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あおひと@海法よけ藩国様からのご依頼品


「僕が調べた限りではない」

 これまで得た情報を元にエミリオは簡潔に述べた。嘉納摂政は続いて傍らの純子に視線を向けた。

「純子さんの調べでは?」

純子はニコニコ笑っている。

「なるほど、純子さんもないといってるぞ!」

 他の者から見ると純子のにこにこは1種類しかないのだが嘉納摂政だけには見分けがつくらしい。流石である。

「目的…いったいなんなのかしら…。私もあおちゃんに関しては思いつかないわ。 

忠孝さんはどうかしら?」

「そもそも軍隊は味方?」

「それはまあ、違ったら終わりだから信じたいね」

「本気で海軍を相手にしても嫌がらせしたい人ですかねぇ」

「っと、じっとしてても仕方がない。軍に連絡して現状を調べましょう。……もしもし、よけ藩国の式会場からですが、先程の爆発音はなんだったのでしょう?」

 メビウスは一度講堂の外に出ると携帯端末を取り出してホールから天領海軍へ連絡を試み始めた。

「ねぇ、そもそもこんな所に軍人を大量に配置してまで囮にするって変じゃない?

まるで何かを誘っているみたい………」

講堂を離れるメビウスを見送り、傍らのエミリオに手を重ねながらソーニャが呟く。

それは参列者全員が抱いている疑問だったが、そんな懸念を余所に軍楽隊が盛大なファンファーレを鳴らす。

披露宴がいよいよ本格的に始まった合図だった。

それを受けて紺碧摂政が講堂に新たに設けられた一段高い壇上へと上がり、参列者に向けてお辞儀した。

この場にいない海法藩王に代わりスピーチを始める。

「まずはご参列の皆様、ご多忙の中お集まりいただき、誠にありがとうございます」

「あ、始まった………」

「さぁ、とりあえずは式を楽しむしかないのかなぁ」

「あおひとさん、どんなお色直しをしてくるのかな」

「色直し!色直し!」

「折角囮があるんならうちらは普通に楽しんどいたがいいんじゃないです?」

「まずはつつがなく披露宴を終えましょう」

「純子さん、これうまいっすよ。これとかも」

純子はにこにこしている。

その頃、ホールにいるメビウスへ天領海軍からの返答があった。

先程爆竹を鳴らしたのは式場に入り込んでいた子供で、既に天領海軍が身柄を拘束したとのことだった。取り押さえられたときにお金をもらってやったと供述しているらしい。

 講堂を出てうろうろしていた海法藩王は拘束された子供が引き立てられていく場面に遭遇していた。即座に兵と子供の間に割ってはいる。

「あーと、ちょっとちょっと。天領さんの軍でも、うちの国で逮捕は勘弁だよ」

 盛装していてもそこは藩王である。威厳を漲らせ光る眼鏡の迫力に押され、兵は直立不動の姿勢で敬礼して子供を解放した。

「ごめんね、お祝いしてくれたのに」

 にっこり笑って子供の手を引いて外まで送っていく海法藩王。まるで入学式に付き添う母親の如きインパクトあるその画に、敬礼したまま見送った兵の一人が無言で気絶してその場に倒れた。

一方講堂では礼典用の純白の第一種軍礼装とコバルトブルーのふわふわと裾の広がったカクテルドレスにお色直しした新郎新婦が、スポットライトを浴びて再入場しているところだった。

「新郎新婦の入場です」

 紺碧摂政の紹介と共に壇上に上がって着席する。

「結婚式に披露宴かぁ。いいなぁ」

「お二人に、祝電が届いております」

「お、間に合った」

 天領海軍との通信を終えたメビウスが席に戻って今得た情報を記したメモを参列者に回し始める。

「おやー。お金ね、どんな人に?」

「天領が、この結婚式をダシにしておびき寄せたいものじゃないかしら?」

 ソーニャが今回の結婚式に絡んだ裏の事情、その核心に迫ったとき、出し抜けにそれは起きた。


「罠か!」

「罠?」

 地下駐車場、顔を上げたソウイチローが短く叫んだその直後、先程の爆竹とは比べものにならない、本格的な爆発駐車場に停まる車の列を揺らした。

政庁前大通りに展開した装甲車が一斉に対空射撃を開始する。

「陽動か……」

「まぁ想定の範囲内だ」

「来たか…?」

「上?!」

爆発、爆発。講堂の天井から破片がぱらぱらと落ちてくる。

「やっぱり本命はこっち?!」

「いやー、にぎやかな祝砲だ、皆さん落ち着いて、頭を守る準備だけしておいてくださいね。貴重品はお忘れなく」

 スピーチそのままの調子で紺碧摂政が注意を促す。

(紺碧さんには、「あの」キーを預けてある)

