黒崎克那様からのご依頼品
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記事№224 黒崎 克耶@海法よけ藩国 おすすめ枠SS
指輪に代わるもの 2008/02/23 15:30版
前回までのあらすじ
海法よけ藩国に所属する黒崎 克哉は猫妖精の医師。
何の因果かヤガミに惚れてしまった黒崎はあの手この手でアプローチするもののいつもはぐらかされてばかり。
どんなに邪険にされてもヤガミへの思いを抑え切れない黒崎は遂に一大決心してピドポーションにより女性化。
それまで弟分のように扱ってきた悪友で親友の黒崎が急に女になってしまって戸惑うヤガミだが、それまで以上に素直に思いをぶつけてくる黒崎を次第に女性として認めていく。
その後も様々などたばたを繰り返しつつゆっくり距離を縮める二人はついにお互いが育んだ愛を見付けたのだった。
黒崎のヤガミの11番勝負、めでたしめでたし。
こうして二人は晴れてソウイチロー・黒崎、黒崎 克耶と改名、よけ藩の四畳半で暮らし始めることに。
これから始まる物語はそんな二人のちょっと不思議な生活の1コマである。
今日はヤガミファンにとって最も重要な日、彼の誕生日にしてクリスマスイブ。
彼へのプレゼントを運ぶ運送業者が門前市を成し、そこへ込められた想いの加護によってバレンタインデーと並んで彼が極限まで強まる日でもあった。
もちろん黒崎とて例外ではなくヤガミへのバースデープレセントにと気合いを入れてマフラーを編み上げた。
ただ、他のヤガミ妖精や舞踏子達とちょっと違うのはプレゼントをあげる相手が黒崎だけのヤガミ、ソウイチローという点である。
いやはや、これまで色々あったが今やソウイチロー・黒崎共になんとも幸せ一杯。
そんなわけで心のこもったマフラーを持参した黒崎だったが待ち合わせ場所に現れたソウイチローは半袖シャツという至ってラフな格好であった。
「今日はいいひよりだな」
「今日はあたたかいねー」
それもそのはず、真冬のこの季節でも常夏の小笠原は気温25℃、無風。
暖かい、というよりは暑いくらいの陽気だった。
「さすがに小笠原はな。
どうした?」
「せっかくマフラーつくったけど、これじゃーいらないねー。
いらないというか使わないっていうか」
黒崎はきらきらとした小笠原の日差しを見上げて目を細め、待ち合わせ場所を小笠原に選んでしまった自分の迂闊さに小さく笑う。
ソウイチローはそんな黒崎に少し口元を緩めるとぽふぽふと軽く頭を撫でて優しい声で続けた。
「たまたま今日はな。迷宮で使うさ」
なんだか今日のソウイチローさんはやさしいなー?とにこにこする黒崎にソウイチローも微笑みで返す。
彼もいつもしかめっ面でどつき漫才をするばかりではないらしい。
「あれ?迷宮行くの?」
「ああ。少し」
「そうかー、何しにいくの?」
「マフラーの性能テストだな」
軽く微笑んで冗談めかしてそう言ってはぐらかすと、背を向けて歩き出した。
仕事に関わることについてはっきり言わないのは毎度のことなので黒崎はさして疑問にも感じずに後について歩き出す。
「テストならつきあってもいい?」
「お返ししないといけないな」
黒崎の問いに答えず振り返って再び微笑みを浮かべるソウイチロー。
クリスマスだからなのか、いつもよりずっとやさしくて黒崎に対する思いやりに満ちているように感じられた。
「何か欲しいのはないか?」
「欲しいものかぁー…。
クリスマスだから、えーっと、その」
「だから?
雪でも見に行くか?」
なんでやねん!
