No.08 高原鋼一郎さんからの依頼



アララ先生とエステルと男ども


2008/04/07版


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 時は折しも夏真っ盛り。
 激戦の末、小笠原を平和に導き分校が開校された、という歴史的補講なんかはどうでも
よく、今ここに熱い男達が集結した。
 なんと言っても青い海!
 青い空!
 白い雲と砂浜!
 風に揺れるヤシの木!
 えーと…とにかくその他色々!が呼んでいるのである。
 ましてやここにいるのは厳しい抽選を経て幸運を掴んだものばかり。
 いやが上にもテンションは気温とともにうなぎ登りである。
 寄せては返す波の音にみな口々に海への思いを叫ぶのだった。
「海だッ!」
「輝く太陽、ゆれる砂浜(?)。海だぁぁぁー」
「みなさーん。準備運動しますよー」
 そしてそんなテンションを更に爆超させる涼しげな声。
 超絶の魔法使いにして赤のオーマ、アララ・クラン。
 かつては硝煙の魔女と男を取り合い、光太郎達の前に立ちふさがったこともある彼女だ
が、今日ばかりは彼等の先生役として南の島での1日をエンジョイするつもりらしい。
「あ、そんな時間か、わっかりましたー」
「あ。はい先生」
「は~い」
「せえの」
 口々に返事をして生徒達が集まってくると、アララはそう言いながらおもむろにはおっていたシャツを引きちぎった。
 勢いよくはじけ飛ぶボタン。
「う、うわあ!?」 
「ブハッ!!!」
「…豪快ですね。先生」
「う…」
 ほけーっ、とその様子を見遣って口をあんぐり開ける男達。
 それもそのはず、
 アララがシャツの下に纏っていたのは
 バン!(あおり気味に)身体を覆う面積の極端に少ない
 バン!(バストアップで)スリングショットと呼ばれる
 ドーン!(背景に爆発エフェクト付きで)赤い色の実に刺激的なデザインの水着だった
のだ!
 ちなみに読者諸兄はスリングショット水着を御存知だろうか。
 スリングショット=パチンコ、という名が示すとおり、正面から見るとY字をした布が
トップとボトムを覆っているだけの形状で、特にバスト周りは縦に細長い二枚の布だけで
ホールドされているのである。
 その破壊力は最早言葉にするまでもあるまい。
 気になる方はイラストで是非その姿を堪能していただきたい。
「よし先生に続くぜ!」
 思わず奮起した高原は自分のパーカーを引き破ろうと頑張ってみたが駄目だったらしい。
 そんなアララのグラマラスボディと自分の胸とを不思議そうに見比べていエステル。
(なにか新しい寄生体の生き物が!!)
 彼女は分校の後輩としての参加である。
 この日はスクール水着を着用し、胸元には『えすてる』とマジックで書かれた大きなゼ
ッケン。
 微妙なツボを心得ているというか、スレンダーな体型にマッチしたその水着姿の破壊力
は以下略。
 あとは大きな浮き輪を持参している。
 どうやら星の海は渡っても実際に生身で海に出るのは初めてらしい。
 そんな面々の中で
(帰りどうするんだろ)
 と冷静に考えているのは月空だけで
「お、落ち着け僕。BECOOL」
(落ち着け、落ち着くんだ俺、罠だこれはなにかの罠だ。紳士に、紳士に行こう、うん)
「あ……あぅ……(エステルだー)」
「……虎さんとはお友達になれそうな気がします」
「友よ、こうなったら一緒に戦死しよう」
 他はまあ、大体こんな感じであった。
 この二人を前にしては無理もないというかなんというか…。
 それでもアララはつまらなさそうに小さく呟いた。
「今年は鼻血組なし……(成績表にチェック。全員評価E)」
 どうやらせっかく扇情的な水着で決めたのに、思ったほどの反応ではなかったのが不満
らしい。
「エステルさん、どうしました?…具合悪いのですか?」
「いえ。なにか……、太陽系人はハチと同じだったと」
 エステルの言うハチ、というのは地球人が第6異星人と呼ぶ種族である。ハチのような