 海法藩王は振り袖の裾をからげブルマを露出して走りながら信頼を寄せる摂政が最善策を採ってくれることを願った。

 その行く手で短いうめき声を上げて倒れる兵達。そして装甲車が次々と上から撃たれて動かなくなった。

「エミリオ、一旦避難しましょう」

「もー!折角のお祝い事なのに!」

突如として戦場になった式場から避難しようと慌ただしくなる講堂内。

幸か不幸か戦時中の時勢下でこういった事態に備え日頃から訓練しているお陰で参列者がパニックに陥らないのが救いだった。

そんな混乱の只中、忠孝は傍のあおひとをだきしめてキスした。エミリオが忠孝を尊敬のまなざしで見ている。

「ええと、ええと…?!」

 唐突な夫の行動にびっくりのあおひと。忠孝の腕の中であわあわしたり赤くなって照れたり、最終的にはごろにゃーんと胸に頭を預けて落ち着いた。

「んー……」

 ぎゅーと抱き返してる新妻に慈愛に満ちた視線を注ぐ忠孝。どうやらこれは彼なりの決意表明らしかった。

何があっても腕の中のあおひとだけは守り通してみせる、と。

「青さん、避難誘導お願い。メビウス、敵の確認。忠孝さん、一緒に戦ってください。もちろんあおひとさんとセットですよ」

 嘉納摂政の指示は多分二人には聞こえていないと思うが。

ひとまず新郎新婦はおいておいて、式の運営スタッフや藩国首脳陣が率先して参列者達の避難誘導を始める。

外にいた海法藩王はいち早く一般参列者や外注スタッフの避難誘導を始めている。

式場として使われている中央政庁は国の中心にあるため、少し歩けば安全な避け森の中へ避難できるのだ。

後は避ける木々が民を守って敵の攻撃を避けてくれるはずだ。

「さ、みんなこっちだよ。森の中へいくよ」

「みなさんは、落ち着いてペンギンのお兄さんについていってくださいね~」

「はいはーい、お兄さんのつぎはこちらですよ~。ついてきてくださいねー」

「はい、皆さん押さないでくださいね~。こっちですよ~」

 冷静にてきぱきと動いてくれる新婦友人に感謝しつつ、メビウスは再び天領海軍とコンタクトを試みる。

「再び式場からです。敵はどのようなものですか?規模その他、または我々が取るべき行動など教えてくださると助かります」

 戦闘音とノイズが酷い通信機からは銀色のRBだ、という悪態にも似た短い応答があった。

 それを聞いた一同に衝撃が走る。広島の迷宮に出没する銀のRBの噂はここ最近みんなが耳にしていた。

 何処から湧いてきたのか、件の少佐が政庁前で無線機相手にがなり立てているのが見て取れた。

「やはりきたな。迷宮の通り魔め。逮捕せよ!I=D部隊出動!」

「少佐、事情を説明願いします」

「最近迷宮で敵味方関係なく、人を襲う通り魔がでてまして」

 詰め寄るメビウスに短く答え少佐は指揮を続ける。

 激化する戦闘に避難を続ける参列者から悲鳴が上がった。銀のRBに撃墜されたI=Dが破片を撒き散らしながら落ちていく。

 紺碧摂政は戦禍に煙る空を悲しげに見上げ、懐から海法藩王に託されたキーを取り出した。

「これを使うことになるとは!よけ藩国拠点防御システム、起動します」

それは『国の施設そのものが自立して敵からの攻撃を避ける』システム。

元々一つ所に落ち着かず『避け』を繰り返すよけ藩の事物の行動を理力によってコントロールし、攻撃回避に用いようといういうコンセプトの秘密兵器であった。

(おお、大地が揺れている)

