玄霧弦耶@玄霧藩国様からのご依頼品


『お見舞い~病院での一コマ~』

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ここ最近の小笠原は敵であるセプテントリオンの襲撃が激しく、ほとんどの場所で厳戒令が敷かれていた。
島のところどころにI=Dが配置されており、どんな状況でも戦闘が出来る状態であった。
そんな中で、玄霧は負傷した火焔を見舞いに、病院にやってきている。
人伝で聞いただけなので、どんな状態であるのか、無事なのかそうでないのか、いろんな事が頭の中をぐるぐる回る。
ぼんやりと敷地内を見渡すと、病院でも同じようにアメショーがあちこちで寝そべっていた。
少し違うのは厳戒令とはいえ、病院内が平穏に保たれているところだろうか。

「平穏大事大事。整備の方も・・万全っか。」

いつ戦闘になっても助かるようにと、自分の今の格好を見て思う。
歩きながらなので、しっかりとは見れないがポイントを絞って寝そべっているアメショーの整備状況を確認する。
この機体だから、幸運値の性能を上げればいいか、などぼんやりと考えていた。
「何も出来ないままじゃ、情けなさ過ぎる。」
そうひとりごちながら、病院の中に入っていく。

院内は一つの山を越え終えたようで、せわしなさはあるものの雰囲気は他の場所よりも安心できた。
受付では膨大な書類を整理している人や見舞いに来た人に丁寧に応対している人が、忙しそうに働いていた。
玄霧は申し訳なさそうに、火焔の居場所と簡単な容態だけを聞いて、手早く移動を開始した。
貰ったメモによると、「地下:特別室」と表示されている。

「ハハハ、またそんな。霊安室じゃないだろうな。」

玄霧は周りで見られているほど、気丈ではなかった。
想いを寄せている人が怪我をしている中で地下にいると知らされ、すぐさま霊安室を思い浮かべるほどには、ネガティブでもあった。
ぼんやりと地下への階段を下りていく。
手すりを持って降りていっているが、その手の中にあるはずの感覚がよく分からない。
途中、自分では気づかなかったが、数回階段から落ちそうになっていた。
そして、階段を降り切った所で、見慣れたある紋章が目に入った。

東方有翼騎士団

一般では秘書官団と呼ばれている、天領付きの騎士団。
ぼんやりとした頭で、メモを手渡された時のことが再生される。
その時に、女の人が地下の特別室一帯は秘書官団が詰めて警護していると言っていたような気がした。

紋章を見てそこまで思い返しているうちに、一人の女性が玄霧の前にやってくる。
名前はつきやま、秘書官団の中でも冷静で落ち着いている一人である。

「こんにちは。お疲れ様です。大変ですね。」
「えぇ、でもここが一番安全そうなので、ここに収容しています。」
「要塞化しているので、ご心配なく。」

少しだけ疲れているような顔のつきやまだったが、見舞い客を不安にさせないように努めて、笑顔だった。
その笑顔に、少しだけぼんやりとした頭のもやが薄れた。

「なるほど、確かに地上よりは安全ですね。・・火焔の容態は?」

口に出した後で心の中では、
(ダメだ。もっと強化しないと。羅幻国に連絡を取って砲兵陣地を構築して、さらにさらに。。)
と、火焔の容態が気になりすぎて、全く別の事を考えていた。
その様子を見て、つきやまは少し心配しながら返答した。

「安定しています。・・・少し、ショックだったと思いますけど。」
「んー・・・。」

つきやまは落ち着かせながら、柔らかく言葉を返したが、「ショックだった」と聞いて玄霧は、
(医者はどう治療したんだ。ショックだったとは何なんだ。くそッ。すぐにでも、自分が・・・。)
と自分の無力さと行き場所のない憤りを、自分でも分かっていながら八つ当たりした。

「確かにまぁ、可能ならば自分で治療をしたかったところですね。もしもコレで死んだら担当医を改造してやる。」
「お会いしますか?」

つきやまはここで話すよりも本人に実際あった方が早いと判断したのだが、
今の玄霧の頭は担当医の事でいっぱいだったため、つきやまは担当医と会わせてどうさせようというのか、と別な事を考えていた。
しかし、容態を聞いておけば、後は自分で面倒が見れると思いすれ違ったまま返事をした。

