きみこ@FVB様からのご依頼品

海法よけ藩国の山岳地帯にはダムがあることは有名な話である。そのダムの下に秘密戦艦が眠っていたことも大分有名である。
かつて秘密戦艦が眠っていた洞窟、その闇に前後真っ二つにされて改装を行われている潜水艦が浮かび上がる。
その名を夜明けの船という。
奥を見ると、同じ形をした艦が更に7隻建造中という驚異の開発ラッシュ。

これはそんな場所で起きた食と人間を巡る愛と笑いと感動と突っ込みとバイオレンスのドラマ。

「そう、でちらし寿司だね」
夜明けの船の前に設営された特設調理台。その上には色とりどりの食材が並べられている。
エプロンを着たにこにこと笑う青年の名はアーシュラ・アツシ・リアティ。もっとも一般的には青だとかあっちゃんだとか希望の戦士と呼ばれている人型傍若無人兵器である。
その横にはつい今しがた傍若無人振りを目の当りにしたFVBの5人組-藩王さくらつかさ、摂政-と何事かで打ちひしがれている少女である。
元美少女による銀河帝国、通称ネーバルウィッチのエステル・ヴァラ・夜明けの船氏族・夜明けの船・ヤガミ(らしい)は辱めを受けました、とうなだれている。
「ちょ、ちょっと待ってー!今そういう状況じゃないから!」
慌ててきみこが寄り添ってごめんねごめんねと必死に励ます。そんなフォローを横目にさくらつかさはきょろきょろと周りを見回した。
「というか、舞ちゃんはどこに?一緒に作るの楽しみにしてるのですが。」
「舞? 舞なら今は小笠原かなあ」
のほほんと愛する人の事を答える青。その向こう側ではケーキを食べている第4異星人、イカナ=イカンがくるくると手(触手)を上にかざして踊っている。
にやりと笑ったさくらつかさが一緒に踊りだすのを栗田雷一はガクガクと震えながら見ていた。
先ほど身体半分ほどイカナの群体に食われかかったのがトラウマになっているらしい。
「えーと、えーと、うん、お祝い料理はじめましょう、うん、美味しいもの食べてから考えましょう。ざ、材料は何を斬ればいいですか!」
この状況をあかんと考えたのか、天河宵が大きな声を上げて包丁を構える。しゃきーん、という文字が後ろに見えた。
「そうそう。えっと、酢飯を用意してー」
「お寿司はまず、古いお米を探してこないとね」
「…古いお米?……うちの国のお米じゃダメなんですか?」
袋に入った米を出そうとしていた曲直瀬りまが聞き返す。
「古米ですね」
栗田の言葉にそうだね、と青が頷く。
「2年とか経っているお米がいいなあ」
通常の米よりも乾燥して水分が古米は粘りが少なく、酢飯に向いているのである。
「二年前かぁ備蓄米にありますよね、たしか」
「なんとかしましょう!」
天河の言葉にばたばたと曲直瀬が走っていく。
「新米とのブレンド比率は新米3:古米7。ジャポニカ種でね」
「ジャポニカ種とはなんですか」
おずおずとエステルが疑問を口にする。その様子を見てきみこが心の中で安堵した。よかった、もう大丈夫だ、と。
ぱたぱたと遠くから曲直瀬がぱらぱらしてないお米よーと言いながら駆け戻ってくる。
そんなエステルを見て青が笑う。すす、と後ろに下がるエステル。
「今度触ったら舌を噛みます」
更ににこーと笑う青。全身で震えながら曲直瀬の後ろにエステルは隠れた。
「でも僕、赤ちゃんが大好きなんだ」
「えーと、えーと、し、新米と古米で3:7ですよね!量りました!(どーん)」
展開を危ぶんだ天河が大急ぎで笊に入れた米を差し出す。辺りは妙な緊張感に包まれていた。