 いち早く一般参列者の誘導を終えて合流を目指す海法藩王は大地を震わせる独特の振動を感じて紺碧摂政がシステムを起動させたことを知った。

 まだ本格的に避けの態勢には入っていないが、これで少しは安心できる。

「我ながら、青さん、なんつーむちゃなくにだ」

「殿下、こんなときのためのよけ藩国ですよ。私は皆さんの避難を指揮します」

 ざわざわと鳴動する避け森の木々を眺めて溜息を漏らす嘉納摂政に紺碧摂政はにっこり微笑んでそう返した。

「恭兵さん、これを知ってたのかな……」

 新郎新婦をガードしつつ避難誘導を手伝っていた新婦の友人達は森を引き返してくる海法藩王と合流を果たした。

手短に銀色のRBが出現し天領海軍と交戦状態に入った経緯を説明する。

「銀色のRBには何か目的があるかもしれないが避難して悪いことはなかろう。

全員移動だ」

「亜細亜ちゃん、もしかしてそこにいるの?」

「会場の皆さんこちらですよ~」

スカートの中から小旗を取り出して新婦友人を秘密戦艦へと誘導する紺碧摂政。合流した海法藩王、メビウスと情報交換しながら戦闘指揮を続ける少佐も後に続く。

その間に銀色のRBはID6機を撃墜していた。

少し前には華やかに飾られていた政庁前広場が閣座した装甲車と撃墜されたI=Dの残骸で戦場の景色に塗り替えられてしまっている。

 その光景を苦々しく見つつ嘉納摂政が軍用無線の周波数を合わせてあおひとに示す。銀のRBががいるということは近くに後藤亜細亜が来ている可能性が高い。

「うい、亜細亜さんが前回使った通信コードっす。声だけは銀色につながるはずっす」

「おめでとうございます。あおひとさん」

 嘉納摂政の読みは的中。意外なほどクリアな音声で後藤亜細亜が無線の向こうから祝福の言葉を贈ってきた。

「あ、ありがとうございます」

 忠孝に肩を抱かれたあおひとは嘉納摂政が差し出した無線機にぺこりとお辞儀した。その声に敏感に反応して驚きの声を上げるうにょ。

「亜細亜ちゃん?!」

「うにょさん、情報収集」

軍用無線をうにょに渡し、さり気なく少佐の背後につく嘉納摂政。

「…………あぁ、なるほど」

「そっか。犯罪者を招待してたんだね。それで一応、警戒してたんだ」

「なるほど………ね」

 参列者にも今回のことのあらましが理解でき始めていた。

 エミリオがいみじく呟いたように、そもそものことの発端は後藤亜細亜宛に出された結婚式の招待状である。

 広島の迷宮に出没する銀色のRBの対処に頭を悩まされていた天領は、同時に目撃証言のあった後藤亜細亜を銀のRB事件の共犯もしくは首謀者と断定。

この結婚式を利用して彼女を誘き寄せる手に出たのである。

そしてその目論見は当たったのだが、どうやら銀のRBのほうが戦力としては上だったらしい。このままでは巻き込まれたよけ藩もろとも負け戦の様相であった。

よけ藩の立場としては後藤亜細亜は敵対存在ではない。むしろ戦闘の火種を断り無く持ち込んだ天領と少佐こそが悪である。

嘉納摂政はメビウスに目顔で合図すると少佐をいつでも拘束できるように備えた。

「わざわざ来ていただいてありがとうございます。まだブーケトスはやってませんけれど、亜細亜ちゃんも参加していきますか?」

 あおひとが呼びかけてみるが、無線機からはもうノイズしか流れてこない。

「亜細亜ちゃん、何でこんなことをするの!?亜細亜ちゃん、あおひとさんのお祝いに来てくれたのなら降りてきて、ね」

 うにょが懸命に呼びかけても同じだった。

 突然わき起こった戦闘にひとまずソウイチローと共に駐車場から外へ出た黒崎だが、状況が全く解らない

「ほぇー…?」

呆然と黒煙を上げる装甲車を見ている内に、ソウイチローが何処に隠していたのか自らのRBに飛び乗った。

慌ててきゃー!と声を上げてコックピットによじ登る黒崎。

「味方がやられてる」

「まってまってー」

「黒崎さんー、くろさきさんー、聞こえますかー!?」

何とかついていこうとコックピットに上半身を突っ込んでじたばたする黒崎に嘉納摂政からの無線通信。

しかし無情にも黒崎はコクピットから蹴り出された。女になって以来久しぶりの酷い扱いだ。

したたかに地面に頭をぶつけてしくしくと泣きが入った黒崎を置き去りにしてソウイチローが跳んだ。

「アレは、亜細亜ちゃんがのってるみたいですー、ヤガミ止めてー」

 再び嘉納摂政の通信だが、手遅れである。

「もー久しぶりにたんこぶできたやないの!」

 ぷんぷん怒って走りながら無線で嘉納摂政と連絡を取り、他の面々と合流を目指す。

 その頃には新郎新婦と友人一同は中央政庁から南下、国際港に停泊していた秘密戦艦に移乗し避難を終えていた。

「あー…もう、どうなってるのー?とりあえず、あおひとさんは無事!?