「出来ればここに呼んでいただけると。火焔の傍を離れるのは得策ではないと何故か思うので。」
「病室にいかれないで、ここで、ですか?」

怪訝そうな表情を浮かべるつきやま。
その表情を別のものだと読み違える玄霧。

「・・・ふむ、先に主治医の名前だけ伺ってよろしいですか?」
(たしかに、向こうも治療中だったら迷惑だな。)
「シコウという人だそうです。」

名前を聞いて玄霧は少し落ち着きを取り戻した。
玄霧も知っている人でその腕の方も確かなものである医者が火焔を担当してくれたのなら、もう大丈夫だろうと。

「名前を聞いて安心しました。きっと私より性能は上でしょう。」
「ええ。一番を配置していると聞いています。」
「では、私は可能であればココにいさせていただきます。離れている間にこんな事になった以上、ついていてやりたいのですが。」
「今、本を読んでいるみたいですよ。お会いになりませんか?」

つきやまは気を利かせて、火焔の様子を玄霧に伝えるが、玄霧の方はシコウの様子と勘違いする。
この玄霧の表情の変化につきやまは、根本的な話が通ってないのではないのかと思い出す。

「・・・いえ、何だか胸騒ぎがします。本を読んでいるのならこちらに呼ぶのも可能ではないかと思うのですが?」

つきやまは、さらに怪訝そうな顔つきになる。
その表情を伺って玄霧は、シコウが出られないという事は火焔に何かをしているのかとややこしく考え出す。
落ち着きは戻っていても、すでにずれている部分は気づくまで戻せないのが誤解と言うものである。

「あぁ、私が出なければいけないのであれば即座に退散します。その、着替えとか。」

少し顔を赤らめる玄霧に、少し呆れたような感じのつきやま。
地下に風は吹き込まないはずなのだが、廊下の壁にかけられている秘書官団の紋章が風に揺れている。
つきやまはしばらく考えた後、

「・・・・・・分かりました。お呼びしますけど・・・」

それでいいのかなぁ。と素のつきやまに戻りながら語尾を濁す。

「・・・けど?何か問題があるのなら教えていただきたく。」
「流石にすべてを把握しているわけではないので。可能であればお聞かせいただきたい。」

無論、この時点でも玄霧はすれ違いに全く気づいてはいない。
なぜつきやまが語尾を濁すのか、火焔に何かまだ隠された怪我があるのか、何かまだ問題があるのかそればっかりを考えていた。
そして、最終的な言葉がかけられる

「いえ。それってお見舞いなのかなぁと。すみません。」

その言葉にぽかんとする玄霧。
「え、ちょ、えーと。」と一瞬の間を置いて、はっと我に返り周りを見渡す。
そして、そのまま真横に綺麗に倒れる。
つきやまが「あ。」と言ったと同時に立ち上がり、出来るだけ冷静を装った。

「スイマセン、眼力が利きすぎたのか目の前に火焔がいるかと錯覚を。」
「合います合います。あわせてください。」

冷静になりきれず耳まで真っ赤にしながら、やっと正しい返答を行う玄霧。
言葉自体は間違って発音してる為に、おかしな事になっているが、つきやまは苦笑するだけで黙ってドアを開けた。
その横で「いっけねー、早とちりー。」とごまかそうとしているが、どう見てもごまかしきれていなかった。
お見舞いで部屋に入るまでに、おおよそ30分もかかってしまった。

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部屋の中は地下の部屋で元は霊安室だとは思えないほど、内装が変わっていた。
綺麗に片付けられ、とてもよくイメージされる霊安室とは程遠いくらい衛生的であった。
その中のベッドの上で火焔は本を読んでいた。
相手が慌てて隠したので、何の本だかは確認できなかったが、火焔が読むくらいの本なのだろう。
まだ、顔のほてりの余韻を残しながら、先に玄霧が声をかける。

「や、どうも。具合はどう?」
「う、うん・・・・・・。」

返事をした後で火焔は自分の格好を一瞥し、頭近くまで深くシーツを被った。
玄霧は白いシーツでとても綺麗だと思った。
そのシーツに包まって、さらさらな髪だけ出している火焔は、もっと可愛いなとおもいつつ。

「うん。良かった。ホントだったらオレが治療したかったんだけど。」

白衣を少しだけ自分なびかせながら、火焔の様子を伺う。
火焔の方は包まったシーツから頭だけを出して、何?とだけ聞いた。
そして、お見舞いにまで来てくれてる人にそれだけも無いだろうと、言葉を続けた。

「うーん。ほんとのところは、自分が怪我したかどうかも、よく分からない。」
「髪が赤い人、狙ってたんだって。・・・なんでだろ。」
「ふむ・・・髪が赤い人か。何でだろうね。」
「・・・・・・アララって人を狙ってたみたい。」

さらさらの髪を見つつ、いつものように別の事を考えながら返答した。
玄霧自身は、一応の事情を当事者である他の人から聞いているので、それだけを聞いて記憶障害でも出ているのかと考えた。
これくらいならば、自作の治療薬でも治せるかと思ったが、思い出させるのも悪いだろうと別の話題を振る事にした。

