No.252 竜宮 司@詩歌藩国様からのご依頼品


竜宮 司は空港に向かうタクシーの中で英吏から届いた手紙を読んでいた。砂漠の基地で司と交わした約束を英吏は忠実に守ってくれ、几帳面な字で書かれた手紙を送ってきてくれたのだ。

”ユウタ君は日本語がかけないとの事で、この手紙を書く。”
”ありがとう。うれしかった。遠い未来に、またあえたらいいね”
”と、本人は言っている。”
”何があったか俺が詮索するのもなんだが、ただならぬ様子だった”
”逢いたいならこの日に、宰相府藩の空港に入ること”

 砂漠の基地で崩した体調はまだ本調子に戻っていなかったが、もう直ぐユウタに会えるかもしれないと思うと、自然に笑みがこぼれどこからか力が湧き出してきた。
 時計を見て時間を確認する。大丈夫、まだ間に合う。逸る気持ちを抑え、5日前までいた砂漠の基地での出来事を思い出していた。

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 巨大な砂漠の只中にその基地は設営されていた。
 王女藩国から飛来した軍用輸送機は、その基地の滑走路に着陸すると腹に抱えていた大量の補給物資といくばくかの人間を景気良く吐き出し始めた。基地の整備員や荷揚げの作業員が輸送機と補給物資に群がり辺りは喧騒に包まれた。
 王女藩国からやって来た軍用輸送機である以上、王女藩国の藩国民や軍属が多数見受けられたのは当然であったが、一人だけ王女藩国の国民でもなく軍人でもない人物が混ざっていた。
 竜宮 司である。
 本来なら員数外かつ藩国民でもない人間が搭乗できるはずもないのだが、今日子という女性が手を回し司が搭乗できるように手配をしたのだ。
 司は思いつめた顔をして基地の司令部がある建物を探すことにした。幸いなことに直ぐに司令部は見つかった。もっとも、司令部といっても行方不明者捜索のために作られた仮設の基地である。サーカスなどで使う大型テントに無線機などの電子機器が砂漠の熱で壊れないように空調設備をつけて司令部として使用していた。
 司令部に向かったのは、捜索隊に加わっているらしいユウタの情報を集めるためであった。彼を探すのなら、どこに捜索に向かったのか確認するのが一番手っ取り早いと考えたからだ。
 その判断自体は無難で手堅いものであり、捜索隊の担当士官なり後方支援担当官なりを捕まえて話を聞くことができれば、直ぐにでも合流することが可能なはずだ。
 そして、小1時間ほど基地の内部を歩き回り、幸運にもこの基地で一番情報に精通しているであろう人物を見つけることに成功した。食堂として使われているテントで疲れた顔をした英吏を見つけたのだ。
「英吏さんですよね?。お疲れのところ申し訳ありませんが、お聞きしたいことがあります。少しだけお時間いただけないでしょうか?」
「・・・・・・珍しい客人だな。何だ?」
 英吏は食事中だったが、きちんと司に向き直り話を聞いてくれた。
「ユウタさんに会いたいのです。居場所をご存知でしょうか?」
「まあ、お前も座るがいい」
 英吏は自分が座っている前の席を指差した。バレンタインの侵攻から続く参謀業務と砂漠の環境の厳しさのため英吏自身も疲れが溜まっていたが、目の前の司はそれ以上に疲れているように見えた。司が座るのを待って口を開く。
「で、ユウタのことだったな。分るが、聞き耳はもたんだろう。帰るがいい」
「ユウタさんは今も捜索任務中なのでしょうか?」
「ああ」
「捜索が一段落着いたらここへ戻ってくるのでしょうか?」
「それは間違いないが。決めた事は変えないと思うぞ」
「できることがあるうちは何でもやっておきたいのです。ユウタさんが帰ってくるまで待っていてもよろしいでしょうか?」
 飲み物を口に含み顔をしかめる英吏。一人で摂る食事は味気なくていけない。早く前線で探索任務に当たっている部隊と共に食事をしたいものだと思う。
「あと数日は帰ってこないだろう。帰ったほうがいい。砂漠は厳しいのだ」
「頑張れると思います」
「……勝手にしろ」
「ありがとうございます」
 根負けしたのか何を言っても無駄と思ったのか定かではないが英吏は基地に滞在する許可を与えた。
「部屋は用意させよう。ただ、このような基地だからな、快適さとは程遠いぞ」
「覚悟の上です」
「ふむ、時に食事は済んだのか?。ここは住むのに難儀する場所だが、その分食事に力を入れているのだ。この住環境で食事まで不味ければ兵の士気が落ちるからな」
「食欲がありませんので」
 実際には、司は1日以上食事を取っていなかったが、ユウタのことを思うと食事をしている気分にはなれなかった。
「では、飲み物はどうか?。酒精が入ったものは無いがそれなりに旨いものばかりだぞ」
「申し訳ありません。できれば直ぐにでも通信室でユウタくんの通信が入るか見ていたいのですが」
「・・・・・・分かった。では、その前に部屋に案内させよう
 英吏は、密かにため息をつくと司の部屋を用意させるために副官を呼び出した。