身重の身体で、過度な運動やストレスは厳禁なのに…!」

「あ、私は大丈夫ですよー?」

 とりあえずブリッジに落ち着き、新婦の容態を気遣い憤るりんくだが、当のあおひとは忠孝の腕にしっかり守られてご満悦であった。

厳めしいブリッジには不釣り合いなほどのほほん、と答える。この人、隣に忠孝さえいればかなり無敵であった。

 対照的にメインスクリーンに映し出される自国の惨状に怒り心頭に発しているのが海法藩王であった。

「あーもー。うちの国で、どんぱちは許さーーーーん。

…避けカタパルト始動。黒崎さん搭載」

黒崎と連絡を取り合っていた嘉納摂政とブリッジクルーに指示を出している紺碧摂政に秘密兵器その2の使用を命じた。

避けカタパルトとは「いつかセーラの元まで国民を飛ばす」ために、某摂政の趣味とロマンで国内に建造された国費無駄遣い施設、らしい。

無論、軍事的に秘密主義を貫くよけ藩のこと、公的に使用されるのはこれが始めてである。

「カタパルト、始動します」

「目標、ソウイチローRB」

 つまり、黒崎を弾代わりにソウイチローのRB目掛けて飛ばし、これを以て戦闘を止めさせるつもりらしい。

 飛ばされる方は堪った物ではないのでは…。

 しかし黒崎はソウイチローの元にいけるなら、と深く考えずにカタパルトに載ってしまっている。さながら人間大砲である。

「目標固定よろし」

「本番、きます」

 紺碧摂政の報告と嘉納摂政の側に控える純子が短く言うのと同時だった。

メインスクリーンに投影された戦禍に煙るよけ藩の空にぽっかりと穴が開いた。

穴を通じて黒いものが続々と出現を開始する。

「おやおや、騒ぎすぎましたね」

「まだ、全然甘えたりないのにー」

 忠孝はそういうとオブザーバー席から身体を起こして海法藩王の側へ歩み寄った。独占状態が解除されてちょっと不満顔のあおひと。

「陛下あれは?」

「うーん、小笠原じゃなきゃ安全と思ったんだけどねぇ」

 続々と実体化を始めた黒い影、それは通称虫歯菌と呼ばれる敵性兵器だった。

詳しいことは未だによく解っていないが、セプテントリオンによって使役され、ヤガミや後藤亜細亜を標的にしているらしい。

 こちらこそが真の招かれざる客であった。

「少佐。本来の敵は今上空の黒い奴です。銀のRBへの攻撃を中止して、標的の変更を申請します」

 メビウスが具申するが、少佐は血走って目でスクリーンを見上げて通信機を握りしめた手をわなわなと震わせるだけだった。

 最早まともな戦術的判断が出来る状態ではない。

 天領海軍は当てにならないと感じた海法藩王は非常の決断をする。

 光る眼鏡をつい、と押し上げると矢継ぎ早に二人の摂政に指示を下し始めた。戦闘は望むところではないが売られたケンカは高値で買ってやろう。どうせ請求書は天領宛だ。

 藩国の懐の痛ませない上手い回避方法を発見した海法藩王に最早迷いはなかった。

「よけ藩国拠点防御システム起動。秘密戦艦主砲発射準備」

「了解です。起動します。主砲準備よろし」

「照準合わせ」

 海法藩王の命を受け、各ブリッジクルーを統括する摂政二人のきびきびとした申し送りがブリッジに響き渡る。

「照準、回します」

「主砲発射用意」

「目標、上空ゲート」

「エネルギーチャージ、完了まであと5。ターゲット固定完了」

「いつでもいけます」

 オールグリーンを示すコンソールを確認した紺碧摂政の報告に海法が大きく頷く。

これがとどめだったのか、遂に理性の限界を突破した少佐が唐突に無線機に喚きだした。

 この地位にある以上無能な人物ではないのだろうが、彼の常識的な軍事センスを以て当たるにはよけ藩とこの案件はいささか度を過ぎていたらしかった。

 なんといっても威厳たっぷりに軍令を下すこの国の最高責任者が振り袖姿にブルマ着用なんである。

「動くものはみんな敵だ。ぶっぱなせー!」

 要するにキレちゃったのだった。

「少佐!?」

「ちょ、しょうさ!RBは敵じゃないのでーーーす」

 常軌を逸した少佐の命令に慌てる一同だが海法藩王は動じずにつかつかと背後の少佐に歩み寄り、頭をすぱこーん、と張り飛ばした。

「あんた、人の国来て、何しとんじゃー!」

続いて忠孝が笑いながら少佐を酒瓶で殴る。頭に来ていたのは海法藩王と忠孝も同じである。

「きがあいますね」

「ええ」

 にやりと笑い合う二人。友情が芽生えたかも知れない。