外見の社会性知類に第8異星人べべが寄生する形で共生している。
 ネーバルウィッチとは同盟関係にあるため、馴染みがある種族なのだろう。
 どうやらエステルはアララの胸に付いているのが寄生生物か何かだと思ったらしい。
 いや、確かに大きいし、ぷよぷよはしているが言うまでもなく自前である。
「…先生、運動は屈伸からでしょうか」
「とりあえずアキレス腱伸ばしとか、あ、上体そらしとか、…いや、ここはジャンプだな」
(庄津…狙っているな!)
 高原は破るのを諦めたパーカーを脱ぎながら内心でうなった。
 庄津にほのかな連帯感と共に友情が芽生えた、かもしれない。
「ま、まあその、とりあえず準備運動、ですよね!」
「アララ先生…(汗)」
「ううん?なんでもないのよ。さ、屈伸から。んしょ。よいしょ」
 アララの運動に会わせて視線が彷徨う挙動不審な男達。
 溢れ出す鼻血を抑えつつ雄々しく屈伸する高原。
「…」
「高原合格」
 高原の鼻血を見て準備運動を終えたアララは満足そうに腕組みして心の中の成績表に大
きく○を付けた。
「ありがとうございます!」
 羨ましそうにざわつく他の男達。
(合格基準って何っ!?)
(しまった・・・鼻血を出すタイミングを間違えたかッ)
「誰か!俺を殴れ!俺の顔を殴って鼻血を!」
「友よ……君は男だ! 男だっ!」
 狂おしく叫ぶ虎さんに応え容赦のないパンチを見舞う雅成。
 盛大に鼻血を吹き出しながらもいい笑顔で砂浜に倒れ込む虎さん。
 嗚呼、アララの成績表のために何もそこまでしなくても。
 そんな暑苦しいどつき漫才の一幕を目にして不思議そうなエステルが燕丸に呼びかける。
「あの、セン・パイ」
「どうしましたか?何か力になることがあれば協力しますよ」
「なんで先生の水着が紐で、なんでみんながそれを無視しているんですか?」
「失血死の恐れがあるからじゃないかな……」
 那限はそう言いながら眩しい太陽の方を見遣って眼を細めた。
 降り注ぐ陽光が黄色眩しい。
 尚も不思議そうなエステルだが、地球には知らない方が良いことだってある。
「取りあえず今日は、あの浮かんでいる船までいって、ミズキ・ミズヤをさらいます」
 アララはそう言うとびしっ、と沖合に停泊する巨艦を指した。
 小笠原に漂着した夜明けの船である。
 エステルは今日そこからやってきている。
「海賊ごっこだな!」
「は?」
「……さらう、と申されますと」
「いくわよ!野郎ども!ちょっとくらい若いからって!いい気になってる女に!むくい
を!むくいを!」
 怪訝そうな男達を尻目にアララは一声そう叫ぶと勢いよく海に飛び込んだ。
 なにやら夜明けの船クルー、ミズキ・ミズヤに対して思うところがあったらしい。
 早速にして生徒の意向などお構いなしである。
「よっし。行くかっ」
(これで泳いだら失血死が先かもしれん、だが、悔いはない!)
 雄々しく鼻血を流し続けながら覚悟完了してアララに続く高原。マイペースに海に浸かる月空。
 他の者も後に続く。
「はっはっは。庄津一族は元を辿れば海賊だ、おくれはとらんぞ!」
「アララ先生は充分若いと思いますけど……」
「ブハッ!」
 砂浜に倒れ込んだ虎さんはさながら噴水のように鼻血を噴き上げた。
「ああっ!?やりすぎた!……って先生もう行っちゃったよ虎さん!」
「て、いかんいかん、待って!先生!」
 慌てて起き上がって次々海に飛び込む雅成と虎さん。
 どうやら漫才はまだ継続中だったらしい。
「エステルさん、地球には浪漫というものがあるんだ」
「高原の言うことは複雑すぎます。もっとネーバルの言葉で説明してください」
「すまないなー!ネーバルの言葉は良く知らんのだゲハッ水飲んだ」
 アララの後を追ってさばばば、と波を切って泳ぐ高原は高らかにそう言うが、エステル
 には地球人の、というか男の浪漫は理解しがたいようだ。
 あ、水飲んだ。
 海で泳ぎながら喋るものではない。
「おっきいなー夜明けの船」
「先行する先生を見ると鼻血を吹きそうだから平泳ぎは避けるんだ!
 良い子のみんなは理由は聞くなよ?(笑)」
