NO.58 高原鋼一郎さんからの依頼


三人の父親

作:1100230 玄霧弦耶


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戦車長 小太刀右京は74式戦車(愛称:清子さん)を愛している。
国産だからである。彼は世界を愛してていたが、3つ4つある祖国をそれ以上に愛していた。
日本はその中の一つである。


というのも少し昔の話。今の彼は国産主義であるが、博愛主義でもあった。
きっかけはなんでもない。本部へ文句を言いに行ったことからである。
いい加減装填手を補充してくださいと言いに行った彼に保育園慰問の話が入り、即座に決定したことであった。
自分が学生時代に清子さんが大きな幻獣と戦う映画を見たお陰で、戦局が暗いを通り越して暗闇のなかだったことの気が晴れたことを覚えていたのである。
清子さんへの愛は、その時から始まっている。純愛であった。

装填手も大事だが子供達も大事だろう。ということで引き受けた慰問で二人しか居ない部下と大いにもめたが、結局は慰問を行なうことにした。
小さい保育園に向かうために細かい作業の苦手な清子さんをなんとかなだめて進め、『何も壊してはいかん』とまれに見る緊張の汗をぬぐいながらようやくたどり着いた保育園にいたのは所謂【国産】の子供達ではなかった。

他の隊員が行きたがらなかった理由がわかった。
お偉いさんは子供達すら差別しているのか、と自分の立場を投げ出してそう思った。腹が立った。

この日から国産主義者であった小太刀戦車長一同は国産主義と博愛主義を両立させることとした。
「あの子達は、国産じゃないが俺は好きになった。だから俺はもう国産主義ではない」といった部下に対して
「あの子達を国産で守ればいいじゃないか」というわけである。
思い付きではあったが、後に彼は一生言い続けることになる。


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戦車長 小太刀右京は74式戦車(愛称:清子さん)を愛している。
国産だからである。それ以外にも愛しているものはあるが、彼は国産主義であると同時に博愛主義であった。


「いやしかし、まさかこういうものと縁があるとは思わんかったな」

結婚式の招待状を手でもてあそびながら、小太刀は独り言を呟いた。
遠くには式場が見える。栄光号式典仕様が長い槍を持って門を飾っているのが肉眼でも確認できた。

のんびりと加納が口を開く。
「いやぁ、まさかあの時の女の子が結婚するとは思いませんでしょうよ。生きちゃいねぇと思ってました」

軍人である以上、何時どこで死ぬかは判らないものである。そもそも2ヶ月先すら見えなかったことを小太刀は思い出した。
思い出した頃に、三輪が珍しく何も操作せずに口を開き、
「きっとこいつが守ってくれたんですよ」
とペンギンの絵をなでながら言った。

三人、感無量である。
よく見ると、三輪の目には涙が浮かんでいた。おそらくあの保育園を思い出しているのだろう。
小太刀は自分も泣きそうになりながら、もう一度式場を見た。もっと涙が出そうになる。

「それよりも、エンジンをきってよかったのか」
ごまかす様に話を切り替える小太刀。
最近はそうでもないが、清子さんは大変気難しく発進する時にエンストすることはザラであった。
ソレを聞いてなんとも珍しく笑みを浮かべて
「なに。式場でエンジンをふかすのはいかんだろう」
といった。

実際は式場からは遠く離れた場所であるが、そこに突っ込むものは誰もいなかった。
小太刀戦車長一同は愛用のコーワの双眼鏡で眺めている。今はまだ式場の中に新郎新婦は見えない。
ただ、1000を越す関係者達は見えた。

「祝福されてますね。いいことだ」
平静を装っているが、コチラも少し涙を浮かべながら加納が呟く。
「あたりまえだ。あの子は最高の国産だぞ」
こういうときくらいソレは無しにしましょうよ、と加納は返すが、小太刀は黙っていた。
「子供達は幸せにならなきゃならん」
また、思い出したように三輪が呟いた。

この三人、非常に珍しいことに戦車の外に3人揃って出ていた。しかも礼服である。
結婚式の招待状と共に礼服が届いたのである。
彼らは礼儀を通すことを選んだのである。たとえこのまま戦場に出ることになったとしても。

不意に、今は居ない黒い肌の少年を思い出した。
「なぁ、トラは元気でやってるかな」
「あんた最近ソレばかりじゃないですか。きっと元気でやってますよ」
呟く小太刀に加納が即座に言い返す。
そういいつつも言葉の端からは心配が漏れる。この人物も虎雄を可愛がっていた。
「大丈夫、元気でやっているさ」
思い出した頃、三輪は言った。それがあたりまえであるように。

遠くの会場の様子が変わった。新郎が出てきたらしい。
続いて新婦も出てきた。見違えるように美しくなった少女に小太刀戦車長一同は言葉を失った。
文字通り、見惚れていたのである。赤い髪が純白のドレスに映えて、とても美しい。
その時、後の清子さんから駆動音が聞こえた。砲塔が動いている。
顔を見合す三人。おばあちゃんである清子さんに遠隔操縦のようなものは着いていない。
ほのかにペンギンの絵が輝いている。即座に清子さんの後方に回り込む3人。
きっちり5秒感覚で21発の空砲が撃たれた。

「おう、21回だったよな今。清子さんも祝福しとるぞ」
「いや、その前に勝手に動いたことを気にしましょうよ」
二人を嗜めるように三輪が口を開く。
「それより、そろそろエンジンをかけるぞ」
「もうそんな時間か。最後まで見れないのが残念だな」
本当に心底残念そうに言う小太刀。
「なに。新婦に戦争を思い浮かべさせるよりはよっぽどマシでしょうよ」
「確かにそうだな。やってくれ」
清子さんに乗り込む3人。しかし、動く気配は無い。。

式は今正に最高潮であった。新郎新婦の誓いの言葉がなされた。
動き出すのを待つ間、ペリスコープで式場を見る小太刀。
新郎新婦が口付けをしていた。帽子が一斉に舞い上がる。
途端にいつも感じているせいでなれた振動が体を振るわせる。
「予想以上にかかったな」
「すまんな。手間取った」
ソレだけを言うと黙々とクラッチを操作し、操縦を始める三輪。
「なぁに。清子さんも最後まで見たかったんでしょうよ」
加納は、本心からそういった。

暫く進んだ後で、不意に三輪が口を開く
「ところで、スコープを覗いていたがどうだったんだ」
三輪は前を向いたまま泣いていた。他の人間は誰も気付かないふりをした。
今日何度目かの流れそうになる涙を遂にこらえず流しつつ、小太刀は呟やいた。
「あぁ、最高だったさ。あの子達のためにも俺らはやらにゃいかん」
腕を組む小太刀。

それからまた進んだ後
「といいつつ、俺も嫁さんが欲しい」
と腕を組んだままうなだれる小太刀。
「なにいってんすか。俺ら一生清子さんと添い遂げるんですよ」
加納も腕を組む。
「まったくだ」
三輪も、腕を組んだ。

「そうだな。やっぱり」  腕を組んだままの小太刀。
「俺らの嫁さんは」    腕を組んだままの加納。
「清子さん以外におらん」 腕を組んだままの三輪。
「国産だからな」     うなだれる小太刀。
「国産ですからね」    うなだれる加納。
「国産だしな」      胸を張る三輪。

清子さんは返事のつもりか、少し速度を上げた。
その姿は何故か、とても誇らしく見えた。



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最終更新:2008年02月08日 10:04