「人の結婚式で何をやらかしてくれてるんでしょう。もう…」

「ソーニャさんー、ロープ。それからうにょさん、あおひとさん、亜細亜ちゃんに主砲の射線伝えてください」

「双樹さん、その少佐、きぐるみ着せちゃってください」

「了解。頭からつっこんどきます」

 双樹がすぽん、とぬけたペンギンの着ぐるみに代わりに気絶した少佐がぎゅぎゅうと押し込められ、挙げ句りんくの手でロープをぐるぐる巻きにされてオブザーバーシートの下に放り込まれた。

 諸悪の根源とはいえ哀れな少佐。

 とりあえずの障害を排除して主砲発射準備と戦闘指揮が再開される。

「なんだか、よくわかんないけど豪快な花火があがりそうね」

「戦闘は火力!」

「ええ、砲撃は戦争の花です」

 腕組みして言い切った海法藩王にエミリオの肩に手を置いたソーニャはにっこりとそう答えた。

「亜細亜ちゃん、ソウイチロー及びI=D部隊に待避勧告」

 海法藩王の指示に従い、先程の通信コード用いてあおひととうにょが再び後藤亜細亜に呼びかける。応答が無くてもこちらの声が届きさえすればいい。

「亜細亜さん、今から秘密戦艦の主砲が放たれます、気をつけてください!」

「亜細亜ちゃん、もうすぐこっちの主砲が撃たれる!射線は伝えるから聞こえてたら避けて!」

「ソウイチローさんー!さけてねー!」

 黒崎もソウイチローのRBに向けて通信を送った。ちなみにまだカタパルトに載ったままである。

「えーと。指揮官が気絶したので、忠孝さん、部隊の指揮よろしくおねがいします。

天領海軍のみなさんへ。少佐が負傷しましたー。指揮権委譲されますー」

「瞑想通信、開きます。感度固定。海軍掌握を開始します」

 嘉納摂政の要請を受けた忠孝はどうしましょう、という顔で妻を振り返って頭をかいた。

「結婚当日は休日のつもりだったんですが。いいですか? 奥さん」

「えぇ、いってらっしゃいませ、旦那様。続きはまた後で」

 あおひとは微笑むと、ちょん、と小さく夫の唇にキスした。

「ありがとう。一度でいいから、格好のいいところを見せたかったんです」

「忠孝さんはいつだってかっこいいですよ…」

 あおひとが照れたように夫の胸に手を置いて囁くと、戦女神の祝福を得た勇者のようにばん、と胸を張って指揮を執り始めた。

 この人もあおひとが側にいさえすればかなり無敵であった。要するに似たもの夫婦なんである。

「それでは指揮をとります。喧嘩をやめて整列。I=D、押し返せ」

 秘密戦艦のブリッジにはお色直しで着替えた軍礼装は良く映えた。

働く男の後ろ姿はやっぱりかっこいい、とあおひとはうっとりと夫の指揮を鑑賞するモードに入った。

 手持ちぶさたなのかりんくはあおひとを羨ましそうに眺めつつ、厳重に拘束された少佐に更に猿ぐつわを噛ませて見張っている。

「すみませんね、りんくさん。列席者にこんなお手伝いまでさせてしまって

「いえいえ。お気になさらずー」

「りんくさん、着ぐるみに突っ込んで閉めちゃえば中からは開きませんから大丈夫ですよ」

「黒崎さんー、あそんでないでかえってこーいー。いまいそがしいんだよー」

「わかってますよぅー帰りますよ!」

カタパルトに載せたのは誰た、とむくれながら応答する黒崎が射出ポッドから出ようとしたその時、ブリッジに短いうめき声と悲鳴が交差した。

虫歯菌と交戦していたソウイチロー機が撃墜され爆発した瞬間がメインスクリーンに映し出されている。

「またか、ヤガミ……」

「医療部隊編成して、ソウイチローさん確保」

「黒崎さん、おめでたい日だけど、早速出番ですよ」

「やだやだーーー!!!」

 本気で泣きが入る黒崎。確かに自分は軍医だがぼろぼろになったソウイチローなんか見たくない。

 沈痛な雰囲気になりかけたブリッジだが。

「大丈夫。僕の悪魔が助けている」

「エミリオくん、偉い!」

「黒崎さん、そのままカタパルトでいってやれ」

「エミリオさん、ありがとうございます」

「よかった!ありがとうエミリオ」

 エミリオはしっかりやることをやっていた。

 ひとまず最悪の事態は回避したようだが、ソウイチローの負傷の程度は解らない。取り急ぎ医師を派遣する手筈を整える。

「それでも怪我してるかもしれませんからお願いします。ゆかりさんは」

「はい」

「陛下の側にいてください。きっと、性能が上がりますから」

「先生の?」

(戦線が回復して、乱戦が終わるのを待ち、主砲を撃つタイミングを読む)

