考えれば19あってもおかしくないが、ミチコのみなし能力とて全て判明しているわけでもない。
自分が器用に優れる医師アイドレスを着ていることからも、ここは解除を目指すのが上策だった。

/*/

「行きましょうか」
「はい」
基本路線は、偵察後迂回路を使用しての爆弾解除。
ARの不足は、室賀の医療行為で補う。
決定した作戦に従い、二人のエースは全長9Mの人型―――I=Dが跋扈する高層ビルに潜入した。
目指すは排気口を行き着く先、爆弾の起爆装置。
夜を抜ける豹のようなしなやかさで、室賀とモシンはダクトを抜けていく。
「そういえば、僕のACEを取ってくださってありがとうございました」
暗い細道の中、モシンが不意に口を開いた。
「どんなひとかなぁって、藩国のみんなで楽しみにしてたんです。思ったとおりの方でした」
「エースの中じゃ、古いだけで死ね死ね言われてるだけの小物ですよ」
丁寧に答える室賀に、モシンが謙遜とも自嘲ともつかない調子で答える。
その言葉に思わず、室賀の本音が零れ落ちた。
「なんでしょうねぇ、エースはみな死ね死ねいわれてしまうんでしょうか。最近、ちょっと弱気になってまして」
「まあ、是空さんほど死ね死ね言われてないんで、僕はそれで諦めてますが」
それを聞いてモシンは、エースの中でもまとめ役とされている人物を引き合いに出した。
「まあ、是空さんの場合、直ぐに死ね。用なしだとか言うんで、自業自得の所も…この下かな」
「なるほど。そう考えると、勲章のようなもの、なのかもしれませんね……おっと」
独り言のように呟くモシンの言葉に、室賀は不意に気持ちが安らぐのを感じていた。
死ね死ね言われているのは、何も自分ひとりではない。
「爆弾ですね。ではモシンさん、回復処理を行います」
「はい」
大体、死ねと言われたからなんだと言うのだ。
「……どうですかモシンさん、いけそうですか」
自分の心の奥には、正しいと信じる義理がある。自分はそれに従って為すべきを為すだけだ。
「それじゃ、また死ね死ね言ってる人たちに嫌がらせしてきましょうか」
「はははっ、そうですね。よろしくお願いします」
そう言って、二人は笑いあった。
心からの、飛び切りの笑顔だ。
「憎まれっ子、世にはばかってやりましょう」
「我々は殺そうと思っても殺せないことを教えてやりましょう」
そう言って。黒い肌の青年は、ダクトを飛び降り爆弾のもとへ降り立った。
瞬間、モシンはまるで蝶々結びをするかのような軽やかさで爆弾の基盤を抜き取る。
そして遅れて降りてきた室賀に、その基盤を投げてよこした。
「叩き割るとすっきりするかも」
「頂きます。じゃあ、せっかくなので」
そう言って、室賀は手元の基盤を真っ二つに割った。
そしてその片割れを、新しい友人に差し出す。
「友情の証と言うと何ですが、折角なのでぜひお持ちください」
古いエースは差し出された電子回路の塊を受け取ると、白い歯を見せて笑った。
「いいですね、いつかエースやめるときにこいつをだれかに叩きつけてやりますよ」

こうして、なんだかんだと言いながら。
世界の危機と戦っていくのが、エースと呼ばれるプレイヤーたちの日常だった。



作品への一言コメント

感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)

  • モシンさんがかっこいいですネウ。依頼受けてくださってありがとうございました! -- 室賀兼一 (2008-04-16 20:06:19)
名前:
コメント:





引渡し日:


counter: -
yesterday: -

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年04月16日 20:06