 二日後。
 司の姿は基地の医務室にあった。
「脱水症状だな。帰りの便を手配しよう」
「ちょっと待てください!。ユウタくんが帰ってきたら教えてくださればいいので!。私はここで体を休めてじっとしていますから!」
 英吏に基地に滞在する許可を貰ってから、ほとんど飲まず食わずで通信室に詰めていて倒れてしまった司だが、このまま強制的に帰還させられると知ると頑迷に抵抗した。
 こうならないように英吏は色々と気を使っていたのだがすべて無駄になってしまっていた。
「駄目だ。命に関わる。次の便で帰れるように手配がついた。約束しよう、ユウタには私が責任を持って伝える」
「お願いです。ここに居させてくれませんか?」
「……男なら分るだろう。帰れ。ここはお前の居場所ではない」
「分かりました・・・・・・。私の所へユウタくんに来るように伝えて置いてください。私の名を出すと来ないかもしれませんが」
 自嘲しうなだれる司を見て、さすがに気の毒に思ったのか、英吏は励ますように喋りかけた。
「来ないなら来ないなりの理由があるのだろう。それはミスで仲間を失い、探そうとしているのかも知れぬ」
「それが原因なら待ちます」
「違うかもしれんが。まあ、倒れるまでいたと伝える。国に帰り養生して待つがいい」
「ありがとうございます。迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
 英吏は軽くうなずき、医務室を後にした。


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 5日後。
 国に帰り体を休めつつ英吏からの連絡を待っていた司に、英吏からの手紙が届いた。
 手紙を一読すると、すぐさまタクシーを拾い宰相府藩の空港に向かった。
 英吏はユウタ達が宰相府藩に入国する日時を手紙に書いてくれていた。その時間まで後3時間。
 きちんと約束を守ってくれた英吏に感謝しつつ何度も手紙を読み返していると、手紙に書かれた時間の30分前に空港に着くことができた。
 空港に入りユウタを探していると軍用輸送機が到着したとアナウンスがあったが、ユウタや地竜の姿はどこにも見当たらなかった。
「どこに居る?」
 ユウタがどこに居るかまでは手紙に書かれていなかったが、ユウタが帰るとしたらメタルリーフの共生実験をしている王女藩国だと当たりをつけ王女藩国行きゲートに向け全力で走り出した。
「ユウタ!!」
 ユウタは地竜と共にゲートをくぐろうとしていた。それを見つけ司は大声を上げた。
「・・・・・・!!」
 空港に司がいるなど夢にも思っていなかったユウタは、びっくりした顔を司に向けた。
 司は、ユウタの前まで来ると彼の手首を掴み、真っ白になる頭で必死に考えながら喋り始めた。何事かと二人に目を向ける周りの人々。
「ユウタ、大事な話があるんだ」
 そして、30分後。ユウタが乗るはずだった飛行機は彼を乗せずに目的地に飛び立った。


~END~


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最終更新:2008年03月17日 12:21