ここは小笠原分校。
教室の窓は開かれて、海風がカーテンを揺らしている。
外は夏の日差し、太陽の光で満ち溢れていた。

教室の中に男と女が二人。二人は外の景色を眺めていた。
男は窓際に持たれかかって、女は机に腰掛けて共に遠い海を眺めている。
窓から見える海は、とても穏やかで澄んでいた。
「平和だねぇ」
「本当にそう思う?」
「外見上はね。この外見を本当にするために勉強会をしようと思って来てもらったんだ」
女は少し、首を傾げた。肩より長い髪の先を指にくるくる巻き付けている
「この美しさを見れば戦争なんて起こらんと思うが本音だけど……今回の戦争の個人的見解を素子とゆっくり話しておきたかったんだ」
国で王様が弱気にはなれないからねぇ、と男は笑う。
「見解、ね。そうね。長生きだけは、してきたから。すこしくらいはためになるかも知れないわ」
「なんの話からしようかな。色気はないが大事な話は多い」
男はすぐ近くの机に腰を下ろすと再び話を始めた。
「本当はレイカを呼んで休ませたかったけど、結局キミを呼んだのは俺のワガママだ」
「あの子はたぶん、来れないわ」
ため息を一つつくと、女は微笑んだ。
「ヒューガか……知ってるかい? 日向玄乃丈ってヤツ」
男の脳裏に古い知り合いの姿が浮かぶ。最もその姿は若い、学生服を着た姿だったが。
「ええ。貴方の同級生。寝物語に、聞いたくらいは」
「ああ、昔話したな。」
「でも、会った事はないわよ。私の主観上では、ずっと前に死んでる人だから。歴史上の人物みたいなものね」
「俺はアイツに嫁が出来たって自慢してねぇんだよ」
にっ、と今度は男が笑う。照れ隠しなのかもしれない
「自慢しても……まあでも、思い出なんかそんなものね。私も前は、そうだったから」
女は微笑んだ。古い知り合いの死んだ日を思い出して、何故か微笑んだ。
「あの人が死んだと、認めたくなかったから。随分」
「人に話せるから、記憶って大事なんだと思うよ。それが幸せでも、辛くても」
男はそう言うと、机から降りて女の方に歩き出す。
「俺はプロポーズの時言ったよね。【貴方が望めば僕は何があっても、どんな時でも、いつでも必ず戻ってきます】と」
カツ、カツ、としていた足音がやがて女の前で止まる。
「ただし、俺は藩王だ。男と女、王や王妃の命の前に優先するものがある。戦場ではぐれても、お互いの生存を信じて、弱者を助けてくれ。身内は最後でいい」
男はこれ以上にないくらい真面目(だと本人は心底思っている)な表情でそう言った。
「信頼しているわ。それが全部嘘でも。心だけは、戻ってきて頂戴。ほかは何も、要求しないから」
「俺もキミがそうだと信じてる。まぁあまり戦場で無茶してほしくないけどね」
二人はそういうと、少しの間互いの瞳を見て、そして顔を見合わせて笑った。
「それで、本題はなにかしら。かわいい素子さんじゃなくて、時間犯罪者の私をお入用のようだけど」
「ははっきびしいなぁ」
男は女の横に並んで座る。女はす、と足を組み替えた。
「では、本題だ。私見で構わないから相談にのってほしい」
「いいわよ」
そう言って女はまた笑った。とてもかわいらしい笑顔だった。
男はそれを見て-出会ってから何度目かもう数えられないくらいだったが-愛おしいと思った。

二人の姿は、日が落ちるまで教室の中にいた。いつしか日は落ちて、深い夕闇が訪れるだろう。
いつまでも明るい日は無い。だが永遠に続く闇夜も無い。
この二人の前途に果たして待ち受けるものは-


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引渡し日:2007/



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最終更新:2007年09月25日 18:48