 ちらりとゆかりが視線を投げると、海法藩王は刻々と変化する戦況が映し出されるスクリーンを凝視していた。

溜息をついて視線を落とす。

「はい、先生のそばに、いてあげてもらえますか?ゆかりさん」

「でも、先生私にはぜんぜん話しかけてなかったし。きっと嫌ってるんです」

その一言に海法藩王の長い耳がぴくり、と反応した。

遂に理性の限界を突破する前触れ。

「ああ、それはですね。一応おめでたい式なので、ゆかりさんに話しかけるタイミングがなかなかなかったんですよ。

この騒ぎが終わりましたら、のちほどお食事の席など用意しますから、ゆかりさん」

なんとかフォローしようとする紺碧摂政にゆかりはさびしそうに笑った。

海法藩王は遂に限界を突破、小指を立てて全艦放送のマイクを手に滂沱と涙を流して絶叫する。

「国王なんじゃぁ。忙しかったんじゃぁぁぁ。ごめんよぉぉぉぉ」

「ああ、これじゃー陛下もだめねぇ」

「陛下が熱烈な愛の告白してる」

「なんか恥ずかしいトークが聞こえるわ!」

「いかん。今この瞬間、陛下の性能が下がった気がする」

 ソウイチローの命が危険だというのに。頭を抱える黒崎と苦笑する面々。

(そういえば私も今日恭兵さんとお話してないなぁ…)

ちょっといじけつつつま先で少佐を小突きながらの見張り続行中のりんく。

「戦う準備はしてきたものの、こりゃ、今日は出番なしかなぁ。

見張り、手伝おうか?」

「あ。恭兵さん!えっと、じゃあ、お手伝いお願いします」

「はいはい。こりゃいよいよ俺も引退だな」

「引退したら、いっしょにのんびりしましょうね」

 二人でげしげしと少佐を小突き回しつつにっこりと微笑み合った。

「うーん、歩兵には出番なさそうね、どうしよっかエミリオ?」

「お茶でものもうよ。ソーニャ」

「うん」

こちらはコンソールにティーセットを展開し始めた。

何処に持っていたんだろうか…。

その間も主砲の発射態勢は着々と進んでいる。

「対ショック、対閃光防御、最終セイフティー解除」

「解除完了です。7つの世界よ照覧あれ。

人の恋路を邪魔する奴は!よけの主砲で吹き飛んでしまえ!」

「陛下、いつでもいけます。トリガーを………。

ブーケトスとかもやれませんでしたし、二人で記念発射ってどうですか、あおひとさんと忠孝さんに」

 嘉納摂政の提案に目の幅涙を引っ込めて忠孝にトリガースイッチを手渡す海法藩王。

「使いますか?」

「砲撃待て。押し返した後に撃ちましょう。宇宙兵器を地上で使うと、大気を相当汚します」

「陛下ー、はやくこないと、ゆかりさん一人で行っちゃいますよー!」

「砲撃してる場合じゃないな。あおひとさん、砲撃を任せます。

ゆかりさん、怪我人が出た。てつだって」

海法藩王は忠孝に後の指揮を任せると黒崎の待つカタパルトデッキへと走り出した。

 黒崎、ゆかり、海法藩王を載せた射出ポッドがエミリオの悪魔が確保したソウイチローの撃墜ポイントへ向けて緊急射出される。

「指揮をとってる忠孝さんも素敵だなぁ……え、ええええ?!