いや、それはそれでロマンチックだけれども。
もっと色々するべきことがあるだろうに。
「お、おそろいのー…指輪がほしいです。
雪もみたいけど小笠原じゃーちょっと無理じゃない?」
「指輪でおそろい? 結婚指輪みたいだな、まあ、最近そんなことはしないか。
わかった。通販かなにかで…」
…無粋もここに極まれり。
下を向いて顔を真っ赤にして後ろ手にもじもじと指を絡ませる黒崎にあくまで天然なソウイチロー。
顎の下に手を当て考え込んでいる。
MAKIに検索させれば指輪くらい、とか考えている様子だ。
本気で一発くらい殴っても罰は当たらなそうだが、それでも黒崎は健気にもそうでなくて、とソウイチローの顔を見上げて辛抱強く言葉を続ける。
これも鈍感な彼との長い付き合いで身に着けた彼女ならではの対応である。
「あーできたら一緒に探して欲しいなぁとか…いや?」
「いいぞ。
どこで買うかだな」
屈託無く笑って答えるソウイチロー。
こういうところがずるい。
その反応は天然なのか計算なのか、そんなことは関係なく何でも許してあげたくなってしまう。
「えへへ。
じゃあ、お店探そうかー」
お願いが受け入れられて真っ赤な黒崎がそう言った矢先、二人が歩く道の前方、道端の露天に見覚えのありすぎる人物が商品を広げていた。
「あ、あれはー知恵者さん」
「いやまて」
思わず走り寄ろうとした黒崎をソウイチローが珍しく焦った声で引き留める。
「うん?」
「思いっきり何か間違ってないか」
「間違ってるかな?」
「知恵者だぞ」
ん?という感じで立ち止まった黒崎の肩に手を置いたソウイチローは真剣な顔で諭した。
そんな二人を認めてこれ見よがしに売り声を上げる知恵者。
「鈍感が直る指輪、安いぞ」
まるで蛇蝎を見るような目で知恵者を睨み付け、黒崎の肩を抱き三歩後退するソウイチロー。
「あーでも一応雑貨みたいだし。
覗いてみるだけ覗いてみたら?」
「噂になるぞ」
ソウイチローは解ってないな、という顔で嫌そうに知恵者の露天を眺めているが黒崎は知恵者の商う魅力的な商品について色々と聞き及んでいる。
ソウイチローが警戒する様子より好奇心が勝っていた。
「噂って何の噂?」
「俺とお前のことが。関係とか」
「え、噂になったら嫌…?
うちはいいけど…」
こういう言葉が出てくる辺りソウイチローも往生際が悪いというか。
顔を見上げて言った黒崎はしょんぼりと上の耳を垂れ下がらせた。
「ますます女になってるぞ」
「もー女ですよ」
ちょっとむくれた黒崎に仕方ないな、という風に小さく苦笑するとソウイチローはその顎をひょい、と指で押し上げる往来のど真ん中で堂々と唇にキスをした。
前言撤回。
ソウイチローもやるときはやる。
道行く人や知恵者の視線が突き刺さるようだが二人には届いていまい。
これもクリスマスの加護かも知れない。
「!」
「わかった。じゃあいくか」
「う、うん」
再び顔を真っ赤にした黒崎の手を引き、なにやら戦場に赴く男の顔になったソウイチローが知恵者の露店の前に仁王立った。
「指輪を買いにきた。他の質問はなしだ。知恵者」
「破廉恥条例シールならあるが」
「うるさい、黙れ。指輪だ」
一気に言い放ったソウイチローにすかさず不敵な笑みを浮かべ懐から三枚のシールを取り出す知恵者。
隙あらば貼り付けんばかりの構え。
緊迫した遣り取りがつづく。
ちなみにこのシール、三枚貼り付けられると評価値が0になるという恐ろしい物、らしい。
「にゃー!
初めまして知恵者さん、海法よけ藩国の黒崎と申します。
そ、そのーなにか合った指輪はありますでしょうか?」
「男だと言い張っていた者か」
「はいー恥ずかしながら女になりました」
慌てて割り込んだ黒崎をちらりと見遣った知恵者はシールを懐にしまうと、代わりにバレテルヤン!と苦笑する彼女の前に3つの指輪?を広げた。
一つ目は金の台座に大粒のキャッツアイがあしらわれた指輪。
それぞれが左右対称に三角の突起をもつツインリングで、組み合わせると猫の顔になるという凝った作りだ。
二つ揃いだと視力が向上する効果があるそうで、身に着けた二人が手を繋いでいる間は眼鏡が要らなくなるという寸法だ。
もっとも黒崎はもともと猫妖精で視力に問題がないし、ソウイチローの眼鏡は伊達なのだが。
二つ目はくるりと尾から頭まで巻いた魚をモチーフにした銀色の指輪。
黒崎はこの間行った水族館でこれと全く同じ物を目にしていた。
要するに何処にでもあるような安~い土産物である。
当然ながら特別な魔力などはない、と思われる。
そして三つ目は指輪というより通信機に見える。
野戦で使うような背負い式の巨大な送受信機にトランシーバー状の子機が二つ。
「えーっとこれって指輪にみえないんですけど…」
「通信機だ」
え~という顔で三つ目を指す黒崎にしたり顔でぬけぬけと言い放つ知恵者。
ぶち。
ただでさえ短い知恵者への堪忍袋の緒が切れて知恵者の首を絞めにかかったソウイチロー。
気持ちは解る。
「もっと高いのをだせ。
