№78 風野緋璃様からのご依頼品

宰相府藩国が誇るリゾート施設・春の園は、
先日の戦闘から復旧し、本来の美しさを誇っていた。

色とりどりの花々と緑に覆われた公園の一角、
黒髪の男性が新聞を広げていた。

側には銀髪の女性。彼女は道に面したベンチに座り、
男性を見ていた。


男性は、ハードボイルドペンギンの名で有名な
ペンギンの、人型である。というか、元々人なのだが
故あってペンギンの姿をとっていたらしい。
多くの偽名を持つ。

女性の名は風野緋璃。FEGの誇る才媛であり、
宰相府に勤める秘書官の一人である。


どれぐらいの時が経っていただろうか。
緋璃はベンチから立ち上がると、男性に話しかけた。

「こんにちは。何か面白い記事でもあった?」
「まあまあだな。本題は?」
「のんびり休暇をすごすことが本題じゃダメ?」

その応えに、彼は微笑む。
微笑み返す彼女。すこしぎこちない。
彼はそれを見抜いた。

「ぎこちないな。何か言われでもしたのか?」
「うー、なんですか、それ」
「何か言われるのはまぁ、いつものことだから」
「お前は意外にあれそれを気にする」
「大丈夫、今までと違うとしたら焦りがなくなっただけだから」
「心配性なのは否定しないけどね」

苦笑する彼女を追及するのをやめた彼は、
広げていた新聞を畳み、スキットルという携帯用酒瓶を取り出した。

そんな彼を見ていた彼女は、問いかけた。
「ね、そうだ。一つ聞いていい?」

スキットルに視線を向けていた彼は、
彼女のほうを向き直り、「なんだ?」と問い返した。

「その姿でペンギンって呼ぶのも変でしょう? ずっと貴方って呼んで誤魔化してきたけど」
「本当のじゃなくてもいいの。呼び名、下さい」

彼には、様々な名があった。
ハードボイルドペンギン、ペンギン、
ウイスキー・ブランデー、コニャック・ビールポンシュ、
そして、ゴールド。
聞いただけで偽名とわかるような名前ばかりである。

ペンギン姿のときは、他の人と同じようにペンギンと
呼んでいた彼女だったが、こうして人の姿で在ると
ペンギンと呼ぶのは変な気持ちだったのだ。

「お前がどう呼ぼうと俺は俺だ。お前の好きに」
「言うと思った。私は、貴方から聞きたいのに」
「ラム・バカルディ?」
「えーと、お酒の名前その他人名っぽくないものは却下です」
「バカルディって知らないや。どんなお酒?」
「ラムの名前だ。注文が多いな」
「そんなに多い……かなぁ」

首をかしげる緋璃をしばらく眺めていた彼だったが、
やがてぽつり、と口を開いた。

「……ラファエロだ」

その言葉を聞いた緋璃は笑顔を浮かべ。
「ラファエロ、うん、分かった」
「イタリア系の名前かー。うん、確かに似合う」

本当は別の意味があるのだが。
内心そう思ったラファエロはしかし、何も言わなかった。

「……」
「どうかした?」
「後悔している」
「……何を?」

心配して見返す彼女に、彼はこう言った。

「ラファエロ・ロッシだ。他では使うな」

「分かった。呼ぶのは二人だけの時にする」
笑いながら言う彼女。

その後、二人だけ以外のときはウイスキーと呼ぶことになり。
少しだけ、仲が進展したようだ。

手をつなぎ、近くのバカーロまで行く二人。
その二人を、花たちが見送っていた。


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引渡し日:2008/2/20

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最終更新:2008年02月20日 00:04