忌闇装介さんからの依頼



-むかつく、むかつく、むかつく-

目に涙を溜めながら、ウイチタ更紗はメラメラ燃えていた。

なんであの人は、浮気する(他人の靴下を狙う)のかしら。
なんで、いつもいつもいつも他人の前だと否定するの?


もう嫌…好きなのに。愛してるのに…
貴方を想いすぎて、もう嫌。

 /※/

昼間のドタバタ劇と嫉妬の嵐に、心が疲れきった更紗。

立ち入り禁止の天文台の上の方で、Mr.Bこと芝村勝吏とウイチタ更紗は向かい合っていた。
その距離は5m。
更紗の手には銃。対峙している勝吏は腕から血を流していた。

その瞳から大粒の涙を浮かべながら更紗は力無く叫んでいた。
「これ以上近づいたら、撃ちます!」
「撃て」
更紗の涙の訴えに、力強く返すと勝吏は前進した。
そんな勝吏にピクリと身体を揺らし怯える更紗は、僅かに後ろに下がりながら叫んだ。
「身を投げますっ!」
その言葉には、さすがに勝吏は止まった。
背中には気持ちの悪い汗が流れる。

暗がりでお互い顔色は見えなかったが、勝吏は背中に汗を流し、青ざめた顔色で更紗を宥めるのに必死だった。
「落ち着け、更紗。」
ぽろぽろ泣いている更紗。
勝吏の声は心地いい。大好きだった。でも…
「もう、もう嫌なんです。貴方がいつも、人前で否定するのが。」
ふっと顔を上げる、その瞳から溢れる涙は止まらなかった。
「私がそんなにお嫌いですか?」
「違う」
即座に否定する勝吏。
嫌いなはずがない。嫌いならば、こんなに必死になるはずなどない。
更紗だからこそ、離したくないのに。
しかし勝吏のそんな想いは、更紗には伝わらない。

想っているだけでは、女は不安なのだと、知らねば知らぬだけ、女心を傷付けているのだと、多くの男が知らぬ様に、勝吏も判ってはいないだろう。

「ならば正式に告知しよう。それでいいか。」
しかし不器用な勝吏の言葉に、更紗は全開で泣き出してしまった。
「貴方はいつもそう、ご自分ではなにもしようとしない。」
うわあぁぁぁん、と更に泣いてしまった更紗に、勝吏はもうどうしたらいいのか、解らずにいた。

どの世界でも男性は女心が解らないものなのだ。

「いや、あの、腕撃たれたりしてますが。あの、更紗さん?」
先程、更紗から撃たれた腕はすでに感覚はない。
痛みを訴えた勝吏だったが、更紗は聞く耳をもたず、わーと泣いて走っていってしまった。
はっ、と走り去った更紗を追い掛け始める勝吏。

大抵女が追い掛けるこの無名世界観の世界では、男が追い掛けるのは珍しいことだった。

流した涙が頬で乾き、そこに受ける風が冷たい。
追い掛けてくる勝吏に気付いているのかいないのか、それでも走るのに必死な更紗は、遠くから聞こえてきた「いくじなしーっ」の言葉に一瞬こけた。
そのお陰で勝吏と更紗の距離がだいぶ短くなる。

二人は言い合いながら追いかけっこを始めた。
「待て、待つんだ!更紗!」
「嫌ですっ。」
わぁわぁ言いながら勝吏から逃れようとする更紗。
すでにもう意地だった。

心が離れた訳ではない。
ただ、一人、この気持ちに踊らされている自分が嫌で嫌で、それを解ってくれない勝吏のことが、大嫌いで大好きだった。

「嫌いですっ、貴方なんて大嫌いです!」
「それでも俺は更紗が好きだ!何故わからぬっ!」
突然のことに身体が止まる更紗。しかし心はまだ意地を張っている。
「わ、解りませんっ!だって貴方はいつも言ってくれないっ!想っているだけでは伝わりもしませんっ!」
喜びと不安で震える身体。
先程まで手にしていた銃はどこかで落としてしまったのか、今は持っていない。
「ならば今言おう。愛してる、更紗。俺から離れるな!」
力強く言うと、勝吏は傷付いていない腕を伸ばし、更紗を引っ張り寄せる。

その時だった。
特大の花火が、あがったのは。
その光で一瞬浮かび上がった二人の姿は、抱き合っていた。

それは二人が知らぬ場所で、二人の幸せを願ったある国の男達が上げた、幸せを願う大きな花火だった。

 /※/

相変わらず、ソックスハンターとしてハントを繰り返すあの人。
しかし、更紗には不安はもうなかった。

あの言葉は、女を一人強くしたのだ。

【終わり】

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引渡し日:2008/02/22

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最終更新:2008年02月22日 08:04