さくらつかさはそんな緊迫した光景を後ろのほうでがりがり角砂糖齧りながら見ていた。
わー修羅場だ修羅場と思いつつ新しい砂糖に手を伸ばすとイカナがひょこひょことやってきた。
「おめ。何食べてる?」
「角砂糖。あまいよ。」
そう言って無造作に袋をイカナに差し出した。イカナが口を大きく開ける。
がぶりぶちっ
奇妙な音がする。何か手の感覚がない。
イカナのほうを見ると見覚えのある腕がむっしゃむっしゃと食べられていく。
「手は返せー!」
さくらつかさが絶叫するとイカナがじりじりとにじり寄ってきた。
心なしか目がハートに見える
「ぎゃあああああ!!腕ごとくわれないようにっていう前にやられた!!」
待て、この話はギャグじゃなかったのかと脳内で思うさくらつかさ。だがギャグの方が致命的な展開は多いのである。
「返す。まずい。シブースト」
口の中からにょろん、と腕が出てくると元通りくっつけられる。
目の前で骨→神経→血管→筋肉→皮膚の順にビデオの逆回しのようにくっついていく。
とても気持ちのいいものではない。ひーとかきゃーとか叫び声が聞こえる。
「…………(脱力)……お、おこめ研ぎましょうかね。しょりしょりと」

1・ご飯を準備する

天河の指先に水の冷たさがしみてくる。
それにも負けずにたっぷりの水で米を研いでいくと次第に白く濁っていた研ぎ汁がだんだん澄んできた。
「お釜に研いだお米を入れて、水を入れて……」
曲直瀬はわくわくしながら研いだ米を笊に上げ、水を吸わせてから羽釜に入れていく
「あれ?お酒も入れるんでしたっけ、あ、昆布はここです(ひょい)」
「お酢はあるよねー」
手を沈めて手首の辺りまで水を入れると、昆布と酒を一緒に入れる。
そのままコンロにかければ後は火加減に気をつけるだけである。(焦げやすいから注意)
「ばんざい、米どころFVB!」

2・具材を用意する

「了解しました」
「はーい、お塩はこれくらいかなぁ」
青の指示で栗田と天河が数の子の塩抜きに取り掛かっている間に「調味料なんでもあるよー」とさくらが袋から様々な調味料を取り出している。
「赤だしも欲しいですねえ」
そう呟いて曲直瀬は、実のわかめを戻しにかかっている。しーがるふぉー、しーがめふぉー☆と鼻歌も歌っているようだ。
その横で青が手際よく野菜類を洗って後ろの面々に渡しつつ、自分は穴子を捌きにかかっている。
こん、と目打ちをすると手早く腹から半身に割いていく。骨には一欠けらの肉もついていないほど鮮やかな手並みだ。
そんな手際のいい仕事をきみこは横から眺めている。どうも手先だけでなく料理姿を見てため息をついてるようにも見えるが…
「じー」
砂糖を齧り終わったさくらはそう呟きながらエステルを見ている。
さっきのショックからかまだエステルはのの字を書いてなんかぶつぶつつぶやいている。
「散らし寿司には他に何を入れるんですかー?」
「アナゴ、後は野菜は欲しいかな」
捌いた穴子に酒を振りかけると、青はそのままコンロで穴子に塗るタレを作りにかかる。
どうやら穴子の骨で出汁をとった鍋に砂糖や醤油、塩を加えて煮詰めるようだ。
「エステルー、いっしょにやろ?」
「ネギきざむ?それとも角砂糖、食べる?」
きみことさくらが野菜(と角砂糖)を手に持って声をかける。
「きざみます・・・」
エステルはため息をつきながら立ち上がると、前掛けをつけて包丁と葱を手に取った。
緊張した面持ちで恐る恐る葱をさくさくと切っていく。手つきは意外と悪くない。
「エステル、みんなで美味しいものつくろうね。」
きみこはにこにことその様子を見て励ました。
「ガンがれー☆」
こちらは励ますだけに終わっている。
「錦糸玉子、作れるかな」
タレの下ごしらえを終えた青が曲直瀬に聞く。少し悩んだ後、曲直瀬は頷いた。
「錦糸玉子か……自信ないけどやってみます」
「えー。じゃー、まぜるー」
「オウサマ、まだそこまで行ってないから」
かき混ぜ機を持ってきたさくらに卵を持ってきた栗田がツッコミを入れる。
「アルミホイルの上に、アナゴは小さく切っておいてね。時間がないからトースターでアナゴは料理します」
「はい!…あなごーあなごー、骨をしんちょうにー よし!」
天河は下ごしらえの済んだ穴子から残った細かい骨を慎重に抜いていき、先ほど作られたタレを塗ってトースターで焼き始める。
その間もエステルは慎重にざくざくと野菜を切っていく。
栗田が割った卵に砂糖、出汁、塩を加えてさくらがハンドミキサーでぐいんぐいんと混ぜていく。
しっかり混ざったところで曲直瀬が温めていたフライパンに卵を流し込んだ。
「玉子焼き、玉子焼き☆ つるるんぺらんと薄焼き玉子☆」
薄く玉子を広げて、すぐ少しずらし…た隙にこそこそとさくらが唐辛子を投入しようと手を伸ばし…

