カイエ@愛鳴藩国さんからのご依頼品

 家がある。
 しかし傍から見るとそれは決して家には見えない。
 これを何だろうと考えると、サイコロ。そう、巨大なサイコロに見えるのである。
 バルクはこの家をこよなく愛していた。
 少々地味だが、転がせば窓の位置もドアの位置も思いのままにできる。
 転がしても家具には魔法がかけてある。すぐに定位置に戻るであろう。
 バルクは今日は大事な客人がやってくるといそいそと準備をしていた。


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「欠陥住宅だな」
 初めて家を見せたのはバロであった。
 バロはとてもいい笑顔である。
「そうですか?」
「そうだ。いちいち家に動かれたらかなわん」
「扉を下にすれば、絶対誰も入ってこれないですよ」
「敵が来たら殴ればいいだろう」
「転がせばいい運動になります」
「そんな結滞な運動マイトにでもさせればいいだろ」
 ……どちらも言っている事はおかしいが、バルクにとってはやや不利のようである。
 それ以降出会った人を捕まえては家を自慢してみたが、何故か全員に引きつった笑顔を浮かべられた。
 別に誰にも迷惑かけていないつもりなのに。
 バルクは首を傾げつつ、日が傾いてきたので家をゴロリとひっくり返した。
 中身も自分もゴロリと転がる。
 窓はちょうど西が6の目になった。


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 人に久しぶりに家を見せる事になったのでバルクは嬉しそうに指を動かしていた。
 ポットは程よくお湯が沸き、茶器の準備も上々。
 後は客人が来るのを待つばかり。
 そうバルクが悦に入っている時だった。
「バルク様、ミーアです。入れてください」
 客人……ミーアの声である。
 窓から顔を出すと、ミーアはこの家のどこが入り口なのだろうとウロウロしていた。
 バルクに気付き、ミーアは手を振った。
「すみません。直ぐ開けます」
 バルクはよっこいしょと家を転がした。
「おじゃましますー」
 ミーアはややびっくりしたようだが笑顔で家に入ってきた。
「こんにちは、お邪魔しますバルク様」
「ええ。いらっしゃい。良くここがわかりましたね。地味に作ったんですが」
 ミーアはやや微妙な顔をしたが、バルクは気にしない事にした。
 何故か自分の家を見た人が皆こんな顔をするのだから。
 おかしい、普通に地味だが便利に作ったのに。
 バルクはそう暢気に考えたが、まあやめた。
「昨日は楽しかったです」
「それは良かった。風邪はひいていませんか?」
 昨日の遠出……鯨を見に二人で鳥になって遠出……はどうも喜んでもらえたらしい。
「はいお陰さまで。これありがとうございました」
 ミーアは持って来ていたバルクの上着を返した。
 きちんと折りたたんである。
「ああ。そう言えば忘れていました」
 バルクは笑った。
 ミーアも嬉しそうに笑った。
「お礼といってはなんですが、アイスクリームいっしょに食べませんか?」
ミーアは嬉しそうに言った。
上着と一緒に持ってきたらしいバスケットには、アイスクリームが入っているらしい。
「いいですね。私はお茶でもお出しします」
「ありがとうございます」
 バルクは用意していた茶器に命じた。
 ティーポットは踊りながらお茶を作り始めた。


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「バルク様はこちらにはお一人でおすまいですか?」
 ミーアはお茶をふうふうと冷ましながら訊いた。
「ええ。なぜか皆嫌がって……」
 バルクはミーアからもらったアイスクリームをすくいながら答えた。
「おもしろいお家ですね」
「安全には気を使っています。」
「なるほど」
「また、日当たりも日によってかえられますし」
「さっきみたいに転がるんですね」
 ミーアの言葉にバルクは黙った。
 どうもそこが他の人間がこの家を嫌がる一番の理由なような気がしたのだ。
 ミーアは少し「しまった」というような顔をした。
「……まあ、少しの欠点はあります」
「……すみません」
「? いえいえ」
 ミーアは少し考えた後、にこりと笑って言った。
「楽しくていいと思います、私は」
「皆がそう思うといいのですが。バロは大笑いをして欠陥住宅だと」
「他の方はなんと?」
「マイトはいいトレーニングになると。バナマシは乗り物は嫌いだと近寄りません。まったく、困ったものだ」
 バルクはそう言い溜め息を付くと、ミーアはにこにこと相槌を打った。
「面白いですね、みなさんの感想がそれぞれで」
「みんな顔は同じなんですよ。ひきつってて」
「それはまた……」
「扉を下にすれば、絶対誰も入ってこれないのに」
「確かにそうですね」
「ええ」
 ミーアの言葉に、バルクは少し笑った。
 どうも彼女は自分を慰めてくれているらしい。
 ミーアは再度笑った。
「私は好きですよ、このお家」
「はい」


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家がある。
 しかし傍から見るとそれは決して家には見えない。
 これを何だろうと考えると、サイコロ。そう、巨大なサイコロに見えるのである。
 バルクはこの家をこよなく愛しているが、どうも人はそれを「変」と言うらしい。
 しかし、今回賛同してくれた人ができたのだ。
 またお茶を一緒にしよう。
 バルクは今日も家をごろりと転がした。
 日が窓からさんさんと入ってくる。
 彼女が喜ぶといい。そうバルクは思った。


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引渡し日:2008/02/29


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最終更新:2008年02月29日 15:38