は、はい、がんばります」

尚もうっとりと忠孝の指揮を鑑賞モードからいきなり重大任務を仰せつかって慌てるあおひと。

「初めての共同作業が砲撃とはおっかないケーキ入刀ね」

 エミリオと紅茶を楽しむソーニャが他人事のようにそう言った。


 ソウイチローの撃墜ポイントに到着した医師アイドレスを持つ海法藩王と黒崎はゆかりを助手に緊急蘇生キットを展開する。

 共和国一といわれる名医揃いのよけ藩であるから、戦場で患者を治療する手際も慣れた物だった。

「ありがとう。そっちを持ってくれ」

 一刻を争う張り詰めた緊張。的確なオペのお陰で、ソウイチローは一命をとりとめた。

「うはー……」

黒崎が盛大に安堵の溜息をついて額の汗を拭うのも束の間、やおらむくりと起き上がったソウイチローは元気に再度出撃をしようとする。

 慌ててしがみつく黒崎を見て海法藩王はやれやれと頭を振った。

「えーと、ゆかりさん、その人の頭を押さえて。俺は足を押さえるから。

黒崎さん、頭殴れ」

ゆかりはソウイチローを捕縛した。

「ありがとう!ゆかりさん」

「ちゅーしてめろめろにさせちゃえー!」

 医療モニターからあおひとの声がする。海法藩王はふむ、と考え込むと命じた。

「なんでもいいから、一発かませ!このアホはそれくらいせんとわからん!」

「じゃーキスしてとめますー!もー!」

 ああ、黒崎も限界突破した。ゆかりに捕縛されて身動きできないソウイチローの頭をしっかり両手で抱える。

 じっと視線を固定されて流石にたじろぐソウイチロー。

(撃墜された瞬間だってこんなに追い詰められてなかったぞ…)

額に汗が滲んだ。

「こんなときに何やってんだ」

「ばかー止まんないから止めてるんでしょ……それともまだ行こうとする?」

「ばか、やめろ、恥ずかしい!」

「…行くのやめるならやめる」

 ぎゅーっと抱きついた黒崎に顔を赤らめて叫ぶソウイチロー。だか同じく真っ赤になった黒崎は決して放そうとしない。

 恋人達の頭上で、虫歯菌がまた一機、黒煙を引いて海に落ちていった。


秘密戦艦のブリッジでは忠孝が上機嫌にあおひとの手をとってキスしながら指揮をしている。

戦場にいて生き生きとしているのはどうかと思うが、傍らに妻があっては浮かれるなと言う方が無理かも知れない。

なんと言っても彼の唯一の得意科目で良いところを見せられる最初のチャンスなのだ。

「……手だけじゃ不満です。

中途半端にされると、もっとしてほしくなってしまいます」

そう囁いて夫の手をたぐり寄せるあおひと。

ダンスを踊るように握りあった二人の手には主砲のトリガーが握られている。

忠孝は新妻のリクエストに応えて眼鏡を光らせて微笑むと、爆発を背景にあおひとの唇にキスした。

「みんな大騒ぎですねぇ」

「少佐、どうでもいいですが、どこからこの情報を手に入れたんですか?