「ならばあえて俺は全速力で平泳ぎをしよう!」
(いやあ、別に僕は水着が見たいとかではなくてですね? うん、違うんだよ?)
(紐・・・紐の水着をもう一度この目に!)
 こうして煩悩丸出しでアララの後を追った高原、庄津、雅成、虎さんとあくまでマイペ
ースな月空ら先行組とエステルを気遣って、もしくは余り泳ぎが得意でない為に砂浜に残
った後発組に別れた。
「さて、アララ先生は行ってしまったか。…どうしよう(汗)」
「どう、するんですか?2kmは先ですけど」
 エステルは心配そうに沖を示した。
 流石に2㎞は遠い。本島の北端からなら隣の兄島まで届く距離だ。
「2kmくらいなら遠泳とは言わない……と思いたいけど、さすがに海流が結構……きつ
いかも」
「その辺りにボート無かったっけ?」
「エステルさん、みんなで一緒に泳ぎましょう。疲れても楽しいものになりますよ、絶対」
「仕方が無い。少し恥ずかしいがサポーターをつけていこう…」
 中々海に入れないでいる後発組に対して大胆に平泳ぎで波を蹴立てるアララ。
 見かけと違って力強い泳ぎで先発組を引っ張っている。
「元気でいいなぁみんな」
「高原、周りが真っ赤だぞ?」
「気にするな!浪漫の分泌物だ」
「ボババボボババ!(訳・あはは、ならば平泳ぎを!)」
「2kmも自由形で泳ぐのは大変だもんね。平泳ぎが基本っつーかこう」
 アララに引っ張られる、というか引きつけられる男達。
 さながら燈火に惑う羽虫のよう。
「みんな、前を見ちゃ駄目だ!出血多量で死ぬぞ!」
「ブクブクブク…(沈)」
「ガボガボガボガボガボ」
「…あぁ、言わんこっちゃない…」
「馬鹿野郎!ここで前を見ないでどうするんだ!」
 雄々しく叫びながら溢れ出る鼻血を物ともせず眼をぎらぎらとさせているのは高原であ
る。
 …夜明けの船に辿り着く前に何人失血死するだろう。
 一方その頃、砂浜ではエステルが浮き輪を付けておっかなびっくり水につかった。
「浮き輪にロープだけつけておいて……っと」
「さ、いきましょう。おくれちゃいますよ」
「なんですか、これ、しょっぱい……」
 ロープ付きの浮き輪と後発組に助けられて少しずつ沖に向かうエステルだが、海の水が
しょっぱいのにびっくりしている。
「地球の海は塩水です。これ、浮きやすいんですよー」
 火星の海は塩分を含まないらしい。
 わいわい賑やかな一団から遠くに見える水面からつき出た黒い三角形。
「お?あれは艦橋か?」
 無論違う。夜明けの船は離れているとはいえ艦形がはっきり見て取れる。
 海洋パニック映画でお馴染みのあれだが、流血とエステルのサポートで大騒ぎの一団は
その正体に中々気付かないでいた。
 それがあんな惨劇の前触れだったとは誰一人知らず……。
「先生!脱落者が多数ですが大勢に支障はありません!」
「生きている人はついてこい!」
「さ、サー!イエッサー!」
「了解であります」
「よく言った!(ああ。年下もいいなあ。年下も。やっぱりそろそろ年下にするかなぁ)」
 先頭を切って泳ぐアララが首を後ろに向けてそう言うと、男達は鼻血を吹き出したり撃
沈しかけたりしつつも懸命に付いてくる。
 迸る情熱の赤い血潮。
 やはり若いのは良い。
 ちなみに彼女にとってどの程度が年下に当たるのかは聞かない方が身のためである。
 それはさておいて、後発組は浮き輪に掴まってようやく前進し始めたエステルの周囲に集まる形になってい
た。
 顔にかかる海水の味に顔をしかめるエステル。
 しょっぱいだけではない海水に中々慣れないでいた。
「ポイポイダーは辛くないんでしょうか」
「元々海の漢だから平気じゃないかな?さて、アララ先生が呼んでる。早く行かないと」
「まぁ、ポイポイダーは海に合わせて進化した種族だしな。元々。
 とりあえず、少し急ぎますか」
 泳ぎが得意な者がエステルの浮き輪に付けたロープを引いて先導する。
「あの……あしが、つかかかかない……んですけど」
「ああ。水深が深いからね。こわかったら、浮き輪掴んでいる腕掴んでくれていいよ」
