みぽりん@神聖巫連盟様からのご依頼品
無事に体育祭が終わった、放課後の教室。
ホームルームも終わり、それぞれが仲の良い友達同士で帰宅しようと席を立った時、さちひこがサングラスを輝かせて、「下校といえば買い食いだよな!」と吠えた。
皆が皆、さちひこに注目する。
一瞬の静止があり、彼らは再び動き始めた。ただし、話題は買い食いのことで占められている。
りっかと藤田一も、どの店に立ち寄るかを相談しながら、教室から出て行こうとしていた。
そんな藤田の肩が、叩かれる。
藤田は教室の戸を半開きにしたまま、振り返った。青の厚志と目が合う。ひどく神妙な顔つきだった。
りっかが後ろ手にそっと戸を閉めると、青は頷いて背を向けた。
お互いに顔を見つめ合う、りっかと藤田。
「みんな、聞いてください」
青は教壇の前まで出て、全員を見回した。
「突然ですがスーパーで買い物します。サンドイッチの具を買わないといけません」
「サンドイッチですかー」
藤田が笑顔で言った。隣のりっかは、以前の青を思い出してくすりと微笑んだ。
「サンドイッチの具? 納豆とか海苔?」
「レタスとかハムとか卵とかですね」
それは日本風サンドイッチ、巻き寿司ではないのか藻女よ。
藻女の常通りのボケに、りっかが常通り冷静にツッコミを入れた。ただしこの人物、自分の嫌いな具はちゃっかり抜いて答えている。
「…どれぐらいの量を?」
サンドイッチの山に呑まれる己でも想像したのか、さちひこは身震いした。
すっかりサンドイッチ談義に染まった教室を、青は上機嫌で眺めた。席に座り、わずかに口元を緩めている舞を見て、ぽややんと微笑む。
舞の食べるものは全部僕が作るんだ。だから、舞に買い食いなんてさせない。
笑顔の裏では、おそらくそのようなことを考えているのだろう。
「舞、ついてきて」
青の、教壇前からのよく通る一声。
舞は机に突っ伏して動かなくなった。耳が赤い。
「芝村さん、大丈夫ですか?」
海堂玲が舞に駆け寄って、声をかけた。
舞は絞り出すように肯定の返事をすると、勢いよく立ち上がった。
「お前はバカか。耳元で言えば済む話だろう!」
そして青の元まで大股で駆け寄ると、暴れた。青が嬉しそうに舞をなだめる。そんな二人の様子を、皆……特に藤田が微笑ましそうに見ていた。
舞をなだめながらも、買い物の準備を着々と進める青を見て、海堂はパンッと手を打ち鳴らした。
「ではー、みんなでお買い物に行きましょうか?」
と、窓が音を立てて開いた。言い終わるのを待っていたかのようなタイミングだった。
「いいっすねー! いきましょういきましょう」
今日子だった。土足のまま、窓を飛び越えて教室に着地。
だが、誰も気にかけない。それどころか、今日子が初めからここにいたかのように話が盛り上がってすらいる。
「誰か突っ込もうよ。窓から入って……」
そんな中、空だけが力無くうなだれた。
ヴァンシスカは校門にいた。
桃色の薔薇が刺繍された、足首までも隠す裾の長い翡翠色のドレスに、秋の強い西日を避けるように、緑がかった白の日傘を差している。ゆるくウェーブのかかった腰まである銀髪が、風を受けるとかすかに揺れた。
中世からやってきた彼女には珍しいのだろう。体育祭が終わってからこっち、学校を飽きもせずに眺めている。
ただ、右目は黒い眼帯で隠されていた。
出で立ちからして貴族の娘を思わせる美しい女、ヴァンシスカ。だが、彼女の特徴を聞かれれば、誰も彼もがこう答えるに違いない。
眼帯、と。
ひとり佇むヴァンシスカを見つけたのは、雹だった。
彼は即座に「ヴァンシスカさん、いたよー!」と大声で他の仲間に告げると、自分は急いで土足に履き替えてヴァンシスカに走り寄った。
「ヴァンシスカさんこんにちわわわー」
ヴァンシスカは日傘を少し傾けて、雹に顔を見せた。
他の皆も次々と、ヴァンシスカと雹を取り囲むように集まってくる。微笑ましい喧嘩は続行中なのか、青と舞の他、数名が遅れているようだった。
彼らを待つために、またヴァンシスカを買い物に誘うために、各々がヴァンシスカへ状況の説明をしようとしたのだが、初めに口を開いたのはみぽりんだった。
「ヴァンシスカさんは、さんどいっち、たべたことあるですか?」
ヴァンシスカは少し考える素振りをしてから、静かに口を開いた。ほんの少し、暗い顔をして。
「人肉はあまり……。カードゲームが好きなサンドウィッチでしょ?」
目を瞬かせて、みぽりんが雹に振り返る。
「雹さーん、さんどいっちって、人肉入れるですか?」
「そもそも人肉を口にしませんよ」
「ほうほう、たべないですかー」
頷くみぽりんに、雹は苦笑した。
こほん、とりっかが小さく咳払いする。
「ここでいうサンドウィッチは、サンドウィッチ伯爵が考えた食べ物のことです。人肉ではないですからご安心ください。
カードゲームしながら食べられるように、パンにお料理をはさんだものを考えられたんですよ」
りっかはまともな説明を言い終え、ヴァンシスカに笑顔を見せた。
だが、ヴァンシスカの顔は晴れない。それどころか、くるりと日傘を回して、背中を向けてしまった。
「冗談のつもりだったんだけどな」
ヴァンシスカが冗談を言うとは思っていなかったのだろう。誰もが驚きの目でヴァンシスカを見た。
りっかも驚きを隠せなかったが、すぐに慌てて頭を下げた。
「ごめんなさい。冗談、通じなくて……」
「まあまあ、いいではないですか。はははは!」
落ち込む二人の女の背中を、今日子はばしばしと叩いた。
この後、彼らは買い物に料理に面白おかしくも奮闘する。
故にサンドイッチができた時には夜も更けて、それぞれが持ち帰って食べるはめになるのだが、それはまた別にお話。
作品への一言コメント
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- ヴァンシスカさんをかわいく書いてくださってありがとうございますーw そして背中をばしばしする今日子ちゃんがなにげにすきですー!! -- みぽりん@神聖巫連盟 (2008-02-15 02:35:00)
引渡し日:
最終更新:2008年02月15日 02:35