給料の3ヶ月分くらいのやつ」
「そんなものはない」
「ううーん」
黒崎へのクリスマスプレゼントを買いに来たはずがいつのまにか買う物がカップルにお約束のアレになってしまっているソウイチロー。
そんな二人の遣り取りを前に突っ込むべきか止めるべきかそれとも観客に徹して笑うべきか、ちょっとおもろいな~と思いつつ複雑な心境で眺める黒崎。
「そなたたちが離れ離れにならぬよう、通信機をつくったのだ。
いいものだぞ。
どんなところでも通信できる」
「いらん」
知恵者はいつもの調子で通信機を薦めるがソウイチローはぎりぎりと襟首を締め上げながら短く切り捨てた。
「手が足りない。
知恵者の首をしめるだけではたりんのか俺は」
おちょくられているのが敏感に伝わってくるのか徐々にエキサイトしてくるソウイチロー。
黒崎はイカナのように沢山の副碗を生やして知恵者を締め上げるソウイチローの図を想像して思わず吹き出しそうになりつつ、涼しい顔で締め上げられ続けている知恵者に一応確認してみる。
「本当に他にはありませんか?知恵者さん」
「他にもあるが、そなたに必要なのはこのうちの一つだ。
それで道が分かれる」
「なら、指輪は諦めて、その通信機がいいです。ソウイチローさん。
指輪はいつでも買ますから」
知恵者の言葉を聞いてこれだ、と大きく頷く黒崎。
世に指輪は星の数ほどあれどもきっと今の二人に必要な物はこれなのだ。
まぁ当初の目的とは大分ずれてしまったけれど。
「それに迷宮に行くなら心配なので…。
ちなみに通信機はいくらでしょうか」
「ただだ。
本当に必要なものに金はとれぬ」
「わかりました、ありがとうございます!
ソウイチローさん、指輪は迷宮から帰ってきてからまた選びにきましょうー」
本当に必要な物を選び取った黒崎になだめられてソウイチローは渋々知恵者を締め上げていた手を放した。
道端にでん、と置かれた通信機を悲しそうに見遣る。
黒崎の前で良いところを見せられるチャンスだったのに。
星巡りの悪さというか招くべくして招いているオチというか、彼の場合は同じよけ藩に属する蒼の忠孝のようには上手く行かないものらしい。
「うちはソウイチローさんのことが心配なんですよ…」
「二人一緒だと全然役に立たないぞ、これ」
黒崎の心遣いは解るのだが、しかし。
納得いかなそうにゴツい通信機とにやにやしている知恵者を交互に睨み付けるソウイチロー。
「あはは、そうですけどね。
一緒の時は通信機はいらないですけども。
これで離れててもいつでも一緒にいられますよ。
できたらつれてってもらえますか?」
「当たり前だ。こんなものが役にたってたまるか。
やっぱり腹がたつ。指輪、買いにいくぞ。高級店だ。
お前が幸せそうな笑顔になるのを買うまでやめない」
ソウイチローさんが行くところなら何処へでも。
にっこりとそう言った黒崎にソウイチローはむっとした表情で手を取ると足早に知恵者の露天を後にした。
やっぱり知恵者はロクなもんじゃない。指輪を売るふりして俺を笑いに来ただけじゃないか。
憤慨しつつまるで吸血鬼と戦う宿命の英国貴族のようなセリフを吐く。
本気でニューワールド中の宝飾店を回る気だ。
「…うん」
真っ赤になってしっかりソウイチローの腕にしがみつく黒崎。
そんな二人の後ろ姿をにやにやと笑いながら見送る知恵者。
結局彼の手元には通信機が売れ残っていたが、本当に大切なのはその形ではない。
ソウイチローは少しだけ素直に感情を表せたようだし、黒崎が望めば迷宮に行くことも止めるだろう。
今は頭に来ているのでそんなこともさっぱり忘れているようだし。
いまここに小さな魔術は成就された。
どんなに離れてもお互いの気持ちが届く、そんな当たり前の魔法。
もしかしたらそれは知恵者からの加護、ちょっとひねくれた思いのこもったクリスマスプレゼントなのかも知れなかった。
すっかり遠ざかった二人の後ろ姿にもう一度視線を投げると全ての娘達の幸せだけを願う道化は店を畳んでその場から姿を消した。
暖かな日差しの降り注ぐ小笠原から
Merry Christmas&Happy birthday
/*/
他に些細な事でも気になりましたら御指摘いただけると嬉しいです。
わたしの作業ポリシーというか、形式としてご依頼の品に限り依頼主の方の物、という考え方なのでこのように確認を頂いています。
細かい部分が気になったりするので少々鬱陶しいかも知れませんがご容赦下さい。
もちろん納品後はどのように扱われても構いません。
お手数ですがよろしくお願いいたします_(_^_)_
作品への一言コメント
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- わーいわーいわーいわーい!!!(懐にしまう)またまたSS描いていただき有難うございましたー! -- 黒崎克耶 (2008-03-17 00:09:58)
引渡し日:
最終更新:2008年03月17日 00:09