No.216 霧原涼@芥辺境藩国さんからのご依頼品


宰相府藩国冬の園。その中でも特に有名な冬薔薇園の入り口に、一人の少女が立っていた。
「うぅ、やっぱり短かったかな・・・」
リボンが結ばれた尻尾をひょこひょこと動かしながらスカートの裾を弄っているのは、芥辺境藩国の霧原涼である。

時間を確かめると、そろそろ待ち合わせの時間になりそうだった。しかし相手はまだ来ていない。約束を破るとは思えないが、きょろきょろと周りを見回してもその姿は見えない。
どうしようと不安になって来た頃、ゴト、と重い音を立てて目の前にあったマンホールの蓋が動き、中から眼鏡をかけた青年が這い出てきた。
何事かと驚いていた涼だが、青年の顔が確認出来るとすぐにかけよって覗き込み声をかける。
「こ、こんにちは。ヤガミさん…」
なぜかマンホールからやってきたこの男、ヤガミこそ、待ちわびていた約束の相手であった。

マンホールから出てきてヤガミは自分の匂いを確認する。気をつけてはいたが、折角のデートで臭ったのでは台無しだ。
「あ、大丈夫ですか?(くんくん)」
同じように匂いを嗅ぐ涼。その行動のひとつひとつが可愛らしくて、つい我慢出来なくなってヤガミは涼を抱きしめる。
「はっ、はうー?!」
驚き声をあげる涼。
「あ。すまん。かわいかったのでつい」
さすがにイキナリすぎたか?と思い謝るが、抱きしめた手は離さない。
「ぎゅーは嬉しい、です!えとえとえと…あ、ありがとうございます!!」
と、抱きしめ返す涼。そんな涼の様子を見ていると、つい口が滑ってしまう。
「いやー。こんな子供欲しいな」
「……こ、こど、も。」
気持ち複雑で思わず首傾げる涼。子供発言したヤガミ本人はというと、なぜそんな涼が複雑な表情になったのか気付いていない。
「あ、あの。それは外見的に、ですよね?」
「……」
しまったと思い、視線を逸らす。そういえば、確かそんな話をしていたはずだ、が・・
「ま、まあ。そうだな。うん」
そう言って抱きしめたままの涼を見つめる。
「……えへへー。前に告白しましたが、中の“わたし”は20歳過ぎたいいおとな、ですよ!」
「かわいいって言っていただけるのは嬉しいです、すごく。うんうん。」
……嬉しそうにしている仕草が、その外見と相まってしまい、どうしても可愛らしく見えてしまう。
「いや、それは知ってるがこうしぐさが一々かわいくてな。歳相応でもかわいいと言われるぞ」
「……!!!」
その言葉に、顔を染めてキーボードを叩くように手を振る涼。しっぽもパタパタと世話しなく暴れてスカートを揺らしている。
「どうした?」
「う、う、うー!嬉しくて、言葉になりませんでした。」
そういう所が可愛らしいのだと思ったが、口にはせずに別の言葉を出す。
「変な奴だ。さ、薔薇とやらをひやかそう」
「えへー。大人でも可愛いっていってもらえるとうれしいです!」
「はい!行きましょうー!!」
元気に薔薇園へと向かう涼を見て、悪戯心が湧いてきたヤガミは、からかうように声をかけた。
「だっこしてやろうか?」
むーっと頬を膨らませて抗議する涼。
「お と な は抱っこされません!」
「そうか、残念だな」
思ったとおりの反応に、心の中で笑いながらそっけない声でそういうと、すたすたと歩いていく。
涼は置いていかれまいと駆け足で追いかけるが、歩幅に差があるので中々追いつけない。

「お外じゃなければだっこすきなんですけどねー…」
ヤガミはどんどん奥に入っていくが、そんな涼の呟きが聞こえると、つい立ち止まってしまう。
……だっこが好き?誰とだ?どういうことだ?他に男がいるのか?
そんな嫉妬心が燃え上がるが、外には出さず、つとめて冷静に言葉を紡ぐ。
「そうなのか?」
「うん。テレビ見ながらとか、お布団のなかとかのだっこは好きですよー。」
勿論、一緒にテレビを見たことはないし、そもそも布団の中とはどういうことだ!
「そっちこそ子供じゃないか?」
「そうですか?あったかくていいのにー。(笑」
俺以外に抱きしめられて喜んでいるのかお前は!と言いたいのをグっと堪え、何とか聞きだそうとする。
「ちなみに誰にだっこされてんだ」
「えーっ。聞きたいですか?」
にこにこと笑顔で聞き返す涼とは対称的にヤガミの表情は冷たくなっている。
「……ああ」
すると、手を大きく広げて大きさを示しながら、可愛らしい答えが返ってきた。
「えへへー。おっきいクマさんですよ。ぬいぐるみの。ねずみーさんの仲間の!」

……あぁ、『あの』黄色いクマか、とホッとするが、嫉妬してたとは思われなくないので、ついからかうような事を口にしてしまう。
「やっぱりお前は子供だよ」
また反論してくると思っていたヤガミだが、涼は予想とは違った反応を返してきた。
「…ひ、一人暮らしは、色々さびしいんです。」
そう寂しそうに呟き俯く。尻尾も先ほどまでとは違いしょんぼりと垂れている。
考え込むヤガミ。
しばらく会えずに寂しい思いをさせてしまっただろうか?たまにしか会えないのに少し意地悪しすぎただろうか?

考えた末、ヤガミは行動する事にした。小さな涼の体を抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこという抱き方で。
「だから子供は抱いていくことにする」
やはり口から出てきたのはいつもの憎まれ口。
だが、涼ならその意味が分かるだろう。
「……は、はい。」
そうして大人しく抱きかかえられたまま、涼とヤガミは薔薇の園を進んでいった。


作品への一言コメント

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  • あ、改めて文章に起こしていただくとこれはなんというか…ッ。わーわー一人で騒ぎつつ拝見させていただきました(笑) また、ヤガミの心の声(笑)がたくさんで楽しく、丁寧な文章でとても読みやすかったです。ありがとうございました!!! -- 霧原涼@芥辺境藩国 (2008-03-10 13:25:28)
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引渡し日:2008/03/09


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最終更新:2008年03月10日 21:42