ぺしっ

「あいた」
「あ、おうさま駄目ですよ、何やってるんです」
声に気付いた天河がぴし、と指を指す。さくら、つーんと顔を背けて反省するつもりはないようだ。
「ちゃんとオウサマ用に玉子焼きも焼いてあげますから」
手早く一枚目を焼き上げて、曲直瀬は次の薄焼き卵に取り掛かった。
こうして一緒に混ぜる具材が続々と出来上がっていく。

3・酢飯を作って具を混ぜる

「寿司酢をつくろうか」
「はーい」
「米酢 みりん 氷砂糖 塩 うまみ調味料」
青が言った調味料を手早く取り揃えていくきみこ。野菜を切り終えて手を洗っていたエステルに顔を向けた。
「エステル、分量計りましょう。」
「はい」
きみこの言葉に頷いたエステルはごそごそと何かを取り出して調理台の上に置いた。
そのまま計量を始める。
「…あのね、エステル」
「何でしょう」
「そこまでしなくていいから」
「?何故ですか」
顕微鏡で計量していたエステルが顔を上げて、疑問の表情を向ける。
「ほら、この量りと計量カップ!これ使えばいいから!」
計量カップを素早く量りの上に乗せて、適量にして混ぜていく。方法を教えてもらって少ししゅんとするエステル。
「でも一生懸命やってくれてありがとうね」

その後ろではさっき怒られたのを根に持っているのかイカナどこだろうな~と玉子焼きを摘みながらさくらがふらふらしていた。
「沸騰させたらだめだよ。寿司酢は。火にかけて溶かしたら、すぐに冷まそうね」
「はーい」
「了解しましたー」
「おーっと、穴子はそろそろいいかな…具は冷ましとかないといけないし。」
天河が取り出した穴子を曲直瀬が細く細く切っていく。手ごろな大きさに切れたところで団扇で冷ましにかかった。
きみこはエステルが計量した寿司酢を火にかけている。弱火でちりちりと熱を入れていくのである。
ちりちりと鍋のふちに小さな泡が浮き始めた。
「いまだ!」
カチ、とつまみをひねって火を消す。
「溶けてるかな?確認。」
おずおずと鍋の中を見る。特に固まりは残っていない。
「よかった、エステル。いいタイミングみたいよ。では冷ましましょう」
きみこの言葉にエステルはこくり、と頷いた。
みぎゃああああ、と天河の叫び声がしたのはその時である-

エステルは思った。
私には理解できない。
希望の戦士が理解できないのはいつもの事だ。あの人は誰か一人以外、他の誰にも理解してもらおうなどと思っていないだろう。それに、怖い。
さっき来たエノーテラなる人物も理解できない。いきなりイカナに食べられた挙句、希望の戦士にあんな事言われて、何でまだここにいるのだろう。
何でこの人たちはこんなことがやれるのだろう。
私には理解できない。


