NO.64 アシタスナオさんからの依頼
ある場所、ある時間。英雄の携帯電話が鳴り始める。着信音は英雄召喚~ソードエンブリオ~である。
しかし、リューンの輝きがいつもと違う。携帯電話の持ち主たる冴えない背の低い中年の男は、一瞬眉を顰めるが受信。口を開く。
「はいこちら、無料が自慢の英雄量販店、お友達は今日の合言葉を知っているかな?」
「ソ、ソードエンブリオ!」
耳元から聞こえるのはどう聞いても野太い男の声。男、即座に電話を切る。再び着信。男は無視し続ける。電話が切れる。また鳴り始める。切れる。
その繰り返しは流れを生む。着信音によって奏でられるメロディ。
嘆息し、何度目かの着信で男は観念する。
「何の嫌がらせだ、知恵者」
「冗談の通じぬ男だ」
「お前の冗談はしゃれにならん。そもそも、今日の合言葉は違う」
「やれやれ嫌われたものだの」
「御託はいい。なんの用だ」
イライラを押さえ、先を促す。語りだす知恵者。徐々に男の口の端が持ち上がって行く。
「かしこまりました。吉報をお待ちください、とでも言うべきかね」
そう言うと、男は電話を切った。
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目の前のドアから騒がしい声がする。男はドアを軽くノックする。開いた扉の先には二人の男性とFが一人。人間の男からの誰何に応える。
「呼ばれたんだがね」
「では、あなたが。ええと、なんと御呼びしましょうか」
「…ま、まさかあなたがあの」
「アシタ氏と同じ名前で言われることもある」
「すいません。正式なお名前と背格好をしらなかったもので。では、ロボさんと御呼びしても宜しいですか?」
「ああ、ご存知でしたか、僕の別名を。光栄です」
「ただ、意味は違うが。私は狼王だ」
「ええ。聞き及んでおります。さあ、MPK先生」
ふむ、と目を向ける。本題か、とばかりにMPKを見据える。さて、Fの要求は何か。また、碌でもないものだろうとは思うが。MPKの目が光る。
「Fに戻れ、ロボ」
「Fにリターンするも、なにも。もともとそこにはいない」
「お前はFに近い。Fにリターンせよ」
ロボと呼ばれた男は勝手な物言いに内心、嘆息する。そこで傍らの眼鏡を掛けた青年が、うずうずしていることに気付く。そういえば、妙にMPKへの眼差しが熱いような気もする。
ならば、と内心青年に謝りつつ言葉を紡ぐ。
「なるほど、この少年が、私の代わりに接触する。それでどうだ」
「え・・・。えええええ!?」
「お、おー。えーと。よかったな?」
「同病相哀れむだ。私もロボは好きだよ」
驚きの叫びにウィンクを返す。
「いや、ぼ、僕は願ったりかなったりですが。MPK先生はそれでは納得は・・・」
しばしの沈黙。そして、認可の答え。
それに浮かれるアシタ青年と祝福をする玄霧の姿に、多少の良心の呵責を覚える。二人の盛り上がり振りが、切ない。後で怒るだろうなぁ、と思うが「無傷で済めば問題無し」と割り切る。
彼は子供の護り手ではあっても、大人はその範囲ではない。うん、大人ならこれは試練だ。そう、大人の世界は辛いのである。
休日なのに出勤したり、他の人の仕事なのに文句言われたり・・・考えていてロボ、ちょっと鬱が入る。
「うん、すごいことだとおもうんだが、こう、あれだ。俺たちを忘れるんじゃないぞアシタくん」
「ま、メカになって自我なくしたら、やり直せばいいだけさ」
フォローを入れておく。我ながら酷い言い様だとは思う。
「え、えーと。よろしくお願いします」
「待つんだアシタクン」
「どうした玄霧くん」
「念のためにバックアップを取っておこう」
言うが早いか、玄霧が青い猫型ロボットもかくやとばかりにどこからともなく、工具箱を取り出す。
そして、数分後。そこには輝くほどの美貌に溢れるサイボーグとなったアシタスナオの姿があった。
玄霧は内心、自分の実力に恐れおののく。マッドサイエンティスト恐るべし! 「そうだ、もっと改造を!」と心がはやる。目の前のMPKは機械だから論外として・・・ロボさん! 断られるが名刺を取り出し、渡す。
名刺を差し出されたロボは、苦笑を隠せない。本人達が喜んでの大騒ぎなので、先の心の痛みも吹き飛んでしまう。
MPKと彼らの会話は続き、今では移動のタイミングに関して話し合われている。訊くべき事を聞いて、早めに退散するとしよう。
「OK.では、その前に情報をくれないかな。端末に情報を教えておきたい」
目に力を込める。今日、最も知らなければならない情報ゆえに、目も鋭く細まる。
「で、Fはどこに?」
「地の母の迷宮」
MPKの答えに玄霧とアシタスナオが騒ぐ横で、更にロボの目が細まる。かつてと同じ事態になりつつあることに、焦りを感じる。そして・・・。
「いそげ。Fにリターンせよ。顔のない男」
「またエースゲームで有給消化かぁ。とほほー」
人前だろうがなんだろうが、ついついしょんぼりしてしまう。エースであろうが、社会の歯車の一つである。ゲームばかりでは生きてはいけない。
だが、エースに一番大事な条件は危機の場に居ること。自分こそが正義最後の砦なのだという想いが、彼らをトップエースと呼ばさせているのだ。
だが、彼も人間である。ついつい、いつもの口癖である一人の特定の人物への呪詛が口から漏れる。
「お、おつかれさまです。応援しています!」
「今度お酒奢ります、ええ。(ホロリ)
「エース・・・修羅の道なんですね」
「さてと。それじゃ、いってくるかな」
照れ隠し半分、同情の声に居心地が悪くなったこと半分で、出立しようと踵を返す。その時にふと浮かぶ顔が一つ。
「ああ、それと高原くんに、おめでとうと」
娘の良人に言祝ぎを残す。自分のことを覚えてはいまいが、親心としては何かをしたかった。
そして、今度こそ姿を消す。向かうは地の母の迷宮。だが、その前に。
「ひー、ふー、みー・・・。うわ、病気や身内に不幸があったら大変だな。はぁ」
有給休暇の確認をするロボであった。
To be continue 「大いなるFへの道」
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最終更新:2008年01月07日 18:36