 蒼白な顔で那限にしがみついているエステル。
 役得だ。
「チッ……溺れて人工呼吸作戦は失敗かッ!待ってー!ティーチャーーーーーーー!」
「おぼれて……って演技だったのかよう!負けるもんかうりゃー!」
 海に入っても雅成と虎さんの漫才は継続中。
「とはいえ三十路の男には少々きつい距離であります!だが諦めるな俺!」
「あれが夜明けの船か…名前は聞いてたがあんなにでかいのか」
「そろそろ到着かな?後ろは…なんだか楽しそうだな」
 先頭を切ったアララが夜明けの船に到着勢い良くがばぁと甲板に上がった…が。
「特攻ー!」
「もう……少し。あとちょっとー。
 もうちょっとで……と、ついたー!」
 高原、雅成が相次いで甲板に上がる中、アララは自分の異変に気付いて瞬間的に固まっ
た。
 水着が、無い。
 前述の通り、ホルターネック形式のスリングショットはその構造上、前や横からの衝撃に
非常に弱い。
 随分なスピードで荒波の中を2㎞も泳げば結果はご覧の通り、である。
 アララ・クラン痛恨のミス。
「アララ先生、つきまし……!?」
(父さん、僕は世界の真実を垣間見たよ……)
 鼻血を噴いて派手に卒倒、再び海中に落下する雅成。
 ざっぱぁーんと大きな水柱が上がったが、ぷかりと浮かんだその横顔は安らかな笑顔で
あったという。
「おし、追いつい…ボハッ(鼻血)」
「…何か赤いものが流れてきているようだが…血?」
「ぐはぁ!先生とりあえず着るものを確保してまいります!」
 鼻血を抑えつつ艦内に飛び込んで何かアララの身体を覆う物を、と探しに入る高原。
「いかん、早く探さないと俺の血液総量に限界が!」
 こっちはこっちでピンチらしい。
 束の間かいま見せたその裸身で男達を撃墜したアララは何も言わずに海中に戻った。
 努めて平静を装い、周囲の数人にぽつりと告げる。
「授業終了…… 」
「??なんか先行組の様子おかしいなあ?」
「…赤潮か?」
「前は大変そうですねぇ。まぁゆっくり行きましょう」
 と、その時周囲を回遊していた黒い三角形が雅戌のほうへ全力で移動開始した。
 びくん!びくん!と痙攣している雅成。
「おぉ?動いたぞ…お~い」
「何か危ないようです。離れましょう」
「何か、動いてないか?(滝汗)」
 寄る辺ない海と次々行動不能に陥る男達に不安になったのか、半泣きになってしまうエ
ステルを励ましつつ目前に迫っているっぽい危機から離脱しようとする後発組。
「先生!とりあえず借りてきましたのでこれを使ってください!
 自分が影になっておきますので今のうちに」
「ありがと」
 高原が放り投げた数枚のタオルを受け取り海中で身体に巻き付けるアララ。
「待避ー!待避ー!」
「おい、高原、その白いタオルじゃ濡れたら透けちまうぞ?」
「問題ない、こんな事もあろうかと別の色のをもう一枚借りてきた!」
 流石に高原は抜かりがないというか、庄津が本能に忠実すぎ。
 一方、海中では雅戌の血を嗅ぎ付けて大きな魚が集まりだした。
「雅戌さんー!」
「あ…」
「…サメだ!」
「お~い、サメが出たぞ~!みんな早く岸に戻るんだ」
「なれないことはするもんじゃないわね」
 タオルを身に着けて再び甲板に上がったアララはちょっとだけ恥ずかしそうだ。
「いえ、その、…言葉が思いつきませんが、き、きれいでした申し訳ありません!
「いや・・・アララ先生・・・ナイスでした・・・ぜ」
 己を戒め激しく自ら殴りつける高原と力尽きて親指を立てて海中に没していく虎さん。
 やっぱり暑苦しい。
 一方の後発組ではエステルが何かに気付いたように短く声を上げた。
「あ」
「……はっ!? 僕は一体何を!
 この世の奇跡を目の当たりにしたような記憶が……夢かな」
「…先生、なんだかやばいですよ?」
 ようやく意識を取り戻して波間に漂う雅成は身に迫る危機など知るよしもない。
「先生ごっこ続行。みんな、どきなさい! 」
 アララはそう言うなり細い腕をかざして呪文の詠唱にはいる。
