No.62 詩歌藩国様からのご依頼品
戦士と騎士
作:1100230 玄霧弦耶
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小笠原の夏の夜。
といっても、もう幾分と暑さも和らぎ、秋の様相を見せる小笠原に、楽しそうな声が響く。
見事な白馬を連れた一団が花火をしている。
といっても、花火に火をつけるたびに白馬が驚き逃げ出したり、人に向けてロケット花火を撃ったりと幾分普通ではない楽しみ方をしているようではあったが。
…そして、そんな一団から少し離れたところで「戦士」と「騎士」が居た。
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戦士の名をアスタシオン。騎士の名をジャスパーと言った。
その昔、二人は敵として対峙した。が、今は行き倒れていたアスタシオンをジャスパーが介抱している。
運命とは時に面白い状況をもたらすものである。
(楽しそうな声が聞こえる。エクウスには悪いが暫くは稼げそうだな)
ジャスパーは気弱な友のことを思い浮かべつつ、眼の前で用意された食事を啜るアスタシオンを見た。
「うまいか?」
アスタシオンは答えない。
そもそも、ジャスパーも答えを期待して聞いたわけではない。
戦士と騎士、立場は違えど双方の考えは大よそわかる。この後彼が尋ねるであろう台詞もほぼ予測できた。
無言の時間が流れる。
ジャスパーは待った。アスタシオンが言葉を発するのを。
暫くして器の中身がなくなった頃、不意にアスタシオンが尋ねた。
「なぜ事情を聞かない?」
「俺には関係ない」
大よその想定内であった。
こちらも、用意していた返答をする。
また、無言になる。
窓の外では未だに楽しげな声が聞こえる。
アスタシオンは不意に窓の外を眺めた。
そこにいるのは笑いあう人々。
様々な愛情と平和が交差する空間。
自分がとどまることの無い世界。
ジャスパーもそちらを眺める。
そこにいるのは笑いあう人々。
様々な愛情と平和が交差する空間。
自分が守るべき世界。
「地べたすりに養われるつもりはない」
長い長い沈黙の後に出てきたのも、また予想通りであった。
アラダは地べたすりを嫌う。嫌うと言うよりは侮蔑している。
その存在に養われると言うことは、その存在以下になるということである。
誇り高い彼らには耐えられないだろう。と、ジャスパーは思った。
「殺せ」
「断る」
コレも、想定通り。
ジャスパーはどこか悲しくなった。
戦士とは、戦いにしか生きれないものなのであろうか。と。
と、彼が少しの間注意をそらした隙にアスタシオンがガラスを割って外に飛び出た。
「ちっ!」
即座に追いかけるジャスパー。しかし、悲しいかな体格差の問題で直ぐには追いつけない。
アスタシオンは花火をしていた集団から一人抱え、走り出す。
平和な空間は一転、大騒ぎになる。
地竜は射撃準備を始めているし、あのエクウスが呪文まで唱えている。
(ヤツは、死ぬ気か……)
壁を蹴り、大地を跳ね、追いかける。
周囲からロケット花火を差し出されて2秒考える。
爆発しそうになったら飛び移ればいいと判断し飛び移ろうとした瞬間、足元でフランクが尻だのなんだの言いながら聖銃を撃った。
騒ぎはさらに大きくなった。
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数人の人間が倒れたアスタシオンの頬を叩いたり心配そうに覗き込んだりしている。
フランクがなにやら説明をしているが、どうやら意味が判らないらしい。
口々に復活させる方法を問われたフランクが、岩崎を見た。
アイツも我らに近い。あの部屋に我らを二人だけにしたのもそういえばアイツだったか。
岩崎が、口を開く。やはりアイツも同じ考えであった。
レムーリアでの日々をふと、思い出した。
不意に、意見を求められる。しかし、
「殺してほしかったんだろうな」
としか、答えられなかった。
ソレを聞いたエクウスが怒っている。
自殺はいかん。と言いたいらしいが、それならお前が殺すのはいいのか、としか言えなかった。
誇りを穢されるくらいならば、死を選ぶ。その気持ちは痛いほど理解できた。
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結局、アスタシオンには岩崎が付くこととなった。
アイツなら、安心できる。周りの評価も同じであった。
少し、うれしくなる。我が友はどこにいても変わらないと。
そして、悲しくなる。我が友の言葉に。アスタシオンと似ていると言った彼の言葉に。
鼠の騎士・ジャスパーは改めて誓った。
正義の旗の下において、その絶望のこと如くを打ち砕くことを。
まずは、我が友と、新しい友になる者の絶望を。
作品への一言コメント
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- 玄霧弦耶さん、SSありがとうございました!アスタシオンさんジャスパーさんに頼るなら、お願いだから別の形で頼ってください。殺せ。じゃなくって! -- 花陵@詩歌藩国 (2008-02-17 14:44:55)
引渡し日:
最終更新:2008年02月17日 14:44