「エステル、こちらエノーテラさん。花嫁修行中になりたい娘さんです」
エノーテラさん。ここは夜明けの船で、この方はエステルさん。偉い方なんですよ、と半ばやけくそ気味に大声を出す曲直瀬。
無表情気味に頭を下げるエステル。当のエノーテラは涙を浮かべていた。
そんな空気を読んでか読まずかさくらがてこてこと青に語りかける
「希望の戦士、今日のもう1人のお客さんですー。黒の方ですが、今日はお料理を一緒に教わろうと思ってお呼びしています。よろしくお願いしますー。」
「おーさま、味見してください穴子の!」
喋りだすのと同時に天河が仕込んでいた穴子を口の中に放り込む。もぐもぐと咀嚼するさくら。表情を見るにご満悦らしい。
「錦糸玉子できましたー」
素早くさくらと青の間に錦糸卵を持って滑り込む栗田。卵はいいね、と言われて二重の意味でほっとしている。
「なんで、呼ばれて来たら憎しみの目で…、殺されかけるし」
涙を流して呆然としていたエノーテラが呟く。その姿に曲直瀬はごめんね、ごめんね、と駆け寄って抱きしめる。
訳のわからない状況に陥っていると思しきエノーテラに、
「希望の戦士はああいう人です。誰にでも厳しい」
野菜の味付けをてきぱきと指示する青に、エステルは視線を向ける。
「そうなの…。でも好かれてるんだよね。希望の戦士。」
まだ穴子を食べていたさくらに栗田が身の丈ほどもあるハリセンでツッコミを入れている。
慌てて二人の間に割ってはいる天河。そんな状況でも手早く酢飯を作り続ける
「……希望の戦士が好かれているって、ちょっと想像がつきません」
「え?そうなの?青が大好きって人、多いよ? エステルは彼をどう思ってるの?」
「怖いので嫌いです」
驚いた表情のきみこを見ずに、エステルはそう呟いた。
「まあ、人それぞれだからね。気にしなくても良いよ」
青はエステルを見てクスクスわらっている。
エステルは眉間にしわを寄せた-きみこの後ろに隠れて。


「はい。じゃあ、ご飯は寿司酢と混ぜながら冷ましていこうね」
曲直瀬が手早くご飯をたらいに空けると、栗田が手際よく寿司酢をかけてご飯と混ぜていく。
「うーん、いい匂いだ」
その後ろでは穴子の白焼きにさくらがワサビをつけてつまみ食いをしている…あ、天河の視線に気付いて遠くに逃げ出してる。
「…うや?あ、山葵が脱走して…あ、おーさま、お酒まであけちゃって」
先ほど栗田が持っていたハリセンを握ってさくらを追い回す天河。ひゅうんひゅうんとハリセンが風を切って振り回される。
「…そろそろ人参いいかなぁ、シイタケは良いな、かんぴょうも大丈夫。よいせ、冷ましとかないとね」

「……バルクはおいしいと思うかな」
ぽつり、とエノーテラが呟いた。
「バルクさんの好きな料理ってなに?」
曲直瀬の問いにエノーテラはふるふる、と首を振る。
「一生懸命作ったら、きっと美味しいと思ってくれるわよ。隠し味は“たっぷりの愛情”」
「…」
「なら、でんぶはこの鉢に……っとどうしたの?」
エノーテラは急に黙った。空気が物凄い勢いでどんよりとしていく。
どう見ても明らかに地雷を踏み抜いた感じである。
「いつも作ってるの?」
返事は無い。どうしたの?と必死に聞いてみるがエノーテラは一言も
「……ん?何この妙な沈黙」
エノーテラは下を向いたままもう何も言わなくなった。
青が手を洗う水の音だけが響いている。その音もやがて止まった。
青はそこでにこやかに笑うと拳を握り締める。
青い光輝が拳に集まっていく。数歩助走をつけるとエノーテラ目掛けて走り始めた
「ほら、昔から“百里の基地も1機から”というでしょ。何事も1つずつ順番にステップアップするの」
曲直瀬の言葉は最後まで続かなかった。後ろから走ってくる青の気配に気付いて間に入ったからである。
ぼん、という音がしてエノーテラと曲直瀬はふっとんだ。曲直瀬の視界に洞窟の天井が、暗い洞窟の中が、夜明けの船の甲板があっという間に入っては消えていく。
次の瞬間、曲直瀬は地面にバウンドして転がった。素早く下がっていたさくらが受け止める。
「やあ、よく飛んだなあ」
「やりすぎです」
野球でホームランを打ったみたいな青に、エステルがため息をつく
がば、と飛び起きるエノーテラ。みるみるうちにその顔に怒りが浮かび上がってくる。すげー怒ってる。
天河、栗田、きみこが必死に抑えようとするが、全く耳に入っていないらしい。
エノーテラは剣を抜いて今にも切りかかる勢いで間合いを詰めていく。青はその様子をいつもと変わらない笑顔で見つめている。
「ちょ、ま、ストップまってー、駄目ですよ、危ない!」
「お願い青、彼女を殺さないで!」
「今日はお料理教室なの!お祝いなの!」
「お祝いの席にち血みどろはいけませんー!!」
必死に止めようとする面子を全く相手にせず、ついにエノーテラが後一歩踏み込めば剣が間合いに入る位置にまで近づいた。
「ま、気に食わなかったら怒ってもいいと思うな」
のほほんとした口調で凄く今更な事を語る青を、エノーテラは物凄い形相で睨みつける。あと1cm足を動かせば彼女の剣の間合いである。
「君はいますぐ想い人のところに行ったほうがいい。料理なんかどうでもいいんだよ。いっておいで、君に必要なのは勇気だ」
「逃げるのは嫌いです」
表情を変えず踏み込むエノーテラ。二人の間合いが交錯する。
「逃げるからここにいるのさ」
緊迫する空気。しばし(一方的に)にらみ合う二人。その後ろでこそこそと動く面々。
エノーテラは勢い良く頭を下げると、大急ぎで荷物を纏めて飛び出していく。
こっそりその中に仕込まれた散らし寿司に彼女は気付くのだろうか、と一同は思った…。