 雅成を狙うサメから彼を救うためらしいが、その詠唱時間から察するに恐らく雅成も巻
き添えを食らう規模だろう。
「え!?は、はいっ!」
「了解です!」
「やば」
「うわわ!これかー!!」
 あっさり雅成を見捨て、慌てて退避を始める後発組の中でエステルだけが雅成に迫る黒
い背びれに向かって呼びかける。
「ポイポイダー!」
「ポイポイダー?」
「ピィピィ!」
 エステルに名前を呼ばれたポイポイダーが一声鳴いて空中に大きくジャンプした。
 そう、実は雅成に迫る黒い背びれはバンドウイルカにして夜明けの船クルー、ポイポイ
ダーその人(?)だったのだ。
 どうやらエステルの様子を見がてら一団に接近した後、意識を失った雅成を見付けて救
助に駆け付けたつもりらしい。
「ヤバイ、絶技が!」
「なんと!彼もいるのか」
「ああ。ポイポイダーか~…。はっ絶技まって~~~~!!!」
「最神……雷撃!」
 アララが天を示すとにわかに暗雲がたれ込め、周囲が真っ暗になる。
「らいげ……ってちょっと先生!?」
「電撃系?(汗)」
「動ける連中は海から上がるんだー!」
「皆でエステル引っ張れ!」
「先生すとっぷー!!」
「船の上にっ!ソッチのが近い~!」
「ついでにほかの浮いてるやつらも回収しなくては(汗)」
「海から上がるんだ」
 にわかに騒然とする一同。
 最早アララの雷撃呪文が最大の脅威となってしまっている。
 ミイラ取りがミイラにというか、獅子は兎を狩るにも全力を、というか…。
「だ、だめです!」
 小さく叫んだエステルが波をかいくぐってポイポイダーにしがみつくととっさに甲板に
いた者がエステルの浮き輪に繋いだロープを引く。
 やがてエステルとポイポイダーにしがみついた雅成が甲板に引き上げられた。
 大気の中に引き出されてぴちぴちはねるポイポイダー。
「うおう!」
 ポイポイダーのヒレが頭に当たって海に落ちる高原。
「うわ、弱いサメ……」
 アララは拍子抜けしたように詠唱を止めて甲板でぴちぴちしているポイポイダーを見遣
った。
 途端に快晴の青い空が戻ってくる。
「…だいじょうぶか?ポイポイダー」
「ああ……あああ、死ぬかと思った……」
「危なかった……って、大丈夫か? ポイポイダー?」
 ポイポイダーはエステルに抱かれている。
(良かった……)
 本当に。
 危うくポイポイダー以下数名がほどよくボイルされてしまうところだった。
「先生、あれはサメではないみたいですよ」
「全員無事?」
「ひ、鰭はいたい…」
「気分だけじゃなくて本当に天国行きになるところでした」
 高原が後頭部をさすりながら海から上がってきたが、他は雅成はじめ全員無事のようだ。
 何名かは鼻血の出し過ぎでそろそろ貧血起こすんじゃないかとも思うが。
「あー。えーと。みんな。
 もどろっか。次はお昼ご飯で」
 照れて頭をかきながら生徒達に告げるアララ。
 早とちりで出し惜しみなく絶技を用いてしまう辺りが彼女らしい。
 巻き込まれる方は堪った物じゃないだろうけど。
「怪我が無くて何より何より。大事な後輩傷つけたらどうしようかと思った」
「は~い」
「了解です」
「えぇ、まぁ皆無事でよかったよかった」
「そう・・・ですね。はははは・・・」
「了解ですー。ご飯だご飯ー」
 元気よく返事を返す生徒達にアララは幼く見える笑顔を向けると、甲板から再び海へ飛
び込み先程と変わらないペースで砂浜へと戻っていく。
「はい。……って、戻りがあったな」
「ポイポイダー。辛くないですか?」
 エステルの問いにポイポイダーはピィと鳴いた。
 えっちらおっちら甲板から海へ戻ると早くおいで、というようにヒレを振った。
「さあ、じゃあ岸まで競争ですね」
「何を食べようかなあ」
「高原、さっきのメモリーこっちにもナイショで廻せよな?」
「さて、帰ろうか。また泳がなくてはならんなぁ…」
 陸までの距離を思ってげんなりしつつも生徒達は三々五々海へ飛び込んだ。
 眩しい太陽、青い海と空、白い砂浜。
 小笠原の熱い暑い夏はまだ始まったばかりだ。