……りんくさん、恭平さん、尋問したれ」

「尋問……とりあえず、なんで銀色RBが来るってわかってたのか、とかを聞けばいいんでしょうかね?」

「ええ、それと恥ずかしい話とか汚職の話とかも、どうも天領はこまったさんなので」

「ついでです。あとで、この少佐殿にいろいろ請求書を回しておきましょう」

 漸く気絶から覚醒した少佐を小突き回す面々。どうでも良いが少佐は酷い扱いだ。

「きゃー!なんじゃこのイチャラヴエンパイアはー!」

「……メインスクリーンにサムシング・フォーの映像でも流しておきましょうかねぇ」

 そこここで吹き荒れる愛の嵐に独身代表の二人はそろそろ限界のようだった。

ぽちっ、と紺碧摂政がボタンを押すと、よけ藩謹製のサムシング・フォーの映像が流れ出す。

 すなわち、あたらしいもの、ふるいもの、かりたもの、あおいもの。

「……青少年の健全な精神のために、この映像を流しておきましょう」

 後は、存分に。

 紺碧摂政にちらりと振り返って頷いたあおひとは忠孝にぴったりと寄り添ってトリガーを握る手に力を込めた。

「じゃかあしい、ですよね」

「よく、覚えていましたね」

 それはお見合いの日、度重なる妨害を排除しようと立ちあがったあおひとに忠孝が教えた言葉。

 それはもちろん、と言いかけたあおひとの唇を忠孝が塞いだ。

 瞳を閉じて左手を背中に回す。

 二人の指がトリガーにかかった。

「うううー…」

 ソウイチローにしがみついたままの黒崎は涙目だ。未だにソウイチローを拘束していたゆかりは、海法藩王が頷いたのを確認して口を開く。

「でないと黒崎さん、貴方をおいて、戦場にいきますよ。

一人で、いいんですか」

「黒崎は俺のことをよくわかってる。だからそんなことはしない」

「!」

 ソウイチローは観念したようにゆかりに答えると、首をねじ曲げて乱暴に黒崎の唇を奪った。驚きに見開かれた黒崎の瞳がゆっくりと閉じて、涙がぽろほろと溢れ出す。

「………」キスを見てエミリオを赤面しながら見つめるソーニャ。

「………」純子の唇を見て照れる嘉納摂政。

「………」あえて何もみないようにしている双樹。

「………」そっと二人から離れたゆかりの肩に手を置いて寄り添う海法藩王。

恋人達と少数派の独身者を背景に、あおひとは口づけたまま秘密戦艦の主砲を放った。

 空を圧する閃光。轟音。

 ぽっかり空いた穴に太い光芒が吸い込まれていく。

 防眩フィルターが作動して薄暗くなったメインスクリーンが回復すると、そこに黒い染みの姿はもう無く、澄み切ったよけ藩の青空が帰ってきていた。

勝った。

アイドレス史上有数のひどい勝利だ。

(お願い亜細亜ちゃん無事でいて)

「えーっと、無事に終わってよかったですね。恭兵さん」

「おめでとーー!」

「お幸せに~」

 なんであれ勝利は勝利だ。

 とにかく二人は晴れて夫婦になり、その友人達は新郎新婦を守り抜いた。

 勲章も戦功もないが、愛だけは売るほどある。

 その場に居合わせた全員が心から祝福の拍手を送ってこの一生記憶に残る結婚式を胸に刻んだ。

「あ、あとの式次第は……ええと」

「紺碧さん…」:

「さて、青さんー、この少佐でどれぐらい天領は引いてくれるかなあ?」

 がっくりと床に手をついて落ち込む紺碧摂政といろんな意味で涙を堪えてその肩に手を置いた双樹。

そんな独り者ズに嘉納摂政がにやりと笑うと、純子にこっそりウインクしてから戦後処理について打ち合わせを始めた。

蒼の忠孝、そのデビュー戦はこうして華々しい戦果を上げて幕を閉じたのであった。

新しい幸せを得る旅を始めた二人に幾万もの慈雨と微笑みがふり注ぎますように。

暮れ始めた日の光を受けて、避けキングが優しく枝を揺らした。

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おまけ「人の恋路を邪魔して馬に蹴られた人」

 数日後。

 天領宛に『引き出物』(1,2)と記された大きな荷物が届けられた。

 差出人は海法よけ藩国、蒼の忠孝とあおひと。

 不審そうにスタッフが開くと、中にはペンギンの着ぐるみを着せられた上に口に紅白のモチを詰め込まれて息も絶え絶えになった少佐と大量の請求書が詰め込まれていた。

 その後表舞台で彼の姿を見たものはいない。

 あのカップルに関わってしまったのが彼の運の尽きだったらしい。

これもまた愛は憎しみに勝る一つの証左と言うべきか。

ある意味今回最大の被害者に、心より合掌。



拙文:ナニワアームズ商藩国文族 久遠寺 那由他








おまけのおまけ「邪魔しなかったけど蹴られた人」

「おわったぁーっ……」

 いい加減白々と夜が明けたナニワの談話室で、最後のセンテンスを打ってそう呟いた那由他は愛用の万能ドコデモコタツの上に広げた端末に突っ伏した。

 がん、という鈍い音に続いてぴーというエラー音が鳴り響くが、那由他はぴくりともしない。

 この4日というもの平均睡眠時間数時間の身体にゼリーのパウチとドリンクとCレーションをぶち込んで作業していたのである。まぁ無理もない。

「おはよう。今日は随分早くから人が…ってどうしたんだなゆたん!?」

「…うふ、…うふふふ。このドリルを付ければバーミーズの性能は三倍に~」

 朝一の出仕前に談話室を覗いた乃亜が倒れている那由他を発見して肩を揺さぶるが、なんだか良い夢を見ているらしい那由他は口から何か抜け出ている有様だった。

「…っ、え、衛生兵!衛生兵~っ!!」

 余りにアレな那由他にぞわっと尻尾の毛を逆立てた乃亜が備え付けのコンソールに救援を要請する。

『ぽーん。談話室で那由他が砂糖を吐いて倒れました。タコヤキは速やかに医務室へ搬送してください』

本日の教訓 那由他を殺すにゃ刃物は要らぬ。ベタ甘ログがあればいい…。

 お粗末様でした。



今回も大変甘うございましたor2^
またお二人の幸せを描く機会があれば望外の喜びですヾ(o・ω・)ノ


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製作:久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=644;id=UP_ita


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