「ねえ、エステル。青っていいこと言うよね。優しい人だと思うよ。」
頑張ってねー、と小さく手を振る青を見ながら、きみこは語りかける
エノーテラの背中を見ながら、エステルはそうですか、と呟いた。
「エノーテラさんは養父の方に恋心を抱いているのだけれど……」
「希望の戦士なら押し倒します。相手が誰でも」
「うえええ!?押し倒す!?そっそんなんで問題解決するんですかっ!?」
「こっこわい…絶対に抵抗できない…」
きゃーきゃー言いだす曲直瀬ときみこに、エステルは淡々と語る。
「それをどうにかするから希望の戦士なんです。あの人には常識も理屈も関係ありません」
<酷い言われようですね>
うるさいですMAKI、と空中に向かって一喝するとエステルはそっぽを向いた。

数十分後…
イカナが洞窟を食い尽くそうとするのをレーザー砲台で撃ち落したりしている間に、料理がテーブルの上に置かれていく。
具沢山の散らし寿司に赤だしの味噌汁、ローストチキンに米粉で作ったケーキにサラダと前菜からデザートまで揃っている。
「さ、食べようか?」
「はーい!」
席に着いた皆の手元に飲み物が配られていく。そんな中でもエステルはまだ何か考えているらしく、難しい顔をしていた。
「押し倒せばいいんじゃないの?」
仏頂面のエステルに青が語りかける。エステルはふい、と顔を背けた。
「えーと、まぁ、うん。エステルさんが嬉しくて幸せなようになるなら、ねぇ?頑張って応援しますよね?」
「私に出来ると思いますか?」
この日初めて自分達を頼ってきたエステルに、皆は思い思いの言葉をかける。
「エステルだったら、やろうと思えば何でも出来るよ。わたしらだって応援するもの」
「幸せに笑えるための応援は全力ですよ(親指立ててぐっ)」
「手段はともかく、エステルに幸せになって欲しいよ。」
「頼りないこともあるだろうけれど、まあ見捨てないでくれると嬉しい。FVBへようこそ!」
「そうそう、そうですよ、生きて年末迎えられましたし、どうぞこれからもよろしくですよ、エステルさんにイカナさん」
「自分の分は確保ー」
心からの言葉と、嬉しさを胸に飲み物を手に取る一同。エステルは深呼吸をして、おもむろに目を開く。
「いただきまーす」

その声とほぼ同時だった。エステルはおもむろに立ち上がると隣に座っていた青を押し倒す。
曲直瀬は手を合わせたままその光景を見ている。
さくらはイカナからケーキを確保せんと奮闘している。
栗田はあー、と口を開けたままだった。
きみこはいきなりの事態にえ?え?と事態が把握できない。
天河は立てたままの親指をどうしようと思っていた。
イカナはうま、うまとケーキをむさぼっている。ピータン。

果たしてこの騒動の結末は-語られることは無い。

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最終更新:2008年02月10日 22:50