ソーニャ/ヴァラ/モウン艦氏族/スターチス@世界忍者国様からのご依頼品


心の住まう場所


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火の国の山奥。
竜はそこにひっそりと暮らしていた。
川と共に流れる時の中で、ずっとひっそりと暮らしていた。
もう一つ共に暮らしていた"もの"があったような気がしたが、それはもう思い出せない・・・。

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火の国の山のふもと。
人はそこにひっそりと暮らしていた。
近くに流れる川を大切にし、農耕だけでひっそりと暮らしていた。
もう一つ大切にしていた"もの"があったような気がしたが、今はもう思い出せなかった・・・。

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ある年の夏、いつもよりもずっと快晴の日が続いた。
夕立すら起きないような、雲のない真っ青な空が、村に顔を見せていた。
ある男の村人が、その透き通りすぎる青空に、少しの不安をおぼえた。
だが、村の他の若い衆は、そのうち雨も降り出すだろうと、その日その日だけを考えて暮らし、
村の他の年老いた人々は、昔はこんな日も少なくはなかったと、昔々の事ばかり語るだけだった。

その男だけが、今と昔と未来を考えていた。

そして、その翌年の夏もその次の年の夏も、ずっとずっと晴れの日ばかりだった。
とうとう近くに流れていた川が干上がり、その川の水だけを頼りに生きていた村人は、ただただ悲しみにくれるばかりだった。
村の若い衆は、もうこの村はダメだ、と村を捨て他の場所に移るものも少なくなく、
村の年老いた人々は、もうこの村はダメだ、と何もせずに悲嘆にくれているばかりだった。

そして、あの男だけが、今も昔も未来も諦めずに上を向いていた。
男は村長の家を訪れ、ある提案をした。

"竜の神をこの場所に呼び戻してこよう"

それは、村の年老いた人々すら忘れていた昔話だった。
その村は川を隣人とし、一緒にいつも悩み、苦しみ、笑いながら暮らしていた。
流れる川は、姿を変えた竜であり、その村はいつも竜と一緒に生きていた。
そのことを覚えているものは、いないはず、だった。
しかし、その男は不安を覚えたあの日から、ずっと川について調べていた。

そして、思い出した。

川は、・・竜は、今何処に行ってしまったのだろうかと。
子どもの頃、あんなに一緒に遊んでいた竜は、どこに行ったのだろうかと。
抜け殻になった川には、精気がなく、ただ”流れているだけ”のものだと、なぜ今まで気づかなかったのだろうかと。

男は、干上がった川を辿り、山々に隠された竜の神の住処へと一人で向かった。
途中の道は、まるで山の神が何かに対する戒めであるかのように険しく、男一人では到底先には行けないような道のりだった。
しかし、男は一つの想いを何者にも勝る力とし、どんどんと道を拓いていった。

体中が傷だらけになり、もう動く場所がないと思われるくらいにボロボロだったが、それでも歩みは止まらなかった。
そして、ついに竜が住まう滝へとたどり着いた。

そこには、竜の姿は何処にも見当たらなかった。
そこには滝が厳存するだけで、大きな姿は何もなかった。
しかし、男がその場所に足を踏み入れると、大きな竜の姿が滝の前に現れた。

竜は、その男が何であるのかを思い出そうとした。
そして、ずっとずっと昔に一緒に生きていた"もの"である事を思い出した。
男が何の為にやってきたのかを、竜は尋ねた。
男は、もう一度村まで来ないかと竜に答えた。

竜は男に激怒した。
その一緒に生きていた"もの"と一緒に、自分が追い出されたことも思い出した。
日照りが続いていることは、竜も知っていた。
だからだろう、この"もの"は自分を利用する為だけに来たのだと、そう思った。

男は、竜の怒りの姿を見ると、すこし寂しげに村に戻った。
そして、今度は村で保存していた作物と一緒に、竜の住処へと足を運んだ。
竜は、その作物を見て、ご機嫌を伺いに来ただけなのだと、そう思った。
竜はまた激怒し、男はまた帰っていった。

しかし、男はまた住処へとやってきた。
今度は作物と形はよくないが一生懸命作ったであろう折り紙と一緒に。
それでも、竜は激怒した。

だが、男は何度も何度も住処へと足を運んだ。
ときに物語と共に、ときに作物と共に、ときに自作の折り紙と共に。

竜は思い出せなかった。
なぜ、この"もの"はこんなにもボロボロになりながら、ここに来るのかを。
なぜ、この"もの"は、昔のことや今のことや未来のことを、こんなにも楽しげに語るのかと。
激怒することにも疲れた竜は、そのまま男のさせたいままにした。

そうして、一年が過ぎたある日。

竜は尋ねた。
なぜ、こんなことをつづけるのか。

男は答えた。
それは、あなたが大切な友だから。

竜は思い出した。
一緒に生きていた"もの"が人と呼ばれることを、そして人は確かに友であった。
しかし、竜はそれでも村には行かなかった。
竜は追い出された日のこともまた、ありありと思い出したから。

それでも、男は今と昔と未来の話を話し続ける。
竜は、村には行かなかったが、その男と友になった。

長い月日が流れたが、男は竜と毎日話を欠かさなかった。
しかし、ある日、一日待っても竜の前には、男が現れなかった。
その次の日も、男は現れなかった。

竜は、また、裏切られたのかと思った。
追い出されたあの日のことを、脳裏によぎらせながら、一週間を待った。

竜は、ついに住処から足を動かした。
そして、驚嘆した。
道ができていた。
男がずっとずっと歩き続けていた場所が、道としてまた蘇っていたのだった。
竜は、ここはずっと昔から道であったことを、思い出した。

竜は、道を抜け、男の住処へとやってきた。
男は、やせ細っていたが、変わらない眼差しで竜と話をした。
その眼差しに、竜は全てを思い出した。
人は、そう、悪いものではなかった。
この、人の男は、本当の友であった。

竜は尋ねた。
また、一緒に時を生きてはくれないか、と。
男は答えた。
もちろん。その為にあなたに会いに行った。

その翌日。
川は元の流れを取り戻し、その村へとやってきた。
流れる川の水の音を聞いた男は、頬を緩め、大きな声で言った。

"おかえりなさい。私の友よ。"

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作品への一言コメント

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  • あの物語を男の側の視点から描かれていて、それが何と言うか雄々しい骨太なストーリーで纏まっていて凄くカッコいいです!依頼受けて頂きありがとうございました! -- ソーニャ@世界忍者国 (2008-03-21 01:35:00)
  • 基になったソーニャさんの物語がカッコよかったおかげですッ。多分、本来の出来事はこういう事だったんじゃないかと思いながら書かせていただきました。本当はエミリオくんの聞き入る姿も書きたかったのですが、どうしてもイメージがこの物語から離れなかったもので。この物語に、心から感動しました。ありがとうございます。 -- 伯牙@伏見藩国 (2008-03-21 02:26:00)
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最終更新:2008年03月21日 02:26