「アララさんか。確かこないだ助けに行った時に相乗りしたパイロットの奥さんでね。」

と話を切り出してから、
そう言えば最近どうなっているんだ。情報は混乱してるし、アララさんは無事だと聞いてるし。とまたぼんやりと考える。
その表情を見て火焔は少し思案げに、

「調べてみようかな。元気になったら。」

と、自分の置かれた状況を火焔なりに解決しようと思っていた。
その返事に玄霧は、また火焔が怪我をするのではないかと、心配心からではあるのだが、
自分では知らず知らずの間に少しきつい物言いで火焔に当たっていた。

「その時はオレも呼ぶように。本気で心配した。」
「いい・・・」

その返事は、玄霧を少しだけイラつかせた。

「いやもうほんとに。知らないところで戦われるのも怪我されるのもイヤだ。惚れた女くらい守らせてください。」

その言葉を真顔で言った玄霧の顔が辛かったのか、火焔は10秒自分なりに考えた後、考えるのを止めてシーツを被って黙り込んだ。
シーツを被った火焔に、さらに追撃をかける。

「それでもし死んだら・・・まぁ、死なないな。死にそうになたら逃げるから。・・・もちろん、火焔つれて。」

考えながらだったので語尾が何となく濁りがちになりながら、見えないようにドアに立てかけてあった山の楯をそっと廊下の壁に押しやる。
それを目だけ出した火焔が見てたのに気づかず、立ちっぱなしで手持ち無沙汰だった玄霧はサイドボードのリンゴを手にとって、椅子を引き出し剥きだした。
コガがシャリシャリと言うリンゴを剥く音に反応し、顔を上げた。

「まぁ、こっち見てくれなくてもいいから聞いておくれ。」

先にコガ用に一個だけリンゴを剥き、コガの傍に置いて、ジェスチャーで他は火焔のだと告げる。

「男ってのは意地っ張りでね。自分が相手よりも弱くても、女は守りたいと思う生き物なんだよ。」
「でまぁ、俺も漏れなく其の類で。守ってもらうのは大好きだがそれ以上に守りたいわけだね。困った事に現状では人を治すくらいしか出来んけど。」

そこまで自哲学を述べた時に、ドアが元気よく開かれた。
玄霧がそっちを向くと、今一番会いたくない顔が目に飛び込んだ。

「よー!火焔、元気ー。」
「帰れ。」

火焔が顔を出したのと、瀧川が手を上げながら声をかけたのと、玄霧が即答したのと、全てが同時に行われた。

「瀧川!?」
「あん。」

見舞い客がいる中に瀧川が来るとは思っていなかったので、火焔は素っ頓狂な声を上げた。
だが、玄霧は瀧川が火焔に近づくこと自体が、何故だか許せなかった。

「病室に大声で入るんじゃない。」

そう言うと瀧川を引っ張りドアの外に押し出した。
ダメ押しに「マナーは大切に。」とまで付け加えて、ドアを閉めた。
内窓から中を覗いている瀧川が「えー。」と変な顔をして声を上げている。
当人である火焔の方はというと、地下の特別室で治療を受け、意識を戻してから、護衛についていた瀧川がちょくちょく顔を出してくれていたので、
いまさら瀧川の入り方など気にしないし、元々そういう事を気にしない性質であるのだが、瀧川が叱られているのを見るのが何だか面白く、シーツから出て笑っていた。

「ほんとばか。」

火焔が笑いながら瀧川に向けた言葉に玄霧は次の言葉が浮かばず、言葉に詰まり、手元にあった剥き終わったリンゴを火焔に差し出した。
リンゴを受け取りながら火焔(とそれを見ていたコガ)は、変な顔をしている瀧川に変な顔をし返している。
そのやりとりが何故だか面白くないが、大人げも無いだろうと思い直し、ドアの方を振り向く。

「瀧川君も食べるかね。せっかくだからみんなで食った方が美味い。」

言った言葉は遅く、瀧川は火焔に小さく手を振って去っていった後だった。
火焔の方を向き直ると、上機嫌にリンゴを食べている火焔が、やけに切なく見えた。
確実に、瀧川と会って嬉しくなっている火焔を見て、玄霧は瀧川に嫉妬した。

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作品への一言コメント

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  • えーいちきしょー、殆ど其の通りですよ!(笑) ああ恥ずかしい! -- 玄霧弦耶 (2008-01-08 21:03:37)
  • よかったです!頑張った甲斐がありました。(笑) -- 伯牙@伏見藩国 (2008-01-09 23:49:14)
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最終更新:2008年01月09日 23:49