 ちなみにこれをきっかけに先生ことアララと高原の交際がスタートしたりするのだが、
それはまた、別のおはなし。

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拙文:ナニワアームズ商藩国文族 久遠寺 那由他



以下確認点です。
本文部分以外は自サイト掲載時用の蛇足です。
不要でしたら削除いたしますのでお申し付け下さい。
戦力判定及び掲載見本http://www16.ocn.ne.jp/~nayuta/idress.html
秘宝館提出後は上記自サイトに掲載を想定しています。
公開を希望されない場合は見送りますのでお申し付けください。

他に些細な事でも気になりましたら御指摘いただけると嬉しいです。
わたしの作業ポリシーというか、形式としてご依頼の品に限り依頼主の方の物、という考
え方なのでこのように確認を頂いています。
細かい部分が気になったりするので少々鬱陶しいかも知れませんがご容赦下さい。
もちろん納品後はどのように扱われても構いません。
お手数ですがよろしくお願いいたします_(_^_)_

今回は大変だった半面、小笠原ゲームはこういう事も出来るんだ~と面白く新鮮な感覚で
書かせていただきました。
笑える物を、というオーダー通りに出来たかは自信がありませんが(;´ρ`)
誤字脱字、不適切な表現などがありましたら書き直させていただきますのでお気軽にお申
し付けくださいませ。


作品への一言コメント

感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)
  • スリングショット水着という言葉に惹かれて来ました(苦笑。なんかお色気重視ですね。この犬猫おもいで秘宝館 (仮)のことは全然分かりませんがPBMなのかな? -- 珍竜 (2008-04-01 06:07:36)
  • 今回は誤字訂正文の差し替えをしていただきありがとうございました~。今後ともお世話になります_(_^_)_ -- 久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国 (2008-04-08 14:12:34)
名前:
コメント:



製作:
久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=693;id=UP_ita

引渡し日:2008/



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最終更新